機動海賊ONE PIECE Destiny 601氏_第23話

Last-modified: 2007-12-20 (木) 17:31:51

 冬島であるドラムでは、元来その花を目にする事は、まず不可能な話だった。そしてもちろん、それは
本物の花ではない。だが、その花によって傷ついた心を癒された経験を持ったあるヤブ医者が、半生をか
けて再現したその姿は、本物に勝るとも劣らぬだけの美しさをもって、人々を魅了した。

 

「これは……何と見事な」
「きれいねえ」
「ああ――」

 

 それは、ドラム城の一室で、窓から空を見上げる三人、ギルバートとタリア、そしてレイもまた、同様
だった。

 

「レイ」
「はい」
「私は、もう一度この国で、やり直すつもりだ」
「はい」
「君も、それについて来い、とは言わない。君は君で、やりたい事を、今度こそ心から自分がのぞむ事を
やれば、それで良い。私は、それを全力でサポートする」
「そうね、私はこの人を助けるけれど、あなたは、自分で自分が本当にやりたいと思う事を、探せば良い
わ」
「しかし」
「私の望み、いや、野望につき合わせてしまったと言う点では、君……お前のシンも同じだ。子供はね、
レイ。決して親の言う通りだけに生きれば良いと言うものではないのだ。だから、お前も」
「私もギルも、多分親としては失格――いえ、それ以前なんでしょうね。でも、だからこそ、あなたを自
分の望むままだけにしたくはない、そう言う事なのよ。そうよね」
「ああ――だから、レイ。まずお前は、体を治す事に専念しろ。その点では、私も力を尽くす」
「看病なら任せなさい。ドクトリーヌに鍛えられた腕前、見せてあげるから」

 

 二人の言葉に、レイはやつれた頬を濡らし、しかし、それでも口元には笑みを浮かべて見せた。その口
をついて出たのは、二人への礼ではなく、彼らの苦境を打ち破り、駆け抜けるように去って行った、あの
懐かしい顔への、返礼だった。

「また、いつか会おう。シン」

 

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 一方、シンを含めた麦わら一味は、メリー号の甲板で新しい仲間、チョッパーを迎える宴会を開いてい
た。

 

「いやあ、しかし良い夜桜だったぜ。まさかこんな雪国で見れちまうとは!」
「ああ、こんな時に飲まねえのは嘘だな!」

 

 普段は口を開けば罵り合うサンジとゾロですら、肩を組まんばかりの勢いで酒盃をあけていた。
 もっとも、全員盛り上がるばかりでもなく、ビビは、いつの間にか川に落ちてほとんど凍りついていた
カルーの介抱をしていた。

 

「カルー、あなたどうして川で凍ってたりしたの?!!」
「クエクエクエ~~~~クエ、クエ……グエ」
「足でも滑らせたんだろ? ドジなヤツだな、はははは」
「黙ってミスターブシドー!」
「ゾロってやつが川で泳いでていなくなったから、大変だと思って川に飛び込んだら凍っちゃったって」
「アンタのせいでしょうが!!」
「へぶぁ!!」

 

 ナミに後頭部をどつかれたゾロが転がって来るのを見もせずに器用にかわし、シンがチョッパーに聞い
た。

 

「ちょっと待った。チョッパー、お前カルーが何言ってるか解るのか?」
「俺はもともと動物だから動物の言葉が解るんだ」
「へー! すげえなあ……って、え? もともと……動物?」
「……ちょっと待って、シン。あんたチョッパーを何だと思ってたの?」
「いや、普通にこういう人間なのかと」
「なわけあるか!!」
「ええっ?! いや、だって巨人だってゴム人間だっているんだから見た目トナカイみたいな人間だって
いてもおかしくねーじゃん?!」
「どこの田舎モンよアンタは! でも、医者だけでなくそんな特技もあったのね、チョッパー」
「医者ぁ? チョッパー医者だったのか?!」

 

 今度は、驚くルフィ達にナミはつくづくと疲れ果てたように聞いた。

 

「アンタ達も一体何だと思ってチョッパーを勧誘したのよ」
「七段変形面白トナカイ」
「非常食」
「えぇーーーっ!!」

 

 ルフィはまだしも、サンジの言葉にチョッパーが目をむきシンの足にしがみついて来た。

 

