種死&リリカルなのはさん 単発SS集16

Last-modified: 2007-12-29 (土) 10:41:50

神隠し氏 2007/12/28(金) 19:47:10
年末スペシャル短編 ピンク色の温泉

 

某日某所、銭湯の脱衣所、男湯。
客は四人だけだった。
エリオ、キラ、シン、ザフィーラの四人である。
古い電灯が不安げに灯りをともしていて、その周囲には蛾や陽炎が集まっていた。
「何か……でそうですね」
怯えきった声でエリオが言った。
すっかり老朽化したロッカーに各々、脱いだ衣服をしまっていく。
床は歩く度に鈍い音を立てて軋んだ。
「本当にここは営業してるのか?」
自分たち以外に客がいないので、とっくに廃業してるのでは?と思ったシン。
「はやてが穴場って言ってたど……本当に古いね」
ぶら下がっているくもの巣を払い、キラは腰布を巻いた。
ザフィーラもキラにならって腰布をつける。
布の隙間から尻尾がでていた。
『さぁ、皆、お待ちかね、成長チェックのお時間や』
薄い壁を隔てて聞こえるはやての声。
『ちょっと、は、はやて部隊長!?』
『ティアナは揉みごろやなぁ~、う~ん、若者特有の張りと弾力。将来有望や』
『そ、それ、この前も言ってましたよね?』
「…………」
湯船に向かおうとした男性陣三人、エリオ、キラ、シンの足が止まった。
「どうしたのだ?」
様子がおかしい三人に振り向くザフィーラ。
キラが人指し指を口元にあて、しっ! と短く息を吐いた。
どうやら三人とも耳を済ましているようで、ザフィーラも耳を済ませてみる。
『もぉ~、はやてちゃん!』
『えぇやないか、えぇやないか。今日は無礼講、無礼講』
「この声……なのは隊長、ですかね?」
ひそひそとエリオが他、三名に告げる。
「あぁ、間違いない」
生唾を飲み込むシン。
「なんだかんだで、なのはさん、良い体つきしてるしね」
そんな三人を呆れた表情で見つめるザフィーラだった。

 

一方、女湯でははやてが同僚たちにセクハラをしていた。
具体的にどういうものか説明すると、他人の両胸をとにかく、揉むのである。
現在、脱衣所にははやてを含め、スバル、ティアナ、キャロ、なのは、フェイト、シャマル、ヴィータ、シグナムで九人がいる。
そのうち、ティアナとなのはは既にセクハラをうけたようで顔を赤らめて浴場へと向かった。
「さ~て、次はっと……」
両手をわきわきとさせ、はやての視線がフェイトへと向く。
丁度今しがたフェイトは下着をとったところで、はやてと視線があった。
「んふふふふ……、フェ・イ・トちゃぁ~ん」
フェイトは冷や汗をかいた。

 
 

悩ましげなフェイトの声が聞こえてくる。
そのあとに続く、シグナムの声。シャマルは何だか楽しんでいるかのような声だった。
「いつまでこんなことやってても仕方ないし、温泉……入ろうか」
済まし顔でキラ。
エリオは鼻と口許を押さえていた。隙間からしたたる血。
「あっははは、エリオ、風呂に入る前に上せてどうするんだよ」
「そう言うシンさんこそ、その局地的に盛り上がったタオルはなんなんですか?」
二人で言い合っていると、はやての声がした。
『なぁなぁ、シンにエリオ、キラ君。興奮した?』
ずっこける三人。
はやては鈍い音を聞いてにんまり微笑むと皆が待つ浴場へと向かった。

 
 

「まさか、俺たちまでセクハラされるとは思ってなかった」
「そうですね」
髪を洗いながらシンとエリオが溜め息をついた。
「でも……、このままじゃ悔しいじゃない?」
泡だらけの頭のキラが不適にも笑った。

 

フェイトは久しぶりにキャロの頭を洗ってやっていた。
こうやっているとまだまだ子供なんだな、と思う。
甘えたい盛、施設を盥回しにされ過ごしたキャロにとってはまだまだ甘えたい時期なのかもしれない。
わしゃわしゃと泡立てながら、フェイトはそれにしても、と考え込む。
実は女湯、男湯で分かれる前にエリオをこちらがわに来るように誘った。
エリオもまた、キャロと同じように過ごしてきたのだから、正直、もっと構ってやりたい。
遊んであげたいし、もっと甘えさせてやりたいのだが、忙しい自分にはそれができない。
しかし、そのわりにエリオはしっかりしている。精神的な成長が早いのか、それとも我慢しているのかは分からないが、後者であればちょっと寂しい気もする。

 

