種死&リリカルなのはさん 単発SS集

Last-modified: 2007-11-17 (土) 19:02:07

◆GmV9qCP9/g氏 2007/02/18(日) 12:56:21
(注:『魔法少女リリカルなのはC.E.73』第12話後のサイドストーリーです)

 
 

 インド洋沿岸の小さな町に辿り着いたなのはは、宿代が必要なので銀行へと向かった。
 ATMコーナー。カナードの厚意に入れてみた感謝しつつ、カードを挿入。教えてもらっていた暗証番号を入力し終えたのだが──
「……指紋認証?」
 どうやら暗証番号だけでは取引できないらしい。
 一応試しにと、なのはは右手人差し指を機械に置いたのだが──それが不味かった。
「えっ!? えっ!?──」
 突如として鳴り出したけたたましい非常警報に、なのははおろおろする。
 瞬く間に警備の者が駆けつけ、なのはは拘束されてしまう。

 
 

 ── 一時間後。
「パルス様の承諾が得られましたので、以後は高町様にもご利用頂けます」
「はぁ……その、すみませんでした」
 かなりの大騒ぎとなってしまい、なのはは後ろ暗い気持ちから謝った。
「いえいえ……それでですね。パルス様が高町様に繋いでほしいと仰られまして──」
 銀行員が手渡してくる受話器を受け取るなのは。
「……もしもし、なのはです」
『ああ、カナードだ。悪かったな、指紋認証の事をすっかり忘れていた』
「お陰でひどい目に遭いました」 ややムスっとするなのは。
『捕まったらしいな。でも、お前の指じゃダメな事ぐらい分かるだろ?』
「むぅ……カナードさんが何とかしてくれてるのかと思ったんです!」
『あのなぁ──』

 
 

 この後、二人の不毛な言い合いが三十分ほど続いたのだった。

 
 
 
 
 

シンとヤマトの神隠し氏 2007/02/19(月) 00:32:30
サアアァァァアアーー…

 

部屋の中にいても聞こえるこの音は雨音で、時折近くを走る車が水しぶきをあげる音を不規則に混ぜる。
天候も薄暗く、なんだか気だるい雰囲気に包まれ、しかし、そんななか、シンはフェイトの勉強を見ていた。
まだ午前中だが、カーテンを閉め、部屋には電気がついている。
カリカリと、フェイトが鉛筆を走らす音が聞こえる。時折、シンをちらりと見て、自分の答えがあっているかを確認する。
答えがあっていれば、シンは頷くし、間違っていれば首を左右に降り、解説してやった。
それを繰り返すうち、
「くぁ~~っ!」
可愛らしい欠伸が一つ漏れた。
子犬形態のアルフだ。
フェイトは一旦、手を止め、アルフを見、そして真剣だった表情を緩ませる。
まぁ、無理もないだろう。アルフにとっては、勉強なんて面白いとは思わないだろうし、退屈なだけだ。
さらに、今は十二月、朝から雨と言うことで、太陽は昇らず、気温は低い。
部屋の中を、体を、ヒーターやコタツが暖めている。その暖かさが睡魔を呼んだのだろう。
ちなみに、コタツは長方形型でフェイトの隣にシンが座って雑誌を読んでおり、アルフはその間で半身をコタツにいれて寝息を立て始めていた。

 

サァァアアーー…

 

尚も降り続ける雨。
時間は十一時半を過ぎたころ。
――お腹すいたし…。ちょっと疲れたなぁ…。
フェイトは手を休め、シンに休憩しようと言うつもりだったのだが…。
――寝てる…。
起こさない方がいいよね?何てことを考えながらフェイトは絨毯の上にシンと同様に寝転がり、体を横にする。
規則正しくシンの胸が上下し、アルフの背中も上下する。
そんな様子を見ているフェイトの瞼も重くなり、そして……。

 

「ただいま~…。」
と、買い物ついでに翠屋に寄ってきたリンディが帰ってきた。
リンディは何の返事もないことをさして気にも留めず、廊下を歩き、居間へと通じるドアを開けた。
買い物袋を冷蔵庫の近くに適当に下ろし、コートをしまいに行こうとしたところで、足を留め、その光景を見て微笑んだ。
「あらあら…。」
シン、フェイト、アルフの二人と一匹が寄り添うように眠っていた。

 

サアアァァァアアー…。

 

