機動戦士ガンダム00 C.E.71_第17話

Last-modified: 2011-05-30 (月) 04:46:16
 

「ちっ、外したか」

 

煙の中、デュアルアイを光らせるバスターが、硝煙を上げる超高インパルス長射程狙撃ライフルを下した。
イザークと共にアルテミス守備隊を突破したディアッカが最初に発見したのは、
例のジンに攻撃を受けるブリッツだった。
他の新型に比べて高精度のサーモセンサーを搭載しているバスターは、
視界が利かないこの状況下でも十分な狙撃能力を誇る。
しかし、精密狙撃を可能とする連結砲の1つ、超高インパルス長射程狙撃ライフルを用いた攻撃は、
完全な奇襲であったにも関わらずジンに回避された。
『何故狙撃を止める!』
「・・・あのなぁ。狙撃ってのは気付かれていないから命中率が高いんだよ。
 今ジンを狙撃したって無駄弾だ」
隣のデュエルを駆るイザークが耳を塞ぎたくなる様な大声を出すが、
日頃からつるんでいるディアッカは冷静だった。
既にジンは回避機動を取りながら後退し始めているし、バスターもデュエルも
アルテミス守備隊との戦闘でエネルギーを消費してしまっている。無駄弾は控えたかった。
『しかし・・・』
「メインディッシュの前に腹一杯になったら困るだろ?それより、ニコルを助けてやれよ」
『そうだ、ニコル!』
文字通り飛んでいく様にブリッツに駆け寄るデュエル。
また気絶させられているのかと思ったが、接触回線で『大丈夫です』と返してきた。
『すいません。僕が不甲斐無いばっかりに』
「気にしても仕方ないでしょ。それより」
『そうだ、先行しているアスランと協力して脚付きを沈める!』
「アスランがもう終わらせてたりしてな」
ジンが飛び去った方に向かって、3機の新型がバーニアを吹かした。アスランの実力は皆が認める所である。
ミゲルやクルーゼでさえ、アスランには一目置いている。
イザークも対抗心を燃やしているものの、それは彼を認めている証だろう。
デュエルから殺気の様な物が向けられた様な気がしたが、ディアッカは無視した。
どの道、一番最初に脚付きを攻撃するのは自分になる。集中しておく事に越した事は無かった。

 
 

