日記の人 ◆WzasUq9C.g 03

Last-modified: 2016-03-22 (火) 01:22:12

イザークの日記
 
 
束の間の休息。俺は街に出た。

「店長、この置物はなんだ?」
「そいつは信楽焼といって、昔のオーブで作られた焼き物だ。」

俺が今いるのは骨董屋。見事な狸の焼き物に目を奪われた。今、俺は唯一の趣味である民族学に関する骨董品集めをしているわけだ。

「しかし大きすぎて持ち帰れないな。
店長、もう少し小さいやつはないのか?」
「信楽焼はそれしかないな。こっちの、同じくオーブ製の熊の彫刻はどうだ?」

店長が示したのは、木で出来た、鮭をくわえた熊の置物。

「こいつはいいな。これをいただこう」
「毎度あり!」

また新たな仲間が出来た。プラントの自宅には民族衣装や骨董品が溢れかえっている。ディアッカの奴は

「ダサい趣味だぜ」

と見下すが……
辺りは深淵な闇と人工の光に包まれていた。

そうだ、一杯ひっかけてから帰ろう。軍では酒も飲めない日々が続くから、たまにはいいだろう。
一人で呑むのも寂しいので、知り合いに連絡をとる。幸い一人だけ捕まった。
最寄りのBARに入り、マティーニを注文する。バーテンのシェイカーの音が規則正しく響く。

「ドライマティーニです」

バーテンがグラスを差し出してくる。それを煽る。

「マティーニなんて、女性の呑むものじゃないんですか?」

振り返ると私服のいで立ちのシホがいた。
捕まった一人とは彼女のことだ。

「そんなことはない」

一言だけ反論して、またグラスを煽る。

「旦那、彼女ですか?」

バーテンがはやしたてる。シホが少しだけ赤面した気がした。

「同僚だ。酒場での詮索は野慕ってものじゃないのか?」

反撃に出ると、バーテンは小さくなってしまった。

「昼間、何処にいってらしたんですか?」

戦利品を見せるとシホの顔付きが歪んだ。
将来、結婚するとしたら、この趣味が分かる女としようと切に思う。

「パイルドライバーを」

シホの注文に微笑する。

「な、なんですか?」
「いや、それこそ女の飲む酒だなと思ってな」

するとシホは膨れて、
「マスター、テキーラに変えて」

意地の注文に走った。さらに、

「こちらにも同じ物を」

と言って、俺にもテキーラを注文した。

「お、おい」
「飲み比べです」

それほどまでにさっきの発言が気に食わなかったのか、そんな挑戦をしてきた。

しかし引き下がるのも癪だ。

というわけで、今、シホをタクシーに乗せて、帰還中である。結局、シホは三杯目にグデングデンになった。
あまりむきにならないほうがいいという教訓が産まれた。
タクシーの運転手の視線が痛い。

「きぼぢわるいです」

酔いどれのシンデレラが呟く。

「もうお前とは飲み比べはしないからな」

と叱ると、少し落ち込んだようだった。

「次は普通に飲もう」

とフォローを入れると、安心したように眠りについた。

シホを部屋まで送り届ける途中、にわかに周りが騒がしいことに気が付いた。

「どうした?」

一人の兵士に尋ねると、青い顔をしながら答えた。

「オーブでクーデターです…旗印は…ラクス・クラインとキラ・ヤマトです!」

一瞬なんのことかわからなかった。また戦争の火種が産まれると思うと、酔いが醒めた。

〜つづく?〜