まだ午後一時を過ぎぬうちにハラオウン家が住む部屋の明かりが消えた。
雨はまだまだやむ気配がないが、明日の海鳴市は、晴れだ。
~完~

 
 
 
 
 

シンとヤマトの神隠し氏 2007/03/07(水) 17:32:24
ある日のはやてとキラ

 

いつになく冷え込む海鳴市。空は澄み渡り、星がよく見える。その反面、空気は乾燥し、風邪をこじらせやすい。
その日、八神家では、はやてが風邪をひき、熱を出して寝込んでしまった。
「今日はやめといた方が…」
とシャマルがシグナム達に言った。
いや、と首を振るシグナム。
「もう時間がないんだ。のんびり気長に蒐集というわけにもいかん。」
「でも…、はやてが…。」
ヴィータは今にも泣きそうな顔でシグナムにすがりつく。
「私が残りますから…シグナムたちは…」
またも首を振るシグナム。「今回はどうしても、シャマル。お前の力が必要だ。」
サポートのエキスパートであるシャマル。何かと彼女は役に立つし、やってもらいたいことでもあるのだろう。
「じゃあ…、僕が残ります。一人じゃ次元転移とか出来ないんで…。」

 
 

主を任せたぞ、はやてに何かあったら承知しないからな!、キラさんお願いしますね、すまんが任せた。
三人と一匹にそう言われ、キラは八神家に残った。
シグナムたちを見送った後、はやての部屋へと向かう。
トントンッ!
「はやてちゃん…?」
反応は…ない。キラはドアノブを捻り、はやての部屋の中へと入った。
なるほど、辛そうだ。呼吸が荒く、汗をかき、額に前髪が張り付いていた。
布団はベッドからずりおち、はやては震えていた。
「はやてちゃん?」
名前を呼び、肩を揺する。「…んぁ…?…キラ…君?」少しだけはやての瞼が開き、キラの姿を確認する。
「たくさん汗かいてるから、体を拭いて、新しいパジャマに着替えようか?」
キラは一旦風呂場へと行き、お湯を洗面器の中にため、タオルを用意する。
それからはやての部屋へと戻り、タオルを絞って手渡した。
しかし、ベッドの上に座ったまま一行に動こうとしない。
「…はやて…ちゃん?」
ポテッとベッドに体を横たえるはやて。
「……ぁかん、…むっちゃ…しんどい…。」
どうやら、自分では体を満足に動かせないようだった。

 

「…ふぅ~…。」
と一息。
はやての体を拭き終え、パジャマの着替を手伝ったキラは額の汗を拭う。
はやての膝を曲げさせ、お姫様だっこの要領で、ベッドにきちんと寝かし付ける。
キラはタオルを洗濯機に放り、洗面器のお湯をすて、風呂場に戻す。
それから台所へ向かい、あるものを探し出した。
りんごである。
キラは包丁を使い、皮を向き始めた。もちろん、器用にとまではいかない。途中で何度も皮を切ってしまったし、身を深く削ってしまったりする。
そんな苦労を重ねた不格好なりんごはすりりんごへと姿を変えた。
少しだけ塩を降り、買い置きのスポーツドリンクと器に盛ったすりりんごをはやての部屋へと持っていく。
時刻は夜10時半を過ぎたころ。
再びドアをノックしてから部屋へと入る。
「はやてちゃん…、夕飯食べてなかったよね?」
もぞもぞ布団が動きだし、はやてが体を起こした。
「喉が…かわいたぁ……。」キラはボトルのキャップを軽く開け、はやてにドリンクを渡す。
んぐんぐとボトルの半分までを一気に飲んでからはやてはほぅ~、と息を着いた。
「あんまり気の効いたものはつくれないんだけど…、これ…。」
スプーンと皿をはやてに渡した。
「これ…、キラ君が作ってくれたん?」
「うん、お粥とか作れればよかったんだけどね…。」恥ずかしそうに頭を掻くキラ。
「ううん…ありがとう…。」はやては目に涙を浮かべ、キラの作ったすりりんごを食べ始めた。

 

