神隠し_第02話

Last-modified: 2007-11-19 (月) 14:13:38

その日、海鳴市は快晴で、今はまだ日が昇って間もない時間帯である。
とある家の一室で鳴り出す携帯のアラーム。
「…ん~…。」
「なのは、起きないと遅刻だぞ?」
ぐずってなかなか起きない少女、高町なのはに起きるように促しているのはやや青みがかった毛波を持つフェレットだ。

何故普通なら有り得ない毛色をしたフェレットが人間が喋るように喋っているのか、話はつい先日に遡る。

なのははここ最近、妙な感覚に教われるようになっていた。
例えば、夢の中で何度も助けを求められたり、例えば昼間、意識がしっかりしているのに、頭の中で知らない、おそらく少年の声と思われる声が響いたりである。
後者の方もやはり
「助けてくれ…。」
と助けを求める声だ。
友達のアリサやすずかに相談してもよかったのだが…、相談したら病院を薦められそうなのでしなかった。

それでこのフェレット。
名前はアスランというのだが、公園で怪我をして倒れていたところを学校からアリサ、すずかと共に下校途中のなのはに拾われ動物病院に連れていかれた。
そこでなのはの運命を大きく変える事件が起こる。

この飼い主がいないフェレットをどうするかでアリサ、すずか、なのはの三人で相談したところ、アリサとすずかはダメとのこと。
理由は簡単、バニングス邸には沢山の犬が、月村邸は沢山の猫を飼っている。
というわけで、残るは早くも高町家だけ、そしてこの不思議な毛色をしたフェレットの命運は高町家に託されることとなった。

「どうしよう…」
はてさて困ったなのはは、色々と両親に納得してもらうための方便を考えるが…。
「何て言えばいいかな…。」
残念ながらなかなかいい案がうかばない。
高町家は喫茶翠屋を経営している。つまるところ、食品を扱う店であり、衛生面には気を付けなければならないのだ。
そんなお店を経営している両親が許可してくれるのか、答えはまだ分からないが、とにかく、なのはは両親に話してみることにした。回りくどい言い方はせず、率直に、けれども多分にフェレットを誉めて…。

意外にあっさり認めてくれた両親に呆気にとられながらも、とりあえずは安心するなのは。
「うちは食べ物扱ってるから…」
と母、桃子が言い出した時は焦った。
けれども、そこへ姉の美由紀、兄の恭也が助け舟を出してくれて、両親の許可をもらったのだった。

動物病院。
(参ったな…。)
籠の中にいる青みがかった毛色のフェレットは暗闇の中でキョロキョロと辺りを見回していた。
(助けてくれたのはいいんだが…、問題は俺が殆んど魔法を使えないことだな…。こんなところにあいつが…ッ!?)
カーテン越しに写る陰。
月明かりにてらされてはっきりと見える。
紅く煌めく鋭い眼孔。
(ちぃっ…もうきたか…。)アスランの、フェレットの足元に発生する蒼い方陣。すると、その方陣を中止に広範囲で街が何かに覆われていく。

ガシャァっ!!
窓ガラスを突き破り病院内に入ってくるそれ。
その衝撃で籠が机から落ち、ケースのドアが開く。
フェレットはその気を逃さず脱走し、開いた窓から飛び出した。
追ってくる化け物。
(何か…何か手はないのか!)
相手の月光閃く一閃をかわし、フェレット、アスラン・ザラは思い付く。
(あの子には俺の念話が通じたんだ…、つまり…。)
再び迫る相手の一撃を身をよじってかわす。
(あの子には魔力資質がある!頼む、通じてくれ!!)

