機動戦士ガンダム00 C.E.71_第38話

Last-modified: 2011-11-08 (火) 05:28:42
 

『敵機確認。ジンの強化型と、デュエル、バスターです!』
『ブリッツがミラージュコロイドを既に展開している可能性がある。
 時間は10分、持ち堪えろ』
ブリッジからの情報が各機に届く。
防御陣形を組むジンメビウス、エールストライク、メビウス0からも、
迫る敵機を確認出来た。3機のMSが密集隊形で接近する。
「来るぞ」
刹那の声と同時に敵の3機が分散し、
その間からローラシア級からの砲撃が防御陣形の中心を穿った。

 

『ちっ、艦砲を機体で隠すとは、味な真似しやがる!』
分散する事でそれを回避した刹那達に、
それぞれ獲物を見定めた3機が攻撃を仕掛けてくる。
ジンメビウスにはジンハイマニューバASが、ストライクにはデュエルが、
メビウス0にはバスターが襲い掛かり、戦場は三分割された形となった。
ハイマニューバの放つマシンガンを回避しながら、刹那は僚機の戦闘に目を向けた。
「各個撃破を選んだか。キラ、やれるか?」
『やります!』
デュエルとの戦闘に入ったキラから威勢の良い応答が返ってきた。
イージスにも後れを取らなかったキラなら大丈夫だろう。

 

『貴様の相手は、俺だ!』
無線からの声と同時に両手で構えられた重斬刀がジンメビウスに迫る。
刹那はそれを受ける事はせず、スラスターを吹かして回避した。
『機体を改造したみたいだな。メビウスとの相の子か』
今までとは比べ物にならない推力を目の当たりにして、
ハイマニューバはこちらの機体を観察するかの様にモノアイを光らせた。
『中々良い趣味だ。良い整備士がいるな』
「・・・そちらこそ、完全に修復出来ている所を見ると、資材の潤沢さが羨ましいぞ」
『ぬかせ!』
刹那が返した言葉を皮肉と受け取ったハイマニューバが、
乱数機動を取ながらマシンガンとガトリング砲をばら撒く。
ジンメビウスのむき出しになったスラスター群には大よそ装甲と呼ばれる物が無い。
いくら機動力が上がっているとはいっても、弾丸が脚部を掠めるだけで損傷を覚悟しなくてはならない。
それを見抜いたハイマニューバが制圧射撃という面の攻撃を行ったのは正しい選択だった。
やはり、このパイロットは油断出来ない。
刹那はそう断じると、左肩のシールドを構え攻勢に転じる。
シールドに機体を隠し、スラスターの大推力でハイマニューバに突撃する姿はさながらミサイルであった
尽く攻撃を弾き返すジンメビウスに、ハイマニューバが武器を重斬刀に持ち替えた。
格闘なら望む所と言わんばかりの構えだ。
しかし、刹那はハイマニューバとまともに剣戟を交わすつもりなど無かった。
互いに重斬刀の間合い、ハイマニューバが突きを繰り出そうとしたタイミングで、
ジンメビウスは脚部のスラスターをハイマニューバに向けたのだ。
『なにっ!?』
凄まじいスラスター光に目を潰された形となったハイマニューバが出鱈目に重斬刀を振るう。
それを間合いから離脱する事で回避した刹那が、
離れ際に左肩に装備されたアーマーシュナイダーを射出した。
放たれたそれは空ぶったハイマニューバの腕に突き刺さる。
『舐めやがって!』
だが突き刺さったそれ自体は、ハイマニューバの行動を些かも阻害しない。
焼け付いたモノアイが回復し、コケにされたと認識したミゲルが吠える。
腕に刺さったナイフを引き抜こうとして、しかし何かに引っ張られる様に腕が取られた。
『これは・・・しまった!』
刹那の意図に気付いたミゲルが、腕を切り落とそうと重斬刀を持ち代えるが既に遅い。
ジンメビウスがハイマニューバを中心に円機動を描き始めた。
回転を重ねる毎に、アーマーシュナイダーとジンメビウスを繋ぐワイヤーが、
ハイマニューバを締め上げて行く。

 

