勇敢_第19話

Last-modified: 2008-05-12 (月) 22:34:34

・?????

「・・・・フォーティーン・ソキウス・・・・逝ったか・・・・・」
モニターの光り以外、全く明かりがついていない部屋。そこには長身の男が一人、豪華な椅子に深く腰をかけていた。
側においているテーブルには、ラベルの腐食具合からして、年代物と思われるワインが置かれており、
男の手にあるワイングラスには、そのワインが並々と注がれており、時折男は喉を潤しながらモニターの映像を見ていた。
光りを放つモニターには『王座の間』の映像がリアルタイムに映し出されており
今は丁度、フォーティーン・ソキウスがヴィヴィオの目の前で首を掻っ切ったシーンが映し出されていた。
「・・・・・さすがはソキウスといった所か・・・・命令するだけで躊躇せずに命を投げ出す。連合も面白い物を作った物だ」
グラスに入った残りのワインを喉に流し込みながら、映像の鑑賞を続ける男、アッシュ・グレイ。
彼にとって、ソキウスは部下でも仲間でもない。『使える駒』の一つ。それ以上でもそれ以下でもない。
だが、見事に命を捨て任務を果たしたフォーティーン・ソキウスは、彼の中では『使える有能な部下』という地位を得ることとなった。
奴は実によくやってくれた。当初の計画通り聖王のクローンであるガキの心を暴走させ、狂った兵器として仕立ててくれた。
「ククククク・・・・・これであの女の始末は完了だな」
当初の予定では、アッシュ自らが赴き高町なのはを始末する予定だった。
AMFが効いているゆりかご内では奴は存分な力を発揮することが出来ない。無論そんな物を使わずとも、負ける気など毛頭無いが、
奴の砲撃能力は無視できない、特に奴の砲撃『スターライト・ブレイカー』を受ければ、リジェネイドと言えど、再生は不可能。
ならば、より確実に勝利を掴む方法を取るのは必然である。
本当なら、歳相応の女の可愛い悲鳴を聞きながら、じっくりとなぶり殺しにする予定だったが、奴と聖王のクローンの関係を知った
アッシュはその楽しみを取りやめ、一つのショーを開く事にした。

 

                     「母と子の殺し合い」というショーを。

 

「クアットロといったか?スカリエッティの愛玩人形にしては良くやってくれた。奴のおかげで高町なのはの戦意は喪失している。
ほぼ間違いなく、聖王のクローンに嬲り殺しにされるだろう。万が一、局員の使命感に目覚めて奴に勝ったとしても、奴の心も身体もボロボロ。
掃除はソキウスに任せれば良い・・・・・・・完璧じゃないか・・・・・ククククク」
クアットロの行動はアッシュにとっては予想外の事であった。おそらくは高町なのはにあっさりやられるだろうと思っていたが、
彼の予想を裏切り、彼女はお得意の口八丁手八丁でなのはの戦意を喪失させ、拘束する事にまで成功した。
その結果、フォーティーン・ソキウスは滞りなく任務を行う事が出来、無事にショーを開催する事ができた。
「あの愛玩人形には感謝しなくてはな。事が終ったらソキウス同様人格を破壊して使ってやるか・・・・・・さて、他の守備は」
手元にある端末を空いている左腕で軽く叩く。すると、1つだったモニターが一気に20近く現われアッシュを囲む。
新たに展開されたモニターには、ゆりかご内や地上での戦闘、はては、スカリエッティのアジト内の映像が映し出された。
その映像を椅子を回転させ楽しそうに見つめながら、空になったワイングラスを持った手を不意に真横に伸ばす。すると、
闇に溶け込んでいたフィフティーン・ソキウスが、ゆっくりとグラスにワインを注いた。
「ご苦労。さて・・・・・そろそろ俺達も楽しむ時かな?守備を報告しろ」
「はい、アッシュ様。ナイン・シックス・トゥウェンティーは配置に着きました。ペルグランテ全3機の準備も完了。
指示通り、内一機には『例の物』を組み込みました。あとはアッシュ様のご指示があれば、いつでも」
感情の篭っていない声で淡々と報告をするソキウスに、アッシュは特に不快感を表さず了解したとばかりに一度頷く。

