戦後シン×ミーア_PHASE15

Last-modified: 2008-04-27 (日) 18:41:58

ミーアが病室内で歩行練習をする事で増えた事がある。

 

それは。

 
 

「やだっ。そこ、くすぐったいっ」
「我慢してください」
「んっ。やっ・・・・!」

 
 

シンの護衛時間中の入浴である。
いつもはシンが帰った後に入浴の時間があったのだが、歩行練習でかなり汗をかくため、
入浴時間を早くしたのだ。
そして緊急時に何かあった時の為に、浴室の扉が開かれている。

 

当然、シンがよく使用しているソファから扉までは見ることが出来るが、その先が見え
る訳が無く。
ただ、漏れ聴こえるシャワーの音と、看護師に手伝われて体を洗うミーアの声が聴こえる。

 

勿論看護師は女性である為、楽しげな、そして華やいだ声なのでシンは何も心配はして
いないのだが、一瞬嬌声とも間違えそうなミーアの声が色々と心臓に悪い。

 

仕事をしながら不意に聴こえてきた声が日頃の彼女から発せられるとは思えないような
声だったときには、仕事の手が止まってしまう。

 

反射的に顔まで上がってしまい、扉の方向に目が行ってしまうのだが、勿論中が見える
訳ではないので直ぐに仕事に戻ろうと思うのだが、続けざまに「そこは駄目っ。自分で
洗うわ!」という悲鳴に近い声が聴こえると心配になってくる。

 

最初は本気でミーアが苦しんでいるのではないかと浴室の手前まで移動して看護師に
確認したものだ。

 

「ミーア、苦しんでないですか?」

 
 

と、大真面目に尋ねたシンに対して看護師は恥ずかしげに笑い、「大丈夫ですよ」と、
応えたが、「やっ。・・・んっ」と、切羽詰った声が聴こえてくると、実は浴室で痛い
目に合っているのではないかと思ってしまう。

 

そわそわとまるで出産中の妻を心配する夫のように浴室の扉の前をうろうろしていると、
ミーアはけろっとした顔で出てくる。

 

「・・・・・痛くなかった・・・のか?」
「?何が?気持ちよかったよ?お風呂」

 

あんな声・・・・出してて?
苦しそうだったのに?

 

さっぱり分からないと不思議に思っていると、後日その時のビデオを観たディアッカが
呆れたようにシンに一本のビデオを渡した。

 

「お前、アレ聴いて心配するのはナシだろ。観てる俺が恥ずかしい」
「はい?」

 

いつの話をしているのか分からなかったが、「絶対に自宅で観ろよ」という忠告に従って
ZAFTの寮でぼんやりと眺めていると、途中から雰囲気が変わり、突然裸の女性が
悲鳴を上げている映像に切り替わった時には大声を出してしまった。

 

「うわぁぁぁあぁぁあぁあぁあぁ!」

 

反射的にテレビの電源を切ってしまったが、それが何であるのか分からない訳ではなかった。

 

所謂大人向けのビデオだ。

 

年齢的には十分成人しているシンが観ても問題ではない。
最初は突然の時にテレビの電源を落としてしまったが、気にならない訳ではないので
結局は最後まで観た訳だが。
(その時自分しか部屋には居ないのに音量を落としていた辺り、小心者だなと思った)

 

そこで初めてディアッカがシンに呆れていた理由を知った。
と、同時に看護師が恥ずかしそうに言葉を濁していた理由も分かって恥ずかしくなる。
彼女はシンがZAFTのエリートである事を知っているのだ。

 

俺にそういう経験がない事ばれた。

 
 
 

少なからずショックだったが、あの時は本当に知らなかったのだから仕方ない。
そして知ってしまえばミーアが浴室で出している声もまた苦しい物ではなく、心配をし
なければならない物でもないのだと、気付く。
同時に、別の意味で心臓に悪いのだという事にも気付き、ミーアの入浴の時間はシンに
とって耐えねばならない試練のように感じられた。

 

熱くなる頬を押さえて懸命に堪えると、端末に流れる情報に集中しようと心がける。

 

こんな事に気を取られている場合じゃないのに。

 

プラントに入ってくるオーブの情報など限られている。
なるべく地球の情報を集めているが、目に入るのはシンにとって嫌悪の対象である
カガリ・ユラ・アスハの情報ばかりだ。
一度はそのカガリの護衛をしていたアスランだ。
今もまだ彼女の護衛としてこっそりSPの中に紛れているかもしれないという考えも
あってアスランの姿を探したが、見つける事は出来ず。
オーブ軍所属であれば、軍の式典関係の映像、写真を確認したが、そこにもアスランの
姿はない。
キラの姿もそこには無かったので、オーブはアスランとキラの事を公にするつもりが
無いのかもしれない。
戦争が終わって軍を離れているのかもしれない。
メイリンに尋ねればそこの辺りの情報が入ってくるだろうが、彼女に尋ねれば当然
アスランにも情報が渡ってしまうだろう。

