機動戦士ガンダムSEED  閃光のハサウェイ 第14話

Last-modified: 2007-11-29 (木) 21:10:12

俺は溜息を吐き、酔い潰れたラウに肩を揺するが彼は既に『夢の世界』に旅立ったようだ。
気持ちよく寝息を立ててるのを見ると良い夢を見ているらしい。

……うらやましいことだ。
薄情にも見捨てて帰ってやろうかと思ったが『優しい』俺は友人を観衆の晒しものにするほど鬼ではない。
と自分の心に言い聞かせる。

俺はさて、どうしようか?と思案に暮れていると、

「――ハサウェイさま?」

控えめな声がこの後の思案に暮れていた俺を現実に引き戻す。

『ベルトーチカ』を名乗る彼女が俺の目の前に立っていた。
そういえば、俺も彼女も周囲を人に囲まれゆっくりと語っている時間がなかったのだ。

「君か……見ての通りだよ。こいつ酔いつぶれやがった」

俺はこの『悪友』を餌にして彼女との会話を楽しもうとした。
美人との会話は気分が良い。
丁度、恰好な話題のネタがここで『アザラシ』のように寝そべっているのだ。
使わない手はあるまい。

彼女は『まぁ』と軽い驚きの仕草をする。その仕草を見ながら
中々可憐だな……と目の観賞を楽しむ。

「クルーゼさま……『ラウ』のこのような姿を見たのは――私、初めてです……」

ベルトーチカは心底驚いているようだ。
それはあたかも長年の知人や友人の意外な面を見たことに驚嘆するかのようだ。

今、彼女は『クルーゼ』では無く『ラウ』と彼のファーストネームをしかも呼び捨てにした。
彼女は、ラウと親しい仲なのだろうか?と僅かに嫉妬に近い感情が生まれる。

「君は驚いているようだけど、こいつとは長い付き合いなのかな?」

「ええ、そうです。私にとって小さな頃に可愛がってくれた優しい『兄』のような方ですね」

「『優しい』……誰が? それに『兄』……? こいつが……?」

俺は完全にカウンターで酔い潰れている『仮面男』を疑わしげに見つめる。
――この『破滅嗜好』の『マゾ野郎』が優しいね……と自分の事を棚に上げて俺は心の中でラウを罵る。

「ええ、『優しい』『兄』達です。私もそうですが……年の離れた『弟』の事をとても大切になさっています」

「『弟』……?」

思考が停止した。そう、とっさに俺は誰の事かわからなかったのだ。
ラウの『弟』……やはりその『弟』も仮面をつけているのだろうか?
と不埒な考えが浮かぶ。

「ぶっ――!」

「? ……どういたしました?」

「い……いや、なんでもない――」

「……?」

俺が不真面目な妄想に浸ってるとは気がつかずにベルトーチカは話を続けた。

「――『レイ・ザ・バレル』……ラウが現在、重要な軍務についてる関係で、今はデュランダルさま……『ギルバート』が引き取り彼の元で生活しているようですね」

「ああ、レイの事か……そういえば『仮面』を抜かせば……似ているな」

俺はギルバートの元で暮らしている金髪の『美少年』を思い浮かべた。
町を歩けば同じ年頃の少女が10人中が10人が必ず振り向くであろう。
やはり……人生とは不公平なものだ。
こいつも『イケメン』というわけだ……だから仮面を被ってんのかよ。

『遺伝子』を都合良くコーディネイトしてもやはり限度があるのだろう。
元が駄目ならどんなに弄っても駄目なものは駄目だ。

「そうか……レイはこいつの『弟』だったのか……こいつみたいに『捻くれた』性格にならないように注意しないと」

俺は酔い潰れてる仮面『アザラシ』を見つめてそう呟いた。
彼女の前なので、こいつの事をかなりソフトに表現してやったつもりだ。

彼女は口元を隠し鈴を転がすような声でクスクスと笑いながら

「酷い事をおっしゃりますわね。当人の目が覚めているときに今と同じ事が言えるのですか?」

「いいや」

俺は胸を張って轟然と言い放つ。

ベルトーチカは俺の態度に一瞬、呆気を取られたが直ぐに笑いだした。
少しポイントをずらし過ぎたのだろうか?

「仲がおよろしいのね。少し羨ましいです」

「ははっ、馬が合うんだよ。お互い捻くれてるから――」

「いいえ――純粋だからです」

べルトーチカの言葉にその俺は口ごもる。他人に俺の何がわかるのだろう?
嫌なことを言う子だ……俺は話題を無理やり変えた。

「――そう言えば、ギルバートとも君、親しかったんだったよな?あいつはここの有力な『パトロン』と聞いたのだが」

「ええ、それだけではありません。私にとって『ギルバート』もラウ同様に親しい『兄』のようなお方です」

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結局、あれからお互いがそれ程、理解できるほどの親しい話をしなかった。
彼女の……『ベルトーチカ』の事は何一つわからなかったのだ。
ギルバートとラウが彼女の幼い頃から親しかった程度の事しか理解できなかった。

あの後、俺は酔い潰れている仮面男をネタにして彼女を相手に冗談を続けただけだった。

そして、夜が深けた為に会場を辞す事となった。
ギルバートは別件が入った為に俺達に先に帰るように言ってくれた。

迎えの車の前までベルトーチカは俺達を送ってくれた。

「じゃあお休み。良い夢を」

「はい。ラウの事をよろしくお願いいたします」

「ああ、任せとけ。ザフトの『トップ』エースが道端で酔って倒れてるなんて事件は明日の朝刊には載らないよ」

「まぁ」

お互い笑い合いながらお別れを言う。
別れの間際に彼女は俺に何かペンダントのようなものを手渡した。

「ん?なんだいこれは……?」

「ハサウェイさま――戦場にお戻りになるのならば――どうぞこれをお持ちになってください」

「え?」

何だと?彼女は今何と言ったのだ?
その疑問を投げかける前に手渡されたものを見て愕然とした。

「これは――!?」

「お守りです……きっと――貴方を護ってくれます――」

「どうして……どうして、これを……この『紋章』を君が知っているんだ……?」

赤い『ユニコーン』のエンブレム ……まるで『A』か『M』の文字とを模し合わせたかような。

俺はこの『エンブレム』を知っている!……知っているどころではない!!

これこそ俺の生き様を変えた男の一人。
――『伝説のニュータイプ戦士』――

「これは貴方が受け継ぐべきもの……『ν』の『意思』を継ぐ者は――」

――『Ξ』――

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