「――秘密結社『マフティー・ナビーユ・エリン』にようこそ――」
呆気に取られている俺の前でギルバートは優雅に一礼した。
俺の横でラウは感心したように手を叩いた。
「舞台の寸劇で食えるな。外交官より似合ってるぞ、ギルバート」
「声援ありがとう、と言っても、構成員は私と君達の未だに3名のみだ……」
とギルバート芝居がかったように両手を大きく広げながら答えた。
「私がメイン・スポンサー。ラウは名誉会長。そして組織のリーダーは君だ、ハサウェイ……」
「いつの間に私は名誉会長となったのだ?」
「今さ……軍の仕事との兼業はキツイだろう? 重役出勤ができるように取り計らったのだ。それとも『正社員』になるかいラウ?」
「最新のMSに乗ることができて、今の職場より5倍以上の給料が出るのならば考慮しよう」
……『マフティー』だと? どういう事なんだ?
頭に血が上り、爆発寸前まで脳みそが沸騰しかける。
脳の血管が切れそうだ。
だが、俺は気を取り直し、深く深呼吸をしながら頭を冷やそうと数を数えだした。
(大人気ない……1,2,3,4,……97,98,99,100……)
ヒートアップが徐々に収まり、どういうことかとギルバートに詰問しようとしたが……
「お……」
「で、何故に『秘密結社』なのかね、ギルバート?」
それよりも、早く俺の横の仮面野郎が前に出て来て、どうでもいい方向へ持って行こうとする……
おい――やめろ!
「一応は、非合法組織だし、『秘密結社』て語呂が良いだろう?――響きを気に入っていてね」
嬉しそうに長髪の野郎もラウの尻馬に乗りながら会話を続ける。
「ふん。まぁ、確かにザフト(Z.A.F.T:Zodiac Alliance of Freedom Treaty=自由条約黄道同盟)も、
プラントの事実上の『国軍』でありながら建前上、『軍隊』ではなく『政治結社』だ」
真面目そうに理詰めぶって応じやがる仮面男。
「そういうことだ。わかってるじゃないか」
と、楽しそうに会話する長髪男。
そして互いに示し合わせたかのように同時に噴き出した。
『あっはははははははHAHAhahaha!!!』
……と笑いがる。
どこが面白いんだ??
三文漫才に呆然としている俺の前でラウとギルバートが馬鹿笑いをする……
俺を完全に無視して……
「何が一体どうなっているんだ……!?」
背景になっている事が堪らなくなった俺は叫ぶ。
ギルバートとラウがピタリと笑いを収めて不思議そうに俺を見つめる。
――まるで俺を察しが悪い小学生を見つめる教師のような眼差しで。
ギルバートが口を開く。
「何って……つくったのだよ。組織(マフティー)を」
「あん?」
俺の疑問をご丁寧にも無視しながら、ギルバートは俺に意味不明な会話を続ける。
「――新生『マフティー』ということになるのかな?……いや、この世界では最初の『マフティー』になる訳なんだが……
このような場合は……どうなるんだろうね、ラウ?」
話を振られたラウは一瞬考え込む様子を見せるが
次の瞬間に――
「うむ――どうしたものだろうな、ハサウェイ?」
何が何だかわからん俺の方に丸投げしてくれやがった。
====================================
俺達はドック内を歩きながら会話を続けていた。
こいつは……ちょっとした軍需工場に匹敵する規模だ。
だが……それにしては人の姿が見当たらない。周りのメカは正常に可動しているというのに
「……つまりは、どこの公的機関とも関わらない『非合法組織』を創りたかったと……そういうことなのか?」
「簡単に言えば」
「ほぅー。事前の相談も無くよくやってくれやがった。俺がそう簡単に乗ると思っているのか?」
「乗るさ。君にとっても必要な事だろ?」
「……冗談ではないようだな」
「それより、ここは『アプリリウス市』を構成する『コロニー』内で廃棄されたスペース部分を活用したものだ。
そこを私が、叩き値で買い取って、有効に利用している訳だ。凄いだろう?」
「お前が……?」
「そうだ……他の誰にも目を触れさせたくなかったし、利用させたくなかった――」
ドックの奥に進む。
そこで俺を待っていたもの……
暗闇のベールに包まれながら、確かな鼓動が響き渡る。
ウィィィィン ウィィィィィィン ウィィィィィィィン
工場内に響く可動音とそして、二つに輝く双眸が俺達を迎えてくれた。
頭にあたる部分から4本角のシルエット。
そして突き出たボリュームのある両肩。
如何なるものをも、粉砕が可能であろう両腕。
その巨体を大地に立たせる雄々しい両脚。
そして特徴的であり鋭角な印象を与える胸部。
何者をも貫く事は敵わぬ『重装甲』
「『ガンダム』を……ね」
ギルバートが憧れに似た眼差しで『それ』を見上げるの様子を見て
俺もラウも同時にその『巨体』を見上げる。
「……久しぶりだな『相棒』」
俺は思わず呟いた。
と同時に、工場内のライトが点灯し、暗黒のベールが取り払われ、
その巨大な全身が浮かび上がった。
そこには、久々に垣間見る『俺』の『相棒』が聳え立っていた。
――『Ξガンダム』――
既に完全な状態で、『主』の帰還を待ち侘びるかのように――
――駆動音が響き渡る。
『白い悪魔』と呼ばれた者の正統なる後継者。
フォォォォォォォ――ォォン フォォォォォォォォ―ォン
――我蘇らん――『戦場』を熱く疾く駆けたいと――
駆動音は、俺にそう語りかけてきた。