小話 ◆9NrLsQ6LEU 氏_Restored to Life_第01話

Last-modified: 2010-06-14 (月) 00:57:22

メサイア戦役と呼ばれる戦いが終結した後、プラント議長に就任したラクス・クラインと
オーブ首長国連邦代表に返り咲いたカガリ・ユラ・アスハにより両国の同盟が正式に発表された。
これを受けてメサイア戦役にて全艦艇の大半を失い、自国領でのロゴス動乱によって
国力の低下が懸念されていた大西洋連合は両国に対して今次大戦の停戦を提案。
提案を受けたプラント、オーブ両国も連合同様に疲弊していた為に三国間にて停戦条約が締結され、
世界は一応の平和を取り戻す事に成功、この停戦を受けて世界は緩やかに復興への道を歩み始めた。
しかしザフト内のラクス政権に不満を持つ旧体制派は地下へと潜りプラント、連合の双方に対しての
散発的なテロ活動に身を投じ、市民レベルではロゴス動乱において多大な被害を受けた富裕層の失墜から
世界的経済危機の様相を見せ始める。

 

この経済危機に端を発した恐慌が2度の大戦による戦後復興に影を落とす。
復興に必要な資金の不足伴う安定した職業供給が滞ることで働き場所を失った労働者は
当然のように鬱屈を抱え込む。
富裕層に対する鬱憤は規模を変えながら持つ者と持たざる者の階級闘争へと姿を変えて継続され、
さらに終結したはずの民族紛争へとその規模を拡大した。
そこへ急な停戦による軍縮で職にあぶれた軍人や傭兵、また各勢力にMSの斡旋を行なっていた
ジャンク屋組合が介入、世界各地で散発的なテロ及び小規模紛争が横行、
各国政府は事態の収拾に頭を悩ませる事になる。
大規模な戦争に至ってはいないものの世界は火種が溢れる火薬庫のような状態へと推移した。

 

この情勢を受けて国際緊急事態管理機構は非常事態宣言を発令、
所属する各国家から抽出した戦力を統合し独自の治安維持部隊《A-Laws》を結成、
事態の収拾に当たらせる。

 

そして3年の月日が経った。

 
 

独立治安維持部隊《A-Laws》所属の戦艦、アークエンジェル級7番艦ソロネは
シンガポール沖に出没していた海賊を討伐するように命令を受けて航行中であった。
東シナ海に侵入し二日が経ったころ、近海を航海中の輸送船団からの救助依頼がソロネの艦橋に入電、
これを受けてソロネ艦長サザーランドJrは即座に救助活動を発令し艦橋は慌しく動き出した。

 

「Condition Red発令、ブリッジ遮蔽、艦橋は戦闘位置へ移動、全艦戦闘体制へ移行せよ!」
「了解、Controlから各Sectionへ、Condition Red発令、総員第一戦闘配備、繰り返す……」

 

艦内スピーカーから聞こえてくる綺麗な声は艦内の人気投票では常に上位に入るクールビューティー、
アビー・ウィンザーのものだが今はその声に聞きほれる余裕も無い。
コンディションレッド発令を受けた各部署は慌しく戦闘準備を開始する。
このような事態は最早慣れっこなのか喧騒と怒号が入り混じりながらもスムーズに艦内は
戦闘態勢へと移ってゆく。
ソロネのパイロット控え室も例外ではない。
丁度訓練が終わってのんびりと近頃お気に入りのミハシラフーズの缶コーヒー、
バニシング・レッドを飲んでいた黒髪の男が即座に動き出す。

 

「ようやくお出ましか!」

 

男は一声吼えると手に持ったコーヒーを一気に咽に流し込み、
空になったスチール缶を軽々と握りつぶしてダストボックスに叩き込むと
獲物を追う獣のような獰猛な笑みを浮かべて駆けだした。

 

同時刻、同艦内のシャワールームに背中まで伸ばした赤い髪の女性が鼻歌を歌いながら汗を流していた。
女性としての均整と美しさと戦士として鍛えられしなやかなカモシカを思わせる筋肉とを同居させた
戦乙女の如き美しい裸身である。
いい気分で疲れを流しているとエマージェンシーが鳴り響く。

 

「ったく、いい気分だったのに」

 

女性は一つ嘆息を吐くとタオル引っ掴んで体を覆うと、ロッカールームへと飛び込んでいった。

 

そしてもう一人金の髪をなびかせた端正な顔の男が先程まで行なっていたシミュレーションの結果と
機体調整表を検討しながら整備スタッフと話してところにエマージェンシーが鳴り響く。
コールに即座に反応した男は書類を押し付けると着ていたままのパイロットスーツのジッパーを上げて
機体に乗り込んで発進準備を整える。

