機動戦士ガンダムSEED  閃光のハサウェイ 第35話

Last-modified: 2007-11-29 (木) 21:22:51

『Ξガンダム』の目を通じて、俺の視覚を周囲の景色が後方へ後方へと流れ移り変わっていく。

高速飛行形態となった『Ξガンダム』は瞬時に音速に近いスピードを出しながら、
急速に上へ上へと昇ってゆくのだ。

今、コックピットに納まっている俺の肉体に慣れ親しんだ強烈なGが襲っている最中だ。

――『ガンダム』に搭乗した最初の頃は血反吐やゲロを吐いたり、
肋骨を痛めた事が日常茶飯事だった事が遥か遠い過去の夢のように感じる。

だが今は怖いもので、この程度のGが生じないMSの方に物足りなさを覚えるのだった。
此処で根を上げる位ならそいつは、最初から『ガンダム』に乗る資格が無いのだろう。

だが、実際は『ガンダム』に備わっている最新型のパイロットの安全を護る為の生命維持装置や安全装備等。

更にはコックピットに備わっている、全天周囲モニター・リニアシートは強烈な加速とGを緩和させている為に、
確かに今俺が感じているGはそれなりにマイルドな部類になるのかもしれない。

この強烈な加速と衝撃を『ジン』が出しているのならば瞬時に機体はバラバラになっており、
正直、俺自身も木端微塵になって破片も残っていない事だろう。

『Ξガンダム』の性能が極めて高すぎるのも問題なのかもしれない。
俺が『ガンダム』に慣れ親しむのは仕方の無い事だが、『この時代』にあったMSの操縦の適応の修練も忘れてはならない課題であろう。
戻ったら『ジン』を壊さずに乗りこなす訓練を課題としよう。

何しろ、『Ξガンダム』は一機で『この時代』の基地施設や軍勢を丸ごと相手にできる。

嘗て、少数の戦力しか保有しない『マフティー』が地球連邦政府軍と互角に渡り合うことができたのは、
『Ξガンダム』の絶大な戦闘能力に負う処が大きいといえる。

今はまだプラント側の最後の切り札としての『秘密兵器』としてのベールで包み込んでいた方がいいのだろう。
しかし……今、俺の力に耐えられ壊さない機体と云えば……高笑いする仮面の男が頭に浮かび上がる。
あの白いハイマニューバなのだろうか……?

崩壊を始めた『エンディミオン』から脱出しつつある最中、俺はそんな事を脳裏に思い浮かべていた。
……切羽詰っているのに余裕だな……だが、それもどうやら終りのようだ。
シャン!と集中せねばならない時がやって来たぞ!

――行く手である前方(上空)から落下してくる無数の岩盤や鉄板などの類が
無数の飛来物が俺こちらに向かって降り注いで来たのだ!
こいつを全て回避するのに骨が折れそうだな。
一瞬、口元に苦笑浮かべながら俺は回避行動に移る事となる。
精神を集中させる。

ピキィィィーン!

――脳裏を閃光が駆け抜ける!

閃光からイメージが生じる。
一種の未来予知のイメージなのだろうか?
飛来物の軌道。自分が回避すべき方向。
全てが明確なイメージとなり瞬時にそれに体が反応する!

何をしなければならないのか?
頭で合理的に理解するのではなく身体の方勝手に受け答えてゆく。

――前方から、『ガンダム』の大きさに匹敵する、巨大な岩盤が襲い掛かって来る!

「おぉぉっ!!」

――来る!!

俺は叫びながら、機体を大きく回転させ、回避行動へと移ろうとする。
――俺のその意思に感応して、『Ξガンダム』は重厚な装甲で覆われたその巨体からでは、
考えられない程の素早い能力を発揮する!
メインバーニアとサブバーニアの連続した噴射の響きがコックピット内を小刻みに振動させてゆく。

『ガンダム』は大きく回転しながら少しも加速を緩めずに、直進する。
そして左腕のシールドを構えながら、突撃銃を持つ右腕を右水平へと大きく振り上げ、
その反動を利用しつつ、身体を捻りながら大きく右へと跳ぶ!

――姿勢制御を司る各スラスターがフルに作動しているのを肌で感じる。
そのお陰でこの行動中の『ガンダム』の姿勢は微塵も揺るぎが無いのだ。
岩盤を大きく右に跳びながら回避すると、それは後方へと消えていった。

そして、閃光のイメージが再び脳裏を駆け抜けるてゆく。
同時に、『ガンダム』の胴体の半分ほどの瓦礫が襲い掛かって来た。

――次!!

