機動海賊ONE PIECE Destiny 601氏_第20話

Last-modified: 2013-12-24 (火) 19:22:21

「まーっはっはっは! カバめ! 王様である俺様がお前ら海賊風情の相手をじきじきにしてやる理由
なんぞありゃあせんわ!」

 かつてのワポルの居城であり、今はドクターくれはの住処であるドラム城の城門前広場――ドクター
ヒルルクが最後を迎えたその場所に、ワポルの笑い声が響いていた。
 城へ向かう途中、雪崩に巻き込まれた彼ら一行であったが、兵達を犠牲にし、ワポルと部下三人だけ
でここに至り、待ち構えていたルフィ達との戦いに突入したのだった。

 だが――戦いは、ワポルの部下の一人である仮面を被った男が髪の毛を自在に操り、ルフィとチョッ
パーを翻弄するばかりであった。
 カミカミの実の能力者――自身の髪の毛を自在に操り、伸ばし、縮め、縄のようにも、束ねて槍のよ
うにも出来るその男は、ルフィとチョッパーの二人を同時に相手取ってひけを取らぬどころか、二人の
四肢を髪で絡めとり締め上げてさえ見せた。

「ルフィ! しっかりしろコラ!」
「んぎぎぎぎ……くっそお……!」

 城に来るまでに脊椎に損傷を負ってしまっていたサンジは、ドクターくれはによるドクターストップ
――すなわち、情け容赦のなストンピング――によって身動きが取れぬ有様だった。
 ワポルと残り二人の部下は、そうした皆の様子を声を挙げて嘲笑っていた。

「さあて、そろそろその不届き者どもに止めを刺してやれ――ギルバート!」
「……了解です」

 ワポルの命令に、食いしばった歯の間から漏れ出すような声で仮面の男――デュランダル・ギルバート
が応じようとしたその時だった。

「ソードシルエット、エクスカリバー!!!」

 上空から、大音声と共に大気を切り裂く真空波が舞い降りた。真空波はルフィ達を縛る髪の毛を切り
裂き、そして真空波に続いて

 赤 い 服 の 男 が 舞 い 降 り た

「シン!!!」
「おお! クソ遅えじゃねえかこの野郎!!」
「な、何だアイツ?!」

 赤い服の男――アスカ・シンが両面宿難ソードシルエットを携えてそこに立っていた。

「ああん? なあんだこのカバは……まあ良い。ギルバート! そいつも一緒に始末してしまえ!!」

 ワポルは命令を下すが、しかし、ギルバートは凍りついたかのように動かず、ぽつりと呟くばかりだった。

「……シン、なの、か?」
「お久しぶりです。議長――いや、ギルバートさん」
「何をしとるギルバート!! さっさとそいつも」
「お前は黙ってろ。ブリキカバ」
「何おう?!! 貴様この王様である俺に向かって!!」
「シン……私は」
「知ってますよ。レイの為、でしょう?」

 二人の――シンの様子が何処かおかしい事は、ルフィ達の目からも明らかだった。ローグタウンで仲間
になって以来、シンは明確に怒りの表情を見せた事がほぼなかった。
 あるとすれば、ウィスキーピークでビビに詰め寄った時ぐらいだったが、あれはむしろ、不機嫌とでも
呼ぶべきものだった。
 だが、今は違う。
 表情は、むしろ穏やかとすら言えるだろう。いや、それはより正確に言うならば、表情そのものが欠け
落ちた顔だった。
 ただ、その能面の如き顔の中で、瞳だけが、シンの赤い瞳だけが、文字通りの異彩を放っていた。