 

「やれやれ、先に一息吐いて置くべきだったな」

 

嘆息しつつもその瞳は真っ直ぐに前を見据えていた、
そこへ黒髪の男と赤毛の女の顔がモニター越しに映し出される。

 

「お待たせ!」
「悪い、待たせた!」
「いや、丁度良いようだ」

 

三人のパイロットが視線を交わした時、コクピットのスクリーンにアビーの顔が映りこむ。

 

「ControlからHound小隊」
「こちらHound1」
「小隊は直ちに発艦、当該区域に到着後事態の収拾にあたれ以上、頑張って下さい」
「Hound1了解、Hound1からHound2、Hound3へ聞いたとおりだ。さっさと行って片付けるとしよう」
「Hound2了解!」
「Hound3OKよ!」

 

コントロールからの指示を受けて鋼鉄の巨人たるMSが動き出す、
A-Lawsが誇る最新鋭MS、GN-X105-ストライクmkⅡ、通称アサルトストライクである。
MSは力の象徴でもある、トリコロールカラーに塗られたA-ストライクの機体の
力強い線を描く鋭角なラインは見るものに畏怖の念すら抱かせるだろう。

 

A-ストライクは5年前に建造され量産型MSダガーシリーズの基本となった
連合初のMSストライクの設計思想を受け継いだ再設計機である。
そのストライクの最大の特徴であった武装換装システムは並みの兵士に扱いきれる物では無かったが
機体性能を最大限に引き出せるトップガンが揃っているA-Lawsにおいては
作戦行動範囲を選ばない換装システムが受け入れられた。
発進を待つこの3機も当然のように其々装備が異なっている。

 

「Hound1、ドラグーンアサルト発進する!」
右手にビームライフル、左手にはABC盾を構え、
背中のエールストライカーに4つのドラグーンを設置した機体が空へと飛び立つ。

 

「Hound3、バスターアサルト出るわよ!」
エールストライカーは変わらないが右肩に巨大な砲門着けて
盾に2連装ガトリングを装備した機体が後に続く。

 

「Hound2、ウイングアサルト行きます!」
最後に飛び立った機体はエールストライカーの代わりにVL(ヴォワチュールミュミエール)推進の
ウイングストライカーを装着し、両手には十手のような形のビームライフルを持っている。

 

ハウンド3を頂点にしてハウンド1が右、ハウンド2が左側に付いて陣形を△アロー形態に取ると
アフターバーナーの光跡を残してかっとんで行く。
そこへソロネから通信が入った。

 

「ControlからHound小隊、情報では現在位置から南に150kmの地点で
 東シナ海を北上中の貨物船団が所属不明のMSに襲撃を受けているそうです」
「Hound1からControl、敵の数と機種は判るか?」
「数は5機、機種はM1と思われますが詳細は不明」
「M1かよ、此処のところジンと同じくらいに出てくるな!」
「オーブが戦費の赤字補填で結構な数を吐き出したからな、その内の何機かが流れているのだろう」
「M1ね~装甲が紙だから楽だけど、腕のいい奴なら面倒かも」

 

現場に急行しながらも小隊の3人は軽口を叩きあう、
緊張を解す意味もあるがそれよりも自分たちの腕に自信があることが口調から伺える。

 

「無駄口はここまでだ、見えたぞ」

 

ハウンド1から促されるまでもなく残りの二人も既に気が付いている、
ハウンド3がヘルメットの奥で唇を軽く舐め、
右肩のバスターランチャーを展開させて構えると照準を覗き込む。
ズームアップした画面の中に船団の周囲を飛び回るMSの影が見える。

 

「確認したわ、M1が5いえ6…… 情報より1機多いわね」
「油断するな、見えているだけとは限らん」
「わかってる、行くぞ!」

 

ハウンド2が一声吼えるとウイングアサルトを突っ込ませる、
その後ろにハウンド1のドラグーンアサルトが続く。

 
 

「こちらは独立治安維持部隊A-Laws所属のHound隊である、
 所属不明機は直ちに武装解除し此方の指示に従え、従わない場合は撃墜する」

 

ハウンド1からの呼びかけに対してM1部隊は迎撃行動に出た。
敵機は此方に向かってくるとビームライフルを乱射する。

 

「やはり無駄か、Hound1から各機、All Weapon Free.Open Combat.」
「Hound2了解!」
「Hound3了解、Banded in range FOX One! 良い子だから大人しくしてなさいよ~」

 

ハウンド3が操るバスターアサルトは滞空したまま構えたランチャーを撃つ。
エネルギーの奔流が空を切り裂いて進むと迫ってくる1機の胴体に命中して吹き飛ばした。

 

