戦後シン×ミーア_PHASE05

Last-modified: 2008-04-27 (日) 18:33:52

今日も病室でシンはミーアとドラマを観ていた。
シンの中では駄作扱いのドラマでも、少しは展開が気になるので観るのを拒否せずミーアに付き合っているのだ。
ドラマの展開は進み、少女は少し大人になっていた。

 

男は戦場から戻った後、婚約者と結婚していた。

 

これまでの内容で婚約者が居るような描写は無かったというのに、此処に来て突然の結婚にシンは呆れてぽかんと口を開けたものだったが、
ミーアはこの展開を何も不思議に思っていなかった。

 

ただ少女が可哀想と泣くミーアを見てシンは、これもまたどう慰めたらよいものかと彼女を見ることしか出来なかった。

 

男は戦争で受けた傷の為眼帯をつけていた。
勿論プラントの技術ではかなり高性能な義眼をつける事は出来たが、男はそれを拒否したらしい。
多分見た目の問題なんだろうなとシンは思いつつ、ドラマの続きを観る。

 

少女は男の結婚をテレビで観て知った。
ZAFTの高官で家柄の良い男の相手はこれまた家柄の良い、少女と年の近い女性だった。
少女はその時に激しいショックを受けたが、それでも職を変え、頑張って生きていた。
(どうやら男への恋を忘れる為に職を変えたようだった)
男の事を忘れるかのように懸命に働き、そして一人の男性に想いを寄せられるようになっていた。

 

なんてうざったい展開なのだろうかとシンは思ったが、口には出さない。

 

そして男はというと、結婚はしたもののの、少女の事を心残りに思っているようだった。
エレカでの移動中に少女の姿を何とはなしに探す男の様子が描写されている。

 

不誠実な男の姿にシンは呆れるしかない。
シンには婚約者というものが居た事が無いが、結婚しても忘れられない人が居るなら結婚をしなければいいのにと思う。
こんなドラマの何処がいいのかとつくづく思うが、ミーアが必死になって観ているのでシンも適当に流し観る。

 

と、此処で男が少女を見つけた。

 

少女に言い寄る男と仲良くしている姿を偶然車内で見つけたのだ。
男には妻が居るというのに、少女が他の男と仲良くしている姿を見てショックを受けて
いた。

 

一瞬外に出ようかドアに手をかける。
感情に任せて僅かにドアを開く。
その瞬間、隙間から少女と男の笑い声が車内に届いた。

 

その幸せそうな声に男の手は止まり。

 

一時の間を置いて、ドアは再び閉じられた。

 

運転手に命じてエレカは走り出す。
男は振り向かなかった。

 

エンディングロールが流れ、いつもの曲が流れる。
感動を呼び起こすような演出をしたつもりなのだろうが、シンにしてみれば不快でしかなかった。

 

優柔不断な男。
未練がましくて、情けなくて。
人の上に立つ筈の人間なのに、戦場よりも自分の恋情を選ぶ。

 

恋愛ドラマだから許されることなのかもしれないが、それであればなにもZAFTの高官なんていう設定にしなければ良かったのにと思う。
正直明日も観る事になるのかと思うと・・・・ミーアには悪いが明日からは断ろうかと
考えてしまう。

 

そういえば、ミーアは・・・・。

 

シンが視線を向けると、ミーアは布団の中に潜り込んでいた。
途中からミーアの様子を見る事無くテレビを流し観ていた為、今回ミーアがどう思ったのか分からない。
しかし、「明日が楽しみ!」「早く明日にならないかな!」と叫ぶのが通例であるから、
今日のこの反応はシンにとっては意外に思えた。

 

「ミーア?寝るのか?」

 

ソファから立ち上がりベッドに近付くと、上掛けのシーツが震えていた。

 

まさか、泣いている・・・・?

 

この展開は流石に考えて居なかった。
今回の何処をどう観れば、何処で泣けるのかシンは必死に考えてみたが全く分からなかった。
同意をして彼女の反応を伺おうにも何と声を掛ければいいのかも分からない。

 

「ミーア・・・」

 

途方に暮れて漏れた言葉はなんとも情けない響きだった。
彼女の肩でも揺すった方がいいのか、それともそっとしておけばいいのかも分からない。
シンは肩を揺するべきかと手を伸ばし、しかし泣いている少女の慰め方として正しいのか分からず結局その手は止まり、僅かに引く。
それを何度か繰り返し。

 

枕が涙で濡れたら眠るのに気持ち悪くないだろうか。

 

と、思考が変な方向に走り始めた頃・・・・・。

 

ミーアは息苦しくなったのか、シーツから僅かに顔を覗かせた。
涙を拭ったのか、目元は真っ赤になって濡れた跡はあっても今流れている涙は無かった。

 

「シン・・・」
「・・・・な、何?」

 

「シンも・・・・・偉い人なんでしょう?」
「え・・・・?」

 

自分が偉いなんて思っても無かった。

 

しかし、確かに自分の立場はZAFTのトップエリート「FAITH」の一人だ。
シンは前回の戦争ではグラディス隊に所属し、FAITHになってからも所属が変わらなかったので偉くなったという気がしていなかったが。
今回のこの任も彼がFAITHだから得られた物。

 

確かに、自分はZAFTの中で人より「特別」だった。

 

今更自覚して、今まで観ていたテレビの、「男」と、「自分」の立場を考える。

 

シンに無いものは血筋などのしがらみ位のもので、ZAFTには階級が無いのでよくよく考えたら男と然程変わらない「力」を持っていた事に、たった今、気付く。

 

少なからず、ショックを受けた。

 

自覚があるようで、無かった自分にショックを受けた。

 

目の前にある任務をこなせばそれだけで自分はFAITHに相応しいと思っていたが、
「男」だって任務はこなしていた。
しかし、「男」にはプライベートで任務よりも大事な者が居て、揺れ動いて。

 

・・・・シンには、任務以外の大切な物が無かった事に、気付いた。

 

「シンだったら、どうする?」

 

ミーアがそう問い掛けた。

 

聞こえては居たが、返す言葉が見つからなかった。

 

呆然と、愕然と。

 

シンがミーアを見つめ返すと、ミーアはじっとシンの言葉を待っていたが、他の事に気を取られている事に気付いたのだろう。
いつまでも返らない返事に、ミーアは再び涙を滲ませ、枕に顔を埋めた。

 

「アスラン・・・・・・」

 

枕に押し付けた為くぐもった声だったが、彼女はそう呟いたようにシンには聴こえた。

 

ミーアにとってこのドラマの「男」はアスランだったのだろうか。
そして「少女」はミーア自身だったのだろうか。

 

分からなかったがシンにとってはそれは些細な事だった。

 

『シンだったら、どうする?』

 

ミーアの問い掛けが、シンには辛かった。