勇敢_第21話

Last-modified: 2008-05-12 (月) 22:36:51

・スカリエッティのアジト

 

「・・・ん?」
扉が突然開いたため、反射的に振り向いたウーノが目にしたのは、自室で療養してる筈のグゥウト・ヴェイアだった。
いや、『ヴェイアにそっくりな人物』だった。長い付き合いで無ければ、ヴェイアだと勘違いしていたであろう。
表情は無論、身体的な所まで瓜二つ。間違えても当然である。
だが、ウーノには直にわかった。彼がヴェイアで無い事が。
理由は3つあった。
先ず彼は無断でドアを開けない。そしてこんな生気のない、人形のような表情をしない。そして彼は

 

                   ジャキッ

 

決して自分達に銃を向ける筈がないのだから。

 

                    ドン

 

ウーノが言葉を発するより早く、一発の銃声が室内に響く。
殺傷設定の魔力弾が、寸分の狂いも無く、ウーノの心臓を貫き、その命を奪う。
ライフルを撃ったフィフィテーンソキウスも、このように事が運ぶ事を予想していたが、
彼が目にしたのは、胸を打ち抜かれれて絶命しているウーノではなく、
血が流れる左腕を押さえながら、自分を睨みつけるウーノの姿だった。
「・・・・・・失敗・・・・・・」
これには、フィフィテーン・ソキウスにも予想外の事態だった。
彼の調べでは、ウーノは戦闘は無論、先天固有技能を覗けば、正直目立った特長を持たない、ただのスカリエッティの秘書的存在。
戦闘に関してなら、ナンバーズの中でも最弱と言っても良い人物であった。
そのため、不意打ちとも言える射撃で、確実に仕留められると踏んでいたのだが、結果は左腕に怪我をさせただけ、
おそらくはスカリエッティ製戦闘機人の基礎性能を甘く見ていたのだろうと、苦しそうに左腕を抑えてるウーノを無機質に見つめながら自己判断をする。
だが、自分が有利なのには変わりはない。直にでも目標を消去し、次の任務に掛かる必要がある。
すべてはアッシュ様のために。
「・・・・・・継続・・・・・・排除開始・・・・・」
機械的に呟いたフィフィテーン・ソキウスは、再び銃口をウーノに向けた。
今度こそ完全に排除するために。

 

「はぁ・・・・はぁ・・・・・・・」
初弾をどうにか急所から外すことに成功したウーノは、胸の変わりに打ち抜かれた左腕を押さえながら、目の前にいるフィフィテーン・ソキウスを睨みつける。
彼の正体は直に察しがついた。おそらくアッシュ・グレイの手のもの。
依然彼が訪れた時も、目の前で銃口を向けているヴェイアとそっくりな人物を彼は引き連れていた。

 

なぜ目の前の人物がヴェイアと瓜二つなのか、結局の所、ヴェイア本人から聞く機会を逃がしてしまったが、機動六課襲撃時、
同一人物、もしくは別人と思われる人物と、オットーとディードが戦闘を行なっており、その時、彼から興味深い情報を得た。

 

          『グゥド・ヴェイア・・・・彼は・・・我々の母体となった・・・人間・・・』

 

この言葉から察するに、おそらく彼らはヴェイアから作られたクローン。ならば姿形が似ている事も納得がいく。
だが、なぜ彼らはアッシュ・グレイに与しているのか。そして自分達を狙う理由は・・・・・・・
「なぜ・・・・私達を狙うの・・・・・・」
答える可能性は低いが、ウーノはダメもとで疑問をぶつけてみる。

 

正直、彼らの・・・・・アッシュ・グレイの目的は全くと言って良いほど分からなかった。
気まぐれと言って良いほどに局員を殺し、トーレが持ち帰った情報から、アインヘリアルを破壊したのも彼らだろう。
六課襲撃の時もオットーとディードを殺害しようとし、そして今は自分を始末しようとしている。
当初は評議会の回し者と考えていたが、そう考えると彼らの行動は行き過ぎている。対象が裏切った自分達ならまだ納得がいくが、
普通に与している所か、下手をすれば事情を知らない局員達まで殺す意味が分からないし、ゆりかご対策で必要不可欠な筈のアインヘリアルまで
彼らは破壊したのだ。自分達が行なおうとしている行為を止める為にもアインヘリアルは重要な戦力。評議会が破壊を命令する筈はないし
必要ないならないで、普通に使用を禁ずれば良い。だが、彼らは何の迷いもなく破壊した。周囲にいた局員をも巻き込んで。

 

だだ、一つだで分かった事がある。彼らはある行為を自発的に・・・いや、好んで行なっている。

 

                    「殺す」という行為を

 

「・・・・・・この質問に酷似した内容を吐いた場合、次のように答えるように命令されている」
ゆっくりとウーノに近づきながら、ソキウスは機械的に回答を呟く。
ウーノは痛みを耐えながらもどうにか打開策を考える。だが、正面から立ち向かっても勝てる可能性はゼロ。
負傷をしているのだから尚更。それ以前に少しでも動けば今度こそ自分は命を落とすだろう。
正に、自分を殺す相手に生かされている・・・・何たる矛盾・・・何たる皮肉
「(・・・・何も・・・・出来ないの・・・・・)」
奥歯をかみ締め、怒りと悔しさを隠す事無くさらけ出す。
普段は見せないウーノのそんな表情も、ソキウスは表情を変える事無く見つめる。
そして、互いの距離が二メートルほどになった所でソキウスは歩みを止め、続きを話し出した。
「『・・・・・我らの目的を知りたければ・・・・・・・あの世でじっくり眺めてるんだな、愛玩人形』以上です」
用件を言い終えたソキウスは、狙いを定めたライフルの引き金に掛けていた指を動かす。そして

 

                    「ウーノさん!!!!!!!」

 

