機動海賊ONE PIECE Destiny 601氏_第08話

Last-modified: 2013-12-24 (火) 18:59:35

「うっっっっっはーーーーーっ!!! これが海賊王の見た景色っ!!! そして死んだのかーっ!!!」
「この声……ルフィ?!」

突如響き渡ったその声に、シンを含めたその場の全員が気を取られた。

「ご、伍長! 特別処刑台に、人が!」
「アレは……間違いありません、賞金額3000万、『麦わらのルフィ』です!」
「はぁ?! 何でそんなのがいきなり!」

広場の方からは更に「よーしフザケんな!!! 相変わらず良い度胸だなこのスットンキョーが!!!」などと言う、やけに調子っぱずれな叫びやら、恐らくは市民達のものだろう悲鳴やらが聞こえてくる。

「どうした、何事だ、フレイ伍長!」
「あっちにいるアレは……『道化のバギー』?!」
「ええい、落ち着けぇ!」

海兵達は浮き足立ち、フレイもどうしたものか迷っている。

そうした中、シンは、ビフにも長所として指摘された高速思考によって、この場を抜け出す方策を掴んでいた。

周囲で起こる混乱、ルフィの声、目の前にそびえるナタルの「盾の壁」。それらの要素が、コーディネイトされたシンの頭脳スペックをフルに引き出した思考速度で結びつき、一つの像を作り上げた。
そして――シンはその像目掛けて一気に駆け出した。

「あっ こっコラ、貴様!」
「伍長、赤服が!」
「もう今度は何……って、ええっ?!」

海兵の声にフレイが路地の側を振り向けば、そこには――盾の壁に向けて駆け出すシンの背中があった。

「ちょ、ちょっと! その盾は破ろうったって!」
「おぉぉぉりゃあぁぁぁああっ!!!」

   ば ん っ

気合一閃――シンは地面を蹴り、そして

「フォース!」

ナタルの盾の壁を、一気に滑るように駆け上り、すぐ脇の建物、その屋上へと飛び込んで行った。

「はいぃぃぃっ?!」
「何だ、一体何が?!」
「少佐! もう盾は消して下さい! シン君逃げちゃいましたよ!」

タテタテの実の能力にも、他の悪魔の実の能力と同様、幾つかの制限がある。まず第一に、当然の事ながら、能力者は盾を展開している状態では盾の向こうをうかがう事は出来ない。更に、盾は常に一枚だけが展開可能であり、大きさや形はある程度自由に出来るが、盾を出現させる事が出来るのは、ナタルを中心とした半径1メートル前後の範囲であったり、という具合に。

シンを捕らえる――それのみを目的としたこの布陣が、この状況では完全に裏目に出ていた。フレイの声に盾を消したナタルの目に映ったのは、宙を舞い、建物の屋上へと飛び込むシンの後姿だけだった。

「なっ……ええい!」
「少佐! 本部から連絡です! 部隊はその場に待機、海賊達には手を出すな、との事です!」
「何だと?! 貸せ!」

駆け寄ってきた通信兵の言葉に、ナタルは柳眉を逆立てて電伝虫のマイクを奪い取る。が、ナタルが声を発するより早く、電伝虫からスモーカーの声が響いた。

『海賊同士が潰し合おうってんだ。ひとまず包囲は完了してる。お前達も動くな』
「しかし大佐!」
『麦わらの首が飛んだらバギー一味を抑える。それで何の……何だ、どうした』

途端に、スモーカーの背後が騒がしくなる。と、同時にフレイがナタルに駆け寄ってきた。スモーカーの部下達とフレイは、ほぼ同時に同じ言葉を口にした。

「ロロノア・ゾロが、広場に乱入してきました!」

屋上に駆け上がったシンがまず目にしたのは、処刑台の上で取り押さえられたルフィの姿だった。
見渡せば、広場には奇妙な格好の海賊らしい連中がおり、辺りの民衆を下がらせていた。

