スティングの日記 4ページ目「憎悪」
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「スティング、面白い所へ連れて行ってやろう」
「遊園地かよ?」
「もっと笑える所さ」
クルーゼは皮肉混じりの表情でスティングを手引きする
見渡すとそこはブリッジ——クルーゼいわく、『エターナル』という戦艦らしい
そこにはアークエンジェルにいた男——キラ・ヤマトと、
ふざけているとしか思えない出立ちの桃色の女——恐らく俺が間借りしていた部屋の主だろう
しかし、今更こいつらに興味は無い
強いて言えば、フレイを置いてきて正解だったとくらいしか言えない
「どこが面白いんだ?」
「見たまえ」
指差す先には金髪の男——
「生きて……いたのか?」
ネオ・ロアノークがいた
「てっきり、死んだものかと思ったぜ……」
生前は特別な感情は抱かなかった。
それどころか『いい加減な男』とくらしか思っていなかったのにも関わらず、何故か涙が溢れた
「俺たちは……仲間……だったんだ……」
命を失ってから初めて気付く感情——取り戻せない無情さ
「もっと仲良くしとくんだったかな」
しかし、嘆いても仕方ない。それよりもただただファントムペインの一員が生きているという事実が嬉しかった
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しばらく状況を傍観していた
なんでも、月基地から『レクイエム』なる兵器が使用され、プラントが被害に遭ったらしい
そして、その混乱に乗じて乗っとりを仕掛けるという話題になった
「なんて連中だ……」
思わず怒りに身が震える
撃つ方も、撃つ方だが、それを利用するほうも利用するほうだ
「これが人なのさ」
ラウがシニカルに呟く
「そうだな……」
脱力感を覚える
その時——空気が変わった
ネオが撤退を具申したのだ
プラントの被害拡大とレクイエム放置の危険性を桃色女に説きはじめたのだ
「奴も無駄なことを……」
そう言い残してラウは去っていった
しかし、俺はその場に止まり続けた
話の行く末を見届けたかったからだ
ネオの必死の説得は続く。だが女は心を動かさず、あまつさえ、連合に身を寄せていた罪悪感ゆえの
具申ではないかと言い捨てたのだ
「ふざけるな!!」
俺は怒りに任せて叫んだ。これに激怒したのは俺だけではなかった
ネオも顔を強ばらせ、女に掴みかかかろうとする——鈍い打撃音——キラ・ヤマトの裏拳にたじろぐネオ
それに続いて、ネオに浴びせられる私刑。
「や、やめろぉぉぉ!!」
仲間がボロ切れのように扱われ、憤怒と情無さが交じった声が漏れた
ここはある意味ブルーコスモスよりも下卑た集団だったのだ
「なんでこんなとこに……あんたがいるんだ……」
涙が溢れる——それは哀しい涙だった
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気が付くと、俺は営倉で毛布を纏っているネオを見つめていた
——あれから、女の制止でネオは暴行から免れ、営倉に放り込まれていたのだ
思いにそぐわぬ提案だったとしても、嫌応なしの暴行を一時とはいえ黙認し、
自分の発言を棚上げしてのこの処分は、不当極まりない——
俺がネオに向けたのはおそらく憐憫の眼差しだったと思う
『死んでいればよかった』
突然にネオの口から漏れる自己否定の言葉
——反応せずにはいられない
「そんなこと……言うなよ……死んだら……終わりなんだぜ……
あんたは……不可能を可能にする男だろ……?なぁ……?答えろよ……答えろよぉぉぉ!!ネオぉぉぉ!!」
何度目の涙だろうか——もう数えるのも面倒だ
〜つづく〜
04ページの裏
「あれ……こんなところに水滴が……」
「拭いておいてくださいな」
「はい……」