宿命_第11.5話

Last-modified: 2007-12-18 (火) 18:51:57

「と、言うわけで、お前に足らないのは力だ」
などと突然言われても、当然気持ちは戸惑いの一点張りなわけで、さらにはシグナムにも無言の圧力をかけられていては、容易に言葉も発せられない。
なぜこんな状況になったのか?
そんな事は、いつだってちょっとしたことなのだ。

「訓練?
 お前らそんな事してたのか?」
本当になにか理由があったわけではないが、ヴィータにシンがシグナムと訓練している事が知られてしまう。
いや、別段隠していたわけでもなければ、知られてはならない事でもないのだが、ついぞ気後れもしてしまう。
本当に隠すつもりがあったわけでもないので、シンはうなずく。
「あたしも参加する!!」
「なんだ、暴れたりないのか?」
意図も読めずにシンは適当に言い当てようとするが、
「そんなんじゃねぇ!!」
噛み付かれた。
いや、本当に暴れたりないんじゃないのだろうか?

で、略式ながら今に至る。
本当はその後にはやての料理を食べたり、食器の片づけを手伝ったり、平和な家事をしていたわけだ。
そして、いつもどおりシグナムに腹ごなしがてら稽古をつけてもらおうとしていたのだ。
なのに、今日の珍客はその最中にあんな事を言い出した、のが、本当に今の今まで起きていた光景。
いや、第一者なんだけども……。

「力が足りないって言っても、俺はそれだけじゃ駄目な気がするんだ」
シンはヴィータに反論する。
と言うか、駄目だろう。
MSの差が戦力の決定的云々にはならないとはコズミックイラでも度々言われてきた事だ。
性能を持つのが兵器ならば、それを如何な方向に引き出すかが戦う人に求められる技量で、それこそが戦いを決めるものなのだ。
それだけでなくとも、力以上に大切なものは五万とある。
「なら、見せてみろ」
適当に流そうとしていたのにヴィータがデバイスを起動するものだから、シンは思わず「は?」と言ってしまう。
本当に行動に脈絡というものがない。 それ以前に、意味が分からない。
シグナムを一瞥すると、相手してやれ、とでもいいたげな目だ。
「仕方ないな、フォース!!」
ため息混じりにデバイスを起動する。
そういえば、シグナム以外のヴォルケンリッターとの戦いは初めてかもしれない。
いや、ヴィータとは生活的に戦争状態な気もするが。
「行くぞ、アイゼン!!」
ヴィータのデバイス自体は見たことがあった。
長い棒の先に円柱状のものがついた武器で・・・て、あれ?
「Gigantform」
どうも、シンは自分の目を疑った。
「・・・デカ過ぎないか?」
シグナムのため息がギリギリで聞こえてきたが、それ以降は何も覚えていない。
さすがに、気絶した。

「今回はお前が悪いな」
砂漠には珍しい、風化しきっていない岩の陰で目を覚ます。
確かに、嘗めすぎていたかもしれない。
「力以前に、お前は前もって手に入れていた情報で相手を判断した。
 力以前の敗北だ」
「シグナム、あたしに文句があるのか?」
「別に、そんな事はないぞ。
 ただ、力だけで勝負が決まるわけではないのも事実だ」
「力がありゃ簡単に防壁だって吹っ飛ばせるだろ!1」
「無駄に魔力を消費して、か?
 ただでさえないカートリッジまで消費しおって……。」
「それは悪かったよ。 けどさ・・・」
「お前のやり方に文句はつけない」
どうにもこの二人は互いに交じり合えない以上、尊重しあっているようだ。
本当に強いのがどちらかは分からないが。
「しかし、シン。
 あれではもう一度きたら避けれるんじゃないか?」
「まぁ、多分」
シグナムが突然振ってきた質問には曖昧に答える。
しかし、実際避けれる自身もシンにはあった。
「そう・・・なのか?」
ヴィータも聞きつけ、残念がる。
「まぁ、避けれないのもあるんだろ?
 ラケーテンフォルム、だっけ?」
ヴィータのデバイスの中では推進力に特化したものだ。
それに、ハンマーフォルムで使える技の中にも命中率の高いものはある。
が、「はやてを守るんだ、そんなんで満足してられねぇ!!」ヴィータも一度決めれば頑固である。

「で、お前は結局どうする?
 力に負けたが、技を鍛えるか?」
暫くして、シグナムが問う。
正直なところ、シンにはどちらを選ぶべきかは分からない。
むしろ、「両方?」が、シンにとっては常道だった。
「そのインパルスの能力はどっちつかずだしな」
ヴィータも戻ってくる。
先ほど獅子がどうとか言っていたが、敢えてシンはそちらには触れない。
「そういえばこれ、能力を変えれると思うんだけど」
言って、フォースのメモリースティックを排出する。
「別のそれはないのか?」
シグナムはメモリースティックという言葉を知らないのか、指を指して聞いてくる。
「市販のものと同じだと思うけど、こういう能力持ってるのは少ないと思う。
 そう簡単に見つからないだろうな」
「市販か……。
 ちょっと買って来たらどうだ?」
「なんでだよ?」
「これに入れたらなんか変化が起こるかも知れねぇだろ?」