「あっちゃあ、当てちゃったか」

 

続けて放たれたビームは流石に回避されたが残った機体の体制を崩すことには成功する。」
そこへ突貫したウイングアサルトが斬りかかる。
両手に持った十手型ビームライフルの下部には切っ先から根元までビーム発信機が設置されており
展開すれば丁度日本刀のような形状の高出力ビームブレードが形成される。

 

「捕まえて後ろ盾を吐かせる、なるべく殺すなよ」
「わかってる! あとで回収してやるから寝てろっ!」

 

ハウンド1からの通信に怒鳴り返すと眼前にいるM1に迫り
両腕を肩から斬り落としてから海へと蹴り落とす。

 

「ふ、やるな」

 

それを見たハウンド1は口元を僅かに綻ばせると、背中のドラグーンを飛ばした。
アサルトから離れたドラグーンは解き放たれた猟犬のようにM1へと迫ると武装を次々と撃ちぬいてゆく。
ビームライフルを失ったM1がビームサーベルを抜いてかかってくるのをひらりと避けると
背中のフロートシステムを撃ち抜いて落とす。
味方が落とされたのを見て逃走に移る残りのM1が背中を見せたところに
ウイングアサルトがビームブレードを突き付ける。
十手の峰部分に設置されたビームマシンガンから断続的に放たれたビームが
狙い違わずに1機を撃ち抜き行動不能に陥らせた。
残りの2機のうち1機はバスターランチャーで両足を吹き飛ばされて落ち、
最後の1機もドラグーンの一斉射で爆散した。

 
 

「敵機の沈黙を確認、輸送艦の被害は?」
「見える限りでは無いみたいだけど、どうかな……」

 

ウイングアサルトが手近な輸送艦に降り立ってブリッジに接触回線を開く。

 

「こちら独立治安維持部隊A-Laws第3部隊ソロネ所属Hound2、そちらの被害は?」
「こちら輸送艦ダンディライオン、損害は軽微、積み荷も無事だ、助かったよ」
「災難でしたね、寄港地は台湾でしたっけ、そこまでは我々が護衛します」
「重ねてすまない、ありがとう」
「これも任務ですから、なにいっ?!

 

和やかな会話が交わされる中、ダインディライオンの横の海面が突如として盛り上がる。
水飛沫をあげながら海中より飛び出してきたのはザフト製水中用MSアッシュである。
飛び出したアッシュはウイングアサルトの胴を両手で挟み込むと海中へと引きずり込む。

 

「シン!」
「シン!」

 

引きずり込まれたウイングアサルトのパイロットの名を呼ぶ、残り二人の声が木霊する。
海中に引きずり込まれたハウンド2、シン・アスカは己の失策に舌打ちしていた。

 

「ちいっ、敵は見えてるだけじゃないって判ってたのに!」

 

舌打ちと同時にコクピット周りのVPS装甲の硬度を最高の赤まで引き上げる。
その瞬間コクピットに衝撃が走る。

 

「いい加減にしろおっ!」

 

ガクガクと揺さぶられる中で吼えると操縦桿を操って機体を強引にアッシュの呪縛から引き剥がし、
振り向くと同時にビームブレードをアッシュに突き刺した。

 

海面が盛り上がり爆発すると同時に一つの影が空中に躍り出る、
その影は輸送艦の甲板に着地すると空を睥睨する。
雄々しくそびえ立つ機体は両腕にビームブレードを下げた、ウイングアサルトであった。

 

「悪い、レイ、ルナ、心配掛けた」
「無事なのシン? 心配させないでよね」
「下に敵は残っているか?」
「いや1機だけだった、それも片づけたから終わりだ」

 

通信を送ってくる僚機から聞こえてくるレイ・ザ・バレルとルナマリア・ホークの声に
胴体にへばり付いたアッシュの腕を剥がしながら答えるシン。

 

「なら、これで全部片付いたな」
「ああ」
「ちょうどお迎えも来たみたいね」

 

ルナマリアが上を振り仰いでみれば威容を誇るソロネの船体が此方に向かって航行していた。

 

「ControlからHound1、状況知らせ」
「Hound1からControl、Mission Complete.Over」
「了解、ControlからHound小隊、全機帰投せよ、三人ともお疲れ様」

 

蒼穹の空に浮かぶ真白き船体は陽光を跳ね返して輝いている。
現在の家であり、家族ともいえる仲間の待つソロネへと帰還する3機のA‐ストライク。

 
 

この物語は戦う理由を失った男が、新たな道を探す物語である。

 
 
 

】【】 【補足