「皆が来る前までは、ずっとこの家に一人やったんよ…。」
「…うん…。」
はやてと会話しながら、キラは床に座り、ベッドの側面に背中を預けた。
「寝込んだときとかも、一人やった…。皆来る前までは寂しくなかったんよ?」
「…うん…。」
キラは体をはやての方にむけた。
「でも、何でやろか?…最近、一人になると寂しいなるときがある。」
「…そっか…。」
キラは立ち上がったところではやてに手を掴まれた。「…ん?…大丈夫、また来るから…。濡れタオルを持ってくるだけだよ…。」
「本当?」
「…うん。」
キラは新しいタオルをだし、水を張った洗面器の中に氷を入れる。
それをはやての部屋に持っていき、絞って、はやての額に張り付いた髪をとってから、タオルを置く。
「気持ちえぇわぁ…。ありがとう…。」
「…どういたしまして…。もう遅いし…、ゆっくり休んで…。そうしたら明日には良くなってるよ。
きっと…。」

 

「…うちのわがまま聞いてくれる…?」
部屋を出ていこうとしたキラを引き留め、はやてが言った。
「いいよ…。」
キラは微笑んで言った。

 
 

「つっかれたぁ~」
と深夜を過ぎて帰宅したシグナムたち。
シャマルは手洗い、うがいを済ませたあとすぐにはやての様子を見に行った。
ヴィータとシグナムもシャマルのあとに続く。
音を立てないようにゆっくりとドアを開けると、最初に目に入ったのはキラだった。
床に座り、はやての手をにぎって、ベッドにうつ伏せに突っ伏している。
はやてはキラの手を両手で握り、丸まっていた。
ヴィータはムッとし、シャマルとシグナムの頬が緩む。
それから、シャマルはキラに毛布をかけて、ドアをそっと閉めた。

 

翌日。
くぁ~~っと大きな伸びをして起きたはやてはキラを見て微笑む。
「本当にずっとここにいてくれたんやね。ありがとう。」
とそこで気付いた。自分のパジャマが変わっていることに…。
あれ?うち、いつ着替たんやろ?
………ボシュっと顔が火を吹き
「あぁぁぁ!!」
と悲鳴をあげた。
キラが眠たげな目を擦り、むくりと起き上がった。
「どうしました主!」
「はやて!?」
「はやてちゃん?」
「………。」
その悲鳴をききつけたヴィータ、シグナム、シャマル、ザフィーラが駆け付ける。
「うちを着替させたのって…シャマル?」
震える声ではやてがシャマルに聞くが、シャマルは首を横に振り、否定した。
シャマルを指していた指がシグナムへ。シャマルと同様に首をふる。
それはヴィータもだった。「はやてちゃんの着替をしたのは僕だけど……それが…。」
どうしたのと聞く前にはやてが泣き出した。
同時に溢れる三つの殺気。「いや…でも、あの場合は…不可抗りょ…ちょっ、ザフィーラさん!たすけっ………。アッー!!!」

 

キラは布団の中で意識が朦朧とするなか、ひたすら頭痛と悪寒に耐えていた。
はやての風邪がうつったのだ。
「僕は…どうして……こんなことに…。」
コンコンッ!
「キラ君!わぁっ、凄い汗、体を拭かんと…。」
はやて、シャマル、ヴィータが近寄ってくる。
シグナムはドア越しに合唱していた。
「や、やめろ!やめてくれぇぇええぇぇ…アッー!!」
ある日のはやてとキラ

 
 
 
 

シンとヤマトの神隠し氏 2007/03/09(金) 17:56:19
ある日のシャマルとキラ

 

「それじゃあはやてちゃん。いってらっしゃ~い。」
「うん、シャマル、キラ君、家の事はまかせたでぇ。」
シャマルもキラも頷き、シグナムとヴィータ、それから首輪に繋がれているザフィーラを見送る。シグナムとヴィータははやての検査の付き添いだ。ザフィーラはついでの散歩。
「ん~っ。さてっ、掃除でもしましょうか?キラさん。」
伸びをしたシャマルがキラに笑いかける。
「…そうですね。」
キラとシャマルは掃除に取り掛かった。シャマルが掃除機をかけ、キラはモップで床を拭く。
そして、シャマルが洗濯物を干している間に、キラが台所の洗い物と、トイレ掃除も終わらせる。
風呂掃除を残し、キラとシャマルは昼食をとることにした。

 