『うおおおおおおおおりゃあ!』
アークエンジェルから出撃したムウが、今までの鬱憤を晴らす様に、イージスにレールガンを連射する。
それを回避したイージスがビームライフルを向けるが、その時にはガンバレルが位置に着いており、
メビウス0を華麗に援護した。単機で小隊並の連携を取れるのが、オールレンジ兵器の強みである。
アスランも初めて体験する武装に、手こずっている様だ。
『ヤマト少尉、何をボーっとしている!フラガ大尉が時間を稼いでいる間に換装しろ!』
「はっはい!」
自分の時とはまるでレベルの違う戦いに半ば見惚れていると、ナタルのキツい喝が飛んだ。
シュベルトゲベールが使い物にならなくなった今、ソードパックは無用の長物だ。
しかし、キラは戦闘時の換装など経験が無い。どうしたものかとあたふたしていると、
続けて通信機から優しい、ホッとする様なミリアリアの声が響いてきた。
『えっと・・・キラにはまだ空中換装は難しいから、一度艦に戻って下さい』
「あ、うん分かった」
艦長もこのぐらい優しく言ってくれれば、一々ビクビクしなくて済むのになぁと思いながら、
キラは先程ムウが出撃したハッチにストライクを着艦させた。
「エールパックをお願いします」
『了解、エールパック装着します。ストライクはその場で待機していて下さい』
出撃する時と同じく、機体をハッチの方に向かせて直立させる。
天井と壁が開き、ソードパックを回収、換装作業が始まった。
その間にキラは、コクピットに備え付けられている飲料チューブで体を潤す。
しかし休憩の時間は無かった。通信から、ナタルの声が響いてきたからだ。
『ヤマト少尉、少し時間を食い過ぎた。アークエンジェルはこれより速度を上げ、追撃部隊を振り切る。
 ヤマト少尉、フラガ大尉には連中を一定時間足止めして貰いたい』
「そんな、カマルさんがまだ・・・!」
『マジリフ曹長だ。彼は現在艦船ドックの粉塵の中だ、通信は取れない』
「もう少し待てないんですか?」
『残念だが。アルテミスの通信を傍受した所、守備隊が壊滅したらしい。
 後方に他の新型が迫っている。ジンが追い付ける速度で進んでいては、囲まれる恐れもある』
単純な速力なら、他の新型よりエールを装備したストライク、メビウス0の方が速い。
イージスはその限りでは無かったが、小隊行動、しかも母艦から遠く離れてまで
単機での追撃をしてくる程無謀でも無いだろう。
即ち、ストライクとメビウス0が追い付いて来れるギリギリの船速でこの宙域より脱出するのが、
アークエンジェルが助かる為の最も有効な手段だ。
しかし、その脱出策に、カマル・マジリフの存在は考慮されていない。
未だにアルテミス内にいるジンでは、アークエンジェルに追い付ける筈も無い。
しかし艦長として、ナタルは彼を救う為に、艦全体を危険に晒す訳には行かなかった。
「四の五の言っても、仕方ないんですよね」
『そうだ』
「・・・分かりました。ミリアリア、出撃準備は?」
『はい。エールパックの装着を確認。システムオールグリーン、何時でもどうぞ』
「了解。ストライク、行きます!」
エールパックを装備したストライクが、カタパルトの火花を散らしながら
勢い良く宇宙空間に飛び出していく。
それと同時に、アークエンジェルは船速を上げた。
「ムウさん!」
『作戦は聞いたな。艦長はああ言ってるが、Mr.色黒は必ず連れてくぞ!』
「はい!」
イージスとメビウス0が見事な三次元戦闘を繰り広げている戦域に、
羽を広げたエールストライクが颯爽と飛び込んで行った。

 
 

「脚付きが速度を上げた?艦載機を犠牲にするのか!?」
メビウス0と、互いに一度も被弾しない攻防を演じていたアスランが、
モニターの端にストライクの出撃を確認する。
同時にアークエンジェルのメインスラスターの噴射光が輝きを増し、
白い船体が既存の艦船には無いスムーズな加速を始めた。
あのまま加速を続けるなら、高速艦であるアークエンジェルにMSは追い付けない。
「いや、これは・・・」
モニターに表示されたアークエンジェルの速度を見て、アスランは自分の考えを否定した。
まだあの艦は何も見捨ててはいない。
アークエンジェルからの攻撃が対空防御とは明らかに異なるのが、何よりの証拠だった。
どうやら優秀な艦長がいるらしい。
「だが!」
再び戦闘に加わったストライクがイージスに向けてビームを放つ。
それを難無く躱し、こちらもビームライフルで応射する。
足を狙っての射撃を、ストライクはその場で縦に一回転する事で躱す。
バーニアを使った見事な回避機動だ。とてもMSに乗って数日の者に出来る事では無い。
しかし
「やはり素人だ!」
一回転したストライクに、イージスを飛び込ませる。ストライクは焦ってビームサーベルを抜こうとした。
しかし回転した時の慣性が残ったままの腕では、背中に装備されたビームサーベルを抜くのには
時間が掛かり過ぎる。
既に腕からサーベルを発振させたイージスが、動きの鈍いストライクに斬り込んだ。
咄嗟に盾で防御したものの、ビームサーベルに気を取られ過ぎたせいで腹が丸見えである。
足のビームサーベルを発振させてコクピットを貫く事も出来たが、
代わりに重量を乗せた蹴りをお見舞いした。
その反動を利用して、今し方位置に着いたガンバレルの射線から逃れる。
キラは気付いていないだろう。
イージスに照準を付けていたメビウス0が、イージスとストライクが格闘戦に移行した事で
レールガンの発砲を躊躇した事を。
だからガンバレルを配置し、ストライクが被弾しない位置からの射撃を余儀なくされ、
結果時間が掛かった事で自分に躱された事も。
イージスの応射を、メビウス0の方に逃れるやり方で回避していれば、こんな連携ミスは起きていない。
これは一重に、キラの経験不足が招いた物であった。
「そんな事で、誰も守れはしないんだ、お前は!」
吹き飛ばされたストライクを追おうとすると、させまいとガンバレルがイージスに弾幕を張った。
しかし、ガンバレルをストライクを援護する様に配置すれば、メビウス0はがら空きである。
アスランはイージスに急制動を掛け、メビウス0にビームライフルを撃ち込んだ。
並みのパイロットならば間違い無く撃墜確定の攻撃を、しかしメビウス0は間一髪で躱した。
流石はクルーゼと因縁のある相手である。
「ちっ」
ストライクが参戦した事で寧ろ有利になったアスランだが、その顔に余裕はない。
メビウス0は常にアークエンジェルを意識した位置取りをしており、
アークエンジェルを追撃する余裕が無いのだ。
「このままでは逃げられる!イザークは何をしているんだ」
モニターの端に捉えたアルテミスを見て毒付いた。