ライフルの弾丸が発射されるより早く、ウーノを呼ぶ声と共に、二人の間に突如赤い玉が落ちてきた。
その玉の正体を直に察したウーノは即座に瞳を閉じる。直後、部屋に響き渡る騒音と、目を潰さんばかりの光り、そして
「はぁああああ!!」
体重を乗せたヴェイアの強力なタックルがフィフィテーンソキウスを襲った。
突然の攻撃にソキウスは目と耳をやられたうえ、部屋の隅まで吹き飛ばされ壁に叩きつけられる。
その隙に、ヴェイアは未だに目を瞑っているウーノの右腕を取り、その場を脱出した。

 

「・・・・・・・・任務失敗・・・・だが捕獲対象を発見・・・・追撃を開始」
ゆっくりと体を起こしたソキウスは、実行すべき内容を呟いた後、負う様に部屋を後にした。

 

「ここまで来れば・・・・ウーノさん、手を」
途中ウーノを抱きかかえながら、ヴェイアはソキウスとの距離を少しでも開ける為、とにかく走った。
ある程度引き離した後、皆との連絡やウーノの治療などのため、一時的に物陰に隠れ様子を伺う事にした。
幸い、ウーノが怪我をしたのは生身の分部であったため、回復魔法は有効であったが、通信に関しては相変らずであった。
「・・・・ありがとうヴェイア・・・・・・」
自分の手に回復魔法をかけているヴェイアにお礼を言いながらも、使える右腕で端末を操作するウーノ。
だが、苦虫を噛み潰した表情からその行為が駄目だった事を伺えさせる。
「・・・・だめね・・・・やっぱり、繋がらない・・・・ここのセキュリティを掌握されている?」
正直信じられるわけがなかった。ここのセキュリティが掌握される事などありえない。
ここのセキュリティを任されているウーノなら誰よりもそう感じる。だが、通信が繋がらないという現事が、彼女の思い過ごしでない事を痛感させた。
それどころか、ついさっきまで通常通りに作業を行う事が出来た筈なのに、あのヴェイアに似た人物が現れた途端に使えなくなった。
そうなると考えられる事は一つ、今までバグや怪しい兆候が無かった以上、ここのメインシステムは僅か数分、下手をすれば僅か数秒で掌握されたという事になる。
「・・・ありえない・・・・・こんな事ができるなんて・・・・」
「・・・・・いえ、彼なら・・・・・アッシュ・グレイなら可能です」
突然の発言に、ウーノは自然と自分の腕に回復魔法をかけているヴェイアを見据える。
その目線を受け止めながらも、ヴェイアは淡々と話を続ける。
「・・・・彼のデバイス『テスタメント』なら可能です・・・・・・おそらく、ゆりかごも今は彼の支配下になっていると思います」
「・・・・ヴェイア・・・貴方・・・何故知ってるの・・・・・」
ウーノが疑問に思うのも当然である。彼はアッシュのことを知らない筈、それ所か彼のデバイスの名まで知っているのだから。
「ヴェイア・・・貴方・・・まさか・・・記憶が・・・・・」
「はい、あの子、スバルって子にやられたショックが原因でしょうか・・・思い出しました。全てを・・・・・」
その時、遠くから聞こえてくる足音。アジトは自然の洞窟を利用して建てられている為、その音は嫌なほど彼らの耳に響き渡った。
その音をきいたヴェイアは舌打ちをし、物陰から様子を伺う。すると、目を凝らさなければ見る事が出来ないが、
先程ウーノを襲撃した人物、フィフィテーン・ソキウスがゆっくりとこちらに近づいてきた。
「ウーノさん、アッシュが行動を起こした以上、事態は最悪な方に向かっていきます。彼らの目的は僕の捕獲と
ここにいる人物の排除、そして施設の破壊。そして最後には快楽に任せたままの虐殺。おそらく第一目標は僕の筈ですから僕が時間を稼ぎます。
その間に、ウーノさんは通風口からドクターの所へ」
「ま・・まって、ヴェイア。何故貴方が彼のことや目的を知っているの。それに貴方を囮になんか・・・・・だったら私キャ!!!」
説明を求めるウーノを有無を言わさずに無理矢理立たせたヴェイアは、近くの部屋に押し込める、
そしてロックキーに手を伸ばした後、ウーノを見据え、申し訳無さそうに微笑む。
「ごめんなさい・・・・・彼とは・・・過去では・・・仲間でした・・・・。ですから奴の行動は予想できるんですよ。
それに、ウーノさんにしか出来ないじゃないですが・・・徹夜明けで暴走したドクターを止められるのは・・・・・」
「・・・ヴェイア・・・・・・貴方」
「・・・今まで・・・ありがとうございました・・・・・ドクターと・・・お幸せに」
ロックキーを押し、扉を閉める。直に聞こえてくる扉を叩く音を無視し、ロックキーを力任せに叩きつけ壊し、開かない様にする。
そして扉から離れると同時にバリアジャケットを装着し、襲撃者フィフィテーン・ソキウスの下へ向かう。
「・・・・・会うのは・・・・あの世界の研究所以来だね・・・・・兄弟・・・・」
昔をを懐かしむ様な呟きが、アジトに小さく木霊した。

 

・廃棄都市

 

「こちらD班!!救援を!!」
「第二分隊は守りを固めろ!!!撃破が間に合わないのなら、足止めだけでも言い!!!」
彼方此方から響き渡る局員の罵声と悲鳴。発端は停止したと思われたガジェットの、突然の再起動だった。
本来なら先程と同様に対処すればいいのだが、再起動したがジェットは先程までとは全く違っていた。
先ずは機動性、今までの散漫な動きと違い、ルーテシアの小型召喚虫『インゼクト』が寄生したかのように機敏になっていた。
そのため、今まで当てることが出来た攻撃もあたる事ができず、軽々と接近を許してしまっていた。
そして何より厄介だったのが攻撃が全て殺傷設定になっていた事である。
今までの攻撃とは違い、当たれば確実に致命傷を負う。仮に当たったとしても、バリアジャケットの効果で死ぬ事は無いだろうが、もって数回。
それに加え、破壊してもその数倍の増援が次々とやって来る。
先程と比べ物にならないほど、分の悪い状況。
空でははやてとリインフォースの広域魔法と、なのはの教え子である武装局員の働きにより、どうにか持ちこたえる事ができていたが、
地上では空以上のガジェットの数とAMF戦に慣れていない武装局員のため、徐々にではあるが押されていった。
だが、一方的ではなく『徐々に押されている程度』で済んだのは