「フェイトさん?」
考えに没頭するあまり手が止まっていた。
「流すよ? キャロ」
「はい」
そう言って蛇口を捻り、フェイトはキャロの髪を流してやった。
「今度は私がフェイトさんの髪、洗ってあげますね?」
「うん、ありがとう」
こういうのもまた、ここ最近は全然やっていなかったことだ。
キャロのまだ頼りない小さな手が自分の髪を泡立てて行く。
フェイトは瞼を閉じ、キャロにまかせていると壁の向こうから声が聞こえた。
「シンたちだね」
「うん」
「そうやね」
なのはに返事を返す。因みにフェイトを真ん中になのはとはやては座り、顔を洗ったり、体を洗ったりしている。
『ちょ、やめてくださいよ。キラさん』
『いきなり何て事すんですか!? あんたって人は!!!!』
『何って……くらべっこだけどそれが? お、エリオのはまだポー〇ビッツだね』
『ホントだ……、まぁまだそんなもんじゃ? てオイ!!』
『またまた、そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃない?
へぇ、さすがはコーディネイターだね』
『そういうキラさんはどうなんですか!!』
エリオの叫び声。
『えっ? 僕? 僕は、ホラ』
恐らく、ホラ、というのは腰布でもとったときにキラが言ったのだろう。
なのは顔を洗う手を止めて、フェイトはキャロに髪を洗いながら、はやては同じ場所を何度も布で擦りながら耳をすませていた。

 

わしゃわしゃとフェイトの髪を洗う音、蛇口から一滴一滴落ちる滴の音に、反対側から聞こえるシグナム、ヴィータ、シャマルがシャワーで体を流す音。
なのはが出しっぱなしにして、ほどよい勢いで流れる水。
ティアナとスバルがじゃれあい、聞こえるはしゃぎ声。
『『ス……ス、ス、スーパーコーディネイター!?』』
悲鳴に近いシンとエリオの叫び声。
「スーパーコーディネイターって……どんくらいの大きさなんやろか?
茄子かキュウリか、それとも大根か……」
ほんのりと頬を上気させたはやてが目をぱちくりさせて聞く。
「し、知らないよ、そんなの」
フェイトは慌て、顔を真っ赤にして返答。
なのはも顔を真っ赤にしていた。
「はやて隊長」
「何や? キャロ」
「さっきの茄子、キュウリ、大根って、何のオカズに使うんですか?」
「それはな……」
うひひ、と笑みを浮かべ口を開こうとするが、フェイトに石鹸を突っ込まれ、はやては死ぬほど苦い思いをした。

 
 

さて、一方、男湯では実はくらべっこなぞしておらずただ湯船につかって演技していただけである。
なのはたちがどんな顔をしているか想像し、ザフィーラを除く三人で談笑している。
ザフィーラは一体何が楽しいやらといった感じで目を閉じた。と
「おっ、露天風呂がある」
シンが外へ続く扉を指さして、そう叫んだ。

 
 

「ねぇ、ティア、外にお風呂あるみたいだよ? 言ってみようよ!」
また、この子はと溜め息をついてティアナ。
「お風呂ぐらいゆっくりつからせなさいよ」
「えぇ~、でもただつかるだけじゃつまんないじゃん。どうせなら外で景色を見ながら……ね?」
「はぃはぃ、わかったから」
最終的にティアナが折れ露天風呂へと向かうことになった。

 

「うぉ、寒い」
身を切るような冷たい風がふく。
シンはそんな中を早足で歩き、露天風呂内へとつかった。
外はこんなに寒いにも関わらず、温泉は暖かい。
そのせいで湯気の色も少々濃かった。
そのあとに続きエリオ、それからキラ。ザフィーラの順につかった。
「雪だな」
ザフィーラが耳を震わせる。
「へぇ~、そっか、時期も時期だしね」
キラは岩を加工して作った浴槽の壁に背を預け、空を仰いだ。
それに習ってシン、エリオ、ザフィーラも同様にする。
すると、ガララと音がした。
一同音がした方を向くと、スバルとティアナだった。
どうやらこちらには気付いてない様子で長いバスタオルを体に巻いて風呂につかった。
丁度向かい合うかたち、一同、二人と視線があった。
立ち上る湯気のせいで視界は中々に悪い。目を細めるスバルとティアナ。
刹那
一際強い風が吹き、湯気がさらわれて行った。
晴れた視界。
スバルが手をこちらに振ってきた。
なのでとりあえず、エリオ、キラ、ザフィーラ、シンも手を振替した。
「えっと、ここ混浴だったの?」
露天風呂の熱さのせいか、それとも恥じらいか、顔を真っ赤にしたままティアナいった。
「うぅん、俺たちは知らなかったヨ?」
「あっそ」
沈黙。
「いいお湯だネ? 皆」
場を取り繕おうとキラが口を開くも失敗に終わった。
「じゃあ、僕たちはこれで……失礼しまっす」
エリオに続いて風呂からでようとキラ、シン、ザフィーラが立ち上がろうとするが
「待ちなさいよ」
とティアナ。
「気を使われるとこっちまで恥ずかしくなるでしょう?」
「そうそう、折角だし話でもしようよ? こんな機会滅多にないんだし」
結局、四人はそこにとどまることになった。
しばらくするとやけくそなのか慣れたのか分からないが一年を振り返り、任務の話なんかをして雑談を楽しんだ。

 