 
 

アスランが毒付いたのとほぼ同時に、粉塵の壁を突き破って1機のMSが飛び出してくる。
「アークエンジェルは、あれか」
機体に絡みついた粉塵を払うと、単眼を光らせる蒼いジンが姿を現した。
白い船体を探すのに苦労はしなかったが、アークエンジェルが思った以上に遠ざかっている。
ジンでは追い付けそうにも無い距離であったが、だからと言ってナタルを批判するつもりは無い。
そもそも何時もの癖で飛び出してしまったのは自分だ。
粉塵のせいで通信距離が短くなっていたし、ブリッツとの戦闘に時間を掛け過ぎたのだから仕方が無い。
「イージスか」
赤い新型がストライクとメビウス0を相手取って交戦している。
刹那は迷う事無く3機が絡み合う戦域にジンを奔らせた。
その直後、デュエル、バスター、ブリッツもアルテミスから飛び出してきた。
「流石に速い!」
3機の新型はジンを姿を認めると、それを追って機体を奔らせる。
それを確認した刹那はジンを振り向かせてガンランチャーを連射した。
しかし3機は降り注ぐ散弾を軽々と回避して、更にジンとの距離を詰めてくる。
「威嚇にもならないか」
『カマルさん!』
キラの警告がコクピットに響いた。直後に、イージスからのビームが機体を掠める。
キラの警告が無ければ被弾していたかもしれない。
「済まない、助かった」
『いえ、それより』
「ああ」
『おうMr.色黒、こいつらを通すなよ。一定時間の足止め任務だ』
「了解した」
向き直って、イージスに散弾をお見舞いする。イージスはそれをジンに対して前進する事で回避。
そのままジンと擦れ違い様にビームサーベルを振るった。
ジンは左腕が使えない以上、腰の重斬刀を抜いて受ける事は出来ない。
無理矢理機体を振って、左肩の懸架された盾で迫る光刃を受け流した。そのまま両機は味方機と合流する。
『Mr.色黒、損傷は?』
「左腕のフレームがイカれた。肩の関節は辛うじて動かせる」
『成る程、あんまり無理すんなよ』
ジンの左腕は、肘のフレームが耐久限度を越えてしまっている為、ブランとぶら下がった状態だ。
肩が動かせる為、懸架された盾を扱うには支障が無いのは幸いだった。
「ああ、キラもあまり気負うな。動きが悪いぞ」
『はい。でも・・・』
「なんだ?」
『アス・・・イージスは手強いです』
「了解した」
言うが早いか、刹那は4機となった敵機に向かって操縦桿を倒した。
『あっおい!』
「イージス以外の敵機は先の戦闘で消耗している。
 実弾を当てればそれだけ早くバッテリー切れに追い込める筈だ」
『成る程ね。キラ、俺はあいつと一緒に突っ込む。お前は敵機の撹乱と援護だ!』
『了解!』
メビウス0がジンを追う。ストライクは下方に回り込む様にバーニアを吹かした。
新型はジンやメビウスより高性能なバッテリーを積んでいるが、それ以上に、PS装甲は展開中、
大量のエネルギーを必要とする。 実弾に被弾した時は尚更である。
大量のエネルギーを放出するビーム主体の武装も相まって、新型は継戦能力に不安を抱えていた。
アルテミス守備隊を相手にしたデュエルとバスターは勿論、
単機で奇襲を仕掛けてきたブリッツもバッテリーが底を尽きかけている筈である。
つまり、元気なのはイージスただ1機なのだ。
そこを突けば、数と性能の差はあっても十分やれる。今回の戦いには勝つ必要は無いのだ。
『うおりゃっ!』
ジンのガンランチャーと、メビウス0のガンバレル、レールガンが一斉に火を吹いた。
実弾の嵐に新型4機は散開、イージスがビームライフルで、バスターはガンランチャーで迎撃する。
『まだまだっ!』
それを難無く躱したメビウス0が、回避際にガンバレルを射出、
射撃で動きが止まったバスターに追撃を加えた。
避けきれないと判断したのか、バスターは左腕でセンサーが集中する頭部を庇う。
ガンバレルを追い払う様に、デュエルがイーゲルシュテルンを斉射するものの、
近接防御用の兵器ではガンバレルに届かない。

