皇女の戦い 第四話

Last-modified: 2020-06-28 (日) 03:42:32

 それは全身がダークグレーの装甲に包まれたMSだった。
僚機同様にステルス機能を宿していたその正体は強靭としか言いようのない姿をしていた。
全身に緑色の小型・板状スラスターが埋め込まれているのも相俟ってどこか冷ややかな印象を与える。
肩と太腿には太めのマッシブな装甲、身の丈程もあるバスターを軽々と持つ腕と脛は程良い太さなのが体型的なアクセントになっている。
兜のような頭部は簡単に貫かせてはくれないような硬さを持っていた。
「流石ガンダムファイターの端くれだな。皇女が参戦するというからお飾りと思っていたら......国を背負って立つだけのことはあるか...」
どこか中性的な声はまるで獲物を狙うかのような響き......
MF内のマリナには音声通信だけで相手の姿こそ見えないが...
冷たく蒼いバイザー状の頭部メインカメラ、中東の太陽に照らされて艶を見せる装甲はパイロットの威圧感を伝えるには十分な外観だ。
「引いて下さい...あなた達との戦いは決して望むものではありません...
私が行くべき場所は知っているのでしょう?」
マリナが感情を訴えるように下げたままの両腕を広げれば、華奢な機体も同じ動作をする。しかし...

 

「ふふふ、そんな温いことを言っても無駄さ。......お前達、絶対に手出しはするんじゃないよ。」
釘を刺すような声に僚機二体はじっとして動く気配を見せない。
荒くれ者達を従わせる辺りかなりの手練れだと悟ったマリナは口をきっと結ぶ

 
 

機体は猛スピードで接近、間一髪のところを避けたマリナのユディータ。
しかし、見た目から想像できない程の滑らかなモーションで方向を変えると構えた巨砲を打ち出していく。
「ぐっ!」意外な動きに戸惑ったか反応が遅れたマリナは胴体にその一撃を喰らってしまった。
態勢を崩し後方に押しやられそうになるのを何とか踏み留まるマリナ。
MFに守られていても、大きな熱が体を襲ったことには変わりない。
だがいくつものファイトを経験した彼女は耐えることに徐々に慣れていたためしっかり敵を見据えて集中力を即座に取り戻し、背中の弓に手をかける。
(こんなことに戸惑っていたらファイトには勝てない...)
爆発性の実弾によって機体の胸部と腹部から灰色の煙が立ち上っていく。
ビームではないとはいえ威力は侮れない。ガンダムの装甲が比較的頑強だったため少し焦げた跡がついたのみに留まる。
それを見るや敵の声は少し面白くなさそうに「見た目によらず結構な装甲だね。まあすぐに潰すさ!」
(今しかない!)
瞬時に次の射撃に入ると同時にマリナの矢が迎え撃つ。一気に三本程放つことで互いの武器は相殺され、煙が立ち上る。
ユディータはその直前敵の僚機の肩を蹴る。しかし......
「......っ!」自身の足に強い力を感じて唇を噛む。爆炎と煙の中から濃いグレーの腕がユディータの脚を掴んでいたのだ。

 

「逃がさないよ!アザディスタンの皇女様。」「あなたは何故こんな真似を...」「なぜって?勝つ為さ、それしかないだろう?」
「きゃ、きゃあああああ......!!」ユディータを逆さづりにすると強いパワーで脚を締めていく。
このままでは機体だけでなく、マリナの脚も折れてしまうだろう...
「いやぁぁぁ......」蹂躙する力に比例して段々か細くなっていく声...
意識は痛みと痛覚だけに支配されそうになる......
「もう無駄な足掻きをする必要はないよ!楽にしてやるよ、皇女様!」
暗灰色の敵は新たにバスターを向けて...

 
 

「いっぱい探して集めてきたんだよ。」

 

...あどけない少女の声......赤や白、様々な色で繋がれた花飾り...
色濃くマリナの心に浮かぶ...
(だめ......あの子と...シーリンと、国のみんなに誓ったから......
こんなところで裏切ったらみんなに......恥ずかしい......)

 
 

力を振り絞り矢を強く握ると、逆さに見える敵機の不遜なメインカメラ目がけ三つの矢が連続で風を破るように躍りかかった......
「がはっ!」敵は火花を頭部から出しながらグラりとよろめきユディータを離した。
「おのれっ、」

 

何とか体勢を立て直したユディータ。
「はあ、はぁ......」まだ足に敵に圧迫されているような感覚が残るも長い脚をすっと開き、凛として新たな矢を構えるマリナ。
「絶対に......勝つ......」
皇女の碧い瞳は敵を射抜くように見据えていた。

 
 

「こっちもまだ終わらないよ!」
モニターをやられてもまだ一定レベルの視界が確保できる程強固に作られているカメラ。
そして、かなり戦い慣れているのか咄嗟の事態にもすぐに元の調子を取り戻した敵のパイロット。
弾丸を打ち出すも、動きを見切り瞬時に避けながら矢を放ち接近するユディータ。
「ぐっ!」グリップを握っていた指を射られたショックでバスターを落としてしまう...
拳を突き出し先程攻撃した胸部を狙おうとする敵機。しかし...
すっと掴んだ敵の腕部を柔軟なモーションで捩じって落としていくユディータ。
落ちていく敵の機体...しかし何とか機体を上下回転させ元の態勢に戻ったその時、無数の矢が堅牢な胸部の装甲に舞い降りて鋭角な傷を与えていく。
相手が思わぬ猛攻にじっと動作を止めたのを見計らったマリナはそのまま飛んで行った......
「いいんですか?あいつを追わなくて?」僚機のパイロットの問いかけに対し
「いいさ。私は他のルートでいくよ。決戦の地にね。」
「パージ、忘れないで下さいよ。」「あ、わかってるさ。」
灰色の巨人の主はじっと華奢な機体を見つめていた。
「あれだけの力があるとはね......負けられないね。」

 
 
 

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