いつも通りな八神家の朝食。
ただ一つ違うこと、それは今日行われるデスサイズとデスティニーの模擬戦だ。
すでにデュオ以外の八神ファミリーはリビングについている。
「今日の模擬戦、デュオ勝てるかなぁ……」
「……機体の性能で言えば明らかにデスサイズが上だ」
はやてが言った独り言にヒイロが返す。
「でもデュオの奴お調子者だからなぁ」
「機体で勝っているからといって調子にのって油断することも……」
「…………」
ヴィータとシグナムもデュオの欠点を口にする。ヒイロもそれには同意で、返す言葉が見当たらなかった。
その時、口を開いたのはザフィーラだった。
「だがそれ以前に肝心のデュオがまだ起きてきてないんだが……」
「……ヴィータ、デュオ起こしてきたって」
「わかった」
はやての言葉にヴィータは席を立ち、二階へと走っていく。
「はぁ……こんなんでほんまに大丈夫かなぁ」
「…………。」
「マックスウェルを信じるしかないな……。」
はやては不安げに呟く。シグナムも返事を返す。
ヒイロもさっきから黙ってはいるがデュオだってあの革命戦争を生き残ったガンダムパイロットの一人だ。
ACでリリーナを救出するためデュオのシャトルに乗った時にも言ったがヒイロはデュオを信用している。
『おきろー!』
『うおっ!?』
そんな時、二階から声が響く。ヴィータの声とデュオの断末魔(?)の声だ。
「ヴィータ、今日はどんな起こし方したんやろう?」
とはやてが呟く。
……すると-
『ヴィータ、テメェ……何もグラーフアイゼンで起こすこたねぇだろ!!』
どうやらデュオはグラーフアイゼンで叩き起こされたらしい……
所変わってハラオウン家では。
「シン、この後アースラに行くんだよね?」
「ああ、模擬戦しなきゃならないらしいからな」
こちらも朝食を食べている最中だ。フェイトの問いにシンが答えた。
「そういえば相手のガンダムについてまだ何も聞いてないんだけど?」
ふと相手が気になったシンはクロノに質問する。
「……まず相手の名前はデュオ。機体はガンダムデスサイズヘル。接近戦が得意な機体だ」
「デスサイズヘル、か……なんか縁起悪い名前だな。他には?」
「あとは……カメラやセンサーを完全に無効化できる厄介なシステムを持ってるな」
「へぇ。ミラージュコロイドみたいなもんか……」
クロノから得た情報からミラージュコロイドと同じようなシステムだというのがわかる。
「ミラージュコロイド?」
「何なの?それは」
シンの言葉に疑問を感じたフェイトとリンディはミラージュコロイドについて質問する。
「ミラージュコロイドってのは簡単にいうと自分の機体の姿を消したりできるシステムなんだ。
一応デスティニーにも搭載されてるけど」
「じゃあデスティニーも姿を消したりできるの?」
「いや……デスティニーのミラージュコロイドはちょっと違う。機体の残像を作れるんだ」
「へぇ、デスティニーってそんなこともできるのねぇ」
簡単にだがシンに説明されたフェイトとリンディは納得した。
(デスサイズか……)
シンは心の中で呟いた。他人から見れば別に模擬戦とかどうでもいいような表情をしているが、
内心では負けたくないと思っている。
やはりシンは負けず嫌いだし、恐らく機体の性能では劣っているとわかっていても
自分の技量で補うつもりだった。
そうしてシンはまだ見ぬ相手-デュオとデスサイズ-にひそかに闘志を燃やすのだった。
数時間後、地球衛星軌道上。
デスサイズとデスティニーが互いに向き合い、模擬戦が始まろうとしている。
もちろんこの模擬戦の様子はアースラのブリッジに写し出され、データも取られる。
「よぅ。アンタがそのガンダムのパイロットか」
デスティニーに通信が入る。目の前のデスサイズからだ。
シンはデスサイズのパイロットの声に聞き覚えがある気がしたが、そんなはずはない。
シンもデュオに通信を入れる。
「ああ、シン・アスカだ。アンタは?」
「俺はデュオ・マックスウェル!通称死神デュオだ。よろしくな!」
あぁ、フェイトに似てるってこういうことか。
シンは思った。あのガンダムの外観からしてその通り名にも納得だ。
そこへ、クロノから通信が入る。
『二人共、準備はいいか?』
と聞かれデュオもシンも合図する。
『これはあくまでもデータを得るための模擬戦だ。二人共、必要以上の攻撃は避けるように。
では……始めてくれ!』
クロノが軽くルール説明し、バトルスタートを宣言する。
アースラで見守るのは八神家一同、フェイト達アースラメンバー、
さらになのはまでいる。フェイトはシンを、はやて達はデュオを応援する。