『ガンダム』は俺の感応に応じ、岩盤回避直後に出現したその瓦礫に対して、
左腕に装備されたシールドを上手く使いながら後方にスルーしようとする。

シールドで直接に受け止めるのでは無く、相手を受け流すかのように後方へと追いやってやるのだ
俺の母の故国で『サムライ』と呼ばれた戦士達が使用したとされる『武道』と呼ばれる戦闘術の奥義の一つでもある。

受け流された瓦礫は再び後方へと消えてゆく。
しかし、間断なく次の来客だ。

――また来る!

今度の来客は、手頃な大きさの障壁の破片であようだ。
これは右手にあるMMI-M8A3 76mm重突撃機銃で――
咄嗟に引き金を引き、それに応じて重突撃機銃が火を噴く!!

――ドドドドッ!!

欠片は、銃弾の直撃を受けて、爆散し細かい瓦礫となってゆく。

……一つ間違えれば直撃を食らって、
『エンディミオン』の奥深くの地獄の穴に転落してゆくことであろう。

――その繰り返しだ。
恐らくは、3分と掛かっていないであろうその作業行為が俺にとっては永久にも感じる。

そして、自分が軽業師かピエロにでもなり、サーカスの曲芸を演じているような気分となる。
それも失敗すれば即座に死が訪れるサーカスである。
安全ネットは存在しないのだ。

――だが不思議と恐怖は無い。
俺がこの程度で死ぬ事はずはない!という確信が胸の奥から沸いて来るのだ。

再び閃光のイメージが脳裏で一際、大きく弾けた。

――そして次!!

今度のこの巨大で重厚な岩盤は――!
これは『ガンダム』の倍以上はあるのだろうか?

――ズゴォォォォオ……

俺の目には、その落下してくる特大の岩盤がまるで、
スロモーションのような動作で落ちて来るように見えたのだ。

俺の心は動じず冷静である。
そして、『ガンダム』は、俺の意のままにサーベルラックが存在する肩部ユニットへと右手を回す――

――バシュィィィーーンンン!!!

次の瞬間にその岩盤は巨大な大剣が振られたかのような衝撃と閃光が迸り、
一気に真っ二つとなる。

二つとなった岩盤は『俺』の背後へと向かって下へと落ちてゆく……

……リミッターが解除された大出力の『ビームサーベル』の一撃は、
『ガンダム』より巨大な岩盤をバターよりも容易く斬り裂いたのだった。
 
 
そして最後の障壁が目の前に現れた。

ナビゲーションシステムにはそこが終点の出口と示している。
『ガンダム』は再び、右腕を大きく振り上げてビームサーベルを一閃させた!

――グワシャァァン!!

鈍い衝撃を感じながら、壁は一気に大きく縦に斬り裂かれた!

『ガンダム』の斬撃によって隔壁の壁に大きな亀裂が生じると、
その向こう側には、俺が突入する時に完膚までに破壊した基地の開閉シャツター搬入口の残骸が見える。

穴を大きく広げて通り抜ければそこはもうゴールだ。
俺はその斬り裂いた障壁の亀裂を『ガンダム』の両腕で大きく抉じ開けようとした。

「よし。余裕で抉じ開けられるぞ……!」

『ガンダム』のパワーでならば数秒で通り抜ける事ができる大穴が製造できる。
此処を……通り抜ければ。

――ピーピーピー!!

抉じ開けようとした矢先に、突然の警告音と同時に大きな振動を感じた!
ガクッ!ガクッ!と大きな衝撃がコックピット全体を揺るがした。

「ちっ!」

キュィィィン!

サイコミュを通して、咄嗟にビームバリヤーを展開する!
『ガンダム』のが白いバリヤーの光に包まれると同時に、

――ドゴゴゴゴゴゴゴゴォォォオーーン!!

『エンディミオン』の奥深くから、赤い爆流が噴出した!

予想よりも早く、遠い地底から噴出した破壊エネルギーの奔流に俺は巻き込まれてしまった。
「何とォ!?」

舌を噛まずに済ます事が出来たのは、本当に上出来の部類だと思う。
メインモニターが周辺状況を示し、機体前面にビームバリヤーが展開した事が表記される。

咄嗟に『Ξガンダム』の殆どの膨大なエネルギー出力をビームバリヤーに回し、
同時にシールドも前方へと展開させ、『武道』でいう受身の姿勢の体勢を取ったのが効を制したのだろうか?