「下で、レイに会いましたよ。事情も、イッシー20やドルトンさんから聞きました」

 そう言う声も、波風を感じさせぬ、穏やかな――穏やかすぎるものだった。まるで、その水面下に数多
の獰猛な海王類達をはらんだ凪の帯のように。

「な?! イッシーどもが?! いや、そもそもあの小僧と会っただと?!! どーいう事だ貴様!!」
「ギルバートさん。レイは今、イッシー20の治療を受けています。俺と仲間で下に残ってたそいつの兵
隊は全員倒しました。もう、イッシー20はそいつには従わない。つまり、もうそいつに従ってるのは、
この場にいるあっちの二人と、貴方だけなんですよ」
「無視するな貴様ぁ!!」

 激昂するワポルを、チェスとマリーモが取りすがってなだめた。

「そんな事よりワポル様! ヤツの言った事が本当ならば!」
「そうです、ギルバートが!」
「ぬぅっ?!」

 ワポル達の狼狽を余所に、ギルバートは動きを止め、呆けたように立ち尽くしていた。

「本当なのか……本当に、レイが」
「ええ。本当です。だから、ギルバートさん。貴方があのカバ野郎に従う理由は、もう無いんですよ」
「だとしたら……私は……私がしてきた事は」
「そうは行くかこのカバどもが!!!」

 雪面に膝をつき、仮面に覆われた頭を抱えるギルバートに、業を煮やしたかのようなワポルの怒声が
被さった。

「『ドラム王の勅命である! その赤い服の男を始末しろ!!』」
「だから、この人はもうお前の命令なんか……っ?!!」

 ワポルの方に向き直ろうとしたその刹那、シンの胸元を――槍の穂先のように束ねられたギルバート
の髪が切り裂いた。

「シン!!」
「まーっはっはっは! カバめ! そいつが被っている仮面は、我がドラム王家に伝わる秘宝『服従の
面』だ!」
「ぐっ……シ、シン……!」

 ギルバートは苦しむように頭を両手で抱えながら、自分の髪によって胸を切り裂かれたシンを見やっ
た。が、とっさに身をかわす事に成功したらしく、シンはその赤服こそ無残に切り裂かれてはいたが、
流血もなく立ち上がっていた。

「ちっ、運の良いヤツめ。しかーし!! 安心するのは早いぞ小僧! 『服従の面』を身につけた者は
ドラム王家の血を引く俺様の命令には絶対服従!! 下された命令を遂行するまでは決して止まらんの
だ!!」
「この野郎、どこまで……!!」
「一日一回の命令しか出来んと言うのが不便だがな。まあこんな事もあろうかと着けさせといて良かっ
たわ。流石俺様、先見の明があるわい。まーっはっはっはっは!!」
「ゴムゴムのぉ!!」
「まーっはっはっは……はあぁっ?!!」

 勝ち誇ったように高笑いするワポルの声に、突如被さる怒りの声があった。瞬時にワポルの面前まで
突進してきたその声の主の遥か後方には、ゴムのように伸びた腕と、今まさに打ち出されんとする、硬
く握り締められた拳があった。

    ど ん っ

「ブ レ ッ ト ぉ っ !!!!」
「ぐわぁーーーーーっ!!!」
「ワポル様ーっ!」
「ご無事ですか、ワポル様ーっ!!」
「ルフィ?!」

 シンとは異なり、明確に熱い怒りの塊が、そこに立っていた。
 海賊、麦わらのルフィ――未来の海賊王。

「ったく……訳のわかんねえ事ぐちゃぐちゃ言いやがって。王様だか何だか知らねえが……どうやら髪
の毛のオッサンはシンの知り合いみてえだが、無理やり言う事聞かせてシンと戦わせようだなんてよ。
人のドクロに手を付けようとした事と言い、お前のやる事はどうにも一々気にいらねえ」
「ルフィ……」
「シン、こっちは俺とトナカイがカタを付ける。お前は、そのオッサンを止めれば良い」
「……ああ!」

 ルフィに応えたシンは、両面宿難を構えなおし、ギルバートへと向き直った。

「待ってて下さい、ギルバートさん。その面がアンタを操ってるなら、そんなもの、俺が叩き壊してや
る。レイと――約束したんだ、アンタを助けると!!」

To be continued...

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