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機動戦史ガンダムSEED 08話

Last-modified: 2018-06-06 (水) 21:07:43

 ――同時刻。

 

 ――ザフト遠征軍 ディアッカ・エルスマン部隊臨時軍事基地・ミカサ衛星基地――

 

 先の戦いで占拠した拠点ベースの一画で『遠征軍』の先鋒隊指揮官を任された俺は、
臨時作戦司令室で数名のスタッフと共に、占領した宙域内の調査と、その宙域の鎮撫部隊の振り分けを整えている最中だった。
部隊はそれぞれの拠点、三箇所に割り振っており、それらのどのように動かすかの段階に入っていた。

 

 そこへ、俺の代わりに防衛指揮を委ねていた副官の『バート・ハイム』から緊急の連絡が入ってきた。

 

 「どうした?」

 

 俺が通信システムに手を伸ばして、応答しかけると、

 

 『――ハッ!エルスマン隊長!宙域ポイント23,44,26にて、正体不明の空間歪曲波を感知しました!』

 

 「……なんだと?」

 

 緊迫したバートの声と共に、通信モニタ―にデータが表記された。
俺がデータを一瞥し、確認を終えると同時に、

 

 『――恐らくは、敵機動艦隊によるものと思われます!』

 

 バートが先に自分の推論を俺に述べて来る。
そして、データの照合を合わせ見て、俺も奴の判断に同意する事となる。

 

 「むッ……わかった直ぐにそちらに向かう!」

 

 『ハッ!』

 

 モニターからバートの姿が消える。どうやら、ここからが本番となるらしい。

 
 

 そして俺は腕を組み、顎に手を当てながら一瞬、黙考をすると、

 

 「やはり……出てきたか」

 

 と胸中の呟きを声に出していた。俺のその声にスタッフが反応する。

 

 「――エルスマン隊長。ここは我々に任せて、直ぐに司令室へ」

 

 「わかった。本件は取り合えず、ここで留めてお置く。お前達も直ぐに部署に戻れ」

 

 「ハッ!」

 

 俺は室内のスタッフに、占領企画を一時中断の指示を出すと、室内を後にする。

 

 ――ミカサ衛星基地・司令室――

 

 俺が司令室に入ると、緊急警報が司令室全体に、響き渡り各隊員が忙しなく動き回っていた。
突如、出現した敵艦隊の襲来に浮き足立っているのだ。

 

 「皆、おちつけ!!」

 

 俺は室内に響き渡る一喝をすると、隊員達は慌てて俺に向かって敬礼を取り始めた。
その場で慌てふためいていた連中は、俺が司令室に来た事を知り、
少しずつ落ち着きを取り戻し始める。

 

 俺はその場で、敢えて毅然とした姿勢を崩さなかった。
指揮官の動揺は、全軍の瓦解に繋がりかねないことを痛いほど熟知しているのだ。

 

 索敵オペレーターからの伝達を副官であり、元ミネルバクルーである『バート・ハイム』が緊急報告を俺に向って通達する。

 

 「隊長――先程の空間歪曲波は、やはり敵機動艦隊よるものと判明致しました!」

 

 「うむ。そうか……」

 

 此処までは想定の範囲内であろう。先の戦いは、
相手の寝込みを襲って一撃を与えただけなのだからな。

 
 

 司令官である俺が現れた事により、場が引き締まってくる。
バートの報告の後に索敵オペレーターが続けて、俺に報告を向ける。

 

 「――敵旗艦を確認!この機動戦艦は当方のデータにはありません。敵の新型と思われます!」

 

 何?オーブには、主力が三個艦隊しか常備されていなかったはずだが。
驚愕するが、次の瞬間に苦笑いが出る。こちらに情報収集など高が知れたものだ。と
敵方の方がやはり一枚も二枚も上手か。

 

――背中を心地よい戦慄が駆け抜ける。

 

「……いやはや……なんと、まぁ――まだ新たな機動艦隊をオン・ステージできるだけの
 国力を備えていたのだな――オーブは……」

 

 と俺は感歎の溜息を吐いた。
太陽系外縁部から無尽蔵の資源を供給できる『プラント』と言えども、
常備戦力の五個艦隊が、やっとの国力だと言うのにな。

 