 

「うぉりゃああああああああ!!!!!!!!!」
スバルの渾身の一撃がガジェットドローンIII型の装甲を大きく凹ませながらI型の群れへ向かって吹き飛ぶ。
数体のI型を下敷きにしたIII型は爆散、周囲にいたI型を巻き添えにしてスクラップとなる。
「次!!」
マッハキャリバーで地面を滑りながら、ガジェットの群れに突っ込むスバル。だが、
突如ビルの物陰から十体近いI型がスバルの行く手を阻むように現れた。
規則正しく横一列に並んだI型は、突っ込んでくるスバルに向かって一斉にレーザーを発射。
スバルはそられをジグザグに、時にはシールドを張り防ぐが、思った以上の弾幕に苦戦を強いられる。その時、
「スバルどいてろ!!!!」
突然後ろから聞こえてきた声に、反応したスバルは言われた通りに横に反れる。その直後、スバルの横をノーヴェが
猛スピードで通り過ぎた。右腕に半壊したガジェットドローンIII型を持って
「な・・何するの!!?」
「いいから黙って見てな!!!」
獰猛にニヤついたノーヴェは、レーザーの雨を掻い潜りながら、右手に持っていたガジェットドローンIII型を進行方向上空に向かって軽く放り投げる。
同時にノーヴェも地面を蹴りジャンプ。空中で体の向きを逆にしながら後転をする。
ノーヴェがやろうとする事を、スバルは彼女のポーズから理解した。蹴る物が違うという以外、自分もやった事があるのだから、そして
「ガジェットは友達!!怖くないってかぁ!!!!」
後ろ回転で得た遠心力に、ジェットエッジの爆発的な加速が加わった強烈な蹴り、俗に言う『オーバーヘッドキック』が決まり、
ボールに見立てたガジェットドローンIII型は猛スピードで一方の群れに突撃、ボーリングのピンのようにバリケードを張っていたI型を蹴散らしながら、
その先で密集しているガジェットの群れに突進する様に落下、周囲のガジェットを巻き込んで爆散した。

 

ガジェットの戦闘に慣れている六課メンバーと、急遽協力を申し出たナンバーズの一騎当千の活躍の賜物であった。
だが、それでも劣勢を強いられているのには変わりなく、正直な所、味方の応援が来るのを期待するしかなかった。

 

「・・・ノーヴェ・・・・繋がった」
カートリッジの補充と周辺経過を同時に行ないながらも、スバルは数分前にした時と同じ質問をする。
「いや・・・・駄目だ・・・・ここにいるナンバーズにしか繋がらねぇ。ゆりかごも、アジトも、ノイズだけだ」
舌打ちしながらウィンドウを閉じるノーヴェ。その時、閉じたタイミングを待っていたかのように
二人の周囲に転移魔法陣があらわれ、新たなガジェットが出現する。
「・・・・・・まったく・・・・・しつこいな~・・・・・・」
苦笑いしながらも、スバルはノーヴェと背中合わせになり、ファイティングポーズをとる。
「だけど・・・・・こんなに作った筈ないんだけどなぁ・・・・・」
次から次へと沸いて来る元味方に、ノーヴェはゲッソリしながらもスバル同様にファイティングポーズをとる。
「・・・だけど・・・・・なんで急にガジェットが動きだしたんだろ・・・・」
「さぁな。本来ならプランが成功した時点でガジェットとゆりかごは共に停止する筈だったんだがな。それがバリバリ動いている
ガジェットの武装の殺傷設定も、ドクターかウーノ姉、クア姉か解除しないと使えないって言ってたからな。
こりゃ、誰かが中身を弄ってるとしか考えられねぇ・・・・むしろその方が考えられねぇけどな・・・・・・」
「・・・正直、ガジェットを嗾けてる人物の目的も分からない。こんなんじゃ、ただ破壊を楽しんでるだけでだよ」
「クソッ・・・・クア姉やドクター達は無事なのかよ・・・・・・」
腹の底から声を絞り出しながら呟くノーヴェに、スバルは掛ける言葉が見つからなかった。
正直、自分もゆりかごやスカリエッティのアジトへ向かった隊長たちのことが心配だった。今すぐにでも向かいたいと思ったその時、
『スバル!!スバル!!聞こえる!!!』
別のルートで戦っていたティアナから通信が入った。直に端末を開き通信に答える。
「ティア、大丈夫!?」
『ええ、正直持ちこたえるのが精一杯だけどね。それより、試したと思うけど、なのはさん達と連絡はついた?』
「・・・・・・だめだった。ノーヴェも駄目だって」
『やっぱり・・・・・・なら、いくわよ!!ゆりかごに!インドアでの脱出支援と救助任務は私達の得意分野でしょ』
ティアナの提案にスバルは直にでも返事をしようかとしたが、どうにか言葉を飲み込む。
送られてきた合流ポイントは、今の場所からはそれ程離れていない。ウィングロードで空を走れば直に着く事が出来る。
だが、このままノーヴェを一人にするのは・・・・・・・・
「言って来い、スバル!」
そんなスバルの不安を打ち消すような明るい声が、背中越しに聞こえる。
自然と振り向いたスバルが見たのは、初めて見るノーヴェの明るい笑顔だった。
「あのオレンジ頭の言う通りだ。オメェらはつい最近まで脱出支援と救助任務なんかをやってたんだろ?突撃上等なアタシらより適任だ」
「でも・・・・ノーヴェ一人じゃ」
「見くびるんじゃねぇ・・・と言いてぇが、確かにあたし一人じゃきついな・・・・『あたし一人』なら」
ノーヴェは意味ありげに呟いた後、親指で真横を指し示す。すると
そこにいたガジェットドローンIII型2体が突如爆散、ガジェットの残骸が撒き散らす煙の中から、別ルートで迎撃を行なっていたギンガと十数名名の武装局員が現れた。
「ごめんスバルにノーヴェ、ちょっと手こずったわ。だけど話はティアナさんから聞いたわ。ここは私達に任せて行って」
「そういうこった、だからとっとと行って来い・・・・・頼んだぜクア姉とディエチのこと・・・・」
二人の顔を交互に見据えたスバルは、一度大きく頷くと、移動手段であるウィングロードを形成するため、右拳を地面に叩きつける。
空に向かって伸びる蒼い光りの道、それに乗ったスバルは、合流ポイントに向かうため、全速力で駆け出した。

