勇敢_第20話

Last-modified: 2008-05-12 (月) 22:36:14

・廃棄都市

 

                   何かが回転する音が聞こえる。

 

                聞き覚えがある音・・・・・・・なんだろう

 

                   ああ・・・・・・そうだ・・・・

 

「スピナーの・・・音だ・・・・・・」
朦朧とする意識の中、スバルは呟きながらゆっくりと目を開ける。
先ず感じたのは、頭と体に走る痛み。そして何故自分が仰向けになって倒れているのか、自分でも驚くほど冷静に考える。
「・・・えっと・・・・そうだった・・・・あの子に・・・振動破砕をやろうとしたら・・・・逆にやられちゃったんだっけ・・・・・」
一撃必殺として放った振動破砕。それを上手く回避された上に、強烈な頭突きと背負い投げの洗礼を受けたことを思い出したスバル。
朦朧とした頭と、霞む瞳で唯一見ることができる上空を見る。すると、先ほど自分を痛めつけた少女がこちらを見下ろしながら、
足に装備している、武装のスピナーを回転させていた。
「(・・・トドメを・・・刺す気なのかな・・・・・・)」
少女『ノーヴェ』がエアライナーから飛び跳ねた後、重力に従うように真っ直ぐに倒れているスバルに向かって降下する。
その光景を見て尚、スバルは動こうとはしなかった。体の痛みという原因もあるが、スバルの中で渦巻く『諦め』という文字が
彼女の行動力を無くしていた。
「(ああ・・・・・そうだ・・・・やっぱり・・・・無理だったんだ・・・・・私はやっぱり、弱くて、情けなくて・・・・・何にも出来ないままで・・・)」

 

                        終っちゃうんだ

 

             「そういえば、スバルが強くなりたい理由って、何なのかな?」

 

              あれ・・・・・これって・・・・ああ・・・・あの時の・・・・

 

            「えっ、あっ、そ・・それは・・・・やっぱり、なのはさんに憧れて」

 

       「馬鹿者、高町が言っているのはそういう意味ではない。お前は強くなって何がしたいんだ?」

 

                 えっ・・・・・強くなって・・・・・・それは・・・・

 

「これで・・・・・・終わりだぁああ!!!!!」
あと数秒で、加速をつけたノーヴェの膝が自分の足に叩きつけられる。
死ぬ事は無いだろうが、空を飛ぶ事が出来ない以上、もう何もすることは出来ない。
おそらくは激痛のあまり気絶してしまうかもしれない。彼女を止める事も、皆を助けに行く事も出来ずに終る。
正に完全な敗北。自分は今それを味わおうとしている。
だが、彼女には恐怖感や絶望感など、負の感情は一切沸いてこなかった。ただ、昔を思い出す。

 

       「そうだ・・・・・私は・・・・なのはさんに憧れてるんじゃない。なのはさんの様になりたかったんだ」 

 

         あの時、ただ泣く事しか出来なかった自分、そんな自分を助けてくれたのは白い服を着た少女

 

  「災害事とか、争い事とか、そんな、どうしようもない状況が起きた時に、苦しくて、悲しくて、助けてって泣いてる人を助けてあげれるようになりたい」

 

         あの時、恐怖や不安で押しつぶされそうになった自分に、安心させるように微笑んでくれた。

 

  「私の力は戦闘用、救助や人助けなんかとは無縁所じゃない、反してる。だけど・・・・・・・この力は・・・・・」

 

             『道なんて自分で選ぶもの。王道ばかりが道じゃない』

 

「この力は・・・・壊すためじゃなく守るための力。困ってる人や・・・・大事な人たちを助ける力・・・・・だから・・こんな所で」

 

                 「寝てられない!!!!」

 

