勇敢_第10話後編

Last-modified: 2007-11-19 (月) 13:41:50

海上

 

空は曇っており、星や月明かりが夜の暗闇を照らす事が無いため、この日の夜は不気味なほど暗く、静まり返っていた。
そんな夜空を飛行する人影、外見からして子供、だが、フードを目深に被っている為、その姿を見ることは出来ない。
その人影は真っ直ぐに、エリオ達とは違う方向から機動六課隊舎に向かっていた。
「・・・・・間に合って・・・・」
願うように、呟きながら。

 
 

地上本部

 

「ああああああああ!!!」
喉が引き裂かれる程の叫びを上げ、マッハキャリバーから火花が発生しているにもかかわらず、
ナックルスピナーを回転させ、ヴェイアに向かって突撃を開始するスバル。
「くっ・・・」
その姿に怯みながらも、冷静に狙いを定め、アサルトライフル型のデバイスからフルオートで魔力弾を放つ。
だが、スバルは自分目掛けて放たれる魔力弾を無視、ただ目の前の障害物を排除する事だけを考えているため、
避けようともせずに接近しヴェイア目掛けて、拳を振り下ろす。
「障壁!」
ヴェイアはアサルトライフルを横にし障壁を展開、攻撃を受けきろうとするが、
「・・・・だめだ・・・・突破される!」
リボルバーナックルが接触してから数秒で、障壁はアサルトライフル諸共粉々になってしまう。
続けてスバルはノーヴェの時と同じように回し蹴りを放とうとするが、
障壁とアサルトライフルが粉砕された瞬簡にヴェイアは大きく後ろに飛び、
「スターレンゲホイル!!」
スバル目掛けてスターレンゲホイルを放った。
「(・・・・・油断した・・・・冷静さを失っている分、自分の損傷を全く気にしていない。
だけど・・・・目的は時間稼ぎだ。スターレンゲホイルで聴覚は駄目でも視覚を奪って・・・・・なっ?)」
スターレンゲホイルを放った瞬間に、頭の中で今後の作戦を考えていたが、スバルの行動により考えを放棄してしまう。
スバルはリボルバーナックルを地面に叩きつけ、足元の床を破壊、同時に発生した粉塵をバリア変わりにして閃光を防いだのだ。
スターレンゲホイルの強力な閃光を無理矢理防ぎ、騒音は無視し、着地しようとしているヴェイアに接近。
ジャンプし、体を回転させ、遠心力を効かせた回し蹴りを放つ。
ヴェイアは咄嗟に両腕をクロスし、腕に防御フィールドを集中展開させる。その結果、蹴りは防いだが、蹴りの衝撃は殺しきれずに壁に思いきり叩きつけられた。
「ぐっ・・・・」
叩きつけられた壁の残骸と一緒に、ヴェイアは地面に静かに落ちる。新たに崩れ落ちた壁の破片が、倒れているヴェイアに降り積もる。
「ギン姉!!」
ヴェイアを叩きつけたスバルは、即座にウェンディ達の後を追おうとするが、
「いか・・・せん!!」

 

どうにか立ち上がったチンクが、スバルの周囲に20本以上のスティンガーを出現させた。突如現れたスティンガーに移動を止める。
冷静さを失っているスバルに変わり、マッハキャリバーは瞬時にプロテクションを発動、その直後に20本以上のスティンガーがスバルに殺到した。
激しい爆音と爆煙がチンクを襲い、顔を顰める。
「ヴェイア・・・・・無事か・・・・」
チンクがふらつきながらも、倒れているヴェイアの所へ歩き出そうとした。その時
「リボルバァァァァァァシュゥゥゥト!!!」
スバルの叫びと共に近代ベルカ式射撃魔法『リボルバーシュート』がチンク目掛けて放たれた。
爆煙の中から現れた衝撃波を受け、チンクは吹き飛ばされ、床に叩きつけられる。
「射撃技・・・・・油断した・・・」
起き上がろうとするが、体に力が入らないため、首だけをリボルバーシュートが放たれた方に向ける。すると爆煙の中から
バリアジャケットをボロボロにし、左腕の肘の部分の皮膚が剥げ、そこから機械フレームをむき出しにしたスバルがゆっくりとチンクに近づいてきた。
ショートしているのか、マッハキャリバーとむき出しになったフレームからはバチバチと言う音と共にスパークが発生してる。
「・・返せ・・・・」
涙を流しながら、ゆっくりとチンクに近づくスバル
「・・・返せよ・・・・」
カートリッジがロードされ、ナックルスピナーが回転する
「・・・ギン姉を・・・・・・」
倒れているチンクの前で止まり、拳を振り上げる。
「(・・・これまでか・・・・クアットロ・・・・・エアホッケーは・・・出来ないみたいだ・・・・)」
チンクは静かに目をつぶり、覚悟を決める。
「返せよぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
スバルは感情に任せ、チンク目掛けて拳を振り下ろした。

