機動武闘伝ガンダムSEED D_SEED D氏_第二話(後)

Last-modified: 2007-11-10 (土) 21:12:24

「むっ!?」
ブルックリンでシンの到着を待っていたイザーク、その爆発に気がついた。
『隊長、あれは!』
「分かっている! 行くぞ、シホ!」
『はい!』

ディアッカの射撃は、それはそれは酷いものだった。
数撃ちゃ当たる、とはよく言うが、一発もかすりもしないのはどういうわけか。相手は鉄の巨人だというのに。
「ねえ、あんたまさか、素人じゃないわよね?」
「素人が二つ名を持ってると思うかい?」
「……つまり素人より酷いってことね…」
こんな奴にド下手呼ばわりされたかと思うと、腹が立つやら情けないやら。ルナマリアはマグロの目で深く溜息をついた。
「貸して。あたしが撃つ」
「おいおい、こんな大事なのを任せられるかって!」
「少なくともアンタより当てる自信はあるわよっ!!」

ディアッカの腕に幻滅しているのはエザリアも同じである。
イザークのクルーで友人であることを考え、攻撃を躊躇っていたが……
「こんな人間を信頼しているのか、イザークは!」
こんな使えない男を、身内贔屓でクルーにしたのか。そう思った。
(あの子のためにも、ここで間違った交友は終わらせなければ!)
母親としての心が持ち上がる。
「全機、シン=アスカはひとまず放置! ディアッカ=エルスマンを殺れ! ここで手柄を立てればコロニーに上がらせてやるぞ!」
ゲイツがライフルを構える。

「おお、あちらさん本気だな」
「暢気に言ってる場合かぁぁぁぁ!!」
ディアッカと共にターゲッティングされたルナマリアが全力で叫ぶ。
「心配するなよレディ、もうそろそろ…ほら来た」
「え?」
聞き返すと同時、ゲイツの一機の頭部が後ろから撃ち抜かれ吹き飛ぶ。
「な、何?」
「真打は後から来るって決まってるだろ! He's the champ!!」
『ディアッカァァァァ!!』
魂のシャウトと共に、拳銃を構え、シールドをサーフボードのようにしてジャンプしてきたのは、
ネオアメリカ代表・ガンダムマックスター! 乗っているのはもちろん――
「イザーク=ジュール!」
ルナマリアが叫ぶと同時、マックスターはもう一機のゲイツを殴り飛ばして着地した。
『貴っ様ぁぁぁ!! 連絡もよこさず、こんなところで何をしておるかぁぁ!!』
「いや俺もよく分からないんだけどね? 話はあとでするから、とにかくこいつら片付けてくれよ。このままじゃマジで死ぬ」
『それじゃディアッカさん、始末書お願いしますね』
「……アイアイサー」

「イザーク!?」
エザリアは体を震わせた。
自分がディアッカを狙わせたと、彼に知れてはならない!
「う、撃ち方やめ! シン=アスカを…」
『アンタらって人はぁぁ――――っ!!』
叫びが響く。
何事かと下を見れば、一機だけ残っていたゲイツがのけぞっていた。
シン=アスカのアッパーカットによって。
「……え?」
エザリアは硬直した。
『だぁらららららららっ!!』
バランスを崩してたたらを踏むゲイツに、さらに装甲を駆け上がってメインカメラに連打。
『でぇぇりゃぁぁぁぁぁぁ!!』
とどめに回し蹴りを入れられ、完全にゲイツの頭部は潰れた。そのまま後ろに倒れこんでいく。
巨人が倒れる重低音と共に、マントをはためかせ地面に着地したシンを、その場にいる人間のほとんどが呆然と見ていた。