「マッハキャリバー!!!!!」『Wing Road!!!』
仰向けに寝ている状態のまま、右足を空に向かって蹴り上げ、ウィングロードを展開する。
垂直に伸びたウィングロードはそのまま上えと伸び
「なに!!?ぐぁ!!」
スバルに向かって真っ直ぐに降下してきたノーヴェの顎に直撃、空中を錐揉みしながら吹き飛ぶ。
「な・・ろぉ!!!」
それでも、近くの廃ビルに激突する寸前ノーヴェはエアライナーを断続的に展開、そられを足場に空中でステップを踏む様に踏みしめながら
衝撃を殺し、同時にバランスをも取る。
「っつ~・・・・・やってくれんじゃねぇか・・・・・・」
ウィングロードの直撃を受けた顎を摩りながらも、倒すべき相手の姿を探す。
だが、彼女は直に見つかった。逃げもせず、隠れもせずに真っ直ぐに自分を見据えていた。
「・・・へっ!おもしれぇ・・・・・またぶちのめしてやるぜ!!」
ジェットエッジのスピナーを回転させ、ファイティングポーズをとるノーヴェ。
彼女自身も気付かないうちに、その表情は好敵手と戦える事の喜びに満ち溢れていた。

 

「ウィング!ロード!!」
リボルバーナックルを地面に叩きつけ、光りの道『ウィングロード』を螺旋状に展開。
一気に掛け上がり、ノーヴェと同じ高かさまで上り詰める。
「さっきのは効いたよ・・・・・・でも、まだ終わりじゃない・・・・」
「へっ、上等!!そういや、まだ名乗って無かったな・・・・・オマエ、名前なんてぇんだ?そういやギンガから聞くの忘れてた」
ギンガの名が出た事に、スバルは体を震わせ、反応する。
思い出すのは、地上本部での襲撃の時。左腕を失い、全身血まみれになった自分の姉。
再び自分の中からどす黒い感情がわいて来る。復讐したい。あいつを滅茶苦茶にしたい。徹底的に破壊したい。

 

                  『パシッ!!』

 

だが、スバルは自分の頬を思いっきり叩き、それらの感情を打ち消す。
「(こんな気持ちを持っちゃいけない!しっかりしろ!!スバル・ナカジマ!!!)」
内心で自分を叱咤したスバルは、気持ちを切り替え、目の前の相手を真っ直ぐに見据え名を名乗る。
「・・・・スバル・・・・スバル・ナカジマ。機動六課、スターズ分隊フロントアタッカー・・・貴方は?」
「ノーヴェだ。ああ、安心しな。ギンガに関しちゃ無事だ。洗脳も改造も何もやってねぇ」
ニヤつきながら、スバルに言い放つノーヴェ。だが、その言葉に、スバルは隠す事無く安心した笑みをさらけ出した。
「ギン姉・・・・良かった・・・・・・ほんとうに・・・・・・・」
「って!なに至福な顔してんだ!!この馬鹿!!こっちはヴェイアがやられたんだぞ。ふざけやがって!!
本当ならな、てめぇを命令なんか無視してぶっ殺してえんだがな・・・・・・療養中のヴェイアとの約束だ!!半殺しで勘弁しやる」
「ヴェイアって・・・・・あの時・・・・・私が・・振動破砕で攻撃した人・・・・?」
あの時、小柄な戦闘機人を庇い、振動破砕の直撃を受けた人。
激痛に耐えながらも、自分に『姉は返す』と言った彼の事が、スバルはずっとシコリとして心の中に残っていた。
初めてこの手で傷つけた相手。正直あの時の自分は恐ろしい程、罪悪感を感じてはいなかった。
当然だと思った。ギン姉を傷つけた奴らなんだ。当然の報いだ。と。
だが、彼は恨み言一つ言わない所か、ギン姉を傷つけた事、誘拐する事に謝罪をした。
この時になって、やっと自分は冷静になれた。正直怖かった。自分のやった行いに恐怖した。
「・・・あの人・・・・・無事だったんだ・・・・・よかった・・・・・」
「ああ、テメェのせいで重症だけどな。だけど罪悪感は感じてるようだな。まぁ、この話はこれ終わりだ。テメェも
変な引っ掛かりが取れた様だから、少しはマシになっただろう。ギンガに関しちゃ、今は『働いてもらってる』としか言えねぇ。
勿論、あいつの意思でだ。もっと詳しい事を聞きたけりゃあ」
腰を落とし、ノーヴェはいつでも攻撃が出来るように身構える。
「アタシに勝つ事だ!!」
彼女が立っているエアライナーの上に、特有の黄色いエネルギー光が現れると同時に、
先程以上にジェットエッジのスピナーが激しく音を立て回転する。
「・・・・うん、そうする。私は勝つよ。勝ってギン姉の事を聞く。皆を助けにいく。それに、ヴェイアって人にも謝りたい。
やらなきゃいけない事が沢山あるから・・・・・・行くよ!マッハキャリバー!!!『All right buddy!!』
自分の事を相棒と呼ぶマッハキャリバーに、スバルは一瞬唖然とするが、直に嬉しそうに微笑む。
『主人』ではなく、『相棒』と読んでくれた、マッハキャリバーに。
「フルドライブ!!ギア・・・・エクセリオン!!!!」