 

         ドゴッ    メリッ

 

何かに当たる音と、何かが砕ける音が響く。
「(・・・・・痛みが・・・無い・・・・)」
襲ってくるであろう激痛が全く来ない事に疑問を感じ、閉じていた目を開く、すると
「・・・・ヴェイア」
苦痛に顔を歪めるヴェイアの顔が目の前にあった。
「お・・おまえ!自分の体を盾に!」
驚くチンクに、ヴェイアは力の無い笑みで答える。
ヴェイアはチンクに覆い被さり、自分の背中を盾にすることで、スバルの拳を防いだのだ。
「良かった・・・間に合って・・・」
チンクが無事な事を確認したヴェイアは首だけをスバルの方に向ける。
「あ・・・あああ・・・・」
何かが砕ける音を聞き、何かを砕いた感触を味わったスバルは冷静さを取り戻し、ただ唖然としてた。
「・・・・当然・・・です」
そんなスバルにヴェイアは声を絞り出すようにして話し出す。

 

「僕・・たち・・・・・は、貴方の・・お姉さんを・・誘拐・・・しました・・・・。貴方が・・・やった・・・事は・・・・
当然の行為・・・です・・・・ですけど・・・安心して・・く・・・だ・・・さい」
ダメージが大きいのか、一旦言葉を詰まらせる
「貴・・・方・・・のお・・・姉さん・・・・は・・・・・必ず・・・・返します・・・・近いう・ちに・・・」
ヴェイアは右腕に赤い魔力球を形成し
「・・・・で・・すか・・・ら・・・身勝・・手・・です・・けど・・・逃げ・・ます!!」
唖然としてるスバル目掛け放った。
無防備状態でスターレンゲホイルの直撃を受けたスバルは聴覚と視覚にダメージを受け、うずくまる。
その隙にヴェイアはチンクを抱きしめ、前方に飛び、スバルとの距離を開ける。その時
「セインさん到着!!」
ディープダイバーを使い、セインが床から現れた。最初は笑顔だったが、ボロボロのチンクとヴェイアを見て、顔を顰める。
「助かった」
セインの登場にほっとするチンク、そしてセインは二人を床に押しつけるようにし、その場から脱出した。

 

「ミッドチルダ地上管理局の諸君、気に入ってくれたかい?ささやかながら、これは私からのプレゼントだ」
未だに現状を完全には把握できず、はやて達が現場に説明をしている最中、
地上本部内部の会議室のモニターや回復した映像端末に突如、愉快に笑うスカリエッティの映像が映し出される。
「価値の無い、無駄な命と決め付けられ、笑う事も、泣く事も出来ずに傲慢は俗物共によって散らされそうになった命達。
今日のプレゼントはそんな彼女達の恨みの一撃とでも思ってくれたまえ」
スカリエッティが写っている巨大モニターの周りの小型モニターや映像端末に、破壊された施設、燃え盛る機動六課隊舎が映し出される。
「しかし、私は君達以上に、人間を、命を愛する物だ。無駄な血を流すよう、皆が頑張ってくれたよ。可能な限り無血に人道的に。
だが、これで終わりとは思わないことだ。先に楔を放ったのは・・・・君達なのだからねぇ!!」
モニター越しで見ているであろう局員達を睨みつけるように見つめるスカリエッティ。
「私は自分の行動に間違いがあるとは思っていない。止めたくば、君達お得意の『力ずく』で止める事だね。
私も全力でお相手しよう・・・・・フフフフフ・・・・・ハハハハハハ!!!」
スカリエッティの笑い声が会議室に響いた。
「予言は・・・・覆らなかった・・・・」
モニターに映し出される燃え上がる機動六課隊舎を見ながら呟くカリム。
その時、急に全ての映像が乱れ、砂嵐に変わる。そして数秒後に画面が安定し、別の映像が映し出された。
「おい・・・なんだよこれ?」
会議室にいた局員の一人が呟き、周囲の人も沈黙で答える。
映し出された映像は燃え盛る機動六課隊舎をかなり近い位置から撮影した映像だった。そして二人の人物が対峙していた。
その内の一人は左腕に装備された大きな鉤爪を空に掲げており、一度ニヤついた後、静かに下ろした。
もう一人は右腕に魔力刃で形成されたナイフを逆手に構え、その行動を油断無く見ていた。だが、その表情から余裕が無く、
ボロボロになっているバリアジャケットから、彼が苦戦している事が伺えた。そして、その人物をはやてとカリムは知っていた。
「・・・・・カナード・・・・・」
はやてはモニターに写る少年の名を呟いた。

