暇人A_第05話

Last-modified: 2007-11-19 (月) 14:08:56

「デバイスが出来上がりました、最終調整の為技術班に出向してください、か…」
約3時間前に来た電文のようで、3度同じ内容で入っている。
実は昨日、シンは部隊訓練が終わった後に別途、模擬戦をしていた。
内容はデバイス調整の為と言ったもので、試作の新型量産デバイスのテストも兼ねていた。
「そういう事やらせておいてこれだもんな…
無茶は無茶でも、こういう無茶はよして欲しいよ…」
身体的な無茶は嫌いではない。
むしろ好んで茨の道を進んできた。
だが、時間的な、慢性的な体の披露に繋がる身体の酷使は避けたかった。
「まぁ、文句ばかりは言ってられないか…」
シンは朝兼昼飯と言う実に健康によろしくない十秒チャージをして、技術班特別研究区へと出向した。

特別研究区はその名の通り特別で、めったに人は近づかない。
シンだって普通の研究部でデバイスを作ってくれるなら近づきたくはなかった。
が、最近は大人しくなったが本質的に日ごろの行いが悪いため、普通には気に入っては貰えない。
「いらっしゃーい」
着き、扉を開くと中から女性の声が聞こえてきた。
この特別研究班の班長の声だろう。
「これがあなた用のデバイスです。
少し調整のためにも起動してくれますか?」
「わかりました。
えっと、名前は?」
シンが女性に聞くと、後ろから足音が聞こえ、
「デスティニーだよ、シン君」
男性の声がした。
「あなたは?」
「ここの研究員のデュランダルだ。
その特機は自由に使ってくれたまえ」
「デュランダルさん、いつから研究員に?」
焦ったように女性が言った。
「今さっきだ。
だいたいデスティニーは私が作ったのだから、既に私も研究員みたいなものだろう」
特別研究区ともなると、ずいぶん可笑しな人間もいるようだ。
「ですがあなたは…」
が、女性はなにやら未だに焦っている。
「それ以上はいい。
客人が来ているのだろう?」
シンも彼が何者かを知りたかったが、デュランダルが故意か偶然か、彼女の言葉を遮った。
「いや、すまないね。
私もデバイスを1から作ったのは初めてだが、それ相応に力を込めてある」
初めての作品は力もこもるらしい。
それこそ、中堅がそこそこに作ったものよりは能力は高い事も、遺憾ながらあり得る。
そういう波がなくなってこそのベテランなのだ。
「どうだろう?
私としても君みたいな力と意志の強い少年にデスティニーを扱ってもらいたいのだが…」

その後、シンはデュランダルの言葉通りデスティニーを受領した。
多少の誤差修正は必要だったが、デスティニーは確かにシンにもしっくりくる、まさしく特機だった。
「ギンガ、デバイスの受領は終わった。
今から陸士108部隊に戻るよ」
「わかりました。
待ってますね」
一度ギンガに連絡を入れ、彼女達の元に戻る。
一応ゲンヤに承認を貰わなければデバイスを起動できないのだ。

シンは行きと同じく空港を通って帰る。
しかし、行きと違って意識が完全に覚醒しているため、嫌な記憶が蘇った。
その炎の記憶は、シンを蝕み、決して放さない。
かつてから続く、言わば呪縛のようなものだった。
「我ながら、弱い神経だな…」
思わずにはいられないトラウマ。
空港でも起こり、火災でも見たらそれはひとしおだ。
それでも、彼は軍に所属している。
それは別に市民を護りたいとかのためではない。
単に、復讐のためなのだ。
(そう、忘れてはいない。
俺が、復讐者であることだけは…)
あの日火災を引き起こした、ロストロギアを狙った人間たちを、彼は決して許してはいない。