昼食は、はやてたちは外で済ますとのことで、お昼はシャマルが作ってくれるらしい。
キラは料理を運ぶだけ…。実際のところ、料理なんてあんまりしたこともないので、ろくに作ることも出来ない。
味噌汁、卵と玉葱とウィンナーの炒めもの、それからご飯。
「たくさん食べてくださいね。」
「…はい。」
キラはご飯を一口、口に放り込み、味噌汁を飲む。そのあと、炒めものをご飯の上にのっけて掻き込んだ。口のなかのものを飲み込み、そこでシャマルの視線に気付いた。
「…えと…なんですか?」
「おいしいですか?」
「あ、はい。おいしいです。」
よかったと、両手をあわせ、首を傾けるシャマル。
しばし無言のまま箸を勧める二人。
「あの…テレビつけましょうか?」
「…そうだね。」
沈黙にいたたまれなくなったシャマルがそういうので、キラは同意し、テレビをつけた。
『あなた~、おかえりなさ~い。』
『ただいま~。』
画面の中の二人は夫婦のようだ。
『お風呂にする?ご飯にする?』
そんな妻の問いを無視して抱きつく夫。そして手が…。
キラがチャンネルを変えた。今度は当直室で二人きりの医者と看護婦が…。
再び変える。
次は兄妹が…。
「…シャマルさん…テレビ…消していいですか?」
「何でですか?」
「あ…いや、なんでって…シャマルさんが見たい番組があるのなら…」
苦笑しながら、キラはシャマルにリモコンを手渡した。

 

『真由!好きだぁ!!真由!!』
『だ、だめよ、真お兄ちゃん、私たちは兄だ…。』
キラは観念し、食べることだけに集中する。
シャマルはそんな画面の中の男女、兄妹をみながらうっとりしていた。
「なんか…いいですよねぇ。こういうの…。」
ブホッと蒸せるキラ。
(えぇ!?近親相姦が…ですか?)
「ゲホッ、何が…けほっ、いいんですか?」
お茶の入っているコップを手を伸ばすキラ。
「わかりません?」
「…わかりません。」
「人を好きって言う気持ちですよ。」
「…はぁ、確に…いいかもしれませんね。」
「私たちはプログラムですから…、人を好きって気持ちがあまりわからないんです。」
そうか…。とキラは思う。
「でも…、わかってるじゃないですか…。」
シャマルがテレビからキラへと視線を移す。
「はやてちゃんのこと…。守ってあげたいとか、支えになってあげたいとか…。涙を流して欲しくないとか…、そういった気持ちがきっと、好きって気持ちなんだと思います。
まぁ、見解なんて人それぞれなんですけどね。」
目をパチクリさせるシャマル。
「じゃあ、私たちは…はやてちゃんのこと…。」
うなずくキラ。
「好きなんですよ…きっと。主だから守らなきゃいけないとか、そういうのじゃなくて…。
シャマルさんたちを見てると、あぁ、はやてちゃんの事、好きなんだなぁって、そう見えますよ。」
キラは笑って言った。
「そう…見えますか?」
上目使いにシャマルがキラを見る。
「え、えぇ…見えますよ。」テレビの中の兄妹がベッドの上で唇を重ね合わせていた。
「じゃあ、あぁいうのもやってあげたらはやてちゃん、喜ぶんですか?」
劇中の二人を指さしてシャマルが言った。
布団のシーツは乱れ、衣服が乱れるのも気にせず、体を密着させている。
呼吸が荒くなる兄。ほんのり頬が上気している妹。
「いや…それは…。」
「この真由って女の子も、真っていう男の子もお互いに好きだって言ってますよ?」
「い、いや、これは…その…何て言うか……。」
しどろもどろになるキラを頭に?を浮かべながら見ているシャマル。
「はやてちゃん…、あんまり喜ばないと思います。」

 