力の流れを直接に受け止めず、後方に流したお陰で被害は極軽微で済んでいるようだ。

――人間、何が幸いになるかがわからない。

『柔よく剛を制す』という言葉がある。
周囲には、俺が習得したこの故郷の『古武術』とも呼ばれた『格闘術』を馬鹿する者もいたが、
気にせずに修練を積んでいた事が幸いしたようだ。

だが、これも自分の身体そのものである『ガンダム』だからこそ出来た芸当だ。
他のMSでは不可能な事であったはずだ。この最初の衝撃でバラバラにされたのがオチであろう。

現に急造の『シールド』は軋み捻じ曲がり、重突撃機銃などは溶けて折れ曲がっていた。

――ドゴォォォォォォォォォォン!!

奔流によって、機体全体が大きく巻き上げられてゆく。
『ガンダム』を高く高く天空へと押しやって往くのだ!

「――くそッ!このままじゃ、星になっちまう!!」

そんな事は願い下げである。まだ、星となって伝説となるつもりは無いのだ!!
両腕に存在する操縦桿を力強く握り締める。

「――このぉおぉ!!」
俺の気合と共にこの流れに翻弄されていた『Ξガンダム』は、
その奔流の力に逆らうかのようにその四肢が動き出し始める。

そして『ガンダム』の双眸が激しく輝き始め、その輝きは機体を柔らかく包み込むビームバリヤーにまで及ぶ。
『ガンダム』の中枢のエネルギーを生み出す核融合炉が強い脈動を放ち、全身へ大きな力が広がってゆく!

「うおりゃああああ!!!」
――ウォォォッォッオーン――!!

――俺と『Ξガンダム』は同時に叫ぶ!

機体全体を白い輝きに染めながら『Ξガンダム』は、一気にその奔流の流れから飛び出した!!
そして、その機体を天空に高く高く翔(と)んでゆく!!

瞬時に『ガンダム』は月の天空の果てへと舞い上がると、その眼前には青く輝く惑星が瞬いていた。
――瞬間的に過去の走馬灯が甦る。俺自身が直接過去に合間見た英雄の二人の姿を。

『……人間のエゴの全てを呑みこめるほど、地球は巨大ではないっ!』

『人類の知恵は、そんなもんだって、乗り越えられる』

『ならば、今すぐに愚民どもに、叡知を授けてみせろっ!』

――彼等程の英雄でも人類をより良き方向へ導くことが出来なかった。
……結局は人類が地球から巣立たないのが全ての原因なのだろうか?
俺はその例えようのない空しさを感じる。

そして、蒼い星が輝く天空の静寂さとは裏腹に下界では、
地球連合軍の艦隊がMAの部隊を発進させながら離れたザフトの部隊に攻撃を開始していた。

――俺はその光景を見て突然、頭の芯からカァッ!と熱くなってくる。
「お前達がいるからぁぁあ!!」
――ウォォォッォオン――

俺と『ガンダム』の雄叫びと重なり、肩部に設置されている左右の収納パーツに収まっているビームサーベルから、
それぞれビームの素粒子が展開してゆく。

――ギュォォン!

『ガンダム』は一気に急降下開始した。
目標は勿論、――地球連合軍第3艦隊だ。

『俺』はビームバリヤーに包まれ白い光を放ちながら、音速の速さを超える!

――ギュゥゥン!

両肩部に収まったの二つのサーベルから真紅の光の刃が形成される!
音速を超えるスピードで駆け抜ける『ガンダム』から放たれるサーベルの粒子は散らばり翼のように広がりを見せる。

――最初の『ターゲット』は手前にある地球連合軍の250m級戦艦のネルソン級と呼称される地球連合軍の主力宇宙戦艦である。

……普通は、艦隊のど真ん中に一機突撃を敢行するなど無茶無謀の極みだろう。
そう、俺の中で荒れ狂う灼熱の衝動の中で、妙に冷めた一部分がそう指摘している。

しかし、今の俺にはこいつらを撃滅することしか頭にない。
右肩から生えた赤光のビームの刃が、ネルソン級のどてっ腹をズブリと抉り、
更には勢いを乗せて大きく斬り裂いてゆく!

「うぉぉぉぉぉッ!!!」
――オォッォーン――

俺は勢いに乗りながら僅か数秒で戦艦の装甲面を大きく袈裟斬りに斬り裂いた。

戦艦は真っ二つに分断され、次に爆発が始まった。
ネルソン級戦艦はそれに見合うだけの盛大な爆発と共に粉々に砕け散った。

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