機動戦士ガンダムSEED True Destiny PHASE-48B

Last-modified: 2007-11-17 (土) 18:59:20

「いいっすかぁ~?」

 白いツナギの作業着を着た、メガネの作業員が、ハンドマイク片手に怒鳴る。

 年の頃は青年と中年の境目、美形とはいえないがどこか愛嬌のある顔つき。身長やや低め

の中肉中背。典型的なナチュラル、モンゴロイドだ。

 この時代、ナチュラルであっても視力矯正ぐらいは普通に受けるものだが、彼はメガネをか

けている。理由は「一族のポリシーだから」との事。

 ────閑話休題。

「とりあえず、ストフリの予備部品でポン組みしただけっスからー! 調整まだ完全じゃないス

よー」

「わかった~」

 聞こえるかどうかはともかく、キラは地上の整備員に手を振って、タラップから、そのMSのコ

クピットに収まる。

 その全体のシルエットは、ほぼストライクフリーダム。胴体背面下部、人間でいう臀部の辺り

に膨らみがあり、少し女性的なシルエットになっている。

「それにしても……」

 まだビニールのカバーが被ったままのシートに身を埋めながら、キラは苦笑しながら独り言

を呟いた。

「ストフリって略し方、やめてくれないかな……」





「キラ、こんなことさせて、大丈夫なんですか?」

 ミーアは、頭ひとつ以上背の高いバルトフェルドを見上げて、心配そうに訊ねる。

「ん、あ、ああ……」

 一緒になって、キラの乗っているMSを見上げていたバルトフェルドは、ミーアを振り返る。

「こういう時は、できるだけ急激に環境を変えない方が良いそうだからな」

 そう言いつつ、再び、キラの乗るMSの姿を見上げる。

「2年ほどブランクがあるとは言え、あいつはずっと、MSに乗ってるのが日常だったからな」

「ふーん……」

 外の2人のやり取りを他所に、ハッチを閉めたキラは、OSの起動を始める。



 Generation

 Un subdued

 New generation power source

 Drive

 Assault

 Module

 COMPLEX



 OSの起動画面は、ザフトの核動力MSとほぼ同じ。ただ、パワーソースを示すNuclearの文

字列は、別の物に置き換わっている。

「新世代動力……?」

 キラが呟いたかと思うと、トシュン、トシュン、トシュン、と音が聞こえてきた。

「…………なんだこりゃ?」

 まるでMSの動力系の音とは思えない。ヘリオポリス時代に史料でだけ知った、A.D.時代、そ

れも20世紀中頃の熱機関、それを想像させる。

 メインモニターに、機種名が表示される。



 NGMF-X20 HORIZON



「ホライゾン……ホライゾンガンダム」

 キラは呟く。ボディの各部のチェック画面が出た後、正面のメインモニターはメインカメラの画

像に切り替わる。

『はーい、OSの起動は終わりまったか~?』

 通信用のモニターに、メガネの作業員が出てきた。

「うん、ところで、お尻の方からなんか音がするんだけど」

『音? 不規則な感じっスか?』

 モニターの向こうで、作業員は首をかしげる。

「ううん、シュッシュッて言う感じの、連続音」

『ああ、それでしたら問題ないです。アイドル中はしますんで』

「そうなんだ」

 ふぅ、とキラはため息をついた。

『一応調整はしてありますけど、基本的にストフリのOS、エンジン関係だけ弄って移植しただ

けっスから、まだ完全じゃありませんよ』

「うん、でも、エンジンの出力はストライクフリーダムと代わらないみたいだけど」

 ステータス画面用のサブモニターを覗き込みながら言う。

『最大出力はーっス。核エンジンのつもりでガンガン使うと、燃料すぐなくなりますからね』

「燃料!? やっぱり、内燃機関なの? これは?」

 目を円くして、驚いたキラが聞き返す。

『どっちかって言うと外燃機関っスね~。ただ、厳密には燃やしてるのとは少し違いますから、

燃料って言うのは語弊があるんスけど』

 キラは、呆れて項垂れ、ため息をついた。

『けど、最大出力はハイパーデュートリオン並みですし、有効戦闘時間もバッテリーのストライ

クからすれば倍以上のはずっスよ』

「動かすよ、どいて」

 足元の2人が、慌ててその場を離れる。

「こっち入っててください。スラスターの噴射でやられますよ」

 通信を行っている部屋の扉を開けて、作業員がミーアとバルトフェルドを招く。

 『ホライゾン』は、格納庫から歩み出す。

「ん……」

 眉間に皺を寄せる表情を氏ながら、キラはゆっくりと動かしつつ、サブコンソールのキーボー