 
 

機動六課隊舎

 

「・・・ふっ、これで」
満足したようにニヤつき、自分を睨みつけいるカナードを見るアッシュ
「・・・何をした・・・」
ダメもとで、アッシュが行なった行為を聞くカナード。だが、アッシュはニヤつきながら話し始める。
「ああ、スカリエッティの奴が燃え盛るここを地上管理局の連中に見せるために、ガジェットを使って撮影していたのさ。
ただ、ちょっとガジェットを細工してな、燃え盛る建物の光景ではなく、俺達の戦闘を見てもらうことにした。ギャラリーは多い方がいいだろ?」
「理解しかねるな」
カナードは吐き捨てるように言い放つ。
「まぁ、俺にとってはこの時代の戦闘はこれが始めてだ。昔と違って知ってる奴はいないだろうからな・・・・・さぁ、はじめようかぁ!!!」
ライフルを構え、嬉しそうに言い放つ。だが、カナードはアッシュの発言に引っ掛かりを感じていた。
「(『この時代』『昔と違って』・・・・・・・どういうことだ?奴は俺とプレアのように突然来た訳ではないのか?
それに、俺達とヴェイアをこの世界に呼んだのは自分と言っていた・・・・・・それも気になるが・・・)」
アッシュを睨みつけるカナード、だがアッシュは余裕の笑みでカナードの攻撃を待っていた。
「(長距離、中距離、近距離、全てにおいて状況は不利。恐ろしいほどの再生能力に、魔力切れを起こさない・・・・分が悪いな。だが)」
カナードは地面を蹴り加速、アッシュとの距離を一瞬で縮める。
「負けと決まったわけではない!!」
猛スピードで接近して来るカナードに、アッシュはライフルから魔力弾を放つ。
「(一発でも喰らったらマズイ・・・・・・バリアジャケットの上からでも十分致命傷になる。
だが、アルミューレ・リュミエールは魔力の残量空あまり使いたくない・・・・避けきるしか・・・ないか!!)」
魔力弾の攻撃を紙一重で次々と交わす。
9発目の魔力弾を交わしたときには、二人の距離はほぼゼロになっていた。
「はああああ!」
気合と共に右腕のロムテクニカをアッシュの胸に深々と突き刺す、続けて左腕にもロムテクニカを持ち、今度は腹に突き刺す。
「カートリッジ・ダブルロード!」『『Burst』』
ロムテクニカ二本分の爆発がアッシュに襲いかかる。殺傷設定にしてあるため、アッシュは色々な物を撒き散らしながら吹き飛んだ。

 

                        ピシャ

 

返り血がカナードのバリアジャケットを赤く染める。だが、そんな事には構わずにさらに攻撃しようと接近、
右腕に三角錐型に形成したアルミューレ・リュミエールを展開し斬りかかるが
「無駄無駄ぁ!!」
胴体から血を撒き散らしながらも獰猛に笑い、アルミューレ・リュミエールの斬撃をテスタメントで掴み取る。
「相手を殺す気でやっている・・・・やはり戦いはそうでないとな・・・はははははは!!!」
カナードはアルミューレ・リュミエールを解除、テスタメントの拘束から離れるが、
「接近戦がお望みか?なら答えないとなぁ!!」
アッシュは両肩と両足のアーマーから魔力刃を出し、カナードに斬りかかった。
連続して放たれる斬撃に、アルミューレ・リュミエールを展開し、どうにか持ちこたえる。だが
「(くっ・・・・魔力が・・・・・このまま長期戦になれば負ける・・・・・方法は・・・一つしかないな・・・)」
斬撃から逃れるため、カナードは大きくバックステップ、地面には着地せずに、そのまま飛行を開始する。
「(残り魔力残量・・・・フォルファントリーの損傷率とカートリッジ数・・・・・・一発だが・・・撃てる)」
アッシュは直にライフルを構え、空に浮いているカナード目掛けて魔力弾を放つ。魔力を抑えるため、防御はせずに回避でやり過ごす。