「捕まえた」
刹那が静かに言い放つと、そこには腕ごと上半身の動きを
」完全に封じられたハイマニューバがいた。
機体を縛り付ける―――幾重にも巻かれたワイヤーかあら脱出を図ろうと
もがくハイマニューバだが、元々資材運用の為の強靭なワイヤーである
それは力任せに引き千切れる物では無かった。
「まともな勝負でなくて悪いが、仕留めさせてもらう」
ジンメビウスが重斬刀を構えた。このパイロットを生かしておけば、必ず禍根を残す。
本来こんな切り捨てる様なやり方は好かない刹那だったが、今は時間が無い。
そう自身を納得させてペダルを踏み込む直前、
視界外からの殺気を感じた刹那は機体を左右に振る事で飛来した光芒を躱した。
飛来した先にモノアイを向けると、何も無かった空間から滲む様に黒い機体が現れる。
刹那を攻撃したブリッツはそのままハイマニューバの方に接近すると、
ハイマニューバを縛っていたワイヤーをビームサーベルで切断した。

 

「やはり隠れていたか」
アーマーシュナイダーを1本失ったのは痛かったが、
何処に潜んでいるか分からない敵に警戒し続ける事を考えれば小さな損害だろう。
そのまま交戦の意思を見せるブリッツに、刹那は気を引き締める。
被弾ご法度の機体で2対1を演じるのは中々神経を使うが、僚機がそれぞれ敵機と、
アークエンジェルもアンチビーム爆雷を張りつつ
ローラシア級と交戦している事を考えれば退く事は出来ない相手だった。

 
 

繰り出されるビームサーベルをストライクがシールドで防ぐ。
これで三太刀目、そろそろシールドが保たない。
ぴたりと張り付いてくるデュエルに、キラは焦りの表情を浮かべた。
「振り切れない・・・。こっちの方が機動性では上なのに!」
キラは自分が接近戦を苦手としている事を理解していた。
だからこそ、エールを装備して機動性の差で距離を取り、射撃戦に徹するつもりだったのだ。
敵側にイージスがいなければ、単純な機動性で エールストライクに付いて行けるMSはいない筈である。
その筈なのだが、現に目の前のMS、デュエルはストライクにぴたりと張り付いて、
接近戦の間合いから離れない。
特に機動性を重視した装備も付けていないスタンダードな機体なのに、である。
デュエルの動きも前と同じく何となく読める。
なのにこうもしてやられているのは、単純な技量差だった。
イザークは間合いの詰め方、格闘センスの良さはアスランに勝る実力者であるのだから
無理も無い話なのだが、今のキラにそれを知る術は無い。

 

「こんな事じゃ、アークエンジェルを守れない・・・」
キラは第八艦隊と合流予定である10分間を耐えれば良いのだから、
無理にデュエルを撃破する必要は無い。しかし、彼の頭にそんな考えは無かった。
早くこの敵を倒して、他の敵と戦わなければアークエンジェルを守れない、
そんな強迫観念がキラを支配していた。
更に二撃目三撃目とシールドにビームサーベルが叩き込まれる。
表面に施された対ビームコートが剥がれ、シールドが悲鳴を上げた。
「しまったっ!」
シールドの限界を悟ったキラが安易に後退しようとした隙を突いて、
遂にデュエルのビームサーベルがシールドを両断した。
綺麗に真っ二つにされて役目を果たさなくなったシールドを捨て、背中のサーベルを抜く。
こうなっては、接近戦に応じる以外に活路は無かった。
「アークエンジェルは、僕が守るんだ・・・!」
裂帛の気合いから繰り出されたビームサーベルは、
しかし身を屈めたデュエルにあっさり躱される。そこから膝を伸ばす反動を使って、
デュエルのビームサーベルが掬い上げてくる様にストライクを襲った。
全身の毛が逆立つのを感じたキラはストライクをバックステップさせてそれを凌ぐ。
僅かな読みと、エールの機動性が無ければ下から真っ二つにされていた。
「はぁ・・・はぁ・・・」
緊張に肩で息をするキラだったが、敵はそんな物に構ってはくれない。
再び距離を詰め、追撃の剣戟がストライクを襲う。
頭部を狙った突きを、読みを生かして左に頭部を振って躱した。
しかしすぐ様デュエルが左手のシールドを捨て、二刀目のビームサーベルが繰り出される。
初撃の突きを左に躱した事でがら空きになったストライクの右半身に、必中の一撃が迫った。
「この・・・!」
右肩を狙った一撃を、ビームライフルを盾にする事で防ぐ。
真っ二つになったビームライフルが両者の間で爆発し、その隙にストライクが距離を取った。
「は、は・・・ふっ」
背筋の凍る様な攻勢に、キラは全身が汗に塗れるのを感じた。
次は防げるか分からない、後ろ向きな感情が脳裏を過った時、
無線から切迫した声がキラの耳を叩いた。

 

『キラ、聞こえる!?バスターがアークエンジェルを補足してるの。援護出来ますか!?』

 