「いわゆるガンダムファイトだ!行くぜぇーッ!」
言うが早いかデスサイズがデスティニーの視界から消える。
「な……!いきなりかよ!」
シンは姿を消したデスサイズの攻撃を回避するため、赤い光の翼を羽ばたかせ高速でその場を離れる。
だが-
「後ろ……!」
デスサイズは突如デスティニーの背後に現れ、それを見ていたフェイトが叫ぶ。-声は届かないが-
「な……!?」
デスティニーの背後で翼を広げたデスサイズはビームサイズを振り下ろす。
「くっ……!」シンは急いで回避しようとするが、デスサイズの一撃を受けてしまう。
シンは攻撃を受けながらもデスサイズから距離を取り、ビームライフルを発射する。
だがデスティニーの放ったビームライフルはたやすくかわされ、離れた距離からバルカンを発射される。
「クソ…!こんな攻撃に……!」
シンもバルカンを回避する。
そしてミラージュコロイドを展開しながら左右のフラッシュエッジを左右別方向に投げる。
「どこ狙ってんだよ!」とデュオは飛んできたフラッシュエッジをビームサイズで叩き落とし
デスティニーに接近しようとする。が、
「ぐおッ!なんだぁ!?」
背後から飛んできたフラッシュエッジブーメランに直撃する
-といっても背部のアクティブクロークは通常よりも装甲が厚いためそれほどのダメージでは無いが-。
「へっ……ちったぁやるじゃねぇか!」
デュオはビームサイズを携えてデスティニーに急接近する。
対するシンもアロンダイトを構え、ビームサイズを切り払う。
だが、今度は斜め下方向からビームサイズが迫ってくる。
シンは飛び上がって回避する。
「くそ……なんでこんな……!」
シンは相手の予想外の強さに嘆きながらビームライフルを放つ。
だが今度は閉じたアクティブクロークに阻まれ、まるでダメージを与えられない。
「デュオの奴、普段はあんな間抜けなのに……」
「うん!なんか別人みたいやなぁ!」
普段デュオをからかっているヴィータも感嘆の表情だ。はやては嬉しそうだが。
「私、デュオ君と会ったこと無いんだけど、どんな人なの?」となのはが質問する。
「普段はなんか抜けとるねんなぁ」
「ああ。今とはまるで別人だ」
「……奴の実力は保障する。だがデュオ自体の性格は優れた兵士とは言えない」
はやて、シグナム、ヒイロが準になのはの問いに答える。
「そうなんだ……でもヒイロ君、友達なんだよね?」
「ああ……大切な仲間だ」
なのはに言われ、ヒイロが返す。
もしデュオが性格まで完璧な兵士だったならヒイロはここまで仲良くならなかっただろう。
モニターに写るデスサイズの姿を見ながらそんなことを考えるヒイロだった。
「ってかそろそろシン君、やばいんじゃない?」
モニターを見ていたエイミィが言う。
シンは性能差で圧倒的にデスサイズに押され、端から見ればまるで勝ち目の無い状態だった。
「そろそろフィニッシュだ!」
デスサイズは姿を消し、デスティニーの背後に現れビームサイズの一撃をお見舞いすると、
また姿を消し、別の場所に現れる。
それの繰り返しになす術の無いデスティニーは防戦一方だった。
「でもアレ、ちょっと卑怯だね」
「確かに。奴のスタイルは騎士道に反している」
「……デュオはそういう男だ」
モニターを見ているなのはがデスサイズの戦い方を苦笑しながら卑怯だと言い、
シグナムとヒイロも同意する。
「……シン……」
一方フェイトは悲しげな瞳でボロボロにされていくデスティニーを見る。
「……くそ……」
四方八方から飛んでくるビームの鎌を受けながらシンは呟く。
反撃しようにもほとんどが軽くあしらわれてしまう。
暗闇の中デスサイズの眼光と翼から放出される光が宇宙を照らす。まさに死神だ。
「くそ……こんなことで……」
シンが一人呟く……
「こんなことで……!」
目の前のデスサイズの姿がかつて戦ったフリーダムと重なる。
『パキィィィィィィン』
次の瞬間、シンの中で何かが弾ける音がした。
「うぉぉおおお!」
「うわっとぉ!?」
再び背後に現れたデスサイズ。だがその瞬間デスティニーの翼が赤い光を放出し、デスサイズを怯ませる。
そしてまるでどこぞの鳳凰拳使いのようにデスサイズの後ろに飛び上がり、
アロンダイトを横一線に振るう。
「ちっ!当たるかよぉ!」
デスサイズはデスティニーの下側へ回避するが、デュオはデスティニーの姿に仰天する。
回避したと思えば次の瞬間には左側に装備された高エネルギービーム砲がこちらをとらえている。
(あの剣と同時にビーム砲を出しやがったってのか……!?)