「何で…ですか?」
「はやてちゃんの本当に好きな異性と行うことなんだと…僕は、思います。」
「異性ですか?
とすると、キラさんとか?はやてちゃん、キラさんのこと好きって言ってますし…。」
「まぁ異性には入りますけど…。たぶん、テレビの二人の『好き』と、はやてちゃんの言っている『好き』は違う『好き』ですよ。」
昼食と妙な雑談を終えたシャマルとキラはテーブルを片付け始めた。
皿を積み上げ、運ぼうとするシャマル。
(好きとは違う好き…か。)考え事をしながら皿を持ち上げ、一歩シャマルが踏み出したその時、床にこぼれていた水気に足をとられバランスを崩した。
「きゃっ!!!」
手の上の積み上がった皿が傾く。
「ッ!?シャマルさん!!」
キラがシャマルの体を後ろから支え、両手を皿を持っているシャマルの手に添えた。
キラに体を預けることで何とか転倒を免れたシャマル。
キラも皿が落ちないよう手を沿えたが、残念ながら一枚落下。
カシャンッと甲高い音を立て、割れてしまった。
「あぁ…、どうしましょう~…。」
慌て出すシャマル。
「シャマルさんは、とりあえず残りのお皿を流しに持っていっちゃってください。僕が片づけま…。」
キラとシャマルの手が触れた。互いの顔も近い。
目が合う、響く二人の呼吸音。
「…す、すみません…。」
キラは慌てて手を引っ込めた。
「…な、もう、キラさんってば何を謝ってるんですか?」
動揺するキラの様子にシャマルも何だか恥ずかしくなってしまった。
「あとは、僕がやりますから、シャマルさんは掃除機を持ってきてください。」
八神家、夕飯。
今日の夕食はヒレカツ、サラダ、味噌汁にご飯。
食卓に料理が、全員が揃ったところでいただきますをする。
キラがソースを取ろうと手を伸ばすと手が触れた。
「あっ…、先にどうぞ。シャマルさん。」
「あ…ありがとうございます。」
はやてとシグナムが怪訝そうな顔をした。
キラはソースをシャマルから受取り、かけている。
「どうした?シャマル…。さっきから箸が進んでないみたいだが…。」
シグナムがシャマルに声をかけるが…、聞こえてないようだ。
「シャマル?」
「へっ?な、な、なんですか?」
顔がほんのり赤い気がするが…。風邪ではないだろう。
「いや、何でもない…。」

 

布団に入り、シャマルは天井を見つめた。
何だか今日の自分は変だ。シグナム、ヴィータ、はやてにも変だと言われた。
自分でもわかるぐらいだから、相当変なのだろう。
何でだろうか。
「はぁ…。」
考えてもわからないので溜め息が漏れた。
ずっとそうしていても仕方ないだろう、と言うことで、昼間のキラの言葉の意味を考えることにする。
「好きとは違う好き……か……。」
寝返りをうち、目を閉じて考えてみた。
「……何が違うんだろう?」結局、分からず、眠りにつくシャマルであった。

 

ハラオウン家、昼間。
「シン…、これ…。」
雑誌を読んでいるシンに声をかけ、テレビを指差すフェイト。
『真由!好きだ!!真由!』『駄目よ、お兄ちゃ…んっ!私達、兄だ…。』
「なっ、何を見てるんだ!フェイトはぁ!!」
「いや、ただシンと、シンの妹の名前がこの二人と一緒だなって…。」
「違う、違うぞ?俺とマユじゃない!似てないだろ?な?フェイト、似てないだろ?」
「う、うん。…わ、わかったから…、似てない、似てない。」

 

ある日のシャマルとキラ 完

 

おまけ
何でだろう…。二人で留守番した日から、シャマルさんが僕を避けるように、視線を合わせないようになりました。
そのせいか、はやてちゃん、ヴィータちゃん、シグナムさんからの視線が痛いです。
ザフィーラさん(子犬)に散歩ついでに、相談してみました。何も言ってくれませんでした。

 

僕の…居場所は……。
キラ・ヤマトの日記
~異世界にて…~

 
 
 

シンとヤマトの神隠し氏 2007/03/10(土)15:06:31
ある日のシンとリンディ

 

その日、シンは朝早くからアースラにいて、魔法の訓練をしていた。
だから、朝食にしては遅い朝食を、リンディと食堂でとっているのだ。
それぞれにもう食べ終えて、今は食後のティータイム。
シンはブラックコーヒーを、リンディはお茶とようかんを頼み、コーヒーカップを口に運びながらシンはリンディの様子を伺っていた。
(やっぱり…か…。)
今日も砂糖とミルクを緑茶に入れている。
こっちの世界の流行りなのか?
そう思っていた。

 

本人に直接聞くのは気が引けたので、知り合いに聞いてみることにした。
証言者1
「私も最初見た時はびっくりしたんだよぉ。」
証言者2
「私は…、あんまりお茶とか詳しくないから…。ちょっと…分かんないな…。
ごめんね…。」
証言者3
「お茶よりミルクの方が好きだからね、分かんないわ。フェイトに…えっ?聞いた?じゃ、なのはに…なのはにも聞いたのかい?じゃあ、クロノに聞いてみたら?」
証言者4
「緑茶にミルクと砂糖…か…。正直、僕もあまり詳しくはないんだ。
艦長が好きで飲んでるんだから、いいんじゃないか?」
証言者5
「いや、僕もあまり詳しい方ではないんだけど…。
でも、しばらくなのはの家にいたときは、皆何も入れずに飲んでたよ?」