 

メイリンがどうやってアスランと連絡を取っているのかというのも気になったが、
メイリンはあどけない笑顔を見せながら、その能力の高さはかなりのものだ。
上手く聴き出せたとしても、同じ事が出来るとは思えない。

 

それでも絶対、アスランの現在の情報を手に入れたい。

 

何か少しでも情報が手に入れば、そこから推測出来る事があるかもしれない。

 

「きゃぁっ・・・ぃあっ・・・!」

 
 
 

真剣に画面を睨みつけていたシンは、この声を聞いた瞬間、顔を覆って俯いた。
がっくりと肩を落とす。

 
 
 

集中出来る環境じゃない。

 
 
 
 

「ミーア!煩い!」

 
 
 
 

ミーアの声に惑わされている暇なんて無い。

 
 

怒鳴り声を上げてから余裕の無さにハッと気付いて僅かに立ち上がりかけると直ぐに
謝罪の声を上げる。

 
 

「ごめん!考え事してて・・・!」

 
 

ミーアからの返事は無く、シンは深く溜息を吐いて深くソファに腰掛けた。
天井を見上げて後悔の溜息を吐く。

 

ミーアが悪い訳ではないのに。

 

それもこれもアスランが悪いのだ。

 

シンはアスランが目の前に居るかのように天井を睨みつける。
暫くすると、看護師に呼ばれて端末を閉じて浴室に向かう。
体を拭いて乾かした髪を上に纏め、体には大きなタオルを一枚巻いたミーアを抱き
かかえてベッドに運ぶ。
この時間に入浴する前は女性二人で着替えさせてから車椅子でベッドに移動していた
らしいが、ミーアが少しの間立てるようになり、シンが居る今はベッドの上に着替えを
広げ、湯上りのミーアをそのままシンが運んでいる。
後はベッド周りのカーテンを閉めて看護師がミーアを着替えさせる。

 
 
 

この間までこの行為も少しの気恥ずかしさはあっても割と平気であったのに。

 

あんなビデオ観てしまうから。

 

・・・・・あいつ(ディアッカ)のせいだ。

 

ミーアは細くて折れそうで。
柔らかくていい香りがして。
湯上りの温かいミーアの体の感触を忘れるのに時間が掛かってしまう。

 
 

カーテンが開けられ、すっかり着替えて肩までシーツを被っているミーアに近付く。

 

「・・・・ごめん」
「・・・・大丈夫?」

 

最近シンが苛立っているようにミーアにも見えるらしい。
ミーアに心配をさせるようでは駄目だなとシンは苦笑して誤魔化す。

 

「だいじょうぶ」

 

ぎこちなくなってしまった返事に、これ以上ミーアを見つめていられなくて仕事に
戻るように見せてベッドを離れようとした時、手首にミーアの指先が触れた。

 

シンを引き止める指の動きに逆らえずにシンは振り返ると、ミーアが困惑に眉根を寄せ
てシンを見上げていた。

 

「ミー・・・」
「あたしの方こそごめんね。・・・・今じゃないけど、ちゃんと、言うから」

 
 

何をなんて、シンには分かりきっている。
返されていない告白への言葉。

 
 

まるでそれがシンの苛立ちの原因なのだと思い込んでいるミーアに、シンは何も言えな
かった。
否定してしまって、真の理由を尋ねられても困る。

 
 
 
 

「・・・・・・ありがとう」

 
 

愛しさも加わって苦しげな笑顔になってしまい、それを見たミーアも悲しげな表情を
見せた。

 

手首を引き寄せられる。

 

それがキスの合図だとシンにも気付いていた。

 

いつもであれば己からミーアに口付けるのを、今日は頬を差し出して彼女からのキスを
強請る。
触れた唇は、羽根のように軽く、そして遠慮がちで申し訳なさが含まれていた。

 
 

「運動してさっぱりしたら眠くなっただろ?俺も仕事あるから」
「うん」

 
 

口付けたい衝動を堪えて頭を撫でるとくすぐったそうな表情を見せられる。
後ろ髪が引かれる思いだったが、シンは目を閉じてその想いを隠すと、ソファに戻り、
端末を開いた。

 
 
 

ディアッカは信用ならない。
アスランも何を考えているのか分からない。

 
 
 

世論を待っては居られない。

 

今、ミーアを守れるのは自分しか居ないのだ。

 
 

「絶対に、守る。今度こそ・・・・・!」

 
 

守れなかった過去を忘れて。

 

今度だけは絶対に失敗する事は出来ない。

 
 

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