 

リボルバーナックルのカートリッジをロードし、マッハキャリバーのフルドライブモード、『ギア・エクセリオン』を発動させる。
今自分がいるウィングロードの上にベルカ式の魔法陣が展開されると同時に、マッハキャリバーから魔力の翼が展開される。
リボルバーナックルを構え、腰を落とすスバル。互いに互いの隙を伺うかの様に沈黙が続く。そして
「全力・・・・全開!!!!」『おりゃあああああああ!!!!!』
互いが相手に向かってそれぞれの光りの道を伸ばす。
光りの道は真っ直ぐに直進、互いとの距離の丁度真ん中でぶつかり、互いをつなぐ一本の道となる。
それからは理屈や作戦などはいらなかった。ただ相手に向かって渾身の一撃を放つ。
同じ遺伝子を持つ者同士なのか、最終的には考える事は同じだった。ただ真っ直ぐに相手に向かって突き進む。
今の二人は、相手に渾身の一撃を与える事だけを考えていた。

 

            だがらこそ、突然の事態にも即座に対応できなかった。

 

                   「そこまで!!!!」

 

突然聞こえてくる声。同時に、二人をつなぐ光りの道の中間に、濃い青色の光の道が新たに加わる。
その光の道『ウィングロード』に乗った人物は、スバルとノーヴェの間に入り、
「えっ!」「なっ!」
突然の乱入者に対応しきれなかった二人の攻撃防いだ。
スバルの一撃を魔力で強化した右腕の掌で受け止め、ノーヴェの一撃を左腕のリボルバーナックルで受け止めたその人物
「・・つつつ・・・・まったく・・・・人の話を聞きなさい!!二人とも!!」
ギンガ・ナカジマは顔を顰めながらも笑顔で答えた。
自分達の攻撃を受け止めた人物『ギンガ・ナカジマ』の登場に、ただただ唖然とする二人。
「・・・・ギン姉・・・・・・ギン姉ぇ!!!!!!!」
だが、スバルは唖然としたのは一瞬。体を振るわせ、目じりに涙を浮かべながらギンガに抱きついた。
「良かった・・・よかったよ・・・わああああああ!!!」
戦闘中であるにも拘らず、ギンガに抱きつき、ひたすら無くスバルに、
「・・・ったく・・・・・」
ノーヴェは『あ~戦う気が失せた』と言いたげな顔で腕を組みながら二人の様子を伺い
ギンガは泣きつきながら抱きつくスバルの頭を優しく撫でる。
「・・・感動の再開中で悪いんだけどよ。ギンガが来たって事は、例のプランは成功したってことか?」
「・・・・えぐっ・・・例のプランって?それより何処に言って何やってたの?なんで連絡してくれなかったの?」
「あ~・・・・いっぺんに説明されても・・・・とりあえず、スバルの疑問から答えるね」
頭を撫でながら優しく話すギンガに、スバルはしっかりと頷いた。

 

・数日前

 

:スカリエッティのアジト

 