いきなり速度の跳ね上がったデスティニーにデュオは訳がわからずにてんやわんやだ。
急いでビームを回避しようとするが、間に合わずにデスサイズの右側アクティブクロークに直撃。
「よし!これで姿は消せない!」
フェイトが嬉々とした声を上げる。それにひきかえ八神家一同はポカーン……としている。
「ちょっ!デスティニーの出力が跳ね上がってるよ!?」
と、データを取っていたエイミィが叫ぶ。
「どういうことだ?」
「わかんないけど、デスティニーがシン君の心に応えてるのかも……!」
「そんな馬鹿な!……ゲッターじゃあるまいし……」
クロノが呟く。
まぁ少しでも魔力をもったデスティニーがシンの心に反応してもおかしくは無いのだが……
「クソッ!何なんだよこいつぁよぉ!」
デュオは突如として動きがシャープになったデスティニーに悪態をつく。
ハイパージャマーを失っても果敢にデスティニーに斬り掛かる。
SEEDを爆発させたシンでようやくデスサイズと同じくらいの機動性
-いや、少しデスティニーが上かもしれない-だ。
デスサイズはデスティニー相手にビームサイズを振る。今度はデスティニーの左肩に直撃した。
「よし!って……!?」
喜ぶのもつかの間。直撃したのでは無く直撃させたのだ。
ビームサイズの柄がデスティニーの右手にわしづかみにされている。
次の瞬間、デスティニーの右手から放出された光にビームサイズが破壊される。
「……な?!?」
これでデスサイズはハイパージャマーと武装の両方を失ってしまった。
デスティニーもかなりボロボロだがデスサイズも大概だ。
「……」
シンは光の無い瞳でニヤつく。バルカンを発射しながら距離をとるデスサイズに対し、
ミラージュコロイドを展開しながら追撃しようとする。
「ちっ……!これで終わりかよ!?」
デスサイズはデスティニーにレンジに入られる。デスティニーは光を放つ右手を振りかぶる。
その時だった-
「「……!?」」
デスティニーの体がバインドで拘束される。クロノが少し放れた場所のアースラで唱えた呪文だ。
『そこまでだ。この戦闘、シンの勝ちだ。』
クロノの言葉に瞳に輝きを取り戻すシン。デュオも戦闘モードから普段のデュオに戻る。
二人の機体はアースラに転送され、デュオとシンも機体から降りる。
「おまえ、すげぇじゃねぇか!」
「あ、ああ。アンタのガンダムもな」
実際に初めて顔を合わせるデュオとシン。
「(ってかこいつ……そんな私服でガンダム乗ってたのかよ)」というのがシンの第一印象である。
そこになのは達もやってくる。
「うっわぁ……あんたら派手に壊したなぁ」
大破した二機のガンダムを見てはやてが言う。
次にフェイトが
「やったね!シン!」
とシンに駆け寄る。シンも少し照れる。
次に「残念だったな」とシグナムがデュオに言う。
「とほほ……勝てると思ったのによぉ……」
「あんだけ卑怯な戦い方したのに負けてやんの~」
無念さMAXのデュオをヴィータが冷やかす。
「う、うるせぇ!俺は嘘はつかねぇが逃げ隠れはするんだよ!」
「あはは、何やそれ?」
負けたデュオが言っても全く説得力が無い。そんなデュオを見てはやても笑う。
「さて……このガンダム、どうするか……」
クロノが大破したガンダムを見てぼやく。幸い打ち抜かれたアクティブクローク、
破壊されたビームサイズ、叩き落とされたフラッシュエッジ、
切り落とされたデスティニーの左腕と、欠けたパーツはすべて回収することができた。
「本局へ送ってもガンダムの修理なんてできるかどうか……」
「まぁ、時間はかかってもちょっとずつ修復するしか無いわね」
リンディが言う。
ってか艦長が持ち場を離れて大丈夫なのだろうか……という疑問を感じたのはヒイロだけでいい。
いや、それよりヒイロが気になっているのはシンの突然の能力の飛躍についてだ。
