機動戦士ガンダムSEED True Destiny PHASE-48A

Last-modified: 2007-11-17 (土) 18:58:12

『皆さん、私はプラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルです』

 ────48時間後。

 正確に言うなら、前にカガリが放送を開始した時点から、秒単位できっかり48時間後に、プ

ラント側の放送が始まった。

「なにっ!?」

 住民疎開の為、オーブ政府所有の白いバンの上で陣頭指揮を取っていたカガリは、デュラ

ンダルからの回答を報告され、一瞬、戦慄した。

 しかし、それは送られてきた回答文書に目を通した時、別種の驚愕に変わる。

『私はオーブ連合首長国代表、カガリ・ユラ・アスハ氏の提案に対し、これを受け入れる決断

をいたしました。これは私があくまで人類の救済と恒久の平和を求めることを証明するための

ものです。我々としては、前段階における軍備縮小の提案に対して、直ちに折衝に入りたい。

と、同時に、他の地球圏各国に対しても、オーブと足並みをそろえて、デスティニー・プランの

導入に対して積極的に動いていただきたい』



機動戦士ガンダムSEED True Destiny

 PHASE-48 『ホライゾン』



「意外だな……」

 アークエンジェルの艦橋。

 ネオが呟くように、静かに言った。

「なにか裏を感じるわね……」

 マリューは、口元に指を当てながら言う。

 その傍らで、ミーアは胸を撫で下ろすように、緊張をほぐしていた。

『私もそう思うが、向こうが受け入れを表明してきた以上、こちらとしては突っぱねるわけにも

いかない』

 モニターの中のカガリが言う。

「それはそうだ」

 ネオが言う。

 別のモニターに、エターナルの艦橋、正面にバルトフェルドが映し出された。

『エターナルは、ストライクフリーダムとインフィニットジャスティスとオーブに降りる必要がある。

オーブ艦隊の指揮を任せたいが、構わないか?』

「こっちは別に。あ、でも降りるのならキラ君も一緒に。地上の医療施設にかけたほうが良い

わ」

 マリューがそう言うと、モニターの正面に向かってミーアが顔を上げた。

 その背後で、アスランが何かを考え込んでいる。

『キラの様態はそんなに悪いのか?』

 カガリが訊ねてくる。バルトフェルドも浮かない顔をしていた。

「肉体的には特に。ただ、精神的な物かも知れないから、艦の医療施設ではフェロー仕切れ

ないわ」

『了解した。移乗の準備をしてくれ』

 バルトフェルドが応えると、通信が切れる前に、ミーアが前に出た。

「あたしも一緒に行きます!」

『ああ、ミーア様も。カガリと一緒にいないと意味が無いからな』

 バルトフェルドが言う。その言葉尻にマリューが頭を抱え、ミリアリアは呆れたような表情に

なった。

『あとは、こちらから出す、レクイエムとメサイアの検証チームが必要だが……』

「カガリ」

 ミーアのさらに斜め後ろに控えていたアスランが、ミーアより1歩前に出て、カガリに呼びか

ける。

『アスラン?』

「俺をその検証チームに加えてくれないか? レクイエムでも、メサイアでも」

 アスランのは自分の胴に手を当てて示すように、主張する。

『…………解った』

 カガリは少し沈黙した後、重い口調で口を開いた。

『信頼できる人物に越したことは無いからな』

 カガリが応じても、アスランの表情は険しいままだった。

「…………すまない」





 一方、メサイア。

「検証チームの編成をしてくれ。技術者を中心に」

「了解しました」

 議長席から立ち上がりながら言うと、補佐官を伴ってその座から降りる。

「私はアプリリウスに戻る」

「本気ですか、議長?」

 補佐官が、驚いたように聞き返す。

「当然だろう、私がここにこもっていてはどうしようもない」

「おやめください。安全を確保できません」

 補佐官が諌めようとするが、デュランダルの足は止まらない。

「どの道オーブまで行かなければならない。それに、私がここに篭っていては、他の国の首脳

も態度を硬直化させるだけだろう」

「それも予定のうちだったのでは?」

「政治の状況は常に変わる。レクイエムの使用が憚られる以上、計画の変更はやむをえな

い」

 補佐官はなおも食い下がる。

「それでしたら、せめて軍用艦の中に。オーブへの移動準備とすれば、言い訳も立つでしょう」

「ふむ」

 カツリ。デュランダルがようやく足を止めた。

「ミネルバは選択肢に入るか?」

 デュランダルは補佐官に訊ねる。

「はっ? はぁ、月艦隊所属でしたら、すぐに呼び出せると思いますが……」

 補佐官は逆に首をかしげる。地上の国家への示威行為を避けようとしていたのに、今度は

陽電子砲搭載の大型戦艦を呼べというのは、どういうことだろうか?