ギンガが目覚めたのは、溶液に満たされたポットに中だった。
「・・・ここは・・・・・たしか私は・・・・・」
朦朧とする頭で、何故自分がここにいるかを必死に思い出す。
「確か・・・・地上本部で・・・・・小柄な戦闘機人と戦って・・・」
あの時、小柄な戦闘機人との戦いの途中、仲間の戦闘機人二人が乱入してきて3対1の戦いを強いられた事。
どうにか応援が来るまで粘ったものの、結局はボコボコにされ、左腕をリボルバーナックルごと、
エネルギー弾で吹き飛ばれた所で記憶は途切れていた。
「そうだ・・・・負けたんだ・・・・じゃあ・・・・ここは・・・・」
液体で満たされてるにも関わらず、呼吸が出来る事に疑問を抱きづつも、千切れた左腕の方に目を向ける。
そこには包帯で巻かれた左腕がちゃんとあり、肘や指も問題なく動く事に安堵する。
「目覚めたか?」
突然近くから聞こえた声に驚きながらも、反射的に、聞こえた方を向く。
そこには地上本部で戦った、右目に眼帯をつけた戦闘機人『チンク』が自分が入ったポットを見下ろしていた。
「ふっ、そう警戒するな・・・まぁ、無理も無いか。待ってろ、今出す」
小さく微笑みながらチンクは近くの端末を操作する。すると、満たされていた溶液がすべて流れ、カプセルが空く。
周囲を警戒しながらも、ギンガはカプセルから体を起こし、目の前にいるチンクに説明を求めた。
「・・・・この場合、お礼をいうべきなのかしか?」
「それについては任せる。だが、悪いが早速ついてきてもらいたい。無論、危害を加えない事は約束しよう」
彼女の言葉に、ギンガは数秒沈黙する。
彼女達がいる事や、周囲の機械、何より『中破』までした自分の体を後遺症や痕も無く治した技術。
ほぼ間違いなく、ここはスカリエッティのアジト。病み上がりの上、武器を取り上げられた自分一人ではどうすることも出来ない。
今は彼女の『危害を加えない事は約束しよう』という彼女の言葉を信じ、従う事にした。

 

チンクの案内で病院服に酷似した服を着たギンガは、アジト内のエントランスをそれなりの速さで歩く。
今は二人の足音しか聞こえないエントランス内。だが、ギンガの表情は嫌な雑音を聞いているように顰めていた。
「・・・・やはり気になるか?彼女達が?」
そんなギンガの表情を見たチンクが、歩みを止め、尋ねる。
「ええ・・・・・・やっぱり・・・・・発表通りの人物だなって思っただけよ」
エントランスの左右に多数置かれている、人間が入ったポット。
彼女達がどんな扱いを受けるのか、どんな扱いを受けてきたのか、ギンガは考えようとするが、直にやめる。
立ち止まったため、足音すら聞こえなくなったエントランス内、先に沈黙を破ったのはチンクだった。
「ギンガ・ナカジマ・・・・・お前は幸せだな」
歩みを止めたままの状態のチンクが、はっきりと呟く。
突然のチンクの言葉に、ギンガは意味が分からなかったため、反応に戸惑う。
「お前も、子供の頃はこのような感じで培養液で満たされたポットに入れれていたんだろう。だが、お前たち姉妹は救われた。
『クイント・ナカジマ』お前の母親によって、普通の人間としての人生を得ることが出来た」

 

「・・・・・ええ、貴方の言う通りよ」
「だが、そんな幸運にありつけたのはお前たち姉妹だけだ。ここにいる全員はな、違法実権などで心や体を玩ばれた被害者達だ。
用が済めば捨てられ、新たな子が被害に遭う。そんな地獄のような連鎖・・・・・ドクターはな、そんな連鎖を断ち切ってくれたんだ」
チンクは振り向き、ギンガの瞳を真っ直ぐに見据えながら、全てを話した。スカリエッティの真実を。
そして、彼女達の母、クイント・ナカジマの死の真相を。
静かなエントランスに響き渡るチンクの声。ギンガは唖然としながらも、その真実に聞き入った。
「そんな・・・・じゃあ・・・母さんは・・・・・口封じのために・・・・・・」
愛して止まなかった自分達の母親が、自分達が所属している管理局の人間に殺された事に、ギンガは我を忘れそうになる。
そんな彼女の姿を見たチンクはゆっくりと近づき、安心させるように彼女の手にそっと自分の手を重ねた。
「お前の気持ち・・・私には分からない。だが、お前になら分かる筈だ。彼女達の無念が。だから強力して欲しい」
「協力?」
「詳しい事はドクターが話す。ついてきてくれ」

 