 

リンディとの二度目の、二人きりでの朝食後ティータイム。
「あの…前から聞きたかったんですけど…何でお茶にミルクと砂糖を?」
「?変かしら?」
「別に好みをとやかく言うわけではないですけど…、やっぱ変ですよ。
ミルクと砂糖はコーヒーに入れるもんですよ?」
ふぅっと溜め息をつくリンディ。
そして遠い目をしながら、低い声音で呟いた。
「あの人が…夫が好きだったのよ…。」
「えっ?」
「以前も話したけど…私の夫は、過去の闇の書事件で…亡くなったわ…。」
もしや、地雷を踏んだのかしら、そう思い、陰が覆うシンの表情を無視して、話は続いた。
「あれは…そう、ちょうどこんな感じだったわ。」

 

~回想~
「やぁ、リンディ、おはよう。今日はお寝坊さんかい?」
「ごめんなさい、あなた。今朝食の準備をしますから」
「いや、いいよ。もう時間だし…。それよりも緑茶をもらえないかい?
砂糖とミルクつきで…。」
「砂糖とミルクを?どうするんですか?」
「決まってるじゃないか…、入れるんだよ。緑茶に。なんなら、リンディ、君もどうだい?」
「えぇ、頂くわ。」
~回想終了~
「なんてことがあってね。」
「はぁ…。で、味の方はどうだったんですか?」
「最初は…美味しいとは思わなかったわ。正直…。」でしょうね、とコーヒーを煤るシン。
「でも、あの人が残してくれた思い出だから…。写真や、アルバムとは違った…思い出だから…。」
寂しげな顔をするリンディ。やはり、聞いてはいけない話だったのだろうか…。「だから、この味を大切にしたいの…。あなたも、家族の思い出とか…形見とか…大切にしたい物があるでしょう?」
「はい、俺…目の前で両親が、妹が吹き飛ばされて…。両親の形見は戦争中のゴタゴタで取りにいくことも出来なかったんですけど…。妹の形見、ピンク色の携帯なんですけど、大事に持ってます。」
シンは一息つき、コーヒーで喉を潤した。
「何か、リンディさんの話きいてたら、そのお茶…飲みたくなってきましたよ。」

 

リンディはお代わりとシンの分のお茶、砂糖、ミルクを持って、席に再び戻った。
「どうぞ…。」
「ありがとうございます。」二人は湯飲みに砂糖とミルクを注ぎ、手にとる。
「大切な思い出に…」
微笑むリンディ。
「…乾杯!」
涙ぐむシン。
二人は湯飲みを掲げ、ズズッとすすった。

 
 

そんな二人の様子を物陰からみている二人の影。
フェイト・テスタロッサとクロノ・ハラオウンだ。
ぐしゅっと鼻をすするフェイト。
「あのお茶に…そんな思い出があったなんて…。」
「いや…、あれは嘘だ。…たぶん…。」
「えっ?嘘?」
(騙されるなシン!)

 

クロノの思いはむなしく、めでたくシンはリンディのティーフレンドになったのだった。

 

ある日のシンとリンディ 完

 
 
 

シンとヤマトの神隠し氏 2007/03/25(日)09:53:06

 

ある日の八神家

 

