機動戦士ガンダムSEED  閃光のハサウェイ 第11話

Last-modified: 2007-11-29 (木) 21:08:32

このグループの中心人物であるアマルフィ博士が急遽、退室したことによりこの一角は騒然とし始めた。

アマルフィ博士が血相を変えた事により厭戦気分が主流になっていたMS開発関係者や
生産関連に携わる人々にとっても事態は深刻なものとなったようだ。

――連合がMSを実戦に投入する――

その近い将来の恐怖が明確なビジョンとして突きつけられた。

プラントのコーディネイタ―の絶対的な有利なアドバンテージではないと今更ながら気が付いたのだ。
MSの保有は何もザフトだけのものだけではない――そして、何故そんな単純な事に気が付かなかったのか?と

自分達は対MS戦について何の対策も立てずに、只『ジン』に続く新型のMSを開発していただけなのだ。
連合は所詮、宇宙では鈍重なMAと大鑑巨砲主義でこれからも戦い続けるだろうと、勝手に決め付ける。

地球上での戦いにも既存の航空兵力と通常地上兵力による攻撃手段しかとらないであろうと高を括り、
それならば『バクゥ』や『ディン』、もしくはザウートやジンだけで十分だろう、と

頭の固い『老人』のような固定観念に取り付かれていたのだ……

『なんと甘い考えだったのだろうか?』

今更ながらに深刻に受け止め、ある者はアマルフィ博士に続くように慌しく退出し、
又、別の人は違うグループにこの話を広げようとする。

プラントのそして自分達の未来が懸かっているのだ。
自らの生死を『運命』などという不確かもの委ねるのを良しとしないのだろう。

敵に対して常にアドバンテージを取らねば連合との戦いに勝つことは不可能なのだ。
対MS戦、少数で戦局を左右できるだけのMSの開発。
連合の人海戦術に対して少数の精鋭が旨のザフトが最大限の戦果を挙げるにはどうすれば良いか?

様々な思案で別れたグループの人間は別々の場所に消えていく。
立ち去ろうとしたグループの年配の紳士の一人が

「貴方の仰る様に、MSのシールド搭載と脱出機構の改良はザフトの多くの若者の命を救うことになるでしょうな」

「いえ、実戦で学びえた教訓に過ぎません」

「貴方は卑劣な『連合』を相手に地球上で孤軍奮闘した『サムライ』ですからな。その言葉の重みは違います」

と俺に言い残し去っていった。

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俺は頭を掻いた……概ね間違ってはいない。圧倒的な兵力差を相手に戦っていた事は。

残ったのは問題提議をした俺とギルバートだけになっている。
そう言えばいつのまにかラウも姿を消していた。

俺はグラスに入った酒をいっきに飲み干し、先程の高揚感を徐々に収める。
いずれにしても戦い、敵を破る方法を論ずるのは熱くなる。自分が『戦士』だからだろうか?

圧倒的な敵勢力に戦いを挑まねばならない時。
不利な状況だからこそ策略を用いるのだ。人道的に卑劣な手段だろうと。
嘗ての俺のように――

グラスを片手にギルバートは近くにあったソファーに優雅に座った。
相変わらずのハイソな仕草だ。

「笑えるだろう?」

彼は自嘲していた。

「この程度の想像もできなかったのだ……『新たな種』など……『コーディネイタ―』と言ったところ高が知れてると思わないか?
 こちらが持つ兵器はいずれは敵も手にし、味方に被害を与える……その程度の想像力にも欠けていたのだ」

チィィ……ン

グラスを片手で回しながら指で軽く鳴らす。

「実際、君がもたらしてくれたものは計り知れないものがあるのだよ」

「僕の『世界』での『常識』を語っただけだが……?」

「君の『世界』にとっての常識がこの『世界』にとっては、まだ実際に起こっていない『戯言』なのだよ」

連合との戦いでMS同士の戦闘など全く考慮していなかった。
『ナチュラルはMSを扱えない』という固定観念に凝り固まっていた。

だが、今は違う。MS戦を視野に入れることによって『プラント』の戦略は変わっていくだろう。

「確かに、既存の事は『コーディネイタ―』の方が『ナチュラル』より多少は優秀なのかもしれない。
 しかし、今までの『世界』を作り上げてきた先人はすべて『ナチュラル』なのだ。その事を忘れてる輩が『プラント』には多すぎる」

ギルバートは嘆かわしいと言うように俺に向かって大袈裟に身を竦めた。

「……」

自分も俺の話を聞くまで思い付かなかったのではないのか?

俺は心の中で思ったが賢明にも沈黙していた。
恐らく気が付いているだろうが……その事に気が付かない『振り』をし、ギルバートは俺と話を続ける。

「君のおかげで私の『プラン』も修正されようとしている」

また『例』の話か……
俺は半分もう聞き流してる……入院中に何度同じ話を聞かされたことか。

「また、あの穴だらけの『世迷言』の事かよ?」

俺は心の底からうんざりしながら、最初に聞かされた時と同じ答えを返してやった。

「……厳しいね」

彼は苦笑する。

俺は、入院中に延々と『デスティニー・プラン』という遺伝子特性による、絶対社会の構築について聞かされ続けたのだ。
その『妄想』専用の量子コンピューターの開発と生産まで計画の視野に入れているのを聞いて俺は呆れ果ててしまった。
恐らく、この男はこの『プラン』を異世界の住人である俺に余程、自慢がしたかったのだろう。

かつて、昔の同僚に話してみたところ否定されたらしい。
まじめに取り合う奴の方が頭がおかしいのだが。

こんなものを危険視する奴がいるのなら顔を拝んでみたいものだ。

「あんなもの、阿呆でもない限り誰も納得しないだろう?」

「確かに……『遺伝子』の配列程度で『運命』は決められるものではない……ようだな。もっと外因的要素も計算に入れないと……
  君の話だと『運命』とは残酷な神が決定するものらしいね」

「もういい……あんな馬鹿げた『モノリス』の大群を生産するくらいなら他の事に金を回せよ」

俺は投げやりになりながら、この話題はおしまいだと言うように話を締めくくる。

この男は実務的な行動や判断、政治力には抜群の才覚を発揮するが、
このように自分の『夢』や『理想』とやらが入ると何処かがおかしくなるらしい。

現実を見ることができる優秀な側近が必要だろう。
このタイプの男を野放しにしておいては駄目だ。

「そうだな、そうするか……それに、この『プラン』はプラントが絶対的な『勝者』の位置にいなければ実行は不可能だ。
 そして、……現実的にプラントが地球連合に『完勝』することは先ず不可能だろう。どのようにして有利な条約を結び停戦にもっていける状況にするかだが……?」

ようやく、自分の『妄想』に浸る男からプロの『外交官』の顔に戻り始めた男を見ながら俺はホッとしながら考える。
今の俺ができることは何だろうか?と、そして。

「その方法は、戦いに勝つこと。そう、重要な局地的な戦いを一つ、一つに着実な勝利で積み重ねていく」

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