 

「上出来だ。ではお前とテン・ソキウスも目的地へ向かえ、やることは理解しているだろうな?」
「はい、スカリエッティのアジトへ赴き、グゥド・ヴェイアの確保、ジェイル・スカリエッティとその付近にいる者の排除です」
「問題無いな・・・・・・行け・・・・・・命を投げ出す覚悟で」
恭しく頭を下げる事で了解の意を示したソキウスは、暗闇に紛れるように部屋から姿を消す。
その姿を確認したアッシュも自らの戦場に赴こうとしたが、もう少し引き伸ばす事にした。
再び注がれたワインで喉を潤す。今から行なわれるショーを楽しむために。

 

・スカリエッティのラボ

 

ゆりかごがら幾らか離れた所にあるスカリエッティのアジト兼ラボ、
そこでも地上に勝るとも劣らない戦いが繰り広げられていた。
相変らずほの暗いいアジトに、似つかわしくないほどの輝きを放つ紫と金の二つの光。
それらは凄まじいスピードで広いアジト内を飛び回り、時よりは激しくぶつかり合う。
「はぁあああああ!!!!」
得意のスピードをフルに生かし、ライオットザンバーでトーレを倒さんとするフェイト。
方や、自身のIS『ライドインパルス』を駆使し、フェイトに喰らいつきながらも、インパルスブレードの重い一撃を与えんとする
ナンバーズ実戦リーダーにしてナンバーズ中、最強の戦闘力を誇るトーレ。
二人は互いに一歩も引かず、己の持てる力を惜しげもなく出し、空中を華麗に舞う。
その光景をスカリエッティは何もせずに見ていた。
幾つかのトラップを発動して、トーレを助ける事もできるが、彼はこの勝負に水を指す気にはなれなかった。
トーレの付き合いは10年以上になる。だからこそ彼女の正確は良く知っている。
彼女は今とても楽しんでいる。おそらくは自分の実力に似合う相手が現れてくれた事に喜んでいるのだろう。
そんな娘の楽しみを邪魔する気に彼はなれなかった。だからこそAMFも解除したままの状態にし、彼女へのハンデを無くし、
壁には防壁シャッターを張り、ポット内の彼女達の保護も行なった。
これで彼女達も気兼ね無く戦う事ができるだろう。だが、現状ではトーレが多少押されている傾向がある。
トーレは決して弱くは無い。その実力はベルカの騎士、ヴォルケンリッターにも引けを劣らないだろう。
だが、彼女のISライドインパルスを駆使しても、今一歩、フェイトのスピードには追いつけずにいた。
その事に関してはドクターは無論、トーレ自身にも戦う前から分かっていた。
リミッターを解除した彼女のスピードに、自身のISは負けるだろうと。
無論、持久戦になれば、勝率はトーレの方に一気に傾く。今のフェイトのスピードも、一種のリミッター解除状態だからこそ出来る芸当であり、
当然時間切れも存在する。無論、リミッターがかかっている状態でも、フェイトのスピードは驚異的な物だが、その場合ではトーレのISの方が勝る。
そのため、本来なら持久戦に持ち込み、フェイトのスタミナが切れた時に一気に勝負を仕掛けるのが妥当なのだが
「はぁあああああ!!」
フェイトがそんな戦法を許すほどの相手ではなかった。
数十回に渡る激突の後、得意のスピードで隙を作ったフェイトは『三度目』の攻撃を仕掛ける。
彼女がこの戦いで分かった事、それはスピード勝負では自分が勝っているものの、それ以外では互角、もしくは負けているということであった。
ソニックフォーム状態である自分に見事に喰らいつくそのスピード、それに加えて戦闘機人特有のパワーにスタミナ、
そして実戦を幾多も経験しているであろう、素人やプログラムでは真似できない戦闘時での臨機応変な対応。

 