 

「(奴が収束砲を放つ瞬間・・・・・その時が勝負だ)」
『その時』は早くも訪れた。アッシュは砲撃を中止しカナード同様に飛行を開始。同じ高さまで上り、ゆっくりとライフルを構える。
「そろそろギャラリーにも、花火をみせてあげないとなぁ」
既に傷の再生を終えたアッシュが、収束砲を放つため、チャージを開始する。
「ああ・・・・そうだな!!」
カナードは左右のフォルファントリーを展開、残っているカートリッジを全てロード。必要最低限の魔力だけ残し、全てをフォルファントリーに回す。
突如発生した膨大な魔力に、アッシュは初めて驚きの表情を見せた。
「消えろぉぉぉぉぉぉ!!!」
叫びながら収束砲を放つアッシュ。だが、カナードは獰猛な笑みを浮かべ
「キサマがな!!フォルファントリー・フルパワー!!」『Fire!!』
フォルファントリーから発射された魔力砲は収束砲を押し返し、アッシュを包み込んだ。
「XXXXXXXXXXXXXXXX!!!!!」
奇声を上げながらフォルファントリーの光に飲み込まれるアッシュ。
「くっ・・・・・おおおおおおおおおおおおお!!!」
フルパワーの反動にどうにか耐えるカナード、フォルファントリーからはスパークが発生し、至る所にヒビが発生していた。
数十秒後、砲撃は止み、機動六課隊舎が焼ける音と、カナードの荒い息遣いだけが聞こえる。
アッシュがいた所は爆煙で覆われており、姿を確認する事は出来なかった。
「はぁ・・・・はぁ・・・・・これで・・・・・・」
フォルファントリーを仕舞おうとするが、両方とも、『ギギ』という奇音を出すのみで、動こうとはしなかった。
「すまんな・・・・・ハイペリオン・・・・だが・・・奴を倒す事は出来(誰を倒したって?」
爆煙の中から、聞こえるはずの無い・・・・聞こえてはいけない声が聞こえる。
カナードが爆煙を見据えると、爆煙はそれを待っていたかのように晴れる。すると、そこには
「さすがにびっくりしたぞ・・・・・・はははははははははは」
右腕と胸から下が消失したアッシュが、笑いながらカナードを見つめていた。
「・・・・化け物が・・・・・」
「最高の褒め言葉だ。では『化け物』の復活をご覧あれ」
切り取られた腕の時のように、フォルファントリーの砲撃で消失した部分に粒子が集まり、瞬時に再生してしまう。
「だが、誇ってもいいぞ。これほど俺の体を壊したのはお前が始めてだ。それに」
そう言い、ひび割れたテスタメントを見せ付ける。
「こいつは別物でなぁ、再生は出来ないんだ。直撃だったら破壊されていた。残念だったな」
そう言い、テスタメントを仕舞い、ライフルも仕舞う。突如アッシュは武器を持たずに手ぶらになったことをアピールするため、両腕を広げた。
「なんの・・・・真似だ?」
「ここまで俺を楽しませたんだ。俺も奥の手を見せてやろう」
アッシュの両肩と両足に装着されたアーマーが取れ、それぞれ魔力刃が出ていた部分をカナードの方に向け合体。三角錐の形になる。
そして先端から魔力を放出、後ろにいるアッシュを包み込み、巨大な三角錐を作り上げる。
続けてアッシュの後ろに転移魔法陣が展開、そこからレーザーのような物が発射され、アッシュの背中に直撃、三角錐が真っ赤に染まる。そして
「いくぞ・・・・・ライトクラフト・プロパルジョン!!」

 