「グゥレイトォ! ガンダムなしでもやれるんじゃんか」
「いや、その…(私も知らなかったわよ)」

シンはほっと息をついていた。
一瞬自分から狙いが外れたのが救いとなった。弾幕がないなら、攻撃に全て集中できる。
バルカンをかわしながらでは、MSの装甲を抜く力など出せない。
『ネオジャパンのファイター! 聞こえるか!』
「ああ、うるさいくらい聞こえてるよ!」
『どうも手違いがあったらしい! こんなことになっちまったが、ファイトを受けてくれるか?』
「手違いだぁ!?」
『ま、待ちなさい、イザーク!』
割り込んできたのはエザリアの声。それでイザークは全てを察した。
『あなたが闘う必要はないわ! そこのネオジャパンは、我々が…』
『母上っ! …いや、ネオアメリカ・ガンダムファイト委員エザリア=ジュール!』
『!?』
オープンにされたヘリのスピーカーから、息を呑む音が漏れてくる。
ガンダムマックスターは、まっすぐにエザリアの戦闘ヘリを見据えていた。
『これ以上、私に恥をかかせないでいただきたい!』
『は、恥ですって…!? あなたは昨日の屈辱を忘れたの!?』
『不意打ちを卑怯というなら、あなたのこの行いは何だと言うのですか!』
『……!!』
言葉を失うエザリア。
『私はただ勝てばいいというものではないのです! ネオアメリカの人々に堂々と胸を晴れるファイトでなければ、
 勝つ意味がない! 私の目的は、地上のネオアメリカの人々に夢と希望を与えることなのですから』
「!!」
驚くシン。
『イザーク…』
呆然としたエザリアの声。
『立ち去ってください。そして二度と、このような真似はしないと約束してください』
きっぱりとしたイザークの声。
少し逡巡の気配を出したが、ヘリは大人しく離れていった。
それを見送ったマックスターが、あらためてシンを見てくる。
『すまなかった、ネオジャパン』
「いいや」
シンは首を横に振った。不敵な――しかしどこか安心したような笑みを浮かべ、マックスターを見上げる。
「イザーク=ジュールという英雄の姿、しっかり見せてもらったよ」

「なんか嬉しそうだな、ジャパニーズ」
「そうね…」
ディアッカの呟きに相槌を打ちながら、ルナマリアは思う。
(イザークの人気の高さに納得できたのかしら…)

『ガンダムファイト、受けてくれるか?』
「ああ! もちろんだ!」
頷いて、シンは高々と右手を掲げる。
「出ろォォォ!! ガンダァァァム!!」
パチィィィン!!
小気味いい指の音が響くと同時、三機の飛行物体がどこからともなく現れる!
常識外れの高速変形合体を成し遂げ、白い巨人が地に立った!
ネオジャパン代表、インパルスガンダム!

偵察用カメラをいじりながら、シホは携帯してきたボードにペンを走らせる。
「えーと、ネオジャパンのインパルスガンダム…三機合体で一体になる…合体スピードは超高速…あれ?
 ネオイタリアとの戦いでは結構時間かかってたっていうけど…」

『いやー、やっぱり合体プログラム組みなおして正解だったわね』
「全くだ。でなきゃミゲルに言われたように合体したままで運ぶところだよ」
『……それじゃダメなの?』
「何言ってる、ルナ。合体変形は男のロマ」
『もういいです』
通信回線がぷつりと切れた。
何か自分は気に障るようなことを言っただろうか?
シンは心の片隅で疑問に思ったが、すぐに消し去る。今重要なのは……!
『行くぜネオジャパン、インパルス!』
「応っ!」
『ガンダムファイトォォ!!』
「レディ… ゴォォ――――ッ!!」

開始と共にシンは突進をかけた。
まず近づかなければ始まらないのがインパルスという機体である。それは今年の大会に出場しているガンダムの
ほとんどに言えることだが、インパルスは中でも極端なほど超接近戦仕様だ。
マックスターは肩のアーマーを分離させ、ボクシンググローブの如く拳に装着した。そのまま深く構え、動かない。
(カウンター狙いか!?)
一瞬躊躇うが、すぐに思い直し、突撃する。
何が来ようとパルマフィオキーナの一撃が当たれば粉砕できる。その信頼があったればこその戦法だ。
マックスターが近づく。シンは右腕を僅かに引き、力溜めに入った。
そこにイザークが、気合と共に右のパンチを繰り出す!
「サイクロォォン・パァァンチ! シュゥゥゥトォォォッ!!」
近づいたとはいえ、インパルスはリーチの遥か外である。
だが、どういう仕組みか! マックスターの右拳からインパルス目掛けて竜巻が巻き起こった!
「な…にぃ!?」
完全に予想外だ。シンは慌ててブロックに入る…が、遅い。
「うおおおおおおっ!?」
竜巻に巻き上げられるインパルス。