さらに自分の得意な雷系の魔法は特殊な防御手段を取っているのか、ほとんど効果が無いため、攻撃方法はライオットによる斬撃しか無い。
正直恐ろしい相手だとつくづく思う。弱気な考えは持ちたくは無いが、もしAMFが効いていたら負けていたかもしれない。
だがスピードではこちらが勝っている、上手く懐に張り込んでライオットの斬撃を繰り出せば勝利を、
もしくは相手に大ダメージを与える事ができるのだが、今だにそれをすることは出来なかった。

 

上手い具合にトーレの後ろを取ったフェイトは、ライオットを振り被り突撃、
「(いける!!)」
内心で勝利を確信すると同時に

 

           「ISスローターアームズ」

 

セッテが投げたブーメランブレードが左右からフェイトを挟みこむようにして迫る。
内心で舌打ちをしつつも、左右から迫り来る攻撃を避けるために、無理矢理上に機動を変更。だが、セッテが操るブーメランブレードは
自らの意思があるかのようにフェイトを追う様に軌道を変更し、そのまま上空へ逃げたフェイトに向かう。だが
「そんな散漫な動きで!!」
自分に喰らいついてくるブーメランブレードを、フェイトは特に脅威と感じてはいなかった。
確かに当たれば大ダメージは必死だろう。だが、動きが遅い。
傍目から見れば十分な速度だが、なのはのシューターや、プレアのプリスティスの様な高速で不可思議な動きをする攻撃を
受けたり見てきたフェイトにとっては、セッテが操作するブーメランブレードはあまりにも遅すぎた。
その事を証明するために、迫り来るブーメランブレードを易々と切り払う。
その間僅か数秒。だが、その数秒はこの戦いにおいては十分すぎるほどの時間だった。
その数秒間でトーレは態勢を立て直しフェイトに接近、ブーメランブレードを切り払った瞬間のフェイトに向かって、
右腕に展開しているインパルスブレードを振り下ろす。
それを間一髪で左腕のライオットで防ぐが、
「力比べでしたら・・・お勧めしませんよ!!」
トーレは力任せにそのまま振り下ろし、フェイトを吹き飛ばした。
「くっ・・・・」
吹き飛ばされながらも、どうにか空中で態勢を整え着地。直に次の攻撃に備える。

 

トーレの戦闘能力上に厄介なのが、このセッテの援護攻撃である。
自分がトーレに攻撃を行なう瞬間にのみ、彼女の攻撃が繰り出され必ず邪魔をされる。
正直攻撃としてはそれ程脅威とならない。ソニックフォーム状態の今の自分になら余裕で回避が出来るからだ。
だが、脅威とはならないがフェイトの行動を妨害するのには十分な効果を発揮していた。
その証拠に今回を含め、トーレに攻撃できるチャンスを3回も台無しにされた事に、フェイトは焦りと苛立ちを覚える。
2回目の攻撃のチャンスを不意にされた時、フェイトは一度目標をトーレからセッテに変更し、攻撃を仕掛けたが、
セッテは援護攻撃以外は防御に徹することで、フェイトの攻撃を耐えぬき、その隙をトーレが攻撃するというチームプレイにより遭えなく断念することとなった。
正にセッテはトーレを補佐する意味での完全な援護役、おそらくは彼女自身もこのスピード勝負では自分は参加できないと思い、
今のポジションにいるのだろうと思った。

 

その判断は正しいと思う。下手に戦闘に参加しても、このスピード勝負では彼女は真っ先に自分のライオットの餌食になる。
ならば、距離を取りながら防御に徹し、トーレの援護をした方がより確実に自分を追い詰める事ができる。
「(って・・・・相手を評価してる余裕なんてないんだよね・・・・・・)」
自然と内心で相手を評価していた事に、フェイトはつい笑みをもらす。だが、直に顔を引き締め、トーレへの攻撃を再開した。

 