 

「さて、やるとするか!!!」
スバルを見送ったノーヴェは早速手近のガジェットに向かって突撃を開始しようとするが、
その行く手をギンガと共に来た局員により塞がれてしまう。
自分の行動を邪魔した事に、早速罵倒を浴びせようとしたが、取り囲んだうちの一人が突如施したヒーリング系の魔法に、喉まで出掛かった言葉を飲み込んだ。
「だめですよ。あなた達も万能無敵というわけではないのでしょ?」
自分にヒーリングを施す女性局員にノーヴェは肯定する様に無言で頷く。そして、良く見ると、自分の行動を邪魔した局員は自分を取り囲み迎撃を行なっていた。
まるで、自分を守るために。
「・・・な・・なんで・・だよ?」
ノーヴェには彼らの行動が理解できなかった。何故自分を守ってくれるのか。
「なぜって、私達は貴方に助けられたからですよ」
女性局員が放った言葉に、ノーヴェは直に答えにたどり着いた。自分が人助けをしたことは一度しかない
「・・・・お前ら・・・アインへリアルの・・・・・生き残りか・・・・・・」
肯定を表すように、ノーヴェを取り囲んでいた局員は、力強く頷く。
あの時助けた人数は半端な数ではなかったため、ノーヴェは一々顔など覚えてはいなかった。
「あなたの事は、ナカジマ陸曹から聞きました。ここにいる皆は勿論、貴方達に助けられた皆が、貴方達姉妹の所で戦っています」
「そういうこったぁ!!借りは返す。美少女は守る!!男として当然!!!」
「最低だな・・・・お前」
「じゃかぁしい!!!和ましてんだボケェ!!!」
無駄口を叩きながらも、彼らは素早く正確にガジェットを打ち抜いていく。
「そういう事、だからノーヴェ、先ずは少し手も体を休めて、それから暴れなさい。それまでは私達が食い止めとくから」
ノーヴェの隣で微笑みながら呟いたギンガは、リボルバーナックルのカートリッジをロード、ナックルスピナーを回転させ
ガジェットの群れへと突っ込む。
「よし!C班はノーヴェちゃんの回復と護衛!B班はナカジマ陸曹と一緒に突撃!!A班は後方から援護射撃、味方に当てんなよ!!」
歳からして20代後半であろう男性が、大声で指示を出し、全員がそれ以上の大声で答える。
「・・・・・・へっ・・・頼もしいじゃねぇか・・・・・」
ヒーリングの心地よい光りに身を任せなら、ノーヴェは嬉しそうに呟いた。

 

・王座の間

 

ソキウスにより、レリックと恐怖を植え付けら得たヴィヴィオは、喉が張り裂けんばかりに叫びながら、体を変化さえる。
黒い光りに包まれた幼い体は、急激に成長し、その体に合ったバリアジャケットを構築して良く
「・・・・・聖王の・・・・・復活・・・・・・」
一部始終を見ていたクアットロが自然に呟いた直後、黒い光りは四散、中から虹色の光り『カイゼル・ファルベ』に包まれたヴィヴィオが現れた。
その姿は、なのはと同じくらいにまで成長した大人だが、その表情は、怯えた子供のままであった。
「・・・・いや・・・・・恐い怖い恐い怖い恐い怖い恐い怖い恐い怖い!!!!!!!!!」
力の限り叫びながら、ヴィヴィオは足元にベルカ式の魔法陣を展開、周囲にカイゼル・ファルベの嵐を引き起こす。
そして、手に構築した球体状のカイゼル・ファルベを狙いもつけずに無茶苦茶に投げつける。
まるで、目に見えない恐怖から逃げ出すように・・・・・・恐い物を追い出すかのように。

 

「・・・・・ヴィヴィオ・・・・・・」
その姿をなのはは呆然と見ていた。カイゼル・ファルベの嵐で体が揺れようが、砂埃で汚れようが、直足元に攻撃が当たろうが
彼女の頭では先程クアットロが発した言葉が何度も再生される。

 

   所詮、貴方も『母親ゴッコ』がしたかっただけ。飽きたらあっさりと引き渡す。素敵ですねぇ~。まさに『白い悪魔』ぴったりじゃないですか~

 

          「そうだ・・・・・自分は・・・・・ヴィヴィオの引き取り手を捜していた・・・・・ヴィヴィオの気持ちも知らずに」

 

                 何より、貴方自信がこの子の母親にならなかったのが何よりの証拠

 

  「あの子は・・・私のことをママと呼んでくれた・・・慕ってくれた・・・・なのに、私は、自分勝手に考えて・・・あの子を引き離そうとした」

       この子も可哀想に~、『母親と慕ってくれた女は、母親ゴッコを楽しんでいた悪~い悪~い悪魔でした~』なんて、あ~可哀想!!