数分後、彼女達はスカリエッティがいるオペレーションルームにたどり着いた。
「よく着てくれたね。ギンガ・ナカジマ。チンク、ご苦労だった。ありがとう」
椅子から立ち上がり、話しながらこちらに向かってくるスカリエッティにギンガは自然と身構える。
そんな姿を苦笑いしながら見つめるスカリエッティは、ギンガの数メートル手前で止まり、
「先ずは謝罪をさせてくれ。このような手洗い真似をして、申し訳なかった」
深々と頭を下げた。その姿に、ギンガは唖然としながらも、警戒を解き
「頭を上げてください・・・・・・貴方に関してはチンクから聞きました」
言われた通りに頭を上げたスカリエッティはチンクの方に目を向ける。
申し訳無さそうな顔をするチンクに微笑みかけたスカリエッティは、再びギンガの方に顔を向ける。
「話はチンクから聞いたとして、信じてくれるのかい?」
「はい。正直未だに半信半疑ですが・・・・・それより教えてください。私に協力してほしい事とは?」
ギンガの質問に、スカリエッティは一度頷いた後、白衣のポケットから一枚のディスクを取り出し、ギンガに差し出した。
「君の手で、信実を告発して欲しい」
「・・・・・その前に教えてください。なぜ私なんですか?」
ギンガとしては何故自分を選んだのかが分からなかった。
彼が人の手にゆだねる気持ちは理解できる。仮に公表しても彼は『違法実験を行なっている科学者』として世に知れ渡っている。
『狂人の戯言』として簡単にもみ消されることは目に見えている。だが・・・なぜ自分だったのか・・・・
「正直に話そう。本当は君か君の妹『スバル・ナカジマ』のどちらかが良かったんだ。『スバル・ナカジマ』に関しては
常に仲間と行動している上に、早期に高町なのはと合流してしまったから無理だった。だから一人だった君を選んだ。
あのような手荒な真似をしたのは、君が協力者になると言う事を悟られないようにするためだった。
地上本部襲撃で評議会とはつながりを切ってはいるし、その評議会も『処分』された。
だが、評議会に組している上層部の人間達が、君が私に協力したと知ったら、連中は君の家族に何かしらの危害が加わるかもしれない」
確かにそうだとギンガは思った。自分が進んでスカリエッティに協力したら、連中は父さんやスバルに手を出していたに違いない。
人質として自分を脅迫、見せしめとして殺害。スバルに関してはエントランス内のポットの少女達のように・・・・・
「君の性格は地上本部に潜り込んでいるドゥーエ・・・・・ああ、彼女と同じ戦闘機人が調べてくれたから、利用させてもらったよ。
私の予想通り、君はチンクの降伏勧告を受け入れずに戦った。そして敗れて連れ去られた。世間一般の目からしてみれば立派な『誘拐』
連中からしても『サンプルを手に入れた』としか見えなかっただろう」

 

