機動戦士ガンダムSEED True Destiny PHASE-51A

Last-modified: 2007-11-17 (土) 19:05:55

タッタッタッタッタッタッ……

 2人の女性が、白い廊下を、必死の様子で駆けて行く。

「そこの2人! 病院の廊下はお静かに!」

 すれ違った白衣姿の看護師が、ヒステリックに怒鳴る。

「ごっ、ごめんなさ~い!!」

「す、すみません!」

 2人は速度を落とすものの、パタパタと小走りになってしまっている。





機動戦士ガンダムSEED True Destiny

 PHASE-51 『決意の戦い』





「いいですか、本来ならまだ絶対安静の身ですから、そこの所わきまえてください。患者に無

用の刺激を与えないように」

 看護師はそう念を押してから、2人の前で個室の病室の扉を開けた。

「タリア・グラディス、入ります」

 タリアはそう言って室内に入り、ベッドの上の相手が見えたところで、一度立ち止まり敬礼す

る。

「ラクス・クライン……です」

 タリアに続いて、ミーアもその後から入る。軍隊式の敬礼ではなく、軽く一礼して、室内に進

む。

 上半身部分を起こした病院ベッドの上、点滴と計測機器が繋がれたままながら、デュランダ

ルは目を細めて微笑む。

「違うだろう、ラクスならそこは、『ラクス・クラインです“わ”』と言うよ、ミーア」

「あ…………」

 デュランダルの指摘に、思わず赤面して目を伏せるミーア。

 デュランダルは表情を険しくする。

「プラントでクーデターが起きたそうだね」

「はい。複数のチャンネルで繰り返し新プラントの成立を流しています」

 タリアが、淡々とした口調で答えた。

「私以外の評議員はどうなった……?」

「エザリア・ジュールら、所謂ザラ派、それに同調する者は、クーデター政権の要職に迎えられ

ているようです」

「……それで、そうではない者は?」

 デュランダルが訊ね返す。

「それは……」

 タリアは、軍人らしくなく、言葉を濁し、目を伏せるように視線をずらした。

「構わない……答えてくれ」

「拘束、何人かは殺害された模様です」

 タリアは唇を振るわせつつ、そう答えた。

「そうか……」

 デュランダルは表情をさらに険しくして、一度、窓の外を見やる。

「……2人とも解っているかもしれないが、私は諦めは悪い方でね」

 デュランダルが視線をそのままに言うのを、ミーアはきょとんとして、タリアは表情を引き締

めて聞く。

 デュランダルも真剣な表情で、2人の方を振り返る。まずタリアに視線を向ける。

「タリア・グラディス。貴官をザフト総指揮官に任命する。ミネルバ、それにR.ZAFTに同調しな

い地上部隊を統率、組織してくれ」

「はっ」

 タリアは引き締まった表情で、敬礼した。

「議長!」

 僅かに間をおいて、ミーアが身を乗り出す。デュランダルはかすかに驚いたように、視線を

動かす。

「すみません、私……事情を知らなくて、余計なことを……!」

「そんなことは無い」

 デュランダルは言い、やさしげに微笑んだ。

「むしろ君には感謝している。私は、自分の理念と目的を失ってしまうところだった」

「議長……」

 ミーアはまだ困惑の色が残る瞳を、デュランダルに向けていた。





「いいかー!? 3基は肩にザフトのマークを入れるんだ。フレンドリー・スコークの設定も間違え

るなよ!」

 ホライゾンの工廠にいたメガネの作業員が、男性にしては妙に甲高い声を張り上げる。

 モルゲンレーテ社工場の作業場。4機のMSが作業員たちによってチェックを受けている。そ

の形状はM1Aアストレイに似ていたが、若干異なる印象を受ける。

 そこへ、さらに1機の同機種が、未塗装のまま、動作チェックもかねて歩いてきた。

「シゲさーん」

 作業員の走り回るキャットウォークから、若い作業員が、フロアにいるメガネの作業員に向

かって叫ぶ。

「もう3機、ロールアウト間に合うそうですー」

「おーし、こっち持ってきてギ装始めさせろ! それからラミアス一佐に連絡入れとけ」

「はーい」

 メガネの作業員が言うと、若い作業員はキャットウォークを走って行った。

 しなやかな手が、1基のMSの起動スイッチを操作した。



 General

 Unilateral

 Neuron - link

 Dispersive

 Autonomic

 Maneuver

 Synthesis System



 モニターにOSの起動画面が写る。

「OS、うちの標準ですから基本ナチュラル用ですけど、大丈夫ですか?」

 タラップから、作業員がコクピットのシートに収まっている相手に訊ねる。

「デフォルトのままじゃ大して変わらないですよ。要は調整の問題」

 モニターの表示がコンディションチェック、そして機種名が表示される。



 MBF-T98Adv INGRAM



 表示が消え、オペレーション画面に変わる。ほぼ白一色、胴体部分にネイビーブルー帯が

入っていただけだったボディが、胴体部分が全体が鮮やかな青に染まる。PS装甲が施されて

いる。

 サブモニターの一画に、ホライゾンと同じ、機関の制御情報が表示される。