 

       「仕事だとか色々理由をつけて自分を納得させようとした・・・・・・・なんだ・・・ただの母親ゴッコだ・・・・・・」

 

「なんだ・・・・私・・・ただ、『母親ゴッコ』を楽しんでいただけだ・・・・」
恐怖に支配されたヴィヴィオは、目標を目の前でただ立っているなのはに定める。
今の彼女には人の分別など出来なかった。ヴィヴィオにとって、全てが自分を恐怖に陥れる対象。
ならやることは一つ。恐怖を与えるモノを吹き飛ばす、徹底的に破壊する、残らず消し飛ばす。
「ああああ・・・あああああああああああああああああ!!!!!」
右手にカイゼル・ファルベを収束、防御も何もしていないなのはに向かって、射撃魔法『セイクリッドクラスター』を放った。
なのはに向かって放たれたセイクリッドクラスターは途中で爆散、散弾となってなのはに襲い掛かった。
当たれば間違いなく倒れる。下手をすれば死んでしまうかもしれない。だが、なのはは甘んじて受け入れるつもりだった。
「・・・・・ヴィヴィオ・・・・・ごめんね・・・・・」
目を瞑り、覚悟を決める。
「・・・・・・あれ・・・・・」
だが、直撃で伴う痛みは一向に襲ってこなかった。不審に思ったなのはは瞳を開ける、するとそこには
「・・・・・全く・・・・・私も・・・・・地に落ちたものね・・・・・・」
両腕を広げ、自分を守るように立っているクアットロがいた。
ヴィヴィオの攻撃を背中で受けたため、固有武装であるシルバーケープとナンバーズ特有のボディスーツはズタズタに裂け、
痛々しいキズが背中の彼方此方に現れる。
衝撃で髪を束ねていたゴムも消し飛び、伊達で掛けていたメガネも床に落ち、レンズが綺麗に砕けた。
「な・・・・なんで・・・・・・」
身を挺して自分を助けたクアットロに、なのはは自然と疑問をぶつける。
そんな呆けた表情をしているなのはに、クアットロは痛みを感じさせない笑みを見せた後

 

                   ドゴッ!!!

 

容赦も躊躇いも無く、なのはの頬に向かって右ストレートを叩き込んだ。

 

突然の攻撃になのはは勢いを殺しきれずに吹き飛ぶ。だが、済んでの所でクアットロがバリアジャケットのエリを掴んだため、
吹き飛ぶ事は無かった。
その代わり、襟を掴んだままの腕を引き、なのはの顔を無理矢理自分の顔の前まで持ってこさせ、なのはを正面から睨みつけた。
「・・・色々と・・・・・言いたいことがあるけれど、一つだけはっきりしなさい。貴方はなんでここに来たの」
「・・・・・・・私が・・・・来た・・・・・目的・・・・・」

 

                          私の目的

 

                        ゆりかごを止める事

 

                   中にいるであろう戦闘機人を捕まえる事

 

                           そして

 

「ヴィヴィオを・・・・・助ける事・・・・・」
「ふっ、どうやらオツムが痴呆になったわけではなそうね・・・・・なら、さっさと実行しなさい!!」
クアットロの叫びに反応したのか、ヴィヴィオは再び狙いをなのはの方に定め、セイクリッドクラスターを放った。
迫り来る攻撃を、なのはは今にも倒れそうなクアットロを抱え横に飛び回避。
着地した瞬簡に再び地面を蹴り、レイジングハートが転がっている方まで飛び跳ねた。
クアットロを下ろすと同時に、レイジングハートを拾い、即座に彼女に結界魔法『オーバルプロテクション』を施す。
「ここでじっとしていください・・・・・それと、お礼を言わせてください。ありがとうございます」
「ふん、別に貴方のためにやったわけじゃないわ。あの男の、アッシュ・グレイの思惑通りに事が運ぶに気に食わなかっただけよ。
それにあの子を止められるのは貴方だけ、だから助けた。言い事、あの子を助けるには純粋な魔力ダメージを与えて、内部のレリックを
破壊する事。それしかないわ。だけど聖王の鎧で守られてるから半端な魔力じゃ駄目。手加減なんかしないで、思いっきり・・・・・やりな・・・・さい」
結界の中で気を失ったクアットロに、なのはは一度大きく頷いた後、ヴィヴィオの方を向く。
「ヴィヴィオ!!!!!」
室内に響き渡る声に、ヴィヴィオは暴れるのを止め、なのはの方を向く。
その表情は未だに恐怖に支配されているが、なのははゆっくりとヴィヴィオに向かって歩き始める。
「ごめんね・・・・・駄目だよね・・・・・私」
近づいてくるなのはに向かってヴィヴィオは叫びながらカイゼル・ファルベで形成したエネルギー弾を放つ。
その攻撃を、なのはプロテクションEXで防ぎながら、ヴィヴィオとの距離をゆっくりと縮める
「ヴィヴィオの気持ちを無視して・・・・勝手に決め付けて・・・・・最低だよね・・・・・」
近づいてくるなのはに、ヴィヴィオは数歩後ろに下がった後、高速大威力射撃『インパクトキャノン』を放つ。
大威力の射撃魔法に、なのはの防御は砕かれる。だが、それでもレイジングハートを盾にしながら踏ん張り、足で床を削りながらも、どうにか耐え切る。
「・・・・私・・・自身がなかったんだ・・・・ヴィヴィオのママになることに・・・・・不安だったんだ・・・・ヴィヴィオのママになれるのか」
再び近づいてくるなのはに、ヴィヴィオは再びエネルギー弾を放つ。だが、目を瞑って我武者羅に投げているため、なのはに当たることはなく
壁や床を削るだけに終る。
「正直ね、最初は義務感の方が大きかったんだ。だから、本当に良い行き先で幸せに暮らして欲しいと思って、受け入れ先を探していた。だけどね」
二人の距離はあと数歩という所まで狭まった。
ヴィヴィオはエネルギー弾での攻撃を止め、両腕に電気変換した魔力を纏わせた格闘戦魔法『プラズマアーム』で
なのはを容赦なく殴りつける。その攻撃を体で受け止めるなのは、顔を顰め、肋骨が数本逝った事を感じながらも、
残りの数歩を歩ききり、ヴィヴィオを抱きしめた。