アークエンジェルが危ない?そう認識した途端、ミリアリアの声が遠くなる。
ムウが食い止めているが長く保たない事や、刹那が2機相手に善戦しているが
こちらまで手が回らない事などの説明も頭に入らない。
あるのは、自分がアークエンジェルを守らなければならないという認識だけ。
心臓の音がやけに大きく響き、頭の中で何かが弾けた。

 

―――その瞬間、キラの中で何かが、変わった。
「アークエンジェルを、フレイを殺させやしない」

 

視界がクリアになり、突然視界が開けた。
身を焦がす様な焦りも、先程までの動悸の激しさも無くなっていた。
デュエルが再び斬りかかってくるが、それがまるで時間が遅くなったかの様にやけに遅く感じる。
実際には、高度な読みから来る既視感で遅く感じているのだが、そんな原理は今のキラには関係無かった。
やる事は1つ、アークエンジェルを守る。
ストライクにビームサーベルを捨てさせ、代わりにアーマーシュナイダーを装備させた。
ゆっくり迫るデュエルの突きを、その突き出された手首に肘打ちを入れる事で逸らす。
すぐ様肘を伸ばす要領で、逆手に持ったアーマーシュナイダーを
PS装甲で守られていないデュエルの肘の関節に突き刺した。
デュエルの腕の中を走る動力系が尽く切断され、ビームサーベルが光を失う。
イザークが驚きに目を見張っていなければ、表示された機体コンディションの、
肘から先が真っ赤になった右腕が確認出来ただろう。
ストライクは更に踏み込みデュエルの左脇に潜り込むと、
突き上げる形で左肩の関節にアーマーシュナイダーを突き刺した。

 

イザークは突然起こった事態に思考が追い付かなかった。
今まで鈍かったストライクの動きが突然速くなったと思ったら、
一瞬の内に両腕を使用不能にされたのだ。
操縦桿を動かしても、愛機の腕はまるで神経を切断された様にピクリとも動かない。
「ひっ!」
悪鬼の如くデュアルアイを光らせるストライクに、思わず両腕で自分を庇った。
殺される、固く目を閉じたイザークだったが、しかし何時まで経ってもその瞬間は訪れない。
恐る恐る瞼を開くと、接触しそうな程目の前にいたストライクは、
今や遠く後姿を晒して遠ざかっていた。止めを刺されなかった。
そう認識した瞬間に、生きている安心感より見下された屈辱感がイザークの体を走った。
自分に死の恐怖を与え、殺すに値しないとばかりに止めを刺さなかった相手。
「許さないぞ・・・ストライク―――!」
イザークは初めて味わう屈辱にワナワナと体が震え、下唇を噛み締めた。

 
 

複数の火線と、散弾やビーム、ミサイルが引っ切り無しに交差する。
一見して多数対多数を連想する様相であったが、実際にそれを演じているのは1機のMSとMA、
それに2人のパイロットであった。
バスターがミサイルと散弾で面攻撃を行えば、それを回避したメビウス0がガンバレルを展開、
四方からバスターに集中砲火を浴びせる。
両者の攻防を一進一退の様に見えたがしかし、実際に追い詰められているのはムウであった。
バスターは度重なる戦闘でガンバレルの攻撃に慣れ、多少被弾した所で問題が無い事を理解、
積極的な攻めを展開していた。
対するムウは終始気が抜けない、神経を擦り減らす戦いを強いられていた。
一発でも被弾すれば即刻死に繋がる攻撃を、あろう事か面でばら撒いてくる相手である。
例えるなら、要塞並みの分厚い対空砲火の中で単独飛行している気分である。
これならイージスが相手の方がまだマシと言えた。
そんな事を考えている間にも、以前より苛烈になった弾幕がメビウス0に降り注ぐ。

 

「この・・・!」
一瞬の隙を突いて機首を持ち上げ、バスターにレールガンをお見舞いする。
ガンバレルの機銃よりは幾分威力があるものの、PS装甲を展開するバスターには傷一つ付かない。
「全く、マリューも大したモン作ったよな!」
今のムウの気分は、本来ならザフトのパイロット達が味わう物だっただろう。
カタログスペックでいくらバッテリー切れを狙えると分かっていても、
攻撃しても全く動きの鈍らない敵というのは中々精神的にくる物がある。
「だからって、易々やられる訳にはいかねぇ!」
バスターはこちらと戦闘しながら、
隙あらばアークエンジェルに砲撃を加えようと位置取りしてくる。
戦艦並みの火力を備えるバスターに少しでも砲撃のチャンスを与えれば、
アークエンジェルにとって致命的な物になるだろう。
そのチャンスを与えない為にも、ムウは一歩も退く事が出来ない。
絶え間無く攻撃を加え続ける事が重要だった。