「搭乗者支援はザフトのOSより便利ですね。ザフトのMS乗りは嫌う人も多いかもしれないけ

ど」

 シホはそう言いながら、サブコンソールのキーボードを叩いて、調整を始める。

「シホさんは平気なんですか?」

「私は元々技術屋ですから」

 キーボードを叩いて設定をチェックしながら、苦笑して答える。

 装備品を設定してから、顔を作業員の方に向ける。

「グレネード系の装備は無い?」

「既存品の改修でよければ、間に合わせますが」

「お願いしてもよろしいですか?」

 少し申し訳なさそうにシホが言うと、作業員は笑みで返した。

「ええ、解りました」



「いいかー、突貫つってもザルじゃしょうがないんだぞ! ロウは少し肉厚になってもいいから

きっちり溶接しろ! 大気圏突破中に漏れたらドカンだぞ!」

 浮きドックのミネルバ。オーブ軍の技術官や整備員が、ホライゾンや新型MS用の液体燃料

タンクを溶接している。

「アークエンジェルの溶接作業終了しましたー!」

「よーし、1班はこっちにまわせ! もう1班は水入れて漏れが無いか確認しろ!」

 タリアはこの場におらず、ヴィーノやヨウランらミネルバの整備員達も作業を手伝っている他

は、アーサー・トライン副長がミネルバ側の責任者として立ち会っていた。





 解放されているミネルバの発艦デッキに、戦闘機と、軍艦の砲塔を折衷にしたような、それ

が運ばれてきた。

「それはー?」

 キャットウォークから、それの上に乗っている作業員に向けて、アーサーが訊ねる。

「MPFM-2『シュワルベ』です。ミーティアの改修型ですけど、エターナルが無いので、戦闘機

形態のままこっちに積むようにとラミアス一佐とグラディス指揮官から」

「ええ、そうなの?」

 どこか困惑気な顔で、アーサーは聞き返す。

「あれ? お渡しした資料に入ってたはずですけど……」

「ええっ?」

 アーサーは、慌てて、手に持っていたクリップボードの資料をガサガサとめくり上げる。

「おーいヨウラン! 格納庫からウィンチ伸ばしてこーい」

 そんなアーサーを他所に、ヴィーノはシュワルベの乗っている台車の元に駆け寄ってくる。





 ゴウンゴウンゴウン……

 格納庫の扉が開き、そこに並ぶ、2台のガンダム・タイプのMS。

 1機はホライゾン。もう1機は、インフィニットジャスティスによく似た、しかし、ホライゾンが持

っている特長を備えた機体。

「…………それで、俺をこんなところに連れてきて、どういうつもりなんだ?」

 シンは、2機のMSを見て、不機嫌そうに、彼をここに連れて来た一行に顔を向けた。

「ええっと……」

 睨み付けるようなシンの態度に、ミーアは少し困惑したような、苦笑気味の表情になる。

「ダイダロスに行ったアスランと、連絡が取れなくなっちゃって……」

「それで、俺に代わりにこれに乗れって言うのか?」

 シンは不機嫌そうな表情のまま、もう一度、インフィニットジャスティス似のMSに顔を向け

る。

「タリアさんに相談したら、君が最適じゃないかって」

「議長も賛成してくれたし!」

 ミーアの傍らに居たキラが柔らかな笑顔で言うと、ミーアもそれを推すように付け加える。

 シンは忌々しそうにそのMSを睨んだ後、険しい顔のままキラを向く。

「いいのか?」

「え?」

 キラはキョトン、として、聞き返した。

「アンタは、この俺が信用できるのか? アンタを憎んでる俺を」

 キラは苦笑して言う。

「信用するよ」

 キラはそう言って、ホライゾンの方に視線を向けた。

「ただ、シンが僕のことを信用できないなら、仕方ないけど……」

「…………」

 シンは、険しい表情のまま、ホライゾンの方を見上げる。

 しばらく、沈黙が流れる。

「シンさん……」

 ミーアが、不安そうに声を出す。

 そして、僅かに間をおいて、シンはキラたちの方に顔を向ける。

「……OSは、俺に合わせて調整しちゃっていいんだな?」

「シン?」

 ミーアとキラの顔が、輝くように笑顔になった。

「やってやるさ、ここでアンタに、逃げ出したなんて思われたく無いからな」

 言うと、シンは走り出し、タラップを上っていく。

 コクピットのハッチを開けると、そのシートに、ドカッと乱暴に身を下ろした。

 起動スイッチを入れる。



 Generation

 Un subdued

 New generation power source

 Drive

 Assault

 Module

 COMPLEX



 ホライゾンや、デスティニーと同じようにOS起動画面が表示された後、やはり同じように、メ

インモニターにコンディションチェック画面と機種名が表示される。



 NGMF-X19 COSMIC



「コズミック……」

 表示される画面を目を細めて見る。

 シンはサブコンソールに設定メニューを呼び出しながら、片手を、ポケットの中に忍ばせた。

 その中に入っている、ピンク色の携帯電話を一度握ると。表情を今までのしかめっ面から、

何かを決心したようなそれに変えた。









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