 

「私のことをママって呼んでくれて・・・・懐いてくれて・・・・・嬉かった。私が本当のママになれれば良いと思った・・・・ううん。違う」
暴れるヴィヴィオをあやすように、後ろに回した手で優しく背中を叩く。
「私に・・こんな事を言う資格は無いと思う。だけど、義務感とか、そんな物はもう関係ない!!私はヴィヴィオの本当のママになりたい。
一緒に遊んで、一緒にお風呂にはいって、一緒に寝て・・・・・仕事とかで一緒にいられる時間が少ないかもしれない。だけど、本当のママになっていけるように努力する。
だからヴィヴィオ・・・・・落ち着いて・・・・・恐がらないで・・・・・本当の気持ち・・・ママに教えて」
いつの間にか、周囲に吹き荒れていたカイゼル・ファルベは消え、なのはの腕の中で暴れていたヴィヴィオも、大人しくなる。
突然訪れた沈黙。最初に聞こえたのは、ヴィヴィオのすすり泣く声だった。
「・・・・私は・・・・・私はぁ・・・・・・なのはママのことは・・・・大好き・・・・ママとずっと・・・一緒にいたい!!!」
ヴィヴィオは抱きしめていたなのはを突き飛ばす。そして、内にある自分の不の感情を抑える様に、自分自身を抱きしめ

 

                     「ママ・・・・・・助けて!!!!」

 

なのはに助けを求めた。
「・・・・助けるよ・・・・・何時だって・・・・どんな時だって!!!!」
足元にミッド式の魔法陣を展開、周囲にブラスタービットを出現させる。その数3
「ヴィヴィオ・・・・・ちょっとだけ、痛いの我慢できる?」
空中に浮遊しながら尋ねるなのはに、ヴィヴォはここに来て始めての笑顔で答える。
「うん。我慢できるよ・・・・・・・だって・・・・・ママの子だもん」
なのはは安心と嬉しさが混じった笑顔で安堵する。だが、直に顔を引き締め魔力のチャージを開始する
「防御を抜いて、魔力ダメージでノックダウン・・・・いけるね、レイジングハート」『It is possible』
周囲に拡散している魔力が、なのはの魔力光である桜色に変わり、レイジングハートに、周囲に展開しているブラスタービットに集まっていく。
その光りは球体を形成しながらが徐々に大きくなり、全てがなのはの背丈より大きくなった所で、なのははレイジングハートを振り被る。
ヴィヴィオはその光景を見ても、恐れや恐怖感などをまったく感じなかった、だだ、素直にこう思った。

 

                      「・・・・・綺麗・・・・・・・」

 

「全力!!全開!!!」
桃色の球体は、さらに大きくなり、今にも破裂しそうになる。その瞬間、振り被っていたレイジングハートを球体に叩きつける様に振り下ろし
「スターライトォォォォ・ブレイカアァァァァァァァァァ!!!!!!!」
自身が使用できる最強の集束砲撃魔法『スターライト・ブレイカー』を放った。

 

「・・・・・まったく・・・・本当に全力でやって・・・・・・」
途中、結界の中で目覚めたクアットロは一部始終を見ながら呆れるように呟く。
四方から放たれる強力無比な集束砲の直撃に絶えるヴィヴィオに、クアットロは心から同情を送った。
「確かに、『思いっきりやりなさい』とはいったけど、これじゃあ余裕でお釣りが来るわね。あの時『7割位の力でやりなさい』とで
言っておけばよかったかしら。だけど不思議ね、今の彼女のスタミナ、魔力量から計算しても、レリックを破壊できるかどうかのギリギリの状態だったのに」
歯を食いしばり、砲撃に耐え抜くヴィヴィオの体から、体内に埋め込まれたレリックが姿を現す。
同時にレイジングハートにも、負荷から来るダメージなのか、所々にヒビが入る。
「『思いの力』ってやつかしら・・・・・・ふっ、私らしくない。だけど万全じゃない状態でも聖王の鎧を打ち砕く攻撃力。本当に悪魔ね・・・・・だけど」

 

                        「綺麗な・・・・・・悪魔ね」

 

歯を食いしばって耐え抜くヴィヴィオとは正反対に、レリックは力尽きたようにひび割れる。そして
「ブレイク!!!!シュート!!!!!!!!!!」
最後の一押しと言わんばかりに、砲撃に更なる加速と威力を加え放つなのは。その直後、部屋を包み込むほどの魔力爆発が起こった。

 

「・・・・・・・・ちっ、とんだ茶番だな・・・・・・・」
不機嫌さを隠す事無く顔に表したアッシュは、右手で玩んでいたワインの入ったグラスを床に叩きつける。
画面に映る元に戻ったヴィヴィオとなのはが抱きしめ合う映像に、不愉快の頂点に来たアッシュは、モニターを破壊。
「反吐が出る」
悪態をついた後、部屋を後にした。
「・・・・・・まぁ、良い。奴らの始末はソキウス達が付けてくれるだろう。それより、そろそろ俺も楽しむとするか」
ニヤつきながらテスタメントに搭載された端末を開く。そこには、彼の餌食になる第一目標が写っていた。

 

                  L級艦船の第八番艦・アースラの姿が

 

・ゆりかご周辺

 