「シン!?」
「いや、浅い!」
ディアッカが臍を噛む。
「浅いって、どういうこと?」
「サイクロンパンチがもろに決まれば、ガンダムの装甲くらい簡単に抉れる。今のインパルスは…」

「シン=アスカは下手に抵抗するのではなく、押し流す風に逆らわずに後ろに飛んでいる…
 そんな柔軟な発想ができる人だったなんて!」
シホがデータにチェックを入れている。

「ぐうっ!」
落下。
シンはようやく竜巻から解放され、背中から瓦礫に落ちた。
別に狙ってサイクロンパンチの威力を殺したわけではない。本能的に危険と察知し、後ろに飛ぶことでブレーキをかけたのだ。
ストリート・チルドレン時代に培った、野性的な勘のおかげだった。完全に見切っていたなら、受身までしっかり取れていただろう。

「やるな、シン=アスカ! サイクロンパンチのかわし方を見抜くとは!」
イザークは疲れと共に言葉を吐き出す。
サイクロンパンチはイザークの必殺技だ。それだけに決まったときの威力は大きく、外したときの疲労も大きい。
「だがっ! そんな不完全な体勢でぇ!」
イザークは今度こそ突進をかけた。狙うは、竜巻によって瓦礫に倒されたインパルスの首!
「俺の拳をよけられると思うなぁぁぁ!!」

「避けようとは…」
シンは右手の紋章を光らせる。
「思っちゃいないぜ、イザァァァァクッ!!」

――轟音。
その瞬間、空間が軋んだ、とシホは思った。
正確にはそんなことは起こり得ない。しかしそのときの強烈な音は、そう錯覚させるに充分だった。
イザークの右拳と、シンの右手が、真っ向からぶつかったのだ。
「おおおおおおおおおっ!!」
「らああああああああっ!!」
二人の怒声が衝突する。

「イザークッ!?」
最初に気付いたのはディアッカだった。
マックスターの右拳を、インパルスの輝く右手が握りつぶしていく。
イザークの怒声は、徐々に苦鳴へと変わっていく。

「悪いが…一撃必殺に賭けているのは…こっちも同じなんでな…っ!」
痛みをこらえながらも不敵に笑い、シンがゆっくりと体勢を起こす。

「パルマ…! フィオ…!!」

ブースターを吹かす。インパルスが上位になる。シンは息を吸い込み――

「キィィィナァァァァァァッ!!!」

渾身の叫びと共に、シンは内に溜めた気を爆発させた!
輝く右手、パルマフィオキーナが、マックスターの右拳を粉砕していく!
「ぐあああああああああっ!?」
「まだだっ! まだだ、イザーク! 聞きたいことが…!」
「い、痛い…痛いぃぃ…!!」
その声に気がつけば、シンはマックスターの右腕を完全に破壊していた。
どうやら頭に血が上って、相手が見えていなかったようだ。
「……あれ?」
『馬鹿シン! また目的と手段を逆にして!』
「す、すまん」
ルナマリアの通信をひとまず脇に追いやる。
「イザーク! 聞きたいことがある!」
「何を…余裕こいてる、インパルス!」
「この男を知らないか!?」
インパルスの通信回線を利用し、あの写真のデータを送る。褐色の髪の少年の画像を。
シンは必死だった。余裕と見られようが、自分のそもそもの目的はファイトそのものではない。
ただ、闘うとついつい、本来の目的を見失ってしまうのだ。
このあたり、シンは根っからのバトル・ジャンキーであるミゲルと同じものを持っているのだろう。
「そんな男は…知らん…」
画像を見たイザークが呻くように言う。
「そう…だな。あんたみたいな人が知ってるわけがない…」
少し寂しげにシンは呟き、右手をマックスターから離した。
それは、イザークにすれば屈辱と思えた。
「どうした…!? 早くとどめを刺しやがれ、インパルス!」
「……そいつは、出来ない」
「何ィ!?」
「周り、見てみろよ」

