――『士官アカデミー』中庭――
俺は、昼休みの間に中庭にある大きな木の下でよく読書をする。
『あの人』の勧めで、俺と『相棒』がプラントの『士官アカデミー』に入学してから一週間経過した。
本来、俺のような『プラント』では外様の人間が、『アカデミー』に入学できたのは、
俺の師匠に当たる『あの人』と、身元保証人としてお世話になっている最高評議会『外交委員補佐官』。
それに、『相棒』の兄である『英雄』として有名なザフト軍の司令官の推薦があったからなのだ。
『あの人』と同様に、後の二人ともとてつもない人達で、流石にプラント屈指の『人傑』と噂される事はあるのだ。
――それと内緒だが……『天才と○○は紙一重』という言葉も実感で理解できたのだった……
俺の『師匠』である『あの人』も二人に劣らずとんでもない非常識な人間であるのは、確かだ……
無論、良い意味で……だろうか……?
ともかく!俺は、その人たちのお陰で『アカデミー』に入学する事ができたのだ。
無論、裏口入学ではなく、ちゃんと試験を受けて受かったのだ……ここは俺達の名誉の為にも強調させて頂こう。
そう、入学試験前の3人に絞られたあの日は、もう思い出したくもない……
お陰で眠ると夢で、未だに『仮面』の高笑いや、ピキーン!の効果音が頭から抜けていない状態だ。
あの入試直前の日にわざわざ、あの人たちは、徹夜で激励?をしてくれた事件の為に……
詳しく思い出したくないが……だいたい以下のような感じだったのだ……
『かまわんよ。名前さえ書ければ合格だからな、アッハハッハハ――』
『いいか?男は事の前夜に一升瓶で酒を一気に飲んでこそ一人前だぞ!○ン!!』
『フフフッ!目出度いね!君らも晴れてアカデミーに入学かね!』
絶句している俺達に対して、俺は実の『妹』にも、
『……もう、マ○、寝るから。お兄ちゃん達も明日早いんじゃないの?』
――バタン!
と無常にも、自室の扉を閉めて、見捨てられる始末だった。
そして、明け方近くまで地獄の宴会は続いたのだった……
当日、俺達は睡眠不足のハイ状態で試験に臨み、見事に『合格』した。
試験結果は、二人揃って、『首席』『次席』を連続で取ること出来たのだ。
後から聞いた話だと、殆ど試験の点数は同点だったが、俺の答案一箇所にスペルミスが無ければ、
『アカデミー』が始まって以来の同時『首席』が誕生したのだそうだ。
ちなみに、実技は俺がトップだった。
試験が終わった後、俺達はぶっ倒れて、そのまま一日寝込んでしまった。
睡眠を激しく貪った後に、腹が爆発的に減った俺達は、
屋敷の食堂でガツガツと飯を食っていた。俺は激しく喰い、『相棒』は優雅に食す。
食べた量は、殆ど同じ位だったそうだ。
そして、腹がある程度一杯になって一服をしていたら『相棒』は、
『……いいか、あれは『兄』達の一流の冗談だ。気にするなよ、シ○……いいな?』
『わっ……わかったよ、そうだよな……レ○の言う事だから間違いないよな……?』
鬼気迫る相棒の様子に俺は、全てを肯定する事を約束した。
その例の三人は、あれだけ騒いだ後でも平然と、『仕事』に行ったと言う……
どういう神経をしているのだろうか?
何はともあれ、俺達はアカデミーに入学できた。
一応、学校の寮に入ることになっていたが、週末は基本的に俺達は、『屋敷』に帰っている。
そして、一週間経ったが、流石にアカデミーだ。
モビルスーツ模擬戦・ナイフ戦闘術・情報処理・射撃・爆薬処理・座学……その他、諸々etc……
一気に濃い内容の授業を受けさせられる。他の生徒達も選ばれただけの事はあって、授業に難なくついて行っている。
――まだ短い期間しか学んでないが、俺はかなり充実した日々を送っていたのだ。
ちなみに今、読んでいる本は、『相棒』の例のお兄さんが執筆したという、『花とサムライとMS』というMS戦術理論本だ。
……これは、年間の『プラント・ブック』の売り上げ№1の本だというのだ。
……タイトルは凄いが中身は、れっきとした分かり易いMSの解説と運用の理論本なのだ。
MSを知らない、一般の人にも分かりやすく解説してある。
多芸だよな、と俺は思う。この人は、『歌って』『踊れて』『書いて』
しかも『最強パイロット』で『天才指揮官』か……
TVのドキュメンタリーだけでなく、解説や歌番組やTVのCMにも出てるし。
「俺には無理かな……」
と遂、黄昏てしまう。
自分の周りをこんな『天才』に囲まれていると、自分が矮小な人間のように思えてしまうのだ。
俺はため息を吐くと、開いた本を顔に載せてその場で寝っころがった。
暫くして、キャッキャッと明るい声が俺の耳に入って来る。そして、二つの影が俺の身体を覆った。
「なーに、黄昏てるのよ!」
「ん……?」
俺が、本を顔から除けると、丁度目の前を二つの顔が、興味しんしんと俺の顔を覗き込んでいた。
一人は赤毛で一本だけ髪の毛が跳ねているショートカットの少女と、
もう一人は、その少女と良く似た赤毛のツインテールの少女だ。
確か、入学式で周りから『美人姉妹』と呼ばれていた連中だったかな?
俺達二人は興味が無かったので、入学からここ一週間の間、この二人に特に関わっていなかったのだ。
「えーと……アべ……マリア……さん?だっけ?」
と、俺が何気なく彼女の名前を言うと、何故か赤毛のショートカットの少女は、顔を引きつらせながら、
「……ル○マリ○よ。○ナマ○ア・ホー○……ゲ○じゃないの!!よろしくね『天才』の片割れさん……!!」
今、気が付いたが、跳ねた彼女の一本の髪の毛が稲妻の形に見える。
見てておもしろい。それに今、彼女何て言ったんだ……『天才』?誰が?
そう言うと、彼女は口元を歪めながら、
「あ~ら。ご謙遜?入学試験『次席』だったじゃないの?しかも実技は『トップ』なんでしょ?」
あの程度、何でもないよ。俺の『相棒』なんか『首席』のトップだぜ?
それに、俺の近くにいる人達は、全員が本当の『天才』だしな。
「……何でもない……それって、嫌味なのかしらね……」
プルプルとますます、彼女の機嫌が低下しているようだ。何か俺、悪い事を言ったのだろうか?
……彼女は、何を怒っているんだ?と、俺は今度は、彼女の妹さんの方へと話を振ると、
何故か今度は、妹さんの方は顔が赤くなった。
……ますます、よくわからない。
「――○ン」
そこへ、都合よく『相棒』がやって来たので心底、ホッとする。
「じゃぁ、悪いけど俺達、これから用事があるから」
と怒る姉と顔を赤くする妹の二人を相手に、軽く手を振って別れる事にした。
妹さんの方も、何か俺に用事があったみたいだけど、また、今度にしてもらおうか。
そして、俺は『相棒』と一緒にその場を後にするのだった。