機動戦士ガンダムSEED  閃光のハサウェイ 第28話

Last-modified: 2007-11-29 (木) 21:19:00

俺は、『メガ粒子砲』によって生み出された大穴に飛び込むや否や、『入り口』付近で、高速飛行形態を一旦解除する。
そして、即座に姿勢バーニアを吹き、加速によって生じた猛烈なGを緩和した。

……万が一にも有り得ないが、待ち伏せに注意したのだ。

今さっき、無理やりにこじ開けた『入り口』の周辺は『メガ粒子砲』によって生じた莫大な破壊の奔流で消し飛び、
兵を伏せ、重火器を装備したMAの大隊や130m護衛艦が準備万端に待ち構えていても、今の一撃でバラバラの破片となっていることだろう。
例え、他の用意周到な、罠があったとしてもそれを噛み破った自信がある。

だが、『前回』の俺は、罠がある可能性を察知していながらも、
その情報を然程に、重要視せずにいた為に手酷い目にあったのだ。

そして、身勝手な希望的予測によって『俺』と『Ξガンダム』は生涯最大の『敗北』を喫したのだった。

――『ガンダム』は勝利と共にある――

その輝かしい先達の伝統ある『御旗』を『俺』と『Ξガンダム』は地に落とし、泥に塗れさせてしまったのだ。

屈辱でもある。『赤いユニコーン』をこの身に背負った今なら尚更に……

そうだ――

――敗北も失恋も一度で十分だ――

今回の作戦は即効とはいえ備えを怠れば、即座に敗北へと繋がる。
――死とは、備えをする者にとってこそ最も遠いものなのだ。

俺の意思に連動してガンダムの目は輝き、ビィィン!と索敵用センサーが作動する。

俺は『大穴』に飛び込むと同時にセンサーを最大限に発揮させ、周囲の探索を瞬時に行い状況を把握していた。
ガンダムのコンピューターが、一瞬で周囲の予測範囲CGを構成し『サイクロプス』までの道程の最短距離を弾き出す。

予め、ギルバートやサラが基地周辺の内部構造を入手に成功していたのだ。
重要な軍事拠点で無い事が幸いし、比較的正確なデータを入手出来たのだという。

それを予め『Ξガンダム』のコンピューターにセットしておき、今現在の周囲状況をセンサーをモニターさせながら、
ガンダムに備わったコンピューターが予測を立て、メインモニターの一部に道順が瞬時に表記された。

最下部に『サイクロプス・システム』が表記され、そこに辿り付くまでの道順の軌跡が表記される。
その情報を一瞥し、俺は決断した。

……やはり一直線に『道』を切り開くのがベストのようだ。

途中、居住区や施設があるが一切考慮しない。破壊して進むしかないだろう。
『サイクロプス』を潰して基地を崩壊させる事が勝利への近道だからだ。だが、躊躇いもどこかにある。何も知らない一般の兵士たちは……

その思考は脳裏で瞬時に行われていた。
同時にガンダムがウィィンと反応する。
俺は苦笑する。

「……わかってるさ、俺の躊躇が更なる死を招くだろう。今、外で頑張っている『あいつ』の為にもな」

気遣うかのようなガンダムの反応に、俺は優しく答える。

何も知らない人間から、見ればそれは笑止な光景だろう。
常識からすれば、意思を持たないメカが人を気遣うはずはないのだから。

だが、パイロットと愛機の間には余人が計り知れない絆が存在するのもまた事実だ。
俺はただそれを知っているだけにすぎない。

俺が、決断を下すと同時にガンダムは高速飛行形態に再び変形する。
一直線に『サイクロプス』への『道』を目指す。

ナビの指示通りに直線に進むと、『サイクロプス』への『道』へと続く最初の障害が隔壁となって現れる。
俺は加速しながらビームサーベルを構えると一気に障壁を切り裂いた。

薄紙を破るかのように両断された障壁を突き抜け、俺は広がる空間へと踊り出た。
そこはちょっとした空洞・ジオフロントとなっている。地下都市に似たビルや工場や作業場が溢れていた。
戦艦修理ドックや恐らくは、MAの製造及び修理工房らしき建物も見える。

周囲の状況を即座に確認すると、俺はガンダムの各ブロックから搭載された多弾道ミサイルを容赦なく発射する。
辺り一面に向かって、ミサイルは無秩序に飛び回り広範囲にビルや工場、施設を破壊しまくる。