インパルスが構えを戻す。イザークは痛みをこらえながら、全方位モニターに目を走らせた。

人がいる。
(ああ…!)
数人ではない。数十人。数百人。ひょっとしたら数千人かもしれない。
ネオアメリカの人々が、自分達のファイトを見ていたのだ。
(見られた… 敗北を見せてしまった…!)
イザークは目を閉じ、天を仰いだ。
生まれ故郷のこの街で、アメリカン・ドリームの体現者として勝利し、夢と希望を見せるはずの己が、無様に負けてどうする。
あの、ボクシング会場のパネルに描かれた栄光の内の自分が、今の惨めな自分を見下しているように思えた。
(すまないディアッカ、シホ…母上… 俺は英雄になれなかった…!)
一筋、涙が零れ落ちる。
しかし――

「立ってよ、イザーク!」

子供の声がした。
目を開き、慌てて声の主を探す。
だが、声の主を見つけることは出来なかった。何故なら……

「立ってくれ! イザーク=ジュール!」
「あんたは俺達の希望なんだ! もう一度立ち上がってくれ!」
「頑張れぇぇ、イザァァァク!!」

何人もの…そこに駆けつけたネオアメリカの、何千人もの人々が、声援を送っているのだ。この己に。
誰が口火を切ったかなど、もう分からないし、分かったって何もない。
イザークは、右腕の痛みを忘れ、コクピットから外に出た。
大歓声が巻き起こった。
『イザーク! イザーク! イザーク!!』
イザークコールがネオアメリカ・ブロードウェイに轟く。
「みんな…」

「どうする、イザーク?」
我に返ると、シンが自分と同じくインパルスのコクピットから姿を見せている。
「ガンダムファイト国際条約第三条。
 『優勝への意志ある限り、何度でも立ち上がり、決勝リーグへ進むことが出来る』」
微笑むシンが何を言いたいのか、イザークにもよく分かった。
「ああ、そうだ。そうだったな」
イザークも、不敵な笑顔を取り戻す。
意志ある限り? 意志が尽きることなどあり得ない。
敗北したとて、何度でも立ち上がれば良い。立ち上がって、這い上がって、夢を掴み取れば良い。
そもそも自分が見せようとしていたのは、その姿ではなかったか。
泥にまみれても夢を諦めない姿ではなかったか。
「何度でも立ち上がるさ…。生まれ故郷のこの街から!」
イザークは清々しい笑顔で、シンにサムアップサインを向けた。
「インパルス! この傷の屈辱は晴らす! I'll be back!!」
「ああ! いつでも来い! イザーク=ジュール、ナイスガイ!」
「へっ… Thank you!!」
ネオアメリカの人々の大歓声が、二人のファイターを包み込んだ。

次回予告!
ドモン「みんな、待たせたなっ!
    盗賊を率いて村人を襲うドラゴンガンダム!
    それを操るファイター、フレイ=アルスターに戦いを挑むため、シンの追跡が始まる!
    しかし! その途中で出会った美しい少女によって、シンはとんでもないピンチに巻き込まれてしまうのだ!
    次回! 機動武闘伝ガンダムSEED DESTINY!
    『倒せ! 魔女ドラゴンガンダム』にぃ!
    レディィ… ゴォォォ――――ッ!!」

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その頃のミネルバブリッジ

アビー「ふあ~あ…」
ドモン「熱心だな、アビー」
アビー「ど、ドモンさん!?」
ドモン「お前はいいのか? 上映会に行かなくても」
アビー「だ、だって、ブリッジを空けるわけにはいかないじゃないですか。艦長も副艦長も行ってしまってるし、それに私、自分が出てない回に興味ありませんから」
ドモン「ほう。俺が代わってやろうかと思ったんだが…いらん気遣いだったようだな」
アビー「え!」
ドモン「それでは俺も上映会に…」
アビー「あっ、えっとっ、そのっ、…興味はないけど、見てみてもいいかな、とは…」
ドモン「では、俺がここに来たのは無駄ではなかったわけだな?」
アビー「っ! そうです!」
ドモン「ふっ… なら、俺に任せてお前は休め」
アビー「はい!」

ドモン「素直になれん女だな…(ピピッ)む、エターナルから通信だと?」

艦の奥から歓声が響いてくる。上映会は第三話に差し掛かったようだ。