爆発音が響き、一種の尖ったエネルギーの塊となったアッシュはカナードに突撃、カナードが反応するよりも早く右のフォルファントリーを破壊する
「このライトクラフト・プロパルジョンはぁ!!」
スピードを変えずに方向転換、今度は後ろから突撃し、左のフォルファントリーを破壊する。
「『ゆりかご』から転移魔法陣を介して発射された、俺の魔力とは対になるエネルギーを俺の後部で受ける!」
今度は正面からカナードに迫る、カナードは残った魔力で右腕にアルミューレ・リュミエールを展開するが
「そうする事により、対になる魔力とエネルギーが反応爆発を引き起こし、超加速を得る!!」
接触した瞬間、アルミューレ・リュミエールは砕け散り、同時にカナードの右腕から何かが折れる音がする。
「受けられるかぁ!!このマックススピードォォォォ!!!」
「図に乗るなぁ!!!」
カナードは左腕に三角錐型のアルミューレ・リュミエールを形成、振り向き様にアッシュに叩き付けた。
二つの魔力が高速でぶつかり、爆発を引き起こす。二人を爆煙が包むが、直に追い出されるようにカナードが爆煙から飛び出し、地面に叩きつけられた。
そして、ライトクラフト・プロパルジョンを解除し、アーマーを元の位置に装着したアッシュが、
爆煙の中から現れ、うつ伏せで倒れているカナードを見下ろしていた。

 
 

地上本部

 

モニターに映し出される戦闘映像を一同は黙って見ていた。その中でも、はやては戦闘映像を見続けるたびに、顔色を悪くしていった。
「はやて」
カリムはハヤテの肩に手を置き、心配そうに名前を呼ぶ。
「大丈夫や・・・カナードは・・・大丈夫や。強いんよ、カナードは」
カリムの方を向き、カリムを、そして自分自身を安心させるように呟く。その時
『生き残るチャンスをやろう』
会議室に、アッシュの声が響いた

 
 

機動六課隊舎

 

「生き残るチャンスをやろう」
地面に着地し、うつ伏せで倒れているカナードに話しかけるアッシュ
「な・・・ん・・だと」
左腕の力だけでどうにか立ちあがり、アッシュを睨みつけるカナード
「何、元々は俺の私兵にするためにお前達を呼んだんだ。色々と問題が起きてしまったがな」
アッシュは体にぶら下げてある人形の一つをちぎり取り、玩びながら話を続ける。
「お前の実力はよくわかった。戦友達よりよっぽど使える。俺のために命を差し出すことを誓え。
そうすれば使ってやる。嫌なら死だ。まぁ、選択肢は決まっているだろうがな?」
ニヤニヤしながらカナードの返答を待つアッシュ、だが、直にカナードは答えを出した。

 

                  「断る」

 

はっきりと、アッシュに言い放った。

 

「・・・・ほぉ」
不愉快感を顔に表し、持っていた人形を握り締めながらカナードを睨みつける。
「・・・俺の命は・・・既に予約済みでな・・・・ある奴のために使う事になっている・・・・・フッ、到底無理な話だ」

 

地上本部でカナードの言葉を聞いたはやては、あの時のことを思い出した。
自分が自己犠牲に酔っていた時、カナードが怒鳴り、同時に微笑みながら言ってくれた言葉を

 

『だが・・・どうしても、自分の命を削ってでも、他人の幸せを守ろうというのなら・・・・その考えを捨てきれないのなら・・・俺の命も使え』

 

「・・・駄目や・・・・・・逃げて・・・・・・」
モニターを見据えながら、はやては願うように呟いた。

 
 

機動六課隊舎から、約1キロ離れた上空

 