それについてはヒイロのみならず皆疑問だろう……。
数十分後、アースラ会議室#br。
「え~とりあえずガンダム二機は時空管理局本部で修理してもらうことになりました」
リンディが発表する。シンもデュオも「とほほ……」といった顔だ。
「これからこのガンダム事件はヒイロ君の協力を得ながら
正式に私達アースラ局員が捜査することになりました」
リンディの発表にヒイロも「了解した。」と言う。はやて達も異論は無い。
「そのために、まずは何らかの鍵を握っていると思われる
アルトロンガンダムとそのパイロットを見つけなければならないのですが……」
「(アルトロンガンダム……)」
シンはまた訳のわからない相手に対し怒りを燃やす。
フェイトの話ではいきなり襲ってきたというのだ。
「(なんでそんなこと……!)」テーブルの下で拳をにぎりしめるシン。
「今回の事件に関わっていると思われるロストロギアが、
さっき無限書庫のユーノ君からの通信で判明しました」
ヒイロ達は「それは?」という顔でリンディを見る。
「過去何度か姿を表したロストロギアで、自己再生・自己増殖・自己進化の機能を兼ね備えた厄介な代物だ」
今度はクロノが説明する。
「恐らく最近頻発する時限震や傀儡兵の以上発生はこのロストロギアの影響だと思われます」
「しかもこのロストロギアは元の世界が既に滅んでいるせいで何のための物かもさっぱりわからない」
「そこで私達時空管理局は、このロストロギアに『ズフィルードクリスタル』とコードネームを付け、
本格的に捜査を開始したわけです」
リンディとクロノは交互に説明してゆく。
「デスサイズとデスティニーの修理が終わったらまた捜査に協力して欲しいんだけど……」
「俺はそれでいいですよ」
「あぁ、俺もシンと同じ意見だぜ」
シンとデュオはリンディに言う。デュオは既にシンを呼び捨てだ。
「あなたたちの協力に感謝します。では、今日はこれにて解散!」
リンディの掛け声に一同の空気が一気に和む。
まずはナタクを捕まえる。それが元の世界へ帰る近道だと、ヒイロ達はそう判断し意気込むのだった。
だがその一方では-
「はぁ……俺の相棒ともしばらくお別れか……」
「シンの戦い方……なんか最初の頃と変わってないような……」
落ち込むデュオと悩むフェイト。ここにテンション低めの二人の死神がいる。
デュオはそんなとこからなんとなくフェイトに親近感がわくのだった。
その頃、ここはどこかの時空の狭間。
「またあの世界でMSが暴れたようね……」
薄暗い部屋でプレシアが呟く。
「フン……今はそんな事はどうでもいい。それより貴様は何のためにロストロギアとやらを狙うのだ?」
もう一人、この部屋にいる男、五飛が質問する。
「そう言うあなたは何のために私に協力するの?」
「……あの傀儡兵を生み出す力、アレは間違い無く火種になる」
「意味が分からないわ」
「俺は行き場を失った全ての兵士のために戦っている。兵士は戦っている時こそ充実していられるのだ…!」
「……まぁ好きにするがいいわ。私の邪魔さえしなければね」
プレシア的には五飛が何を考えているのかわからない-というよりどうでもいい-ので適当に返事を返す。
「……俺の質問には答えないのか?」
「フフ……そうね。あなたとだいたい同じよ」
「ほぅ……それは面白い……」
五飛はプレシアが適当に返事を返していることにすぐに気付いたが、聞いた所で無駄だと判断した。
(フフフ……あのロストロギアさえあればアリシアは蘇るわ……)
暗い部屋で魔女は不敵に笑う。
(そうよ……DG細胞さえ手に入れれば、アリシアはきっと蘇る……!)
そうしてこの不気味な部屋にプレシアの不適な笑い声がこだまするのだった……
五飛はそんなプレシアを白い目で見て、
(気色悪いなぁ……)
と心の底から思うのであった。