ましてや、ちっぽけな島国の小国であるオーブにここまでの力があるとは……な。

 

「……やはり、この国が備えている潜在能力には、計り知れないものがあるな……厄介だよ。
  ――おい、向こうの指揮官は誰だか分かるのか?」

 

 俺は、敵側の国力と戦力常備の底力に対し畏敬の念を抱き、警戒感を抱くいた。
そして、バートに対して一番気になる、もう一つの疑念を問いてみる。

 

 今回は、誰が指揮官なのだ?大方の予想で決まっているだろうが。
恐らくは、ロンド・ミナ・サハク辺りであろう。あの女傑と戦うのは骨が折れそうだがな。

 

 だが、俺の脳裏の予想に反してとんでもない人物の名前をが出てきたのだ。

 
 

 「少々お待ちください……」

 

 バートは手前のコンソールを操作しながら、索敵オペレーターと共に、
派遣している索敵部隊との連絡を取っている。

 

 ニュートロンジャマーキャンセラーの発達は、レーダー妨害や通信機能妨害を大幅に軽減させたが、
一部では距離が開いている索敵には索敵用の部隊を利用しつつ、中継をしなければ連絡が
ここまで辿り着かないのだ。

 

 「……なんだと?そうか、わかった」

 

 バートは、コンソールから手を離すとコンソール専用イヤーフォンを外した。

 

 「――隊長、たった今、判明致しました。オーブ側の総司令官は、サイ・アーガイル将軍だそうです!!」

 

 「何?――サイ・アーガイルだと……?」

 

 副官であるバートの指揮のもとで情報が整理され、情報収集の結果、意外な人物の名が挙がったのだ。
俺自身も、かなり久しぶりに聞く名前でもある。

 

 「確か――あの男は、五年程前の政治闘争に敗れて、在野へと下ったという噂だぞ?
   おい!情報は確かなのだな……?」

 

 俺は、かつて『前大戦』や『統一戦没』で共に闘ったその人物の名を聞き、いつもとは違い信頼する副官でもあるバートに対して、
二度も同じ事を繰り返す、愚を犯してしまった。

 

 だがバートは、俺のその戸惑ったような態度とは逆に、自信に満ちた態度で、

 

 「はい、向こうのノン・スクランブル通信を傍受した情報です。間違いはありません」

 

 と答えた。そして、暫く俺は口を利くことができなかったのだ。

 
 

 暫く黙っていた俺は、意外な展開の為に、少々皮肉が篭った発言をする事となった。

 

 「――おいおい、まさか五年近くも、民間に引っ込んでいた人物を引っ張りだして、
  総司令官に据えてくるとはね……」

 

 「――ええ」

 

 流石のバートも首を傾げている。

 

 「――きっとカガリ……アスハ代表の独断に違いないな。あいつは……まったく。
  現在の……オーブ軍司令部の混乱ぶりが目に浮かぶようだ……」

 

 と俺は口に出してみたが、だが実際オーブ軍首脳部はカガリの元で一致団結している事だろう。
今回のサイ・アーガイルの迎撃軍司令官への招聘も、彼女に対する深い信頼が無ければ成り立たないであろうし。

 

 「――それは、我が軍の『総司令部』も同じ事です」

 

 バートもその点には困惑しているようだ。

 

 「最初から、敵防衛軍の総司令官には代表府首席補佐官兼、総合作戦本部長『ロンド・ミナ・サハク』が
  出てくると完全に決め付けてましたから……健康問題等のアクシデントでもあったのでしょうか?」

 

 俺は大きく溜息を吐きながら、副官の疑問に答えようとする。
自分自身が無論納得していない事は承知の上でだ。

 

 「――わからんな……ただ一つ、はっきりしていることは、あのカガリ・ユラ・アスハが、
  予想されて然るべき周囲の混乱を無視してまでも総司令官に据えるほどの人物だということだよ」

 

 そこで俺は一息を着くと、

 

 「――彼女は、まるで運命を味方につけたような神業的な人事配置の妙と
   人使いのテクニックで、人種多様なオーブをこれまで統べて来た人物だからな……」

 
 

俺が、そう結論を締めくくり、さてどうしようか思案に入ろうとした矢先に、 
オペレーターから『総司令部』から上級指揮官クラスの機密通信が入ったとの連絡が来る。

 