今彼にあるものは、戦う場所のための軍隊と、戦う相手の情報を得るための地位だけなのだから…
(でも、俺は…)
ギンガと、あの日共に被災した少女と共にいる事に意味を見いだし始めている。
(ベテランには、なれないな…)
それは先ほどのデバイス作りの話なのだが、その精神は全てに、おそらくシンの胸の内にも通ずるものがあったのだろう。

陸士108部隊に到着後、デバイスの認証をしてもらい、ギンガと共に昼食に出掛けた。
ちなみに時刻は午後2時。
イレギュラーの無い日にしては遅すぎる。
シン自身、起きたのが8時で、その時に昼食と兼用の十秒チャージをしただけなので、昼食に誘われたのは嬉しかったが、
「ギンガは何でこんな時間に?仕事?」「それもあるけど、父が一人で食べてしまったから、待ってたんです」
「俺を?」
「はい。
迷惑…だった?」
目を潤ませ、ギンガはシンに聞いた。
「め、迷惑なんかじゃない…」
それだけでしどろもどろになるシンに、ギンガは微笑みを浮かべた。
「シン、本当に女性が苦手なのね」
「…誰に聞いた?」
「今日会った人がね、訓練時代のシンのパートナーだったんだって」
訓練校時代…シンは確かレイと組んでいた事を思い出した。
彼は全く協調性の無いシンをサポートしてくれた。
色々な部署を渡り歩いたシンだからこそ、レイの実力はよくわかる。
「あいつ、今は何を?」
「本局陸士特設隊の副隊長さんだって。
機動隊だから会うこともあると思うよ?」
特設隊…随分実力派の部隊にいるようだ。
「そっか…」
訓練校時代には迷惑をかけていたが、それならばシンとしても嬉しい限りだ。
「んじゃ、食べにいくか」
これ以上昔話されても恥ずかしいので、切り上げさせた。

「新規配属って、合計何人くらいいるんですか?」
その新規隊員の様子見に行く途中、キラがなのはに尋ねた。
「新設の部隊だからね。
フォワード陣に限っても4…キラくん達も含めて6人かな」
つまり、まだ顔を合わせていない人が4人か…
「そういえば、なのはさんはリミッターかけてるんですよね?」
「うん、八神部隊長ほどじゃないんだけどね…」
「そこまでして、何故新部隊を?」
キラとアスランは少々特別な人事異動であったため、保有制限や査察などの影響を受けない。
ただし、一部特権保有者はその特権を停止される事もあるのだが、現在、キラの唯一の特権は有ってもあまり意味のないものだったりする。
何にしても、新部隊は色々な規制が引かれるのだ。
「一番の理由は、対応力の大切さを考えてもらうためかな」
現在、管理局は多忙になりすぎた仕事に追われている。
そのせいで全くの迅速な対応は出来ずにいるのだ。
「犠牲者を一人でも減らしたかったからね…
その中で、新人の教導もできたらいいな、って」
どうやらなのはには機動六課に賭ける、思いと理由があるようだった。
「なら、僕も手伝います。
僕の力で…」
それは例え微力でも、彼なりの決意だった。

「で、俺たちはなにもやらなくていいのか?」
アスランはキラたちを見送ったあと、フェイトに尋ねた。
「新人の事?
それだったら、わたしはもう目星はついているから…」
それからフェイトは少しだけ悲しそうな顔をして、
「本当は、こんな事やらせたくないんだけど…」
アスランにデータを見せた。
そこに映るは2人の子供。
2人共後見人はハラオウン家になっている。
「自分たちから言いだしたのか?」
「うん。
だけど、まだわたしは良いのかな、って…」
「自分たちから言いだしたのならやらせてやるべきだろう」
「そうだよね…
でも…」
本当に心配なのだろう、妙に歯切れが悪い。
「大丈夫だ。
その二人は、俺が守ってみせるさ」
そんなフェイトが見てられなくて、アスランは決めた。
「いいの?」
「仮にもチームを組むんだ。
構わないさ」
そう、心配される程大切にされている人間が近くにいるのなら守ってやればいい。
それが、アスランが六課ですべきことならば…