 

「おらおら!」
展開した4基のガンバレルが火を噴き、バスターを取り囲む様に集中砲火を浴びせる。
これまでと同じ展開が繰り返される様に見えた。しかし、今度のバスターは動かなかった。
今まである程度の回避機動は取っていたのに、何故?
ムウの脳裏にバッテリー切れの言葉が過る。
今がチャンスだとばかりに、更なる掃射をかけようとガンバレルに指示を出す。
だがそれは間違いだった。バスターがゆっくりと砲撃体勢を取る。
それは、今までの二丁の火器を扱う物では無い。
左腕を起点に、右腕で支えられたその砲撃体勢は、
バスターの切り札である連結砲の発射体勢だった。
「しまった・・・!」
ガンバレルの掃射をまるでシャワーの如く平然と受けながら、
バスターは正確にメビウス0にその長大な砲身を向けた。
バスターの火器の連結には2つの種類がある。
今こちらに向けられているのは対装甲散弾砲、
ガンランチャーとは弾速も面攻撃能力も桁違いの代物だ。
ガンバレルを離脱させて推力の落ちたメビウス0では回避出来ない。
「南無三!」
咄嗟にムウはガンバレルを呼び戻す。
しかしその直後、バスターのデュアルアイが光り、
対装甲散弾砲が広範囲に破壊をもたらす散弾を吐き出した。

 

「手こずらせやがって」
これまでとは比べ物にならない閃光がバスターの視界を一瞬遮る。
それが晴れると、目の前には何物かが爆発した爆煙が広がっていた。
その何物かを、改めて問う必要は無い、メビウス0は撃墜だ。
どの道、あの推力ではどう足掻いても散弾の影響範囲から逃れる事は不可能だ。
そう判断したディアッカはバスターの砲門をアークエンジェルに向けた。
アークエンジェルを墜としてこその奇襲作戦である。
戦艦同士の撃ち合いは、どうやら脚付きの優勢で進んでいる様だ。
歴戦のゼルマンといえど、性能の差は埋め難いと見えた。
対装甲散弾砲の連結を解き、前後を入れ替えて連結し直す。
そうして姿を現したのは、超高インパルス長距離狙撃ライフル、
対装甲散弾砲が最強の面攻撃なら、これは最強の点攻撃である。
ラミネート装甲で守られていようと関係無しに貫くバスターの最大火力だ。
「その綺麗な船体を吹っ飛ばしてやるよ」
急いで回避運動を取ろうとしている脚付きの姿を見詰め、ディアッカは唇の端を舐めた。
照準がブリッジに重なり、引き金を引こうとしたその時、
警告アラートが鳴り響きコクピットを赤く染める。
「なんだ!?」
イザーク達がこっちに敵を逃がしたのかと苛立ちの声を上げるディアッカ。
飛来した砲弾を回避し、攻撃位置にバスターを向けた。
ディアッカの予想は外れだった。
バスターに攻撃を仕掛けてきたのは、ストライクでもジンメビウスでも無い。
未だ拡散し切らない爆煙から現れた、撃墜した筈のMAだった。

 

ディアッカにして見れば亡霊を見た気分だっただろう。
しかし、メビウス0は散弾を浴びる寸前、母機にガンバレルを体当たりさせる事で生じた
二次加速を使って機体を脱出させたのだ。
体当たりする速度が速すぎれば母機が大破しかねず、
タイミングがズレれば寧ろ加速を殺しかねない危険な手段であった。
「うおおおおおおっ!」
母機の代わりに散弾を浴びたガンバレル以外の3基と、
メビウス0のレールガンが一斉に火を噴く。
ガンバレルの体当たりを受けた母機はスラスターの大半が死に、
既に運動性能は無いに等しい。
ならば、墜とされる前に出来るだけバスターに弾丸をお見舞いするまでだ。
砲撃体勢だったバスターは連結砲を解く暇が無いと判断したのか、
両肩のミサイルで弾幕を張ってくる。
万全の状態なら取るに足らない弾幕だが、今のメビウス0にとっては死の網だ。
ムウは瞬時に直撃弾になるミサイルを見極め、ガンバレルで迎撃し更に進む。
狙うのは、至近距離からのレールガン。
衝撃が激しいレールガンを至近で直撃させれば、
PS装甲は抜けなくてもパイロットにはダメージを与えられる筈だ。
「ここだっ!」
ミサイルの弾幕を抜けたメビウス0が、射角を取る為にバスターに腹を見せる形に回転する。
バスターの脇腹に向けられた砲門が、擦れ違い際に炸裂した。