フェイトとトーレの戦闘再開を確認したセッテは、ブーメランブレードをゆっくりと構えると同時に、必死に二人の戦闘を目で追っていた。
「(・・・・・やはり・・・私では・・・無理ですね・・・・・)」
彼女は相手がフェイトと知った途端、自分が戦闘に参加できない事を瞬時に理解した。
地上本部での戦闘では、姉であり師でもあるトーレと共に上手く渡り合えたが、あの時の彼女は本気を出してはいなかった。
あの時でも彼女を捕らえるのに必死だったのだのだ。そんな自分が今の戦闘に加わっても、直にやられるか、トーレの足を引っぱるだけ。
パワーや耐久力になら自身があったが、おそらくは生かしきれずに負けてしまうだろう。
ならば自分の役目は唯一つ、彼女の動きを追い、絶妙のタイミングで攻撃を行なうこと。幸い、見ることに集中すれば、彼女の動きを追う事は出来た。
だからセッテは動かずに二人の戦闘を目で追い、スピードでの多少の差から出来てしまうトーレの隙を補う事に徹した。
「(・・・・情けないが・・・・今の私ではこれが限界・・・だが・・・・『今』だけだ・・・・)」
二人の戦いを目で追いづつも、セッテは数週間前の出来事を思い出していた。

 

・数週間前

 

:アジト内休憩所

 

時刻は午後を少し過ぎた頃、休憩所として設けられているアジトの一室、
周囲に映し出されている自然映像で明るさを出しているこの部屋に、年長組であるトーレとチンクがいた。
年少組との訓練を終えた二人は、お茶を片手に姉妹達の成長具合や他愛もない世間話などをして時間を潰してたそんな時
「そんなに自分の体にコンプレックスがあるのか?」
コーヒーを飲みながら同じテーブル座っている小柄な姉妹チンクにトーレは尋ねる。
その質問に、両腕でココアが入ったカップを持ったチンクが肯定するようにゆっくりと頷いた。
その姿を見て『可愛い物だ』と言おうとしたが、正に今はその事で自分に相談をしているため、どうにか出掛った言葉を飲み込む。
「ああ、無論私を生み出してくれたドクターには感謝はしているし、特に生活などにも支障はない。だが・・・・やはり
姉としてこの身体はどうかと・・・・・いや、本当だぞ『姉』として示しがつかないからであってだ!!」
必死に話すチンクを見て『やはり可愛いな』と思いづつも、トーレはふと考える。
確かに彼女の思いも理解できると思う。なにせ後期組は皆スタイルが良い(若干一命を除き)からだ。
戦闘機人とはいえ自分達も女、スタイルなどを気にするのは当然ではないかと思う。
だが、トーレは言ってやった。チンクを見据え、正面からはっきりと
「チンク・・・・それは贅沢だぞ」と。
「っ!・・・・そ・・・そうだな・・・・すまない・・・変なこ(そういう意味ではない!」
チンクの言葉を遮ったトーレは真面目な、それゃあもう真面目な顔で話し出す。

 