 バートがその通信内容を確認すると、俺に改めてに報告して来た。
かなり、憂鬱そうな表情と声で、

 

 「……隊長、本営のジュール作戦司令から通信が入ったそうです」

 

 「……イザークがか……?わかった、通信を繋げ」

 

 「ハッ……」

 

 一瞬、躊躇したが、俺は観念して通信へ出ることとなった。

 

 そして、正面のスクリーンに派手な軍服に、肩にマントを纏った銀髪の物憂げな青年が映る。
その姿は、もはや遥か昔に過去の存在となったバロック調の古代王侯貴族のような姿である。

 

―― 『ラクス・クライン』はプラントの『議長』の座に力を以って簒奪した。

 

――あたかも周囲が、自然に彼女のを担ぎ上げたように見せかけて。

 

 『あの女』がプラントの政局の『中心』となってからおかしな風潮がはやり始めたのだ。
彼女のスタイルを追従するかの如く、取り巻き連中が『真似』をし始めた。
俺は、その事を苦々しく思いながらも、嘗ての『友』をまだ見捨てる事ができないでいる自分に自嘲する。

 

 『ディアッカ、オーブ側の主力部隊が現れたか……』

 

 「……ああ。序盤の勝利は、相手の寝込みを襲ったようなものだからな。
  敵味方双方、真の戦いはこれからになるだろう」

 
 

 銀髪の彼はマントを靡かせながら、物憂げに呟く。

 

 『――ウム……とはいえ、『ラクス様』の下で、幾多の戦いを勝ち抜いてきた我らが軍団の前には、
   何ほどのモノでもあるまい……すみやかに排除せよ――』

 

 「……」

 

 俺は、黙っている。沈黙が俺の返答だ。
そう簡単に行くのなら、何の苦労もしないのだろうよ。
幾多の屍を積み上げた後に勝利して何になるのだ?

 

 前方には有能な敵に、後方には無能な味方というか足を引っ張る連中が多いのは、もはや常識だろう。
彼等は、『ラクス』の名前で何もかもが、思う通りになると、まだ幻想を抱いているのだろうか?

 

 『……どうしたのだ?ディアッカ』

 

 「……敵主力の指揮官はサイ・アーガイルだ」

 

 一拍の間隔の後に、

 

 『……誰だ、それは?』

 

 とイザークは、どうでも良いような物憂げな態度で問い返して来た。
俺はもう怒る気にもならなくなってきた。怒るだけ労力の無駄だろう。

 

 「……今、そちらに詳しいデータを転送する。見てくれ」

 

 俺は、内心の疲れと呆れを抑えながらも、
バートに向かって、本営へデータの転送するように命じる。

 

 暫くしてから、イザークは俺が送ったデータに目を通しつつ、

 

 『……ふむ……これか。『――10年前の争乱においてアスハ代表を補佐……』』  

 
 

 眉を神経質にやや斜めに上げながら、イザークは資料を読み続けている。

 

 『――ほほぅ?ほんの一時期ではあるが『あの女』に代わって、
  実質的にオーブの施政を裏から支配してきた時期があるのか?フッ、ユニークな経歴だな」

 

 「我々が、一時的に共闘していたあの時期、俺は、サイ・アーガイルと共に戦った――」

 

 イザークは、その俺の発言を完全に無視していた。
『敵将』のことを詳しく知っているは俺なのだが……そんな資料を一瞥しただけで奴が解るものか。

 

 『往年の影の権勢家――帰ってきた『英雄』というやつなのか。優秀な男なのか?』

 

 だが、イザークを見るとその様子では『敵指揮官』の情報を、俺から得ようとは、これっぽっちも考えていないのだろう。
勝手な推論と自分自身の妄想に浸るのは勝手だが、現場にそれを押し付けないでくれ。

 

 「……ああ。面白い男だ」

 

 俺も嫌味を含んだ声で、投げやりにそう応えた。
……その嫌味も通じずにイザークは興味なさそうに、俺から送られた資料を斜め読みで終了すると、
勝手な希望観測を交えた結論を俺に押し付けて来るのだった。

 

 『しかし……だ。この資料を見る限りにおいて、はどちらかといえば、
   その資質は『軍人』というより『政治家』のそれだな……』

 

 「……」

 