フェイトとリインフォースに道を作ってもらい、六課に向かっていたエリオ達。
ようやく肉眼でも確認できる距離までくる事ができた。
「機動六課が・・・・・燃えてる・・・・」
燃え上がる機動六課隊舎を見て、悔しそうに呟く。ストラードを持つ手にも力が入る。
「・・駄目・・・念話も・・・・通信も・・・繋がらない・・・・・」
最悪の事態を予想したのか、顔を真っ青にしながら呟くキャロ。
「悪い事に考えを持って行っちゃいけないよ。先ずは急ごう」
エリオの言葉に、キャロはしっかりと頷く、そしてエリオにお礼を言おうと後ろを向いた瞬間、
「っ、エリオ君!!」
キャロは両手でエリオを押し出し、フリードから突き落とした。
突然のキャロの行動に驚くエリオ。だが、落下するエリオが見たのは3つの魔力弾がフリードに迫る瞬間だった。
一発はキャロに当たり、二発はフリードに、その内の一発は先ほどまでエリオが座っていた所に直撃。フリードとキャロは落下を開始する。
「キャロ!フリード!!」
エリオは叫びながらも道に着地、だがキャロとフリードはそのまま海に落下する。
エリオは急いで海に入り、沈みかけているキャロと子竜形態に戻ったフリードを回収、静かに道に寝かせ、直に端末を使いメディカルチェックを行なう。
「息は!?・・・・・・・気絶しているだけ・・・・・よかった・・・・」
ほっとしたエリオは、上を向き、魔力弾が放たれたほうを向く。するとそこには
「・・・・・撃墜数2・・・・・残りの排除・・・・開始」
リインフォースが足止めをしている筈の、オレンジと灰色の甲冑と思われる物を装備し、
肩には小型の大砲、左腕には実体盾を装備した少年が、エリオを見つめていた。
「(なんで・・・・・確かリインフォースさんが・・・・・だめだ、考えるな!今は・・・・)」
エリオは少年を睨みつけ、ストラーダを構える
「ストラーダ!!フォルムツヴァイ!!」『デューゼンフォルム』
槍の側面部に推進剤噴射口が飛び出し、それと同時にカートリッジをロード
自分を睨みつけるエリオに、少年『フィフティーン・ソキウス』は表情を変えずにライフルを構え、放った。

 

「ブースト!!!」
魔力弾が放たれたのと同時に、ストラーダの噴射口から魔力をロケットのように噴射、一気に加速をし、フィフティーン・ソキウスに迫る。
ライフルの魔力弾を掻い潜り突撃、だが接触する瞬間にフィフティーン・ソキウスは実体盾を構え、ストラーダの突きを防いだ。
「う・・おおおおおお!!!」
エリオは力ずくで盾を破壊しようとするが、フィフティーン・ソキウスは力任せに盾を払い、エリオを吹き飛ばす。
「くっ!」
ストラーダ後方の噴射口から魔力を噴射、衝撃を無理矢理殺し、同時に左側だけの噴射口から魔力を噴射し、コマのように回転、
「いっけええええ!!!」
遠心力で勢いをつけ、再度突撃。フィフティーン・ソキウスもライフルを仕舞い、ヒビが入ったシールドを捨て、両腕にサーベルを持ち、エリオに迫る。
二つの影が激突した瞬間、数回の斬撃音と、何か硬い物を叩く音が響く。そして二人がすれ違った瞬間
「くっ・・・」
エリオは右肩と左腿を斬られたのか、血が滲み出る。だが傷は浅く、血はあまり出ていない。
「・・・・・・」
フィフティーン・ソキウスは顔の表情は変えていないが、右肩に装備されている小型の大砲が破壊され、
甲冑の数箇所に目立つ傷が付けられていた。
「(やっぱり・・・・甲冑のせいで防御力はすごいけどスピードが無い・・・甲冑を破壊するのは無理でも・・・・頭に打撃を与えて昏倒させれば)」
エリオは頭の中で考えながらも先ほどと同じように自身を回転、遠心力で勢いをつけ、突撃をする。
自分目掛けて迫ってくるエリオを、虚ろな目で見つめるフィフティーン・ソキウスは静かに呟く
「・・・・装甲排除・・・・」
その言葉を呟いた瞬間、閃光が広がり、エリオの視界を一瞬奪う。
「・・何?・・・」
謎の光に疑問を持ちながらも目をこじ開けるエリオ。そこには
「排除」
先ほどまで着ていた甲冑を捨て、ナンバーズが着ているようなボディースーツを着たフィフティーン・ソキウスが、
一瞬でエリオの真横に出現し、両腕のサーベルを振り被っていた。
エリオは考えるより早く、ストラーダの右の噴射口から魔力を噴射し、無理矢理回転させ、サーベルの斬撃を横から叩きつけるように防ぐ。
だが、斬撃と同時に、フィフティーン・ソキウスは強烈なローキックをエリオのわき腹に放った。
「かはぁ・・・」
何かが砕ける音がエリオの耳に入るが、それが自分の肋骨が折れる音だと知った時は、地面に思い切り叩きつけられた時だった。
朦朧とする意識の中、どうにか立ち上がろうとするエリオ。だが力が入らず、地面に倒れこんでしまう。
そんなエリオの様子を無表情で見つめるフィフティーン・ソキウス、数秒見つめた後、ライフルを取り出し、今だ気絶しているキャロとフリードに照準を合わせる。
「排除」
機械的に呟き、二発の殺傷設定の魔力弾を何の躊躇も無く放った。先ほどは防御壁を張り、威力を中和した様だが、
今度は確実に当たる。これであの少女と竜は死亡したと決め付けるフィフティーン・ソキウス。だが
『ソニックムーブ』
電子音と共に金色の魔力を纏ったエリオが一瞬で魔力弾の前に立ちふさがりストラーダを一閃、魔力弾をかき消した。
だが、最後の力を振り絞ったのか、今度こそエリオは気を失い、倒れてしまう。
「・・・・理解できない・・・・」
エリオが行なった行為に疑問を持ったフィフティーン・ソキウスは声を出し、呟く。だが直にライフルを構え直し
「・・・・・命令継続・・・・排除」
三発の殺傷設定の魔力弾を放った。今度こそ放たれた魔力弾が直撃し、二人の子供と竜の命を奪う。