「確かに・・・・お前の外見は小さい。正に子供だ。とても姉とは思えない貧弱な体系だ」
「・・・・・トーレ、一度本気で殺り合おうか・・・・・・今すぐに・・・・・」
「まぁまて、武器をしまえ、殺気を消せ。泣きそうな顔をするな。だが、お前には小さいゆえの可愛らしさがあるではないか」
左手でコーヒーを飲みながらも、右手で今にも飛び掛りそうなチンクを制しながら尽かさすフォローをする。
「『可愛らしさ』というのは素晴しいと思うぞ。ヴェイアも言っていたではないか」
「・・・・まぁ・・・・なんだ・・・・・そうだ・・・な(それにだ!!」
先ほどとは違い急に感情的になるトーレ、いきなりの変化にチンクも素直にビビる。
「私の体は何だ!?この筋肉質な体は!!丸っきり男ではないか!!チンク、先ほど私は言ったよな!?『贅沢だぞ』と!
確かに贅沢だ!ああ貴様は贅沢だ!!分かるかこの気持ち!ああ分からんだろうな!!可愛いお前には!!」
『ぜーぜー』と息を荒げながら一気に捲し立てたトーレに、チンクはただ唖然とする。
その態度に我に返ったトーレは咳払いを一つ、ゆっくりと椅子に座り、
「・・・・・・上手いな・・・・・このコーヒー・・・・」
『もう何も言うな』と言いたげに、わざとらしく音を立てながらコーヒーを啜るトーレに
「ああ・・・・調達してくるヴェイアに改めて感謝をしなければな・・・・」
『ああ・・・・今までの話は忘れよう』という意味の相づちを打ち、チンクもココアを音を立てて啜った。
うって変わって今度は温かい飲み物を啜る音だけが響く室内に
「失礼します」
先ほどまで訓練を行なっていた『No,7セッテ』が、丁重に頭を下げながら入ってきた。
「ん?何だ?てっきり皆と一緒に体の洗浄でも行なっていると思ったんだが?」
てっきりウェンディ達と一緒に体の洗浄を行なってる物だと思ってたチンクは尋ねるが、セッテは軽く頭を振り否定する。
「いえ、それに関しては後ほど行ないます。それより第二訓練室の使用の許可をいただきたいのですが」
「・・・・午後からの訓練は後ほど行なう。それまでは休め」
「いえ、自分は未だに未熟。それに体力、メンタル面での問題もありません許可を願います」
深々と頭を下げるセッテに、トーレは内心で溜息をついていた。
正直セッテは良くやっている。訓練や基礎教育などにも弱音を吐かずに熱心に打ち込んでいるし、
自分を高める事に努力を惜しまない。トーレとしてはこの様な所をウェンディ達にも見習って欲しいと思うくらいである。
だが最近では『やりすぎ』と思えるほど、彼女は訓練に没頭している。
無論、先ほどセッテ自身が言ったように自身の体調管理は行なっているため、体を壊すほどの過剰な自主練習は行なってはいないが、
本来予定に入れている訓練メニューを含めると、バトルマニアと言われているトーレでも『やりすぎ』と言ってしまうほどの量をこなしていた。
訓練メニューを考えているトーレとしても、過剰な訓練は毒にしかならないと思っているため、命令として休むように言ったのだが、
「(まったく・・・・・妙な所で頑固だな・・・・セッテは・・・・・・)」
先ほどからずっと自分達を見据え、『許可を得るまでは動きません』と言いたげな顔をしてるセッテに、
トーレとチンクはどうしたものかと考え込む、その時
「あれ、お取り込み中でしたか?」
資料が詰まっているであろうファイルを持ったヴェイアが入室してきた。
「ヴェイアか。お前もお茶か?」
チンクが自分のマグカップを掲げ尋ねる。
「はい、僕もご一緒にと。でもセッテがいるとは思わなかったよ。てっきり、皆とお風呂にでもはいってるのかと思った」
微笑みながら話しかけてくるヴェイアに、セッテは自分がここに来た理由を話す。

 

セッテは内心ではヴェイアが自分の味方をしてくれるだろうと期待していたのだが、
「僕もトーレさんと同じ意見、休んだ方が言いと思うよ」
その考えは脆くも崩れ去った。
「セッテ、君の気持ちも分かるよ。遅く生まれてきた分、皆より経験が不足しているから、それを必死に補おうとしているんだね」
「はい、それを今までの訓練で思い知らされました。私はトーレには遠く及ばない。このままではただの足手まといになってしまう・・・・」
俯きながら答えるセッテに、トーレは『そんなことはない』と言おうとするが、
「・・・・セッテ・・・・・『千里の道も一歩から』って諺を知ってるかな?」
先にヴェイアが話し出したため、口をつぐむ。
「・・・・・・すみません・・・・・」
「ううん、謝る事は無いよ、僕も最近知ったから。この諺はね、『とても大変な事も、身近なことを少しずつがんばって
いく事から始まるということ』って意味なんだ。さっき、『トーレには遠く及ばない』って言ったよね。それは当然のことだと思うな」
「それは・・・性能差・・・・だからでしょうか?」
「はずれ。むしろ性能的にはセッテの方が高いんじゃないのかな。それでもトーレさんやチンクさんはナンバーズの仲では1・2を争うほどの
実力を持ってる。それはね、今のセッテの様に沢山努力をしたからだよ。日々の努力を積み重ねた結果が、今のトーレさん達の強さだと思うな
だから、焦る必要は無いと思う。ゆっくりと実力をつけていけばいいと思うな。僕は」
「ですが・・・・・地上本部襲撃はもうすぐです!!それまでに私は強くならなければ・・・・皆に迷惑がかかります!!」
普段の態度からは想像も出来ないほどにセッテは感情的に叫ぶ。
その姿に話を聞いていたヴェイア達は勿論、セッテ自身も驚き顔を俯ける。
「・・・・迷惑をかけて・・・・・いいんじゃないかな?」
暫らく続いた沈黙後、ヴェイアはセッテに近づき、安心させるように彼女の方に優しく手を載せる。
「僕はね、迷惑をかけて言いと思う。それはしょうがない事だよ。むしろね、迷惑をかけない人間なんていないと思うんだ。
人は誰でも、それこそ自分が気付かない所で迷惑をかける。だからね、そんな時こそみんなに頼るべきだと思うんだ」
「トーレ達に・・・ですか・・・・」
「うん。セッテにはトーレさんを含めて頼もしいお姉さん達がいるじゃないか。
だからね、もし迷惑になる、足手まといになるって思ったら迷わずみんなを頼れば良い。
むしろトーレさん辺りは、セッテが頼ってくれる事を楽しみにしてるんじゃないかな?」
そう言い、急にトーレの方を向くヴェイア。
トーレはヴェイアと目があった瞬間、顔を真っ赤にしそっぽを向いた。
そんなトーレの態度にヴェイアとチンクは堪らず小さく笑う。
「だからさ、焦らずにゆっくりと、実力を身につけていこう。今はまだ頼る事が多いかもしれないけど、
セッテなら直にでも、頼られる事が多くなるよ」