 『――かつての名を馳せた『英雄』なら、軍内に少々の影響力はあるのだろう。
   だが、一度権力の座から堕ちた人間……実際は何の力もあるまい?』

 

 「だが、イザーク。俺の経験において影響力は力であるかと」

 
 

 馬鹿馬鹿しいが、流石の俺もこのイザークの杜撰な発言に対して、何も言わない訳にはいかなかったのだ。
そして、不毛にもイザークの発言に対して真っ向から歯向かう事となったのだ。
――まるで異次元の人間と会話している気分にさせられる。

 

 『どうしたと言うのだ――ディアッカ?このサイ・アーガイルという男は、
  オーブが敗色ムードを払拭するために担ぎ出した、民衆受けする客寄せの見世物に過ぎんのだろうが?』

 

 「……その認識はどうだろうか?彼は、アスハ代表から全幅の信頼を得ている数少ない人間の一人だ」

 

 『――『あの女』は、優秀な側近に政務を任せきりの『お飾り」だという噂ではないのか?』

 

 「――優秀な側近を抜擢し、それに一切合財すべてを預けてしまえる度量というのも、
   ある意味、恐るべき才能であろう?」

 

 『……何が言いたいのだディアッカ?もしや、優勢な敵主力部隊を前にして、
  恐れをなしたのではあるまいな?」

 

 「……我が隊は、全軍の布陣から見ても、敵領土の中へ突出しすぎの観がある。
   此処は一度、部隊を後方へ下げ、態勢を立て直すことを提案したいのだが……」

 

 『――越権行為だぞ!ディアッカッ!!『予備編成軍』の指揮官の分際で、
   『ラクス様』の――総司令部の作戦に異議を唱えるつもりか貴様は?!』

 

 既にイザークは額に青筋を浮かべ、青白い炎をバックに強権を発動してきた。
作戦司令と平の隊長では階級に差が有り過ぎる。

 

 それに俺の失脚は部下達の『強制労働宙域』への更迭にも繋がる。 
……仕方が無い。ここはこちらから、折れて頭を下げるしかないか……

 

 「は……申し訳ありません」

 
 

 現在、俺の率いる前衛部隊は『予備編成軍』と呼称されている。

 

 その正体は『ラクス』によって選抜された自称『エリート』部隊ではなく、その実態は『旧ザラ』派の残党や
『元デュランダル』派から無理矢理に徴集された『混合部隊』であった。

 

 ――それを俺が指揮し、序盤のオーブ軍を撃ち破った実働部隊が俺の部隊の実態でもあるのだ。

 

 そう、『ラクス』の忠誠を誓った事を証明する為に、最前線で戦わされるのだ。
彼らの権利と人権や家族を何とか護る為にも、俺は様々な方策を練らねばならなかった。

 

 ――そう、『本営』の命令を逆らう事はできない。

 

 イザークは高飛車に俺に命じる。その姿は不器用だったが、友情を大切にし、
友を気遣う面影を欠片も残していないのだ。

 

 『お前は、前線部隊を率いて、前面のオーブ軍撃破を考えていればいい!
   直ちに進撃を開始せよ!よいなっ!!」

 

 「……はっ……了解致しました」

 

 怒りで青ざめたイザークの表情を最後に通信が切れる。
理不尽な命令と共に。

 

 「……通信切れました」

 

 「むぅ……」

 

 ――俺は腹の底から唸り声を上げる。

 
 

 ……サイ・アーガイルの事は置いておくとしても、オーブ軍は、序盤線の大負けを取り戻す為に、
有りっ丈の戦力を俺の部隊にぶつけて来るに違いない。

 

 ――それは先ず間違いはないだろう……

 

 だが、キラやイザークを含めた上層部の連中は、カガリの力量を舐めまくってるようだし。

 

 ……ならば、どうするべきか?

 

 まずい風向きになって来たな……前衛部隊である俺の部隊の崩壊は、
全軍の崩壊に繋がりかねない。

 

 「ふむ……」

 

 思考が凝縮しある方向に向かって急速に集中する。

 

 ――そうだな……此処は下手な色気は出さず、大負けをしない事に気を使うべきかも知れん。
多少、株を落とす事になっても『逃げ支度』だけは、しっかりしておくか――

 
 
 
 
 

続く

 
 

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