ドを叩く。

「軽い……」

 キーボードから手を離し、両腕でレバーを握る。

 足で跳躍した後、スラスターを吹かして空中へ躍り出る。

 その瞬間、間の抜けた連続音が消え、「ヒュン……」とかすかな高い連続音に変わる。

 空中で急機動を繰り返す。と言っても、キラからすればほんの小手調べ程度のものだったが。

「ああっ、だめっスよ、いきなりそんな無理させちゃ」

 管制用のコンソールに向かっていた作業員が、目を白黒させて言う。

『大丈夫だよ、このぐらい』

「やれやれ、こうして見てる分には、いつものキラなんだがな」

 やり取りを見て、バルトフェルドは半ば呆れたように呟く。

『それにしても軽い……、ストライクフリーダムよりずっと』

「核エンジンは容積の割りに重いっスからね~。それに、NJCも抱えることになりますし」

「ふむ」

 作業員の後ろで、バルトフェルドが感心したように鼻を鳴らす。

 MSに対する造詣のないミーアは、置いてきぼりにされていた。





「わが国に滞在?」

 執務室のモニター越しに、カガリは会話している。

「それは構わないが」

『そちらに滞在し、地上の各国代表との会合についても調整したい』

 モニターに写るのは、デュランダル代表。

「そう言うことであれば、わが国としては拒否する意思はない」

 カガリは憮然とした表情で答える。

『ただし、訪問には、我が軍の戦闘艦を用いるが、構わないだろうか?』

「戦闘艦?」

 デュランダルの言葉に、カガリは怪訝そうに聞き返す。

『交戦の意思はない。オーブ軍の戦闘艦やMSによる護衛を受けても構わない』

「……許諾しよう」

 怪訝に思いながらも、カガリはそう返答した。

 テロリストがMSとその母艦を所持する時勢である。要人、それも一国の国家元首級となれ

ば、非武装のシャトルでの移動を危険と感じるのは当然と言えた。

 だが、それでも何かが気になる。まるで息せき切ったような交渉だった。

「デュランダルにとって、プラントが安全ではない?」

 呟いてから、そんなバカな、と自分で否定する。





 月、ダイダロス基地。

 アークエンジェルのランチがターミナルに横付けされている。

 オーブ宇宙軍の監査官──アスランが見守る中、ザフトの技術官によって、レクイエムの根

幹部分。発振装置と、動力のヒューズにプラスチック爆弾が仕掛けられていく。

 ワンオフの巨大兵器ゆえに、これらの機構を破壊してしまえば、一朝一夕には復旧は不可

能となる。

「爆破します。退避なさってください」

 そう言うザフトの担当者たちと共に、アスランもその場を一度退いた。

「爆破!」

 ザフトの白服を着た男の命令で、起爆装置のスイッチが捻られる。





 ズズン……と響く音がし、通気口から黒煙が噴出した。

 僅かに時間を置いてから、機器室に戻る。

 レクイエムの発振回路は、跡形もないほどに粉々になっていた。

「発振回路の破壊を確認した」

「はい」

 アスランが言うと、ザフト白服は応答する。

 他の機構の解体状況を見ている、他の監査チーム要員を回るために、アスランは通路を歩

き出そうとする。

 ザフト白服は、アスランに付き添うはずだったが、すぐには歩き出そうとしなかった。

「しかしそれにしても、これでデュランダルも終わりですな」

 呟くようなザフト白服の声に、アスランは足を止めた。

「何を言っている? デュランダル氏はオーブとの交渉に取り付けた。他の地上の国家もプラン

トとの交渉を望んでいる。この功績は高く評価されているのだろう?」

 アスランが社交辞令的なセリフで言い返す。ザフト白服はニヤニヤと笑っていた。

「本心でそう思われておいでか? アスラン・ザラ殿?」

「…………もちろんだ」

 少し言いよどんでから、重い声で答える。

「何故そんな話を持ち出す……貴官の意図がよく解らないのだが」

「これは失敬……」

 ザフト白服は慇懃無礼に謝る姿勢を見せた。

「しかし我々も理解ができないでいるのですよ。あれだけ我が軍の妨害活動を行ったアークエ

ンジェルが、何故、いま正規軍として動いているのか……」

 ザフト白服はニヤリと笑いながら、目を細める。

「何故ここへ来て、“偽者”のラクス・クラインが姿を消したのか……」





 アークエンジェルの艦内。

 コンソールに向かうネオ。アカツキのデータを参照していた。

「……妙だな……なぜ……」

 その疑問に答えるものは、まだ、いなかった。




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