病院と収容シェルターらしきものはわざと直撃を外した。
甘いかな……?唇の端を歪める。

全て消し去る。
枯れ木も残すつもりはなかったのに。

だが、『サイクロプス』が発動されるか、破壊されるかすれば、結局のところ彼等に生き残る術はないのだ。
自己満足の類である事は身に染みている。

散り、逃げ惑う兵士達の様子を見ると、まさかここまで、敵が侵入するとは思っていなかったのだろう。元々は地下資源採掘用に建設された基地なのだ。
軍としての統制が全く取れておらず、既に烏合の衆だ。

散発的に、間に合わせ用の機銃照射装置の砲台からの攻撃があるが、直ぐに沈黙させた。
今回の間に合わせのジンが使用しているMMI-M8A3 76mm重突撃機銃で……だ。

こいつは、中々使いまわしが良い。ジンだとアサルトライフルだがガンダムが持つと手頃なカービン銃だ。
一発あたりの貫通力自体も相当高く、しかも、ガンダムのパワーで銃柄を握っているので全く反動が無い。
存分に、その高い命中精度と連射性能の兼ね備えを発揮してくれる。

『向こう』でも実弾兵器を軽視する輩がいたが、実際に使用してみて存外馬鹿にできないものだと俺は思う。
実弾機銃をやや軽視してた自分が恥ずかしい。

敵の反撃に対してすかさず、2ミリずつ照準をずらして機関砲を2台破壊した。
兵士が千切り飛び、吹き飛ぶ様子がガンダムの目に連動している俺の視界に入る。
更に3台の旧式のミサイル発射台を見つけ爆発させた。戦車が数台あったがこれは稼動していなかった為に動かない的となるだけだった。

こいつは抜群の性能だな。弾を貫通できない装甲が開発されない限り、廃れないだろう。だが……時代は確実に進む。近い将来、この機銃の時代は終るだろう。

哀れな守備隊を沈黙させると後はミサイルが生み出す、地獄の劫火がそれ等を包み込む。
残るのは、崩れる建物と物言わぬ死体の山、そして燃え盛る炎のみだ。

その業火は、忽ち悲惨な戦場の惨劇を呑み込み広がってゆく。

俺は、自分が生み出した地獄絵図を一瞥すると、焼け落ちる『都市』を後に目的地へと急いだ。

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――地球連合軍 『エンディミオン・クレーター』資源供給基地・地下脱出用ドック――

ここでは、今、まさに大西洋連邦に所属している『ブルーコスモス派』の将校達が
基地に設置された『サイクロプス・システム』の暴走の準備を開始しようとしていた。

現在、戦況はザフト側に傾きつつあり、この基地の陥落も時間の問題かと思われていた。

この基地の司令官である地球連合の少将は正式には『大西洋連邦』に所属する高官の一人である。
戦況は、副司令に委ねて自分達はある重要な作戦を開始しようとしていた。

この男は『国防産業連合』とその『理事』との関係も深く、『サイクロプス』の使用はその『理事』から直接に命じられたのだ
勿論、『大西洋連邦』の大統領の指示でもなく、連合軍最高司令部の命令も出ていない。

ここ、『エンディミオン・クレーター』で採掘されるレア・メタルの権益を巡って、
その独占権を『大西洋連邦』と『ユーラシア連邦』は巡って常に争っていたのだ。

その為、『ユーラシア連邦』は自陣営の派閥が、大きく占める地球連合宇宙軍である『第3艦隊』を基地防衛の要として
『大西洋連邦』の独断の監視を含めて駐屯させ、反対に『大西洋連邦』は基地司令として自陣営の将官と参謀を駐屯させているのである。

『地球連合』など大層なネーミングの割には組織構造はとんだお粗末であり、主導権争いの内部抗争の連続である始末であり、そして民間の財閥当主の命令が罷り通る有様だ。

地下奥にある、この基地で最も安全な場所。『脱出艇』へと続く近道。
そして、そこは自分たちだけ『ダイダロス基地』へと脱出の準備を進め、『サイクロプス』の自爆によって敵味方問わずに全滅させようとする輩たちの集いの場でもあった。