「まあ安心しろって。サンジはナミには逆らわないからさ」
「そ……そっか。あ……しまった! 俺慌てて飛び出してきたから、医療道具忘れて来たっ!!」

 

 慌てたように言うチョッパーに、ナミが黒いリュックを差し出した。

 

「じゃ、これは? ソリに乗ってたけど」
「俺のリュック! 何で……?」
「何でって……あんた自分で旅の仕度したんじゃないの?」

 

 そのナミの言葉に、チョッパーは、ドクターくれはが何を思い、何の為にあのような言葉を自分に投げ
つけたのか、ようやく思い至った。
 そして、改めて水平線にかすみ始めた桜を見れば、そこには、くれはの思いが宿っているかのように、
思われてならなかった。

 

――さあ、行っておいで。バカ息子。

 

「ドクトリーヌか……結局あんたの考えてる事全部見透かされちゃってた訳だ……素敵な人ね」
「ん……あれ、こっちは俺の荷物じゃないぞ」

 

 そう言って、チョッパーはリュックと一緒にまとめられていた風呂敷包みをナミに手渡した。

 

「どれどれ……手紙がついてるわね……『シンへ』……って、これ、アンタのじゃない?」
「あん?」

 

 ナミに手渡された包みを開けてみると、そこには――「これって、ザフトの」――赤服が入っ
ていた。
 確か、前に着ていたものは、仮面に支配されていたギルバートとの戦いでずたぼろになり、
脱ぎ捨てたはずだった。シンは添えられていた手紙を開いてみた。

 

――シンへ。
 あなたが着ていた赤を拾ったのだけど、もうどうにもならないぐらい破損していたので、代
わりに、レイの着ていた赤をあなたに差し上げます。どうか、着ていってください。
 あなたがしてくれた事へのお礼としては、到底足りなすぎるけれど。
 本当ならサイズを直してあげたかったのだけれど、急ぐ旅だと聞きました。ほつれた所だけ
直してあります。
 本当ならもっとちゃんとお別れをしたかったのだけれど、引き止める訳にもいかないのでしょ
うね。
 その代わりいつか、また会いましょう。新しくなったこの国で。

 

 あなたとお仲間達の旅が、どうか幸運に恵まれますように。

 

 デュランダル・タリアより――

 

「あの看護婦さんか……あの人も、素敵ねえ」
「怒るとすっげえ恐いんだけどな、ああ見えてさ。でも……うん。素敵な人だよ」

 

 シンはコートを脱ぎ、かつて親友がまとっていたそれに袖を通した。

 

「お、赤服復活かー! よしシン! 芸見せてくれよ!!」
「おー! やれやれー!」

 

 ルフィとウソップがはやし立てるのに、チョッパーが首をひねった。

 

「芸?」
「ああ、俺は軽業師なんだ。じゃあ、こないだ考えた新作を一丁お披露目と行こうか!」

 

 ブーツを脱ぎ、裾をまくりあげたシンが片手で逆立ちする。懐から3本、ジャグリング用のナ
イフを取り出すと、空いた片手で器用にジャグリングを始める。

 

「すげーっ!」
「これだけじゃないぞ。チョッパー、俺の足に乗ってもらえるか?」
「え? だ、ダイジョブなのか?」
「良いから良いから!」
「お……おう!」

 

 どきどきしながらチョッパーが逆立ちしたシンの足に飛び乗ると、シンは器用にチョッパーを
支えながらジャグリングを再開する。時折ナイフを高々と投げ上げ、その間に手を入れ替えて見
せたり、そのまま片手で器用に移動して見せたりする。

 

「いーなー! シン! 俺も俺も!!」
「ばっ! ルフィ! 無理言うなコラ!!」

 

 目を輝かせたルフィが飛び込み、三人揃ってバランスを崩して転げまわる。やがて、なし崩し
的に酒宴は始まり、ルフィとウソップが踊り、チョッパーもそれに合わせて踊り、ナミやビビが
笑い、サンジとゾロは酒盃を重ねながら掴み合いを始め、シンは彼等の間を飛びまわって芸を披
露する。

 

「俺さ……こんなに楽しいの、初めてだ……!!」

 

 そして、ウソップの一声が甲板に響く。

 

「新しい仲間に!!! 乾杯だァア!!!!」
『カ ン パ ーーーー イ !!!』

 

 船は今、最高速度で――砂の王国アラバスタを目指している。

 

To be continued...

 

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