疲れて仮眠をとろうとしていたなのはを再び、あの感覚が襲う。
(助けて…くれ…。)
姿なき声。
しかし、発生源はなのはにはわかっている。今日助けたフェレットだ。
なのは、素早く身支度を済ませ、初めて夜間に両親に無断で外出した。
走る、走る、走る。
正直、運動神経はよくない。それでも、持てる力を全て使い動物病院へとなのはは向かった。

(くそっ!!)
「グラップルスティンガー」
勢い良くつきだしたアスランの小さな手から放たれる緋い光の閃光。
それは対象者を縛り上げ、アスランはひき千切られないように精神を集中する。
だが、あっけなくひき千切られるバインド。
「くっ…。この姿では…。」
デバイスを発動できない上に、自身の力も弱まっている。敵を拘束することができない。
「くそっ!!」
と悪態をつき、病院敷地内から出ようとしたそのとき、自分を助けてくれたあの少女が姿を現した。

「わぁっ!!」
なのはは胸に飛込んできたアスランをキャッチ。
「助けにきてくれたのか…、ありがとう…。
でも、今は…!!」
と再び障壁を張るアスラン。
なのはは突然の事態に目をパチクリさせるばかりだ。
「君は…ぐっ!俺を助けたときに…、宝石の様な赤い玉を拾わなかったか…?」
瞬く閃光の光に照らされながら、アスランはなのはに聞いた。
「うん、拾ったよ。綺麗だったから…。」
「今…持ってるか…?」
なのはは、ポケットからそれを取り出す。
「…いいか、よく聞いてくれ!…君には資質がある…。」
「…資質?」
「魔法が使えるってことだ…うぐっ!!シールドバースト!」
三つの円を三角に繋ぐ緋い光の方陣が爆発し、黒い塊を弾き飛ばす。
「…魔法?」
「そうだ…、時間がない。俺に力を貸してくれないか?きっとお礼はするから…ッ!?こっちだ!!」
フェレット、アスランは電柱の陰へとなのはを誘導する。
すると、近くで起こる衝撃。
「今、君の力が必要なんだ。頼む、お礼はきっとするだから…君の力を!」
「お礼とかそんなこと…。それで、私は何をすればいいの?」
その問いに、アスランはなのはとともにレイジングハートの起動パスを永昌することで答えた。
高町なのははその日から魔法少女となり、アスランとともにジュエルシードを集める日々が始まる。

何とか布団の魔力に打ち勝ったなのはは、アスランに朝食中、学校へ向かうための準備中、更には学校でも念話を使って質問ぜめだった。
まず、自分とジュエルシードについてアスランはなのはに説明する。
管理局特務隊所属のアスランは危険性の高いロストロギアの発掘、及び確保を管理局上層部のお偉い方に命じられていた。
任務は順調に進んではいたのだが、確保の一歩手前でジュエルシードが暴走、今に至ること。
途中、ジュエルシードにより魔物化した何かの生物の魔法によりフェレットに姿を変えられたアスランは、なのはが何とかそれを倒してくれたお陰で、元の姿に戻れるようになったこと。
ただし、なのはの家族にはフェレットで通っているので、アスランはフェレットの姿を維持し続けていることをなのはに説明した。

それから数日が経つ。
アスランはなのはの成長ぶりに驚いていた。
特にアスランが何かを教えるでもなく、なのはは新たな魔法を次々と習得。
ジュエルシード集めも順調に進んでいった。
このまま、案外楽に集まるかもしれない。アスランはそう思った。
しかし、すぐにその考えが浅はかだとしる。
月村邸でのジュエルシードの暴走のとき、一人の少女と少年がなのはとアスランの目の前に現れた。
少女は、輝くような金髪をツインテールにしており、黒いマントを纏い、手には少女が持つには似合わない斧を持っていた。
死神を思わせるようなそんないでたちで、年の頃は、なのはと同じぐらいだろう。
そして、少年は少女とは違い、ただの私服だった。手には何も持っていない。
茶色い髪にパールブルーの目。
年はアスランと同じ年ぐらいだろう。
少年の容姿に見覚えがあった。
そして、なのはは魔法少女となって初めて敗北することになる。
少年にみとれていたアスランはなのはに援護してやることも出来ず、空中から落下してくるなのはを元の姿で受け止めることぐらいしかしてやれなかった。
「…キ…ラ…?」
アスランは呟くが、その声に反応することなく、少年と少女は飛び去った。