 

「・・・・今の私ではトーレには勝てない・・・・・だが、トーレを助ける事は出来る!!!」
頃合を見計らって再びブーメランブレイドを投げるセッテ。

 

彼女は誓う、いつかはトーレと方を並べるほど強くなる事を。確かに簡単にはいかないだろう。
自分と彼女とでは10年近くの経験の差がある。だが不可能ではない。ヴェイアが言うのだから間違いは無い。
「(・・・・ありがとう・・・ヴェイア・・・・・貴方にあえてよかった・・・・)」
今は療養のため自室で眠っているであろうヴェイアに内心でお礼をいうセッテ。
その直後、彼女が投げたブーメランブレードは4度目のフェイトの攻撃のチャンスを潰した。

 

・スカリエッティのアジト地下

 

上ではフェイト達が激しい戦闘を行なっている中、彼女達が戦闘を行なっているフロアの数階下でも
激しい戦い・・・・・・いや
「はは~こっちこっち~!!!」
「この!まて~!!!」
激しい鬼ごっこが展開されていた。
決してこの二人は遊んでいるわけではない。だが、このままでは

 

          『何お前ら上でシリアスな戦いしてんのに仲よく鬼ゴッコやってんじゃコラ』

 

と言うような批判が来そうなので説明を入れたいと思います。

 

・数分前

 

ソニックフォームに姿を変えたフェイトに、シャッハもヴィンデルシャフトを構え戦闘態勢に入る。その特
「っな!!?」
突如地面から生えた手がシャッハの足を捉えた。
突然の不意打ちにバランスを崩すも、反撃とばかりに腕が生えている床目掛けてヴィンデルシャフトをたたきつける。
その結果、シャッハがいた周囲の床だけが崩壊し、そのまま下のフロアに落ちることとなった。
「っ・・・・・ゲホッ、ゲホッ、やってくれましたね・・・・・」
立ち込める砂煙にむせながらも、立ち上がり、負傷が無いかをチェックする。
「(特に損傷はありませんね・・・・・ヴィンデルシャフトも・・・・・ん?)」
ふと、右腕に感じる違和感に、シャッハは腕時計を見るような動作で右腕を見据える。
そこには、何時の間に着けたのか、大きさや形からして腕時計と同じくらいの金属の輪が付けられていた。
「・・・・これは・・・・・いったい・・・・」
どうにか外そうとするが、びくともしないため、破壊してしまおうとするが、
「やめといたほうが良いよ~」
前方から聞こえる明るい声に、シャッハは即座にヴィンデルシャフトを構える。
するとそこには、シャッハをここまで案内した人物『No.6セイン』がニヤつきながらシャッハを見ていた。