「デアボリック・エミッション!!!」
周囲に味方がいない事を確認したはやては、これで8回目となるデアボリック・エミッションを放つ。
使用後、息を荒げながらも、はやては周辺警戒を怠らずに、念話で周辺の部隊長達に指示を出す。
「さすがに・・・・・しんどいな・・・・・・・」
ここにきて、初めて弱音を吐きながらも、はやては未だに上昇を続けるゆりかごを睨みつける。
そこから新たに射出されるガジェットに、はやては顔を顰めながらもシュベルトクロイツを掲げ、広域魔法発射態勢に入る。
だが、そんなはやての行動を、リインフォースは、彼女の方を掴んで止めさせようとする。
「主、これ以上の連続使用はいけません。貴方の体が持たない」
自分は余程疲れた顔をしているのだろう、自分を見つめるリインフォースの顔は、心配のあまり今にも泣き出しそうなほどであった。
だが、そんなリンフォースの表情も、はやてから見れば、十分疲弊していた。
「全く・・・・私もリインフォースも、せっかくの美人が台無しやな・・・・・」
リインフォースを見据え、力なく微笑んだはやてはやんわりと彼女の手をどかす。
「せやけど、うちらが踏ん張らな、ここの防衛網は一気に崩れる。それになスバルとティアナはなのはちゃん達を救出にいったし。
エリオはフェイトちゃんの所にいったって報告が入った。キャロもヴォルテールで一線を支えてるし、シグナム達も
各地で踏ん張ってくれてる。それに戦闘機人の子達も一緒に頑張ってくれるそうやないか。そんな中で隊長のうちだけが休むわけにはいかんやろ?」
「・・・・・・主・・・・・」
「堪忍な、我侭なマスターを持って、せやけど、うちが・・・・うちらが頑張れば、空からの脅威は減る。皆がそれぞれの戦いに集中出来る」

 

実際この空域の防衛は、はやてとリインフォースの二人だけで対処していた。
本来なら他の武装局員と共に行動をするべきなのだが、性能がアップしたガジェットに対抗するため、はやてはペアを組んでの迎撃を支持。
そして、気兼ねなく広域魔法を使えるようにと、周囲にいた局員を全て下がらせていた。
その結果、未だに死亡者は出ておらず、良いペースでガジェットを減らす事に成功していた。

 

「・・・全く・・・凛々しくなられた・・・・・」
はやての横顔を見据えながら、リインフォースは自然と呟く。
そして同時に改めて感謝した、彼女のような主にめぐり合えた事に、共に戦える事に。
「・・・・・リインフォース・・・・女性に『凛々しくなられた』ってのは褒め言葉やないで~」
ジト目で自分を睨みつけるはやてに、リインフォースは謝罪をしようとしたその時
強烈なエネルギー砲が、彼女達の頭上を通り過ぎた。

 

「っ!!ゆりかごの主砲!!?各自、被害状況!!!」
あまりの光景に呆気に取られるがそれも一瞬、はやては即座に部隊長達に念話で被害状況を確認する。
だが、どの部隊も被害がないという報告に、はやては安殿の溜息をつこうとしたが、
「・・・・この軸戦場・・・・・・・アースラか!!!!」
リンフォースの叫びを聞いた瞬間、はやての表情は一気に凍りついた。

 

・L級艦船の第八番艦・アースラ

 

「・・・・くっ・・・・・皆・・・・無事・・・・・・・・」
突然襲い掛かってきた砲撃、シャーリーは咄嗟にアースラの防御フィールドを展開し、衝撃に備える。だが、
防御フィールドは貫通、ゆりかごの主砲はアースラの左側面の装甲をごっそりと抉り取った。
衝撃で吹き飛ばされた時に頭を打ったのか、ふらつきながらも椅子にしがみ付き、どうにか立ち上がる。
「僕は大丈夫・・・・・・・・シャーリー・・・・君は・・・・」
頭から血を流しながらも、どうにか立ち上がったグリフィスは、メガネにヒビが入った幼馴染の無事を確かめるように尋ねる。
「グリフィス!!貴方の方が重症じゃないの!!ああ・・血が出で・・・」
咄嗟にポケットから取り出したハンカチでグリフィスの額の血を拭う。
純白だったハンカチは一瞬で真っ赤に染まり。嫌でも出血の多さを思い知らされる。
「・・・・・大丈夫だ。おそらくどこかにぶつけて額を切っただけだ。ありがとう。それより、ルキノは・・・・」
砂嵐だらけになった画面に、オペレータールームの映像を映し出す。そこには痛みで顔を顰めながらも、必死に被害状況を
検索するルキノの姿が映し出されていた。
「ルキノ・・・無事か・・・・・」
「あっ・・・はい、お二人は・・・・・」
グリフィスの声で初めて通信がつながっていた事に気付いたルキノは、痛みで顔を顰めながらも二人の安否を気遣う。
「お互い、打ち身と軽い怪我です。まぁ、二人ともメガネは新調しないといけない様ですが。ルキノは」
「こちらも打ち身だけで済んだみたいです。でもアースラはそうもいかないみたいですね。左舷の装甲版がごっそり持っていかれてますし
フィールド発生装置も故障。正直、飛行が出来ているのが不思議なくらいです」
その直後、はやてからの通信が入ったため、グリフィスは現状を報告、皆が無事な事に心から何度したはやては戦線から離脱するように指示を出そうとしたその時
「・・ゆ・・・ゆりかごから・・・・・第二波・・・・・来ます!!!!」
ルキノの叫び声とも取れる報告が通信端末を開いている皆の耳に木霊した。

 