 

『思った通りだったな。奴さん、バッテリーを気にして攻撃できねぇ』
「このまま押し込む」
武器を重斬刀に持ち替え、イージスに斬りかかる。それを右手のビームサーベルで受けたイージスが、
ジンを両断しようと左手から発振させたビームサーベルで斬りかかってきた。
咄嗟に退いく事で事無きを得た刹那だったが、イージスはそれを許さず
そのまま追撃しようと踏み込む構えを見せる。
しかしそれは、下方からの光柱によって遮られた。
『カマルさん!』
ストライクがビームライフルとイーゲルシュテルンをフルに使って敵機に牽制を掛ける。
イージスに加勢しようとしたデュエルにもビームライフルをお見舞いする。
それを回避したデュエルに、メビウス0のレールガンが突き刺さった。
『上手いぜキラ!』
実際にはムウがキラに合わせているだけであったが、ムウは褒めるのを忘れない男だ。
多数同士による乱戦では、メビウス0とムウの組み合わせは凄まじい力を発揮していた。
刹那とキラが、格闘と射撃での撹乱を行い、ムウが動きの鈍った敵機に実弾を叩きこむ。
積極的な攻撃が出来ないアスラン達にとっては大変にやり難い戦況だった。

 

「敵の策に踊らされているぞ!・・・ニコル下がれ!ブリッツはもう無理だ」
『でも、アスラン!』
責めて囮になろうとしたのであろうブリッツをイージスが制す。
アスランはまさに苦虫を噛み潰した様な顔をしていた。
イージスは新型の隊長機を務める機体である為、データリンクされている各機の情報を知る事が出来る。
サブモニターに表示された情報では、イージス以外の各機のバッテリーが
底を尽きかけている事を示していた。
武装の少ないデュエルはまだマシだったが、
先行していたブリッツと大火力で燃費の悪いバスターは本当に危ない。
「イザーク、俺とお前のツートップだ。バスターとブリッツは後方へ。
 牽制は要らない、重要な所だけで撃て」
指示を出している間にも、ジンがしつこくヒット&アウェイを繰り返してくる。
痛打を狙っている訳では無い様だが、無視出来る攻撃でも無い。
各機に気を配り、加えてジンの攻撃を捌くアスランの集中力は段々と削れて行く。
イザークが上手く立ち回ってストライクの攻撃がイージスに届かない様にしてはくれているが、
それもかなり厳しい。
「・・・・・・っ、撤退だ」
『何だって!?』
「撤退だ!これ以上の戦闘は意味が無い」
そしてアスランは、隊長として裁決を下した。
この泥沼な戦況では、敵機を撃破して脚付きを沈めたとしても、こちらもかなりの損害を被る事になる。
隊を任せれた身として、それは看過出来なかった。
「デュエルはイージスと共に牽制射撃、ブリッツ、バスターは後退しろ!」
『ちっ!』
不承不承ながらも、イザークはイージスの動きに合わせて弾幕を張る。
その間にブリッツとバスターは後退を始めた。
敵もこちらの意図に気付いたのか、追撃してくる様子は無い。
『・・・ポイントまで後退したぜ』
「分かった。デュエル、イージスに掴まれ。こちらも後退する」
ブリッツ、バスターの後退を確認して、イージスはMAに変形する。
デュエルがそれに掴まると、凄まじい速度で戦域を離脱していった。

