機動戦士ガンダムSeed Destiny -An Encounter with the Trailblazer-_プロローグ『Trailblazer』

Last-modified: 2013-04-18 (木) 21:18:44
 

「行こう、彼らの母星へ。俺たちはわかりあう必要がある」
「いいのか?」
「良いも悪いもない。ただ俺には、生きている意味があった」

 

洗脳されていたとはいえ、己の手で父母を殺めた。
親殺し――――こんな自分がのうのうと生きていても良いのか?

 

心をいつも縛るこの想い。
だから、いつ戦場で果てても良いと思っていた。
そんな自分が、生きることに対して意味を…………ただ純粋に生きたいと願えるようになるとは。

 

「みんな同じだ、生きている」
「生きようとしている」

 

戦場で、地球で、コロニーで。
GN粒子を介して見える、多くの人たちの生きたいと願う想い。
それは強く、しなやかで、したたかで。

 

「だが、なぜこうもすれ違う?」
「なまじ知性があるから、些細なことを誤解する」
「それがウソとなり、相手を区別し」
「分かり合えなくなる」

 

誤解が不和を呼び、臆病になり、人が怖くなり疑ってしまう。
心に壁を作り、仮面を作り、分かり合うことそのものを放棄してしまう。

 

「ただ、気づいていないだけなんだ」
「だから、示さなければならない――――――――
世界はこんなにも、簡単だということを」

 

分かり合えれば、こんなにも世界はまばゆいものだと。
生きる命の力に満ち溢れているのだということを示したい。
イノベイターとなった自身の使命と、確信する。

 

「ダブルオークアンタ、エルスの中枢から出てきた模様」

 

はやる気持ちを抑え、息苦しそうに胸元を握り締めながら戦況オペレーターのフェルト・
グレイスは告げる。拡大された映像にはGNソードを放り捨て、量子ワープゲートを創る
ダブルオークアンタの姿が映った。

 

『もう戦う力は必要ない、だから――――』

 

GNソードビットが煌く輪を創る。
おそらく量子ワープゲートを抜けた先は、エルスの母星にたどり着くのだろう。
フェルトは胸が苦しくて思わず叫ばずにいられなかった。

 

「刹那!!」

 

彼女の思いが通じたのか、ダブルオークアンタがプトレマイオスに振り返る。
鋭いデュアルアイに淡い光がともる。
その姿は、まるで刹那が別れを告げるように見えて――――フェルトは瞳に涙を浮かべ
見送ることしか出来なかった。
本心では行って欲しくない…………でも、彼女は悟ってしまったのだ。

 

『あの人の愛は大きすぎるから、私はあの人のことを想っているから、それで良いの』

 

刹那の想いを、成し遂げたいと思っていることを、小さな独占欲などで妨げてはならない。
フェルトは見送ろうとする、『早く帰ってきてね』という想いを乗せて。
だが、そのとき――――

 

「おいおい、刹那。お前一人で行っちまうつもりかよ」

 

ガンダムサバーニャに乗っているロックオンの通信が、トレミーやクアンタ、ガンダム
ハルートと繋がる。
画面越しのロックオンは、やれやれと言いたげに彼は首を竦め調子付いてみせる。
それに続くように、今度はアレルヤが通信をつなぐ。

 

「本当にキミは無鉄砲って言うか、向こう見ずなところは変わらないね」
「もう、アレルヤ。あなたも人のこと言えないわよ」

 

先程まで、生死を掛けた戦闘をしていたとは思えぬほど穏やかな顔で告げるアレルヤ。
そんな彼のことをおかしそうに……それでいて嗜めるような声色でマリーが告げる。
指摘されたアレルヤはというと困ったように苦笑いをし、彼女の手を握った。

 

絶望的な戦場の中、命を落としそうなものたちを、身を挺して助け続けたアレルヤ。
そんな彼のことを黙ってサポートし続けたマリー。

 

つがいの鳥のように戦い続けた彼らのことを、少しだけフェルトは羨ましくなった。
『私にも、何か刹那にできることがあれば――――』
そんな彼女の可憐な想いに気づかぬ振りをして、スメラギはイアンに通信を繋げる。

 

「イアンさん。トレミーの修復、どれくらいかかるかしら?」
「むぅ…………エルスに侵食された部位を丸ごと交換せねばならんからな。
ざっと4ヶ月、いや3ヶ月といったところか。もちろん、ガンダムの整備を含め取らんぞ」
「結構です、イアンさん。刹那、急がば回れとも言うわ。少しだけ待ってくれないかしら」

 

母親のように穏やかな表情で刹那に頼むスメラギ。
それを見ると刹那は一瞬渋った表情をしてから、諦めたように頷いた。

 

「了解した。ダブルオークアンタ、これよりトレミーに帰還する」

 

この選択が彼らに新たな試練を与えるなどと、誰一人予感出来るものはいなかった。
そう――――イノベイターといえども、未来が分かるはずもないのだ。

 

機動戦士ガンダムSeed Destiny –An Encounter with the Trailblazer-
プロローグ『Trailblazer』

 

「お帰りなさい、刹那」

 

フェルトの柔らかな声が、戦士に安息を告げた。

 
 

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