あの時の自分は、確かに降伏勧告を受け入れずに戦った。そして負けて連れ去られ、今に至る。
確かに誰がどう見てもスカリエッティのいった通りにしか見えない。
上層部の人間達も、父さんやスバルを『協力者の家族』としてではなく『誘拐された被害者の家族』として見ている筈。
「君達を選んだ理由としては、二つある、一つは君達の体についてだ。君達は開発者は違えど、チンクと同じ戦闘機人。だが、
君達は『成長』している。人の身体と機械を融合させた君達にはあり得ない現象だ。私はその秘密を知りたかった・・・ウーノ」
スカリエッティが腰をかけていた椅子の側で立っていた女性『ウーノ』が一度頷いた後、展開されている端末を操作、
すると戦闘機人の骨格と思われる映像と、数種類の棒グラフが映し出された。
「君達は、誰かが私の技術と君の母君『クイント・ナカジマ』の遺伝子を使って作られた物だ。だが、君達はチンク達とは根本的に違うところがある。
一番の違いが、『ナノマシンによる機械部品の構造機能』さ。これは面白い技術でね。生身の部分の成長に合わせて、機械部品や骨格などを
ナノマシンが構築、強化、改造し、歳相応に成長させる技術なんだよ。だから君達は戦闘機人でありながら成長する」
スカリエッティの説明に間違いは無かった。だが、内心ではさすがだと思う。
自分達のメンテナンスをしてくれているマリーさんですから、この構造解析には数年を要したのだから。
戦闘機人技術の生みの親とは言え、わずか数日で解析してしまう彼は間違いなく『歴史に名を残す天才』だとギンガは思った。
「私はこの技術を、チンク達姉妹やポットの中で眠る子達にも与えようかと思っている。そうすれば、彼女達も人間と同じ様に成長し、
より生きているという事を実感できるだろうからね。まぁ、彼女達の意思を尊重するがね。だからこの技術の持ち主である君達が必要だった。
まぁ、正直に言ってしまえば技術の『無断使用』だ。持ち主である君の許可をいただければ、私の心も幾分晴れやかになるのだが、どうだろう?」
確かにこの技術を使えば、チンク達も人としての生を全うできる。
少し手もスカリエッティに疑いの眼差しを向けていた自分自身を恥りながらも、ギンガは笑顔で頷き、許可の意を示した。
「ありがとう。もう一つの理由は、君や君の妹になら、彼女達の気持ちがわかるだろうと思ったからさ」
「はい、彼女達についてもチンクから聞きました。是非協力させてください」
ギンガは自ら進んで、スカリエッティからディスクを受取った。
「ある査察官を協力者として迎えている。彼の顔と名前、おち合う場所などのデータは君のデバイスにインプットしておいた。
デバイスの場所はチンクが案内してくれる。よろしく頼むよ」

 

「そういうわけ、だがら下手に連絡もできなかったのよ。ごめんねスバル。だけどノーヴェ?こんな事をするなんて私は聞いてなかったけど?」
多少険しい瞳でノーヴェを見据えるギンガに、ノーヴェはばつが悪そうな顔をする。
「だってよ・・・・・これ以上ギンガを巻き込んじゃいけねぇからってドクターの指示さ。
何も知らなかったギンガは、ただの被害者で済むからな」
「・・・・まぁ、プランは成功したから、この事件も終わり、スカリエッティの汚名も返上されるわ・・・・そろそろかしら・・・・」
ギンガが意味ありげに呟いた瞬間、突如周囲の彼方此方に、モニターが現れた。同時にすべてのガジェットが一斉に停止。
突然の出来事に迎撃していた武装局員は不審に思いながらも、ほとんどの人が、突如現れたモニターに目を向けた。

 

・????

 

あるビルの一室、会議室として割り当てられているこの部屋に、数人の男達がいた。
歳からして40歳前後の管理局の制服を着た男達、全員がドーナツ状の机に座りながら、
中央に展開されている正方形のモニターに映し出されている廃棄都市での戦闘映像を見つめていた。
「しかし・・・・スカリエッティも大層な事をしてくれましたな・・・・・」
「まったくです。まぁ、彼がいなくとも研究は継続できる。斬り捨て時には丁度良いと思ってましたが」
「最高評議会が処分された今、実権を握ったのは我々と言っても過言ではない。皆様もそう思いませんか?」
男がニヤニヤしながら放った言葉に、一同が一斉に笑い出す。
彼らは会議という名目でこの部屋に集まった。雑談に花が咲いたため、もう既に誰もモニターに映し出されている映像を見ているものはいなかった。
「しかし彼も愚かな男だ。自分が告発してももみ消されるからと言って、我々に自白をさせるとは」

 

スカリエッテイがゆりかごを浮上させた直後、彼は最高評議会と同じく違法研究を指示、もしくは関わっていた管理局の上層部に、
違法研究をしていた事への告発と、それを行なわなかったら、本局周囲への攻撃を辞さない事などを事前に打線していた。
だが、彼らの答えは決まっていた。『公表しない』と。

 

「スカリエッティも可哀想な男ではあるな。実験体を助けるために努力しているにも拘らず、世間では『狂った科学者』として認知されているのですから」
「何をいいますかな?そう差し向けているのは我々ではないですか?」
「失礼、そうでしたな。むしろ我々は本来彼が行なうべき行いを世間に公表させてる・・・・親切な事はするものですな・・・はははははは」
会議室に木霊する男達の笑い声。

 