「ならば手配してくれ。それと、レイとシン・アスカはどうしている?」

「今はメサイアで待機しております」

 ますます首をかしげながらも、律儀に応える補佐官。

「は。デスティニーとレジェンドもミネルバに搭載いたしますか?」

「当人たちだけで構わん」

「了解しました」





 数時間後────

 エターナルは、ストライクフリーダムとインフィニットジャスティスを搭載してオーブに到着して

いた。

「MS 2機はハンガーへ降ろせ。乾ドックへの引上げ作業を開始しろ」

「やれやれ、なんだか向こうさんの手の内に乗っているような気がしてならないな」

 バルトフェルドが不機嫌そうに言う。

「こちらから言い出したことだからな」

 礼装姿のカガリが、不機嫌そうに言い、ジロリ、と、バルトフェルドと共にいたミーアを睨むよ

うにする。

 ミーアは、ビクッ、と身をすくめた。

「止せカガリ」

 バルトフェルドが、カガリの視界からミーアを遮る。

「ひとまずレクイエムを発射される危機は去った。お前はオーブの代表だろう、現状の安全を

優先に考えろ」

「しかし、キラは倒れたままだし、アスランだって降りてこなかったじゃないか」

「ははぁ」

 カガリの言葉に、険しい表情だったバルトフェルドは、ニヤッとおどけたような表情になる。

「ははぁ、お姫さんはアスランが降りてこなかったからカリカリしているのか」

「そんなんじゃない!」

 カガリが声を荒げたのを見て、ミーアは目をきょとんとさせた。

「ちょっと、今の話どういうこと?」

 バルトフェルドの服を引っ張り、問いただす。

「え、いや、アスランの奴、このお姫さんと結構良い仲だった時があってなぁ……指輪プレゼン

トしてたときもあったかな」

 ニヤニヤとにやけながら喋るバルトフェルド。

 ミーアは、はぁ、とその場でしゃがみこみ、両側に頬杖でうずくまる。

「がっかり。てっきりあの人、ラクス様一筋だと思ってたのに」

「あいつの話はやめろって! 大体、私だって振られたんだっ」

「何」

 カガリの言葉に、ミーアの目が見開かれる。一瞬輝きを伴って瞬いた。

「なんだか、ミネルバから一緒に脱走してきた変な女とイチャイチャしてるって」

「ほほぅ、そーですかそーですかあたしには手も出さなかったはずなのにどこぞの馬の骨に手

を出してますかあの男は」

 ザッ、と立ち上がるミーア。

 そして、ミーアとカガリはお互い、顔を見合わせると、

「同志!!」

 がしっ、と宙で腕を組み合わせた。

 そのやり取りを見て、バルトフェルドの顔は生気がなくなるぐらい血の気が引いていた。

「カガリ様!」

 もう数十秒遅かったら、バルトフェルドがその場で悶死していたであろう空気を割って、オー

ブ軍の士官が駆けて来る。

「ここにいらっしゃったんですか」

「なにがあった!?」

 表情を引き締めて、カガリは訊き返す。

「キラ様の意識が回復されました」





「キラ!」

 看護士が付き添っている個室の病室に、3人がどやどやと入り込む。

「ちょっと! 静かになさってください!」

 そのうちの1人がカガリと知ってか知らずか、中年の看護士は一喝する様に言った。

「僕なら大丈夫です」

 キラは傍らの看護士にそう言うと、ベッドの上で身を起こした。

「心配かけたね、カガリ、バルトフェルドさん。それに────」





「──ラクスも」





「え?」

 ミーアの短い声。カガリとバルトフェルドも、絶句して立ち尽くす。

「……どうしたの? 3人とも。驚いた顔しちゃって」

 にこにこ笑顔で、キラは聞き返す。

「違う、あたし、ミーアだよ!?」

 ミーアは身を乗り出し気味に、自分を指差しながら言う。キラはきょとん、とそれを見て、首を

少しかしげる。

「みーあ?」

「うん」

「そっか」

 ミーアと、カガリ、バルトフェルドが揃って頷くと、キラはまた、笑顔になった。

「今度は芸名名乗るんだね? ラクス」

 ミーアとカガリが、前につんのめってずっこけそうになった。

「そうじゃなくて、第一、ラクス様はもがもぐっ」

 ミーアが声を上げるのを、バルトフェルドの大きな手がミーアの口を塞ぎ、反対側の手でカ

ガリにも同じようにする。

「そ、そーうなんだ、今度別の芸風で売り出すことになってなぁ……それで今、慣らしてるとこ

ろなんだぁ」

 言いながら、ミーアとカガリもろとも身体の方向を反転させる。

「じゃちっと俺たち、用事があるからこの辺で」

「そっか、がんばってね、ラクス」

 バルトフェルドはミーアとカガリを強引に病室から連れ出す。キラは笑顔のまま、手を軽く振

ってそれを見送った。





「精神障害の一種ですな」

 白衣の医師はそう言った。

「精神を圧迫する事象から逃げる為の自己防衛機能と言いますか。表層的な記憶を自ら再構

築し、視覚・聴覚その他の情報も事実の認識を避け都合のいいようなそれに置き換えられて

しまうわけです」

「それで、今のキラには、ミーアが本物のラクスに見えてるって訳か」

 バルトフェルドが言った。

 何かしらの原因もなく、キラがミーアと本物のラクスを見間違うはずがない。

「おそらくそうでしょう。症例としては稀ではありますが例がないわけではありません。広義の

記憶喪失ともいえます」

「治す方法はないのか」

 カガリが聞く。だが医師は浮かない顔をしたままだ。

「短期的な矯正はかえって逆効果です。他の精神疾患の原因にもなりかねない。時間が回復

させてくれるのを待つしかありません」

 室内を、絶望が支配した。






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