「ルフィ!」

驚愕したシンの声に呼応したわけでもないのだろうが、ルフィの大声が、更に響き渡る。

「俺は!!!! 海賊王になる男だ!!!!」

ざわめきが広がり、視線がルフィへと集まる。海賊王――たやすく口にする事すら躊躇われる夢を、あっさりと、それも大音声で叫ぶその姿を、多くの人々が愚かだと思った。何と、身の程を知らぬ若者かと。

だが、シンには――それは、とても雄雄しく、輝かしい姿に映った。だから。

「今、行くぞーーーーっ!!!」

全霊を込めた剃で屋根を蹴り、宙へと飛び出す。眼下では、ゾロとサンジが処刑台へと近づこうと乱入しているがシンには今、処刑台とルフィしか見えていない。

「ブラストシルエット、ケ ル ベ ロ ス っ!!!」

宙を飛びながら、ルフィを抑える海賊に向けて槍を繰り出そうと構えるシンの目にルフィの笑顔が飛び込んだ。

「わりぃ、おれ死んだ」
「なっ?!」

抗議の叫びを挙げようとしたその矢先――雷鳴と閃光が、シンの視界と聴覚を埋め尽くした。

「なははは。やっぱ生きてた。もうけっ」
「おい……ルフィ……生きてんのか、お前」
「おう? シンじゃねえか! 何だ、決心ついたのか?!」
「お前……ったく、心配させやがって」

雷鳴と閃光の衝撃が去った後、シンは、残骸と化した処刑台の前で、にこやかに笑うルフィの姿に、苦笑していた。

「ったく、このクソ麦わらが……って、何だよそっちの赤服は?」
「おう! 新しい仲間で、シンってんだ!」
「この野郎……また人に断りもなく」
「ああ、ええと……アスカ・シンだ。よろしくな」
「ま、挨拶ぁ後だ。この後もう一騒動ありそうだからな、とっとと街出るぞ」

ゾロとサンジが合流し、簡単な挨拶を済ませた所へ、ナタルの叫びが響き渡った。

「突入――!!」
「おお! 何とキレイなお姉様!!」
「自重しろアホコック!!」
「やべえ! あの人すげえ恐いぞ!!」
「よーしっ 逃げろーーーーっ!!!!」

目をハートにするサンジ、ツッコむゾロ、うながすシンに、号令をかけるルフィ。
そして、一気に駆け出し広場から逃げていく彼等の背中を見ながら、ナタルは、拳を握って不敵な笑いを浮かべた。

「成る程――既に就職先は決まっていた訳か。ふられるのも道理かな」
「あの……少佐? 何か、スモーカー大佐が通信に出ろって」
「知らん。我々はこれから『赤服のシン』追撃に入る。広場の包囲は本隊に任せておけ」
「ええっと、そんな無茶言われてもですねえ」
「フレイ。君は気にならんか、あの少年が」
「いや、アタシ年下は興味ないですし」
「そういう意味ではなくだ……私は見届けねばならん。彼がどういう道を進むのかをな」
「何でそこまで拘るんですか、あの子に」

広場から離れつつ、問いかけてくるフレイに、ナタルは苦笑を浮かべながら応えた。

「さて――な。私にも今ひとつ解らん。だが、一つ言えるのは、彼を一時でも誘った身としては、彼の行く末が気になって仕方が無いと言うのはある。それに、あの真っ直ぐと言うか、短気とすら言える気性が、果たしてこの大海賊時代でどう変わっていくのか、あるいは、変わらずにあり続けるのか。それを見届けたいと言うのが、一番かな」

それは、ある意味代償行為であると、ナタルも自覚はしていた。かつてCE世界で出会ったキラ・ヤマトに対し、力を揮う者としての自覚や、戦場における心構え、責任と言うもの、そうした諸々について、何一つ導く事も出来ずに終った事が、ナタルにとって心残りではあったのだ。
そこに、シンと言う、未熟かつ可能性を持つ存在が現れた。ただでさえ、元の世界を同じくする存在である。

ナタルにしてみれば、気にするなと言う方が、無理な事だった。

まあ、それでも実際、多少のめりこみすぎな自覚は、無いでも無いがな。

やや自嘲めいた笑みが浮かぶのを堪えつつ、ナタルは嵐の近づくローグタウンを、シン達を追って走り出していた。

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