                キィ・・・・・・ドサ

 

だが、突如聞こえた扉が開く音、そして誰かが倒れる音に一同は笑うのを止め、一斉に扉の方を振り向く。
彼らが目にしたのは、開いた扉と、外で警備をしていた二人の武装局員。そして彼らの側でじっとしている黒い犬。
「な・・なんだこいつらは・・・・おい!!!」
目の前の光景に慌てた男の一人が、近くのインターフォンから別室で待機している武装局員に連絡を取ろうとするが
反応は無く、ただノイズ音が聞こえるのみであった。
「無駄ですよ。武装局員の方々は先程までいた彼女の鉄拳で全員目を回していますから」
突然の声に、インターフォンを押していた男は再び入り口の方を向く、その直後、彼を始め机に座っていた全員が緑色のバインドで縛られた。
「手荒な真似をして失礼。暴れる事は無いと思いましたが、まぁ、一応の処置という事で」
「な・・なんだ貴様は!!こんな事をしてただで済むと思っているのか!!!」
縛られている男の一人が、涎を撒き散らしながら怒鳴り散らす。だが、彼らを拘束した青年は、男の暴言を無視。自己紹介を始める。
「皆さん始めまして、私、ヴェロッサ・アコース、査察官をやっているものです。突然ですが、皆さんを拘束させていただきます。
理由はお分かりですね?ああ、ちゃんと先ほどの会話も録音していますので、シラを切る必要はありませんよ」
ロッサの発言に、一同は黙り込むが、その内の一人が大声で笑い出す。
「ふふ・・・はははははははは。馬鹿が・・・・そんな物がなんになる?もみ消す事など造作もない」
その男の言葉に反応したのか、残りの男達も安心したかのように笑い出す。
そんな男達の態度に、ロッサは心から溜息をついた後、中央に展開されている正方形のモニターを指差した。
男の一人が釣られて、モニターを見る。その瞬、間男は自分の人生が終った事を悟った。

 

釣られてモニターを見た全員が同じ気持ちになったであろう。
中央に展開されている正方形のモニターには、今の自分達の姿が映し出されたモニターを見ている武装局員で溢れかえっているのだから。
「しかし・・・自白させる気満々だったんだけどね・・・・こうもベラベラしゃべってくれるとは・・・・」
ロッサは本日2回目に溜息をつきながら呟いた。

 

・その頃、地上では

 

「・・・どうやら、作戦は成功したみたいっスね」
バインドで縛れ、ティアナによって連衡されているウェンディが笑顔で呟いた。

 

「・・・・・よかった・・・・・」
モニターに移る映像を見たルーテシアは戦闘を止める様にガリュウ達に指示。
同時にエリオ達もそれぞれの武器を下ろした。

 

「・・・ふぅ・・・・作戦成功だな」
壁際までザフィーラを追い詰めていたチンクが、安堵するように呟き、ナイフを仕舞った。

 

「・・・・これは一本取られたわ・・・・・」
上空で戦闘指揮を取っていたはやては、笑顔で呟いた。

 

・スカリエッティのアジト

 

「はぁあああああ!!!!!」
フェイトは合体させたライオットザンバーを突っ込んでくるトーレに向かって振り下ろす。
だが、トーレは避けようとはせず、腕を交差させながら突撃、正面から受け止めた。
「・・・・・くどい様ですが・・・・・力比べでしたらお勧めしません!!!」
自ら放った言葉を立証するかのように、徐々にライオットザンバーを押し上げる。
だがその時、インパルスブレードを展開している彼女の篭手にヒビが入る。
徐々にヒビは広がり、それに合わせ、インパルスブレードの光りも薄くなってゆく。
「なっ・・・まさか・・・・武装を破壊するのが目的で・・・・・・」
壊れていくインパルスブレードを見ながら、トーレは自分の行動を恥じた。
確かに力比べでは自分に分がある。だが、それは向こうも既に知っている事。
ならなぜ、彼女はこんな力比べを『何度も』するような行動に出たのか。答えは簡単、自分の武装を破壊するためだ。
『IS・ライドインパルス』は腿と足首、手首から発生させるインパルスブレードによって初めて発動することが出来る。
そのため、どれか一つが掛けてしまうと、ライドインパルスは発動できない。
その事を知った彼女は、自分へのダメージを与える事より、武装の破壊を優先した。
我ながら見事だと思う、両腕のインパルスブレードを破壊されてしまえば、ISは勿論、自分は攻撃手段を失うからだ。