「閣下、『サイクロプス・システム』の準備が整いました」

「わかった」

部下の報告と同時に基地司令官は重々しく頷く。

「この犠牲により戦争が早期解決に向かうのだ」

もう一人、大佐の階級証を首元に光らせる男がそれに同意し、意気を上げる。

「……よろしい。尊い犠牲の元、宇宙の化け物どもが一掃されるのだ! 彼等の死は決して無駄ではない!」

「うむ。我が、『大西洋連邦』の将校が少ないのが慰めですな。ユーラシアの豚どもめ、囮の役くらいは満足にしてもらわんとな」

中佐、少佐など佐官が盛んに自分等に都合の良い、身勝手な論議を始める

彼等は……大国である『大西洋連邦』の軍上層部の大部分を占める『ブルーコスモス』の派閥に属しているのだ。

「そう、全ては……」

互いが同志を確認する為にある合言葉を唱える。

「「青き清浄なる世界の為に!!」」

彼等は自分たちが用意した脱出船へと向かう。

彼等は思う。この『エンディミオン』で『名誉の戦死』を遂げる将兵達の為に、我々は、ダイダロス基地に帰還し、派手な『追悼式』の準備をしなくてはならないのだ。

そして改めて、我等『ブルーコスモス』の指揮の下で地球連合は対コーディネイタ―士気を派手に揚げるのだ!!

そのようにして、彼等は意気揚々と自分達の掲げる理想とやらの旗印の元に、十字軍気取りの英雄として
同僚達の悲劇を胸に今、凱旋しようとしているだ。

だが……その御立派な『反コーディネイタ―』の闘士である彼等の予定は大幅に狂う事になる。
三人の『極悪人』の手によって……

ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォッォン!!!!

派手な爆砕音と大きくグラッ!と室内が揺れ、彼等の内の何人かがバランスを崩し、転がる。
辛うじて転倒を免れた基地司令官は慌てて、副司令官が残って指揮を取っているであろう管制室への連絡を取る。

「何事だ!!」

『わかりません!!突然、つうし――!! ウぁぁ…!   ガァァァっ!!……』

通信機に怒鳴りつけると同時に突然、オペレーターの断末魔と共に通信が不能となった。

「何だ? 何が起きてるんだ?!」

と聞き返す。だが、それに答えを返す者はここにはいない。

ドォォォォォーーーン!ドガァァァァァアーーーーン

断続で襲い掛かる爆発音と轟音、絶え間なく続く激しい揺れ。

ガラッガラッとしか形容がつかない巨大な破砕音が響き渡り、
そして突然、天井が崩れ落ち、大量の瓦礫の山が彼等の頭上から襲い掛かる。

「ウワァァァッぁーーー!!」

「ギャぁぁぁぁー?!」

「ウガァァァァァ!!」

部屋の中では、血が飛び散り、贓物、骨、脳漿が埃や瓦礫と共に撒き散らされる。
ほぼ、全員が瓦礫の直撃を受けて、肉潰となりミンチとなった。

運良く辛うじて瓦礫の直撃を免れたが、血塗れである事には変わらない『中佐』が、左脚を付け根から失いながら、
何とか瓦礫の間から這いずり出てきた。
そこでふと、霞む目で見たものは……

「あ、悪魔……?」

巨体で圧倒的な異形のシルエットとその顔に当たる部分からは苛烈な閃光を放つ、双眸と言うべきものが……
ウィィン、ウィィィンと悪魔の呼吸音のように響き渡る魔笛。

もし、彼が『東アジア共和国』など、極東出身ならばあるいは、4本の角を生え揃えた『鬼』と呼ばれた存在にも、見えたであろう。

しかし、彼の出身の『大西洋連邦』で……もはや、廃れてしまった教派の『神』の『宿敵』である『悪魔』としか出てこない。
今、縋(すが)るべきは『羽クジラ』ではなく『神』でしかないであろう。