「キラくん!これ運んで、それからシャマルはこっち。シグナムは飲み物を…。ヴィータはコップとお箸を用意して。
今日はおこたでご飯食べるからなぁ。」
慌ただしく動き回る八神家一同。
「ザフィーラも、今日は箸使って食べるからな?
はよ人型になって部屋着に着替えて…。」
青い毛波の子犬がリビングから出ていき、暫くするとがたいのいいキリッとした顔の男が部屋に入ってくる。
「おっしゃ…、ほんなら皆どうやって座ろか?」
「私!はやての隣!」
「ん、そうやな。一緒に座ろか?」
と言うわけで、長方形のコタツ、横にはやて、ヴィータ。対面してシグナムとシャマルが座る。
縦にはザフィーラ、対面してキラが座った。
「皆、いただきます。」
『いただきます。』
今日は大晦日なので普段は並ばないような食べ物が食卓に並んでいる。
「はやて、これ何?」
「それは数の子。」
「これは?」
「お餅や。」
キラはそんなヴィータとはやてのやりとりを微笑ましく見守っていた。
何か、お母さんみたいだなと思う。
面倒見もいいし、母性的。「キラさん?食べないんですか?早く食べないとなくなっちゃいますよ?」
と、キラから向かって右に座るシャマルがボケッとしているキラに声をかけた。
「あ?も、もちろん食べますよ?」
「個皿にとりましょうか?」「いや、いいです、自分でとれますから…。」
キラは膝で立ち、適当にいくつか個皿に取りわけていく。
取り分けたおかずを食べていると
「キラくん、おいしい?」
はやてが聞いてきた。何故かよくわからないが、はやてはキラに食事の度に聞いてくるのだ。
「うん、おいしいよ。はやてちゃん。」
そう答えると、はやては照れる。
「でも皆、今日はあんまりお腹一杯食べたらあかんよ?
年越し蕎麦もあるんやからね?」
「主、年越し蕎麦ってなんですか?」
「年越し蕎麦は、新年を向かえる時に食べる日本の伝統的な食べ物や。」
ほうっとシグナム。
それからだらだら食べながら皆で会話し、怠惰な時間を過ごす。
いつかはもとの世界に帰らなければならないキラ。
正直、もっとこの世界にいたいと思い始めていた。

 

だらだらだらだら過ぎて行く時間。
『3、2、1、明けましておめでとう!!』
テレビから新年を向かえたのを合図とし、八神家一同も挨拶をする。
互いに頭を下げ、それが終わったら蕎麦を食べる。
それから、はやてが初詣に行こうと言い出したので、近くの神社に行くことになった。

 
 

「はぐれちゃったね?」
「そやな…、まぁ、はぐれたら家に集合って言っといたから大丈夫やろ?」
「そうだね。じゃあ…戻ろっか?」
キラははやての座る車椅子を押し、ゆっくりと歩き出した。
真っ白い月が夜道を照らす。
外灯がいらないほどに明るかった。
「キラくん、お賽銭、何お願いしたん?」
「これからも平和で皆が暮らせますようにって、それから…元の世界に帰れる日が来ますようにってお願いしたよ。はやてちゃんは?」
「うちも最初は同じや。でも…最後は逆やな…。」
はやてがうつ向き加減になった。
「できればキラくんには帰って欲しくない…寂しいなるし…。」
「うん…、そうも思うんだけどね…。この世界で暮らしていたいって…。でも…、やっぱり、いつかは帰らなきゃ行けないんだろうなって…。」
月を見上げてキラが言う。
「ありがとう…、はやてちゃん…。」
「どないしたん?急に…。」キラが突然お礼なんて言い出すものだから、何だかこのまま帰ってしまいそうではやては不安になった。
「はやてちゃんに出会わなかったら、管理局の人たちや、シグナムさんたちには出会えなかった…。
それに、シンと僕も…ちゃんとした形で話し合うなんてこともできなかったと思う。」
「何か明日にでもふといなくなってしまいそうやな…キラくん…。」
「そんな…急にはいなくならないよ。」
「お別れの時は、ちゃんと言うてな…。」
「うん…。」
「約束やで?」
「うん…。」
車椅子を押す手に力を込めて、門の前で待つヴィータ、シグナム、シャマル、ザフィーラの元へと向かった。
皆でおみくじの結果を見せあった。
結果に対し、茶化したり、、驚いたり、疑ったり、怒ったり…。
そう遠くない日に、きっと帰ることになるんだろうな…。
笑うはやて、怒るヴィータ。
照れるシャマル、ムッとするシグナム。
相変わらず無愛想なザフィーラ。
そんな五人を眺めつつ、キラはそんなことを考えていた。

 

コタツの中で、一同は雑魚寝する。
ザフィーラは子犬形態になっているので問題ないが、五人ぶんの足がコタツの中で重なりあっていた。
はやてとヴィータは母と子のように抱き合って眠っている。
シグナムは横を向き、シャマルは仰向けに寝て、胸の前で手を組んでいる。
何だか死体みたいだが…。キラは両手を頭の後ろに組んで眠っていた。

 
 