 

「今までの無謀とも思える力比べは、両腕の篭手にダメージを与えるための行動・・・ふっ、見事です。フェイトお嬢様!!」
インパルスブレード諸共、篭手は砕かれ、ライオットザンバーの強烈な洗礼がトーレを襲った。
叩きつけられ、吹き飛ぶ、だがその時
「トーレ!!」
床に叩きつけられる瞬間、セッテがトーレの後ろに回りこみ、彼女の体を受け止めた。
だが、それでも衝撃は殺しきる事が出来ずに、結果的に二人とも床に叩きつけられることとなった。

 

「はぁ・・・はぁ・・・・・」
床に叩きつけられた二人の姿を見たフェイトは、息を荒げながらゆっくりと床に着地する。
彼女も限界だった。最後の一撃は正直賭け、あの時トーレの武装が壊れていなかったら自分が負けていた。
これでトーレの武装は破壊した。あの高速移動も出来ない筈。だが、問題はセッテだ。
おそらく彼女はまだ戦える。正直今の自分にはキツイ相手だ。だが、負けるわけには行かない。
疲労が蓄積している体に鞭を打って、再び二刀流にしたライオットザンバーを構える。だが、
「そこまでだ・・・・武器を下ろしてくれ・・・・フェイト執務官」
今まで介入してこなかったスカリエッティにフェイトは自然と顔を向ける。
「・・・・・負けを・・・・認めるのですか?」
「いや・・・もう一つのプランが成功したんだよ・・・・・ごらん」
そう言い、スカリエッティはフェイトの前にモニターを出現させる。地上で誰もが目にしている、あの映像が映し出されているモニターを。

 

「・・・・ギンガ・ナカジマとアコース査察官は上手くやってくれたようね」
アジト内の部屋で、情報処理やロッサが移しているリアルタイムの映像を配信する作業などを
行なっていたウーノは安殿の溜息をつく。
「あとはクアットロにゆりかごを止める様に・・・・・・ん?繋がらない?」
ゆりかごにいるクアットロにプラン成功の連絡と、ゆりかご停止の連絡をするために、通信を送ろうとするが
全く繋がらない事に、ウーノは不審感を露にする。
「・・・おかしい・・・・繋がらない筈はないのに・・・・・どうして・・・・・」

 

                 その時、突如彼女がいる部屋の扉が開く。

 

                    彼女は反射的に扉の方を向く。

 

          そこには、ライフルの銃口をウーノに向けたフィフィテーンソキウスがおり、

 

                         ドン

 

              ウーノ目掛けて、無表情でライフルの引き金を引いた。

 

・地上本部

 

「・・・ふふ・・はははははははは!!スカリエッティめ、これは一本とられたわ!!」
モニターの映像を見ていたレジアスは、声をあげて楽しそうに笑う。
これほど声をあげて笑ったのは何年・・・いや、何十年ぶりだっただろうか?レジアス自身も忘れてしまっていた。
いや、『笑う』という好意すら忘れていたのかもしれない。
「・・・・さて、私も負けてられんな・・・・オーリス、緊急会見を開く。準備をたのむぞ」
レジアスもこれからゼストから聞いた真実を公表するつもりでした。
こちらにはゼストが持ってきてくれた証拠が幾つかある。これで奴らの、いや『生命操作』という違法実験を完璧に根絶する事ができる。
各所に連絡を取っているオーリスを横目で見ながら、レジアスはこれからの激務に備えるかの様に、深く椅子に腰をかける。だが、

 

                 彼らは気付いてはいなかった。いや、気付くことが出来なかった。

 

                  ミラージュコロイドを展開し、レジアスの後ろに忍び寄る

 

                   両腕に実剣を持ったトゥウェンティーソキウスに

 

                    そして、地上にいる局員達は気付くは無かった。

 

                停止した筈のガジェットのカメラアイが、真っ赤に染まっていくのを