日記の人 ◆WzasUq9C.g 16

Last-modified: 2016-03-22 (火) 01:48:30

スティング漂流日記 第02話「不良品」
 
 
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星の瞬きが暗闇を照らす——否、それは人工の光

「暇だ……暇だ、暇だ!」

何かアメノミハシラの蔵書を拝借すればよかったと、深く後悔する
手慰みにコンソールをいじるが、もうこれは幾度となく行った作業——武装の確認——
モニターに示されるのは、『ビームライフル』『ビームサーベル』

以上。

——原材料『コーヒー』以上——という触込みのCMが頭をよぎる

「不良品なわけだ……」

核の恩恵など微塵も感じないそのシンプルさに頭を抱えて、一つ伸びをする
——幽霊故にエコノミークラス症候群には無縁だが……

『そこの緑色のMS、止まれ!貴殿は我が軍の制圧宙域に接近している!』

突如として耳に入る警告に伸びを中断する
索敵を開始すると、前方にはMSが三機——ダガーLだ

「あー、こちら第81独立舞台、ファントムぺイン所属する、スティング・オークレ
通過を許可されたし」

恐らく戦死扱いになっているが、一時でもやりすごせれば十分と判断し、生前の所属を通信する

『……』
「……?」

——暫く流れる沈黙——

『警告に応じないとみなし、攻撃を開始する!』
「やべぇ!忘れてた!」

ミナとの会話に慣れすぎて、自分の状況をすっかり忘れるというマヌケさに気付く

「へっ……丁度退屈だったんだよぉぉ!」

強引に自らの失策をねじ伏せるように、戦闘ステータスを起動する
ダガーLから浴びせられる閃光を一つ二つと回避し、反撃の弾丸を撃ち放ったときだった

『戦闘ステータス起動確認
——『ドラッグ・コンピューター』起動——
動作良好』

——モニターに表示されるテキスト——

「なんだ!?うわぁぁぁぁぁ!!」

けたたましいバーニア音と共に、視界が一瞬にして別世界に切り変わる

「ちょ……待てぇぇ!!」

恐怖を騙しながら、左右のレバーを動かし、制動をかける

「はぁ、はぁ……絶叫マシーンかよ!これは!」

高速——いや、神速と言うべきか
俺を乗せたパンドラの箱は、眼前にいたダガーLが一瞬にして
はるか後方に遠ざかる程の位置まで移動していたのだ

『き、消えた!?』
『いや、あそこを見ろ!』
『あんなところまで……なんてスピードだ……』

敵の混乱が聞こえてくる

「はぁ、はぁ……不良品の……本当の訳が……わかったぜ……
こんなもんにナマモノが乗ったら……死んじまう……!」

つまり、この機体は機動力特化の極値を有するのだ
しかも、それを御する抜群の制動力も兼ね備えている
Gの影響を受けないこの身でさえ機動の恐怖を感じたのだ
もしパイロットが生物だったら、今頃、ヘドをぶちまけていただろう

「だが……種さえわかれば、たいしたこたぁねぇぇぇ!」

機体を翻し、敵に突っ込んで行く
敵はこちらに反応していないのか、微動だにしない

『うわぁぁぁぁぁ!』

パイロットたちの悲鳴が聞こえてくる
前後左右からの神速の射撃が機体を貫いたのだ
敵からすると、瞬間移動したとすら感じるだろう

「名付けて、
『SAA(シングルオールレンジアサルト)』
ってとこかな?」

その足で宙域を離脱する
少しは旅が楽になるだろうと、『不良品』の性能に感謝した

〜つづく〜

02ページの裏

「あれ……なんだったんでしょうね……?
命を奪おうと思えばできたはずなのに……」
「まるで……幽霊だ……」
「『緑青の怨霊』とでも名付けますか?」
「……そうだな、とりあえず上層部に報告しておこう」

〜つづく?〜