私と彼を乗せた車はアプリリウス市 7区の郊外に向けて快走していた。
運転するのは私で、彼は後部座席で踏ん反り返っている。
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『付き合いたまえ。どうせ今日は暇なんだろう?』
私のデートの誘いに彼はつれない言葉を吐いてくれる。
『お前、軍の仕事はどうするんだ? 出撃まで一週間切ってるぞ』
『本日は自主休業だ』
『……お前は艦長じゃなかったのか? オーライ! で、デートの場所は?』
彼は大げさにため息を吐きながら了承してくれた。
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――そして現在、楽しいドライブの最中という訳だ。
私はハンドルを握り、飛ばしながら彼に話しかける。
「踏ん切りはついたんだろう?」
「……まあな」
バックミラーに映る彼は気だるそうに私の質問に答える
「なら、私の元に来い。『ザフト』なら私の伝手で何とでもしてやれる」
軍の中で信頼できる同志が欲しいのだ。
同志と言っても通常の同志ではない。自殺志願者のような真似ごとをさせる為だ。
常人にこの話をしたら、直ぐに私は『頭のお医者さん』の元に送られることだろう。
その点、彼は申し分が無い。
「その事なんだが……正規軍に組み込まれると何かと不便になりそうだ」
「ん? どういうことだ?」
「今回の月攻略だ。俺は暫く裏方に徹しようかと思う。『向こう』でも『単独』での遊撃戦がメインだったしな」
単機のゲリラ戦で月のグリマルディ戦線に展開する『連合軍』を殲滅する。
私は呆れ返った。
本当にそんなコミックヒーローのような真似ができるのだろうか?
「軍を統率していった方が確実だぞ?」
私はまだ確実な方法を忠告してやった。
ザフトと『ガンダム』が連携を取った方が確実だろうと。
「『ガンダム』なら単独での殲滅が可能だ。無駄な犠牲を出す必要はあるまい?」
静かな自信を込めて彼は呟く。
まるで神託を語る預言者のようだ。
「……だが運搬はどうするのだ? 戦艦(あし)が無いのに移動はできまい?」
「元々、単独行動で敵を殲滅する為の『ガンダム』だ……そうでなければ、『弱小テロ組織』が『巨大国家組織』とまともにやり合う事などできないだろう?」
「……そうか」
私は感嘆した。
異世界で彼は一人『地球政府』と戦っていたのだ。ならば……本当にやれるのか?
「見てろよ……月は地獄になるぞ」
彼は酷薄な笑みを浮かべていた……が
私は感動していた。
異世界で彼は一人『地球政府』と戦っていたのだ。ならば……本当にやれるのだろうか?
だが、私のその感動も長く続かなかった。
彼は私の好意を無下にしたと罪悪感を持ったようだ……取り繕うように話を続けた。
どうやら、何か勘違いをしているようだ。苦笑しながら彼は感謝の言葉を述べてくる。
「だが、気持ちはありがたく貰っておくよ。その時が来たら頼む……ん……ふと、思ったんだが……」
「どうした?」
「肝心の……俺の『Ξガンダム』は一体どこにあるんだ!」
後ろで『ハサウェイ』が騒ぎ出した。
呆れたが同時に内心で苦笑した。
冷酷な筋金入りの『テロリスト』であり、人類滅亡にも理解を示す男にしては何処かが抜けている。
「……一瞬でも感動した私は愚か者だな」
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「……ここがデートの場所か?」
「壮観だろう?」
――共同墓地――
一面に墓だらけだ。
ここは会戦以来、戦死した兵士やユニウス7で散った人々の墓標なのだ。
勿論、『中身』が無い空っぽの墓標だ。
「何で男同士のデートの場所が墓場なんだ。俺に死者の冥福でも祈れとでもいうのか?」
墓場と俺とラウ。
似合いすぎだ。
テロリストの俺に祈られても、死者である彼らには迷惑だろう。
ラウの奴は、これから俺達が『地獄』に叩き込む連中の為に、墓でも一緒に作ろうとでも言いたいのだろうか?
「怒るな。墓場(ここ)に用があるわけではない。用があるのは向こうの方だ」
とラウは遥か向こうに見える建物を指で差す。
「教会か?」
「……この世界に神とやらは存在しないようだがな」
この世界での宗教は羽鯨ことエヴィデンス01などの登場により
宗教の権力が失墜したということらしい。
この共同墓地にあるのは形だけの形骸化した教会であり、地下に使用していない『カタコンペ』も存在するそうだ。
無論、礼拝する者などこのプラントでは皆無に等しい。
中では無造作に墓の石材が積まれているそうだ
そいつは別名、只の『倉庫』とも言わないのだろうか?
「オーライ……だがあそこまで歩いて何分かかるんだろうな?」
「ほんの30分程だ」
「怒るぞ」
ラウの冗談を無視して俺達はこの馬鹿広い墓場を回る為の小型電動車に乗ると
礼拝堂にまっしぐらに向かっていった。
そして礼拝堂に着くと、ラウは中央の礼拝場には目も向けずに裏の奥のほうに進んでいった。
俺は慌てて彼を追いかける。
「おい、どこに行くんだ? お祈りするなら向こうだろう……?」
裏の隅に壊れかけた等身大の天使の偶像がほっぽり出されていた。
ラウはそれの側に寄ると、
「慌てるな。うむ。ここを2回まわして、3回ひねる、と……それから……」
ゴ…ゴ…ゴ…ゴ…ゴッ…
ゆっくりと像が動き下に続く階段が現れた。
ラウは振り向きながら呆気を取る俺に向かって言う。
「では行こうか……」
「ベタだな……」
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階段を下り、通路を幾つも曲がり、そしてまた階段を上がる……
いい加減にウンザリして来たぞ。
目の前に何度目かの自動扉が見える。また素通りするのだろうか?
突然、ラウが立ち止まる。俺はそこでラウに文句を言った。
「もうずい分、歩いたぞ。一体いつまで、この状態が続くんだよ?」
「……もう、着いたようだ。実は4回くらい同じ場所を回っていたらしいのだ」
「……」
目の前の自動扉が開くと其処は大型ドックになっていた。
MSの整備の時によく嗅ぐ油の匂いがする。ここはMSの整備工房なのだろうか?
そしてそこには良く知っている男が立っていた。
「よく来たね」
「お前……ギルバートか?」
彼は俺のその問いかけに微笑すると……
「――秘密結社『マフティー・ナビーユ・エリン』にようこそ」