 

「どうだ!これで・・・」
一発逆転だとばかりに振り向いたムウの背筋が凍った。
「ハハ、嘘だろ?」
レールガンのゼロ距離射撃を受けたバスターが、まだ動いている。
だがその動きは酷く緩慢で、パイロットの意識が朦朧としている様が一目で分かった。
それでもスラスターの死んだメビウス0には脅威である。
バスターがゆっくりと振り返り、超高インパルス長距離狙撃ライフルを構える。
しかしその砲門はメビウス0に向けられた物では無かった。
「ここまで来て・・・させるかよ!」
長大な砲身がアークエンジェルに狙いを定めた。
必殺必中で葬る為か、はたまたパイロットの意識が定まらないのか、
射撃に至るまでタイムラグがある。
ナタルもそれに気付いて回避運動に入ろうとしたがもう遅い。
ムウは生きているスラスターを総動員してバスターの方に機体を向かわせた。
「間に合え・・・!」

 

愛機を加速させるものの、頭の中では間に合わない事が分かっていた。
それでも手を伸ばさん限りに叫ぶ。
しかしその叫びも空しく、モニターの中心で照準を定め終えたバスターが引き金を引く―――
と思ったその瞬間、上方から雷の如く、ビームサーベルがバスターの連結砲に突き刺さったのだ。
エネルギーの充電が完了していた超高長距離狙撃ライフルは大きな爆発を起こし、
バスターを後方へ吹き飛ばす。
「こいつは・・・」
突然の出来事にムウがビームサーベルの出所に目を走らせた。
そこには、投擲体勢のままの恰好のストライクがいた。
「坊主か。助かったよ」
「はい・・・」
自分がアークエンジェルの危機を救ったというのに、キラの反応は薄い。
若干の違和感に首を傾げたムウだったが、今はそんな事に構っている暇は無い。
急いでアークエンジェルに通信を入れた。
「アークエンジェル、第八艦隊はまだか!」
これ以上の戦闘はこちらに不利になる。まだナスカ級が隠れている可能性もあるからだ。
メビウス0は中破、ストライクは装備の大半を失っている。
ジンメビウスは2機を相手に持ち堪えているが、
敵に増援があればそれもどうなるか分からない。
嫌な汗が全身を濡らしているのを感じていると、ミリアリアから待ち焦がれた一言が返ってきた。

 

『見えました、第八艦隊です!』

 

無線の内容に、ムウは胸を撫で下ろす。この距離まで近付けば、敵も手出しは出来ない筈だ。
損耗した戦力で大艦隊を相手にする程愚かでなければの話だが。

 
 

『ミゲル、タイムアップです!』
苛烈な機動戦の最中、耳を叩く幼い声にミゲルはハッと我に帰った。
タイマーを見ると、10分に設定されていた作戦時間が0を切っていた。
しかし、2機がかりでジンメビウスを撃破する算段が、未だジンメビウスは無傷である。
それどころかブリッツもハイマニューバも弾薬が尽きかけ、
ハイマニューバにいたっては左腕を肩から切断され、所々被弾していた。
こんな体たらくでは、帰投など到底出来ない。
「だがまだ・・・!」
『ミゲル、撤退です。敵艦隊が来る』
戦闘を続けようとするハイマニューバをブリッツが捕まえた。
ニコルのはっきりとした口調に、ミゲルは今度こそ我に帰る。
「・・・そうだな仕方ない、撤退する。イザーク、ディアッカ聞いてるか!」
『・・・っ―――了解!』
『・・・・・・』
ミゲルが各機に撤退指示を出す。
ディアッカからは応答があったものの、イザークからの応答が無い。
デュエルのシグナルは確認出来る事から、撃墜された訳では無い筈だが。
「おいイザーク!」
『・・・分かった』
再度呼び掛けてやっと、苦虫を噛み潰した様な声で応答が入った。
全く、プライドが高い坊ちゃんは扱い難い。ミゲルは溜息を吐くとガモフに撤退信号を送った。
直ぐにガモフから援護射撃が展開され、全機が後退を開始する。
「まだ、諦めないからな。蒼い奴!」

 

こちらが撤退の意思を示すと、蒼いジンも脚付きの方へ戻っていった。
奇襲作戦は失敗した。だが、まだ手は残されている筈だ。
ミゲルは憎しみと畏敬を含んだ目付きで、遠ざかる蒼い影を見送った。

 
 

【前】 【戻る】 【次】