朝十時
雪がうっすらと積もった八神家の庭でヴィータとキラが羽突きをやっていた。カンッ、コンッという渇いた音が響き渡る。
「くっそぉ~。」
さっきからヴィータはキラに負かされてばかりで、ヴィータの顔は墨だらけだった。
「キラ、卑怯だぞ!こーでぃ何とかなんだから少しはかげん…」
「ヴィータ…あとは私にまかせろ。」
今までみているだけだったシグナムは重たい腰をあげた。
「ヴィータの仇、とらせてもらうぞ。」
何だか戦闘態勢のシグナムに向け、キラは羽を打った。
「紫電一閃!」
「ちょっ……!!」
シグナムが渾身の力(魔力)を込め打ち放つ羽がキラの羽子板をぶち割った。
理不尽なことに、キラははやて、ヴィータ、シグナム、シャマルの四人に顔、体、腕、足に落書きをされていた。
それを見て笑う四人。
心なしかザフィーラまで片眉がピクピクしてるような気がする。
ムカついた。いくらなんでも身体中に落書きをするなんて理不尽だ。
だから、丸めた雪の塊を完全に無警戒で、目に涙までためて笑うシグナムとヴィータに向けて投げた。
「ざまぁみろ!キバッ!!」
「自分で鏡を見てみたらどうだ?キラ・ヤマッ…と」
「キィィイイラァア!!」
ヴィータが吠える。
見事二人の顔面に命中し、雪合戦が始まった。
シャマルもはやてもザフィーラも巻き込まれる。

 

「汗かいたなぁ~、お風呂入らんと皆、風邪引くでって…キラ君、何か腕とか腫れとるで?」
「あぁ、これ?ヴィータちゃんが途中からグラーフアイゼンで圧縮した雪の玉を打ち出すもんだから…。当たっちゃって…」
たははと笑うキラ。
「はやてちゃんたちから先にお風呂に入っちゃえば?僕はあとでいいから…。」
「そうさせてもらうわ。」
はやてはにっこり微笑み、キラに答えた。
お風呂からはやてがヴィータに説教をする声と、シャマルのなだめる声、ひたすら謝るヴィータの声を聞きながらキラは笑った。

 

「約束したのになぁ…。」
呟くはやて…。
一月も終りに近付き、今は八神家の夕飯。
ヴィータはモリモリとご飯を食べていた。
シグナムはゆっくりと噛み締めながら、シャマルは味わいながらゆっくりと、ザフィーラは床でいつもとかわりなく食をすすめる。
なぜかテーブルには一人分多くご飯茶碗と味噌汁茶碗が用意されている。
空白の席。
誰も座っていない。
本来なら、キラくんおいしい?
はやては聞くはずだった。それが日課になっていたから…、もちろん、代わりにヴィータたちに聞けばいいだけのこと。
けれど、何だか胸にぽっかりと穴があいたような気がするのだ。
ご馳走を用意した。
キラがシンに負けても、勝っても労ってやるつもりでいた。

 

二人が結界内で消えてしまったあと、それでもはやてはキラが帰ってくることを信じて、腕を振るって料理をした。
何だかキラがひょっこり帰ってきそうな気がしたから、呼べば返事を返してくれそうな気がして、お風呂も準備して、布団のシーツを張り替えて待っていた。
けれど、帰ってこなかった。呼んでも返事はないし、気配さえない。
本当にいなくなった。
いつかは帰ってしまうとわかっていた。
頭では理解していても、心がそれについていかなかった。

 

その日、初めて八神家の夕食がたくさん残った。
風呂に入って歯を研く、一本多く歯ブラシがあった。

 

皆におやすみの一言を言って、自分の部屋に行く前に、はやてはキラが使っていた部屋を覗いてみる。
電気をつけた。
部屋の隅に買ってあげた服が畳まれて置いてあり、枕元には、雑誌とはやての本が何冊か積み上げられていた。
「本当に…いなくなったんやなぁ…。」
はやては自分の部屋ではなく、キラが使っていた部屋で眠ることにした。
ヴィータにそのことを告げると、ヴィータも一緒に寝ると言う。
ヴィータに電気を消してもらい、はやては瞼を閉じた。微かだが、キラの匂いがする。
「……嘘つき…。
お別れはちゃんとするってゆうたやんか…。」
そう呟き、はやては声を殺して泣いた。
その隣で眠っていたヴィータの閉じられた瞼から雫がこぼれていた。

 

ある日の八神家~完~