 

「こんにちわ。私はセインって言いま~す。まぁ、ぶっちゃけ、お姉さんの相手ですね」
「大人しく投降しなさい。手加減はしませんよ」
念話でフェイトに現状を知らせたシャッハは、先ずは目の前にいる戦闘機人を捕らえる事に専念する事にした。
「うわ~・・・手加減して欲しいんだけどな・・・・私は非戦闘型だから、満足な戦闘は出来ないし・・・・・」
「なら、尚更投降しなさい。そうすれば貴方を拘束・・・・・ん?」
ここで初めてシャッハは自分の体の変化に気が付く。
「・・・これは・・・・妙にダルイ・・・・・それに・・・力が・・・入らない・・・・・・」
変化に気が付いた途端に襲い掛かる疲労とダルさ。おそらく原因として考えられるのは、いつの間にか腕に付けらたこの腕輪。
自分がふらつく光景をニヤつきながら見ている戦闘機人・セインの仕業であろうと思ったシャッハは、直に問い詰めようとするが
「ああ・・・・やっと効いて来たね。うん、急に力が抜けた原因を知りたいよね?お姉さんが思っている通り、この腕輪が原因だよ。
これはね、まぁ、分かりやすく言えば装着させた相手の魔力を強制的に一定値まで抑える事が出来るんだ。
まぁ、効果があるのはせいぜい30分。だけど時間稼ぎとしては良い品だと思わない?ああ、ちなみにこれはPS装甲ってトンでもない物で
作られてるから、壊すのは諦めた方がいいな~」
セインの説明を聞いたシャッハは、現状での自分の立場に顔を顰める。
「(くっ・・・・・やられた・・・・・この状況でもし大量のガジェットを嗾けられたら・・・・・マズイ)」
だが、その顔から深刻な事を考えているのだと感じ取ったセインは屈託の無い笑顔で安心させるように話し出す。
「ああ、安心して。別に何もしないから。だからそのまま上の戦いに参加してきてもいいよ。
だけど、今のお姉さんじゃ足手まといになるだけだと思うけどな~」
確かに彼女の言う通りだと思う。この状況で上の戦いに参加しても、足手まといにしかならない。
奥歯をかみ締め、何もできない自分に不甲斐なさを感じるシャッハに、セインは本題に入った。
「だけどね~、リミッターをかけられたお姉さんでも、正直私はかなわない。だからさ、勝負をしよ」
「勝負・・・ですか・・・・」
「そ、勝負。今から私は捕まらないために全力で逃げる。当然お姉さんは私を捕まえるために追うだろうね。
だから、私を捕まえたら、その腕輪を取ってあげるよ。これ鍵ね」
そう言い、右腕で見せ付けるように、ステック状の鍵を玩ぶ。
「どう?いい案だと思わない?」
確かに良い安だと思う。だが、不可解な事がある。
「・・・・・なぜ教えるのですか?無論貴方は捕まえますが、鍵の事を黙秘していれば結果的に私は何も出来ない」
「そうなんだけどね~。正直に言うと、お姉さんには私に付き合って欲しいんだ。リミッターをかけたとは言え、お姉さんは強いからね。
少しでも不利になりそうなファクターは取り除いておきたい。ってのが本音だね。まぁ、この鍵の話はお姉さんを釘付けにする餌ってこと。
それじゃ、鬼ごっこ始っじめ~!!!」
元気よく宣言をしたセインは、早速『IS・ディープダイバー』を駆使し、壁に潜り込む。
だが、シャッハは得意の『跳躍移動』でセインの先回りをし
「はぁああああああ!!!!!!!!」
壁から出てきたセイン目掛けて容赦なくヴィンデルシャフトを振るった。
「わひゃああああああ!!!!!」
シャッハの能力と迫り来るヴィンデルシャフトに声をあげて驚きづつも、再び壁に潜り込みどうにか回避する。
「跳躍系とはね・・・・・予想外だ・・・・・でも・・・・・面白くなってきた!!」
こうして、上で行なわれている戦闘とは違った戦いが繰り広げられる事となった。