 
 

足止め作戦は終了した。しかし、彼らの戦いはまだ終わっていない。
『アークエンジェル、アークエンジェル!ちっ、聞こえねぇか!』
ムウがアークエンジェルに連絡を取ろうとするが、通信領域外に出てしまったのだろう。
無線はホワイトノイズだけを吐き出している。
「お前達だけでも行け。メビウス0とストライクならギリギリ何とかなるだろう」
『カマルさんはどうするんですか!』
「ガンランチャーを使い過ぎた。ジンのバッテリーが底を尽きかけている。
 心配するな、多分アルテミスの連合軍が捜索に来る筈だ」
『はぁ?てめぇ本気で言ってるのかよ!』
他人事の様に語る刹那に、怒鳴ったのは意外にもムウだった。
怒気を孕んだ声と意思が、脳量子波を通して刹那に届いた。
『アルテミスの連中は、直ぐ動けたとしても先ず最低限の部隊の再編をする筈だ。
 次は守備隊がいた宙域での生存者の捜索。こんな宙域探しにくるのは、ジンの酸素が尽きてからだぜ』
『そんな』
ムウの非情な言葉に、キラが言葉を失う。
「だが・・・ならどうする?」
『どうって・・・』
刹那の冷静な問いに、ムウは言葉を詰まらせた。こうしている間にも、アークエンジェルは遠ざかっていく。
『・・・・・・、あー・・・生身だったら背負ってでも連れて帰るのによぉ』
『・・・それ、良いかもしれません』
『へっ?』
「ん?」
苦し紛れなムウの言葉に、キラが希望を見出す。大人2人の間抜けな声が宇宙に響いた。

 
 

アークエンジェルは、アルテミスから一定距離離れた場所で停止していた。
そのブリッジ中央、艦長席に座るナタルは、腕を組みながらモニターを見つめてジッとしている。
その艦長の雰囲気に押されてか、他のブリッジクルー達も沈黙を守っていた。
しかし、その中でも実質副長の立場であるノイマンが、遂にその口を気まずそうに開いた。
「艦長、そろそろ」
「分かっている」
学生組が言いだした停船も、約束の時間を過ぎようとしていた。
敵艦が健在な以上、追撃の危険性は無くなっていないのだ。これ以上停船している訳には行かない。
「・・・機関始動、最大船速」
『そんな!』
ナタルの指示に抗議する様に、ミリアリアが立ち上がる。

 

『レーダーに感!7時方向!』

 

艦後方に反応が出たのはその時であった。
レーダーを食い入る様に見つめていたサイが声を大にして報告した。
「先程の命令は取り消す。索敵、モニター映せるか!」
「はい!」
トノムラが素早く命令を実行し、モニターに映像を回す。そこに映っていたのは、実に奇妙な物だった。
ストライクがジンを肩を貸す様にして背負い、空いた右手でメビウス0にしがみ付いていて、
まるで電車ごっこの様に連なっているのだ。その姿は何処と無くイカにも見える。
「成る程、考えたな。通信を繋げ」
その姿に唖然とするクルーの中、ナタルは納得した様に微笑んだ。
宇宙空間には摩擦も重力も無い。機体を繋げ、一斉にバーニアを吹かせば、
増した重量を推力が上回ってくれる。
アスランが撤退する時に使った手である。それを利用したのが、今の3機の状態だった。
『すいません、遅くなりました』
キラのホッとした声がブリッジに響く。それを聞いたが学生組の歓声がブリッジを満たした。

 
 

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