と言う事で、買ってきたのはメモリースティックの安い奴を二枚と一枚。
なんとなく予備も買っておいた。
「で、どうだ?」
ヴィータと、一応シグナムに一枚ずつ渡してみる。
「ふむ、これを入れて剣をイメージしたらどうだ?
 そのデバイス本体の能力が仮想の具現化かもしれんしな」
よく分からなかったが、入れて二本の剣を想像してみる。
すると、本当に左右の手に剣が現れた。
「貸してみろ」
シグナムが右手のほうをとる。
「物は良い。が、あまり大きな魔力には耐えられないだろうな、気をつけろ」
投げて返された。
確かに、どうも普通のデバイスの武器とは勝手が違うようだ。
「次、でっかい大砲な!!」
ヴィータが面白そうに奪うようにとっていったメモリースティックを返して言う。
しかし、『でっかい』『大』砲、とは如何程なものだろうか?
適当にイメージしてみると、やはり大きすぎるのを掴んでいるところはイメージできず、緑の二門の砲が出てきた。
「って、シグナムが剣は分かるけど、何で大砲なんだ?」
それをまじまじと見ているヴィータに聞いてみる。
「なんとなくだよ、なんとなく」
が、どうやらはぐらかされた様だ。
(あいつの武器だから、なんて言えるかよ……。)
が、ヴィータの内心だったりするのだが。

「で、どうする?
 気分も落ち着いてきたか?」
「落ち着いてないかも知れない人間をパシらせてたのか?」
「大丈夫のようだな。 折角だからもう一度ヴィータとやってみるといい」
何が折角かは分からないが、シンの非難は取り合ってもらえないようなので、立ち上がる。
「お、やんのか?」
やはり暴れたりなかったのだろう、随分と元気だ。
「まぁ、そういうつもりで来てるんだしな。 フォース!!」
「む、変えないのか?」
シグナムが横から突っ込むが、慣れているもので、先ほどの礼をしてやろうと考えていた。
「いくぞ、アイゼン!!」
「Jawohl. Hammerform」
今回はヴィータも通常通りの戦法をとるのか、シンと同じく慣れ親しんだ形態だ。
「Schwalbefliegen.」
ヴィータは鉄球を出し、それを叩いてシンに向かわせる。
先ずはそれを避ける事に専念する事にし、シンはヴァジュラの剣を一本、右手に持ったまま飛行を続けた。
因みに、何時もと違いヴィータは上空での戦いを好むため、今回は足場はそれほど関係ない。
「やるな、シン!!」
全て避け、と思ったらターンしてきた球鉄も避け、ヴィータはご満悦だ。
この程度は出来てしかるべきなのだろうか?
「アイゼン!!」
「Raketenform.」
ヴィータはグラーフアイゼンを次形態に移行した。
(さっき言った加速の奴、だな。
 ルートを見極めて、避けるか……。)
戦ってて分かった事だが、ヴィータの攻撃はどれもこちらからは反撃に転じにくい特徴があった。
シュワルベフリーゲンもラケーテンフォルムの特攻も、前者は追い掛け回され、後者は始まってしまえば避けることに転じえなくなる。
そして、ラケーテンフォルムにした位置が、また絶妙で、発動前の隙をつくにはどうにも間に合いそうもない。
この辺りがヴィータの培ってきた経験則なのだろう、小さくても効果は大きい。
そして、ヴィータは回転をしながら加速、先ほど避けまわって下が狭まって来た為、シンは上昇し避ける事にした。
しかし、それこそがヴィータの狙いだったのだ。
ヴィータが斜めに落下気味に進んだ為、砂埃が巻きあがり、シンもそれに巻き込まれた。
その瞬間に光るものを見つけていなかったらやばかっただろうと、シンは思う。
何とか鉄球をヴァジュラで刺し、抑える。
ヴィータも四つ目の手は打ってなかった様で、砂埃がなくなるまでは硬直状態となる。
「本当にやるな、シン!!」
やはり嬉しそうなヴィータ。
「今度はこっちからだ!!」
シンもどこか楽しそうに、右手に剣を持って急降下する。
「Hammerform」
ヴィータも衝突を覚悟し、槌を元に戻し、構える。
そして、剣と槌が音を立てて衝突する。
シンが上から押さえつける形になっているのに、まるでびくともしない。
「でもっ!!」
左手に、シンはもう一本の剣を出し、右の剣は巧く槌を流す形でシンは地面に近づく。
そして、地面に足をつけた瞬間に、右手の剣で押さえたまま左手の剣をヴィータの顔に近づけた。
「ここまで、だな」
シグナムの声がかかり、シンとヴィータは力を緩める。
「今回は俺の勝ち、だな」
「ちっ、言ってろ!1」
言葉は不機嫌そうだが、別に本気で切れているわけでもなさそうだ。
「手の内はこれで見せつくしたようだから、次に期待だな」
「それもそうだな。 よっし。 シン、次でラストだ!!」
シグナムの言葉を借り、再戦の約束をつけるヴィータ。
恐らく自分が勝ったらラストにならないだろうな、などと思いつつも、まぁ、それでいいか、という感じだった。