「……神よ」

彼は最後の意思の力を振り絞り唱えたが……
――生憎と、『この世界』の神はずっと前から不在のようだ。

その『悪魔』の両肩が輝き始める。
そして、彼が、生涯最後に目に焼き付けたものは、膨大で灼熱に輝く奔流だった。

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「下種が……」

俺は呟く。

『脱出船』らしきものを確認すると、即座に『メガ粒子砲』で撃ち抜いて辺り一帯を全て消し飛ばす決意をする。

――やはりだ。自分たちだけトンズらしようとしていやがったな。
俺は怒りが湧いてくる。貴様等の部下は残らず死んだぞ……なのに。

灼熱の怒りが俺を支配する。
部下だけ見捨てて、自分等だけ逃げようとするクズどもが。

――『あの人達』は、そのような事は決してしなかった。

『ニュータイプ戦士』達は立場の違いはあれ、リーダーでありながら常に陣頭に立ち、危険な戦場で戦ったという。

戦士であった『赤いユニコーン』は無論のこと、指導者である『赤い彗星』を始め、伝え聞く『アクシズの摂政』、『木星から帰還した男』など。
彼らは全て勇敢だった。そして『親父』も……

尊敬すべき政治的指導者といえば彼らがよく上げられるが、もし俺が正式な軍人で、尊敬すべき軍の上官は?と聞かれれば、俺は自分の『親父』の名を真っ先に上げるだろう。
俺はあの人は尊敬している。父親としても人の上に立つべき人物としても。

もう、二度と会えないが……元気でいて欲しい。母や妹ともども。

怒りが増す。
薄汚いクズども……貴様らそれでも人の上に立つ人間か!!

――死ね。
一人たりとも、生かしてはおかない。

俺の冷たい殺気にガンダムは反応する。
この辺り一帯にミサイルもぶち込まれ、俺の怒りに感応したかのようにメガ粒子砲も火を噴いた。

ミサイルとメガ粒子の閃光は巨大な灼熱の業火の翼を生み出し、あたり一面を火の海と化した。

無論、このミサイル郡は『ファンネル・ミサイル』ではないので、細かい脳波操作などはできないが、
短い距離ならば、ある程度の方向へ向けての発射が可能であり、そして広範囲を焼く尽くし、破壊するタイプである。
今回はそのタイプを大量に搭載していた。

今回の作戦は、完全殲滅が作戦の基本の為に細かい破壊力のあるミサイルは搭載していないのだ。
俺は今回は『拠点殲滅用』の重爆撃機にこのまま徹するつもりだ。

何故、都合よくこの場にいるというと……
『道』を切り開く為に、ミサイルとビームと実弾をばら撒きながら進む俺は、進む先にその『悪意』のあるプレッシャーを感じ取ったのだ。
どうせ、ついでと感じるままに接近すると、ギルバート達の『データ』にあった地下の『緊急非常口』とやらに、小型艇が脱出準備をしていたのを発見した。

――案の定だ。自分等だけ助かろうとする下種どもがいたという訳だ。

怒り狂った俺は即座に、奴等に地獄への片道切符の発行してやったという訳さ。
やや怒りが収まった後、俺は目的地まで目指す。
すぐそこなのだ。

そのまま抵抗もなく順調に進み、あっさりと俺は基地最下部の『サイクロプス・システム』に辿り着いたのだった。

――その地底の底には、無数の巨大な円形状の筒のような物が地下に一面に並べられていた。
さながら、それは神話に出てくる『巨人』達の地下王国を思わせる……

軽く、頭を振る。
急ごう、感慨に耽るのは後回しだ。

すぐさま、ここを始末して外にいるラウ達の援護に出ねば。
メガ粒子砲最大出力。同時にミサイルを一斉発射する。

「いけぇぇぇぇぇぇ!!!」

俺の反応と同時に、ガンダムの両肩の『メガ粒子砲』が再び、輝きを放つ。
と同時にガンダムの各ブロックから『ミサイル』が一斉に飛び出した。

地下深い『巨人の国』へと向かう灼熱の『メガ粒子』の輝きは、まるで『巨人』達を斬り倒す『光の剣』のように『巨人』の群れの中心を両断した。

一瞬遅れて、無数のミサイルがこれまた『光の矢』のように無軌道に『巨人』達に目掛けて襲い掛かった。

一瞬の静寂とともに――

突然、強烈な閃光と共に轟音と爆砕音とが交互に連ね、辺り一面が猛烈な劫火と閃光が乱舞する世界へと変化する。

地底王国は崩壊し、地下に集う『巨人』達が今まさに滅びようとしている。
それは『巨人』達が放つ断末魔であり、『エンディミオン・クレーター』が放つ最後の悲鳴でもあった。

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