 

                      筈だった

 

「IS・ツインブレイズ」
エリオ達に直撃する筈だった魔力弾はディードのツインブレイズにより切り払われ
「IS・レイストーム」
オットーのIS・レイストームの砲撃がフィフティーン・ソキウスに迫った。
「回避」
突然の攻撃にも、冷静に回避行動をし、全てを避けきるフィフティーン・ソキウス。だが
「引っ掛かりましたね」
事前に回避経路を予測していたディードが後ろに回り込んでおり、ツインブレイズを振り被った。
自分目掛けて振り下ろされる魔力刃を無表情に見つめ、即座に両腕のサーベルで受ける。
鍔競り合いになり、双方のサーベルから火花が散る
「・・・・戦闘機人・・・・何故助ける・・・・」
無表情に尋ねるフィフティーン・ソキウスに、ディードも無表情で答える。
「私達は目的を遂行しているだけです。『無血に人道的に』という目的を。その目的を邪魔する貴方を止めるのは当然です」
戦闘機人のパワーを使い、力ずくで切り払い、吹き飛ばす。
「それに・・・・あの人には借りがありますから、彼らを助ける事で清算しようと思います」
オットーは再びレイストームを放つ。フィフティーン・ソキウスは先ほどと同じように避けようとするが
「ああ、先ほどは違うのでご注意を」
レイストームの5つの魔力砲は、微妙な時間差を置き、フィフティーン・ソキウスに迫った。
先ほどと同じ様に迫ってくると考えていたため、全てを避ける事ができず、3発の魔力砲が吸い込まれる様に当たる。
爆煙が晴れた後に現れたフィフティーン・ソキウスは相変わらず無表情だったが、ダメージを負っている事は明らかだった。
「・・・作戦継続不可能・・・・・・撤退・・・・」
フィフティーン・ソキウスは撤退をするため、転移魔法陣を展開。オットーとディードは追撃をせずに、
攻撃を仕掛けていた時から感じていた疑問をぶつけた。
「逃げるのは構いませんが・・・・・・一つだけ答えてください。貴方は・・どうして先生と・・・グゥド・ヴェイアと同じ顔なのですか」
ディードが代表して質問を投げ掛ける。フィフティーン・ソキウスは二人を見つめ、話し出した。
「グゥド・ヴェイア・・・・彼は・・・我々の母体となった・・・人間・・・」
そう言い残し、フィフティーン・ソキウスは二人の前から消えた。
「・・・・・オットー・・・・」
「・・・・・ごめん・・・僕も混乱している」
フィフティーン・ソキウスが去り際に話した真実に、戸惑いを隠せない二人。
「とりあえず・・・・・ルーテシアお嬢様と合流しよう」
オットーの言葉に素直に頷くディード、そして地面に横たわっているエリオ達を見つめる
「あの子達はどうする?」
「バイタルを確認したけど、死ぬ事は無い筈。僕達は回復魔法を使う事が出来ないから、可哀想だけど、このままだね。それ程時間を置かずに救援隊が来るよ」
申し訳なさそうな顔をしたオットーは、エリオ達を見るのを止め、離脱しているルーテシア達の所に向かった。
ディードもオットーに続き、その場から立ち去った。