その報告を聞いた直後、リインフォースは上昇し、主砲の軸戦場に入る。
「(・・・・・砲撃で相殺・・・だめだ・・・・間に合わない。なら・・・防ぐ!!!!)」
リインフォースは目の前に何重にもバリアを展開。主砲の衝撃に備える。その直後、
アースラヘ向かって、第二波が放たれた。迫り来るエネルギーの塊をリインフォースは歯を食いしばって防ぐ。
展開していたバリアは一枚、また一枚と割れていき、リインフォースの表情も激痛に耐えるような苦い表情になる。
だが、その努力も合ってか、主砲のエネルギーを無効化することに成功した。
「リインフォース!!!」
急ぎリンフォースの元へ向かうはやて。そこで見た彼女の姿は酷い物であった。バリアジャケットは所々裂け、スレイプニールもボロボロ。
特にバリアを張っていた右腕は所々が裂け、流れ出る血で真っ赤に染まっていた。
その姿に、はやては取り乱しそうになるが必死に堪える。そして近くの武装局員に連絡をし、リインフォースを
シャマルの所に運んでもらうように念話を送ろうとしたその時、
「そ・・・そんな・・・・・第三波・・・・・・・逃げてください!!!!」
通信端末越しから、ルキノの叫びが木霊した。

 

「これは・・・・・あかんな・・・・・・・」
目の前で主砲の発射態勢に入るゆりかごを見据えたはやては、一度溜息をついた後、ゆっくりとシュベルトクロイツを構える。
「主!!なにを!!」
リンフォースは、はやてが行おうとする事を即座に理解した。おそらく・・いや、確実に自分の時と同じ様に防ぐ気だと。
だが、はやては防御に関しては正直並レベル。自分やなのは、カナードやザフィーラのような強固な防御魔法を持ってはいない。
それは彼女も分かっている筈、それでも防ごうというのは正に自殺行為に等しい。
リインフォースは止めようとはやてに近づこうとするが、その直後、体をバインドが拘束し、動きを封じられてしまった。
「・・・・・・堪忍な・・・・・リインフォース、今、近くの武装局員に連絡しといたから、シャマルの所までつれていってもらってな」
「主!!やめてください!!!!主!!!!」
必死にもがきながらやめる様に叫ぶが、はやては一度微笑んだ後、顔をリインフォースからゆりかごへと向ける。
「シャーリー、アースラは破棄。脱出急いで」
「やめてください!!八神部隊長!!!はやてさん!!!!」
モニター越しで涙を流しながら叫ぶシャーリーに、
「ごめんな」
はやては優しく微笑みながら、謝罪をした後、通信を切る。
「・・・・・ごめんな・・・でも、助けられるかもしれないのに、何もしないでじっとしているなんて出来んのよ。
これは私の我侭・・・・・だがら、駄々をこねた以上、守ってみせる!!!」
主砲のエネルギーが徐々に大きくなるあと数秒もすれば発射されるだろう。おそらく防ぎきったとしても、自分は無事ではすまないだろう。
だが、皆は生きることは出来る。守護騎士達も、長年同じ主に仕えていたからだろうか、様々な変化が起きた。
その中で、自分が死んでも、彼女達が消える事は無いことが事前に分かっただけで、救われた気持ちになる。

 

「・・・あかんな・・・私、もう死ぬ気でいる・・・・・全くドライな性格になったもんや・・・・・・せやけど、死ぬなら最後に会いたかったな・・・・」

 

                            10年前突然現われた人

 

                          自分を寂しさから救ってくれた

 

                           仲間を、家族を救ってくれた

 

「そういえば、一回もデートした事無かったな・・・・・まったく、こっちはいつでも準備OKやったのに・・・・」
呟きながら、リインフォースの時のように多重にバリアを展開、衝撃に備える

 

その時、はやてはふと気が付いた、自分が泣いている事に
「あれ・・・・・・・・なんで・・・・涙が・・・でるんやろ・・・・・・怖くなんか・・・・・ないのに・・・・・・」
いや、怖かった。死ぬ事への恐怖もあるが、それ以上に皆に家族に、彼に会えないことに。だから呟いた。彼の名を

 

                       「カナード」

 

主砲が発射され、軸戦場のはやてに迫る。そして

 

                「アルミューレ・リュミエール展開!!」

 

直撃を示す爆発が辺りに鳴り響く。
「・・・・・そん・・・・・・・・な・・・・・・・」
その光景を見たシャーリーは力なく崩れ落ちる。
「っ・・ちくしょう!!!!!」
普段の口調からは想像ができない悪態をついたグリフィスは力任せにコンソールを叩きつける。
直撃した瞬間に爆発。おそらく第三派はこちらではなく完全に八神部隊長を狙った攻撃。
おそらく・・・八神隊長は・・・・もう・・・・・ 
一筋の望みに賭け、モニターを確認するグリフィス。そこには二つの魔力反応があった。
「これは・・・八神部隊長・・・・・・それに・・・これは・・・・・・まさか・・・・・・」

 

「・・・・・・あれ・・・・・・・」
衝撃に耐えるために、目を瞑りながら防御態勢を取っていたはやて。だが、爆発音はあった物の、自分に襲い掛かる主砲のエネルギーは全くやってこなかった。
「・・・・・もしかして・・・即死した・・・・・・?」
とにかく状況を確認するためにゆっくりと目を開ける。
「・・・・・あ・・・・・」
先ず目に入ったのは人の背中だった。体つきからして男、髪はロッサほどではないが長く、背中には大砲のような物を二本背負っていた。
いや、彼女には直に分かった、目の前の人物がだれなのか。
「行った筈だぞ」
目の前で背を向けている人物はゆっくりと話し出す。はやては確信を持った『彼』だと
「『どうしても、自分の命を削ってでも、他人の幸せを守ろうというのなら・・・・その考えを捨てきれないのなら・・・俺の命も使え』と」
「せやな・・・・・・・でも・・・・・お寝坊さんには・・・・・いわれたく・・・ないな・・・・・」
はやては声を詰まらせながら反発する。
男・・・いや、少年は一度小さく笑った後、疾風の方を向き
「悪かったな。だが、死ぬ事はなかったろ」
少年『カナード・パルス』は微笑みながら答えた。