そうやって賑やかにしているとなのはたちもやってきて最終的に全員、13人が混浴にいる。
9:4で女子の割合が多い。
人数が多いことでなんだか少しずつ大胆になってきてるような気もしないでもない。
先ほどまでは肩までしっかりつかっていたのに今では肩をだしている。
そのため、波打つ乳白色の波からちらちらと谷間なんかが目につくので、正直、困る。
温泉の湯加減と恥ずかしさが伴って、上せそうになっていた。
「じゃあ、僕らは先に……」
上がろうと腰をあげる。
「えっ? もう上がるの?」
意外そうな返事がきた。
「これ以上つかってるとのぼせそうだしね、だから……」
「上せたらちゃんと介抱してあげるからもうちょっとだけ、一緒につかっとこうや、な?」
「あ、いや、それはいいです。介抱とか……それはそれで恥ずかしいですし……」
エリオがキラに助け舟を出した。
「それに、あんたら全員がのぼせてぶったおれても俺たちは介抱しませんよ?」
さらにシンが畳みかける。
「な~にはずがしがってんのよ」
ザバッと音をたてティアナが立ち上がった。
こちらは外気で熱を冷まそうとしているところだ。
「だいたい、シンとキラは兎も角、エリオは一回ぐらいみといた方が――」
「ばぁん!!」
スバルがティアナのバスタオルをはぎとった。
ティアナ、絶句。
「くぅンのォ~、スバル~!!!!」
羞恥に耐えながらもスバルからバスタオルを取り返し、今度はティアナがスバルのバスタオルをひっぺがす。
鼻血を吹き出し、倒れるエリオ。
「刺激が強すぎたか?」
シンが介抱しようとするが、同じことを考えた人物がいた。
フェイト・T・ハラオウンである。

 

この浴槽、自然をいかそうとして作ったために、底がでこぼこしている。
加えてお湯が張られており、歩きにくいわけで。
さらに言えば長時間の入浴でフェイトも少しばかり上せ気味なわけで。
そんな状態で走ろうなんて考えるものだからコケるワケで。
「シン!!!後ろ!!!」
キラが叫んだ。
エリオを抱きかかえ、振り向くとフェイトがバランスを崩している。
風情重視の浴槽は角が多く、額をぶつけようものなら割れるのは必至。
普通ならば間に合わない状況。
しかし、シンはSEEDを発動させた。
「ザフィーラ!!」
「承知!!」
放り出されたエリオをザフィーラがキャッチ。
シンは右足を軸に、フェイトへ体を向けた。勢いの着いたフェイトは止まらない。
シンは衝撃を殺しながらフェイトは受け止めようと試みる。
だが、足場が悪いため、踏ん張りが効かずシンはフェイトに押し倒される様に乳白色の液体の中に沈んでいった。
薄い赤色が温泉を染めて行く。後頭部を強打したのだろう。
フェイトは倒れる際に何かに捕まろうと手を伸ばし、縁に立っていたキラの腰布を掴んでいた。
「ちょ、ちょっと!!!」
両手で腰布を押さえながらバランスを崩した。
このままではキラはフェイトの上からシンを踏みつぶすことになる。
とりあえず
「ご、ごめん!!」
二人に謝ることにした。
「前だ、キラ・ヤマト!」
ザフィーラの声に前方に注意を向けると何故かなのはが迫ってきていた。
「なのはッ!?どうして君がッ!?」
バランスを崩したフェイトを助けようとなのはも駆け出していたのだ。
「キラさん!!/キラ・ヤマト!!」
シャマルとシグナムがなのはの後ろから駆けてくるのが見えた。

 

「キラくん!止まらないよぅ!!!!」
ごめん、なのは。
胸中でそう呟き、キラはなのはに頭突きを咬ました。「あぅっ!!!!」
なのははシャマルとシグナムの方に倒れて行く。
シャマルとシグナムは突然のことに対処できず、顔だけなのはに向けた。
なのはが二人のバスタオルを掴み、体を支えようとするが一瞬の抵抗を見せたあとズルッとバスタオルがほどけた。
シャマルとシグナムは何が起きたか理解できず、キラを助けるのも忘れ、呆然と己の体を見つめていた。
シャマルとシグナムの視界の隅に、手が見えた。
キラの勢いはもう止まらない、まるで立掛けてあった板が倒れるかのように90度から水面に向かって倒れ出していた。
何とかシャマルとシグナムに助けてもらおうとするが突然行動停止してしまった二人は手をさしのべてくれない。
じゃあせめて肩に捕まろうとして、目一杯両腕を伸ばすキラ。
見事、掴んだ。
にゅっと変形する肩。
肩ってこんなに柔かったっけ?
そもそも肩は変形しないだろ?
何て思っていると、シグナムの拳が顎を、シャマルの平手がキラの頬を捕えた。
同時に、縁から足の親指が外れ、今しがた浮いてきたフェイトの上に共々沈んだ。
オロオロしたキャロがキラを、ヴィータがなのはを助けようと肩を抱こうとするが、息を吸おうと浮上したキラとなのはに頭突きをしてしまい再び沈んだ。
無論、キャロとヴィータもである。
乳白色の温泉はピンク色に染まっていた。
「皆、公共のお風呂で暴れたら行かんよ?」
と言いつつ、はやては涙を流しながら笑っていた。