第十六話「初砂漠戦」

Last-modified: 2014-03-22 (土) 02:29:33

「あの犬型、地上戦特化か…速いな。」
砂丘の影からバクゥと戦闘バギーの戦いを覗き見ながら、戦況と敵モビルスーツの性能を見極めようとする。当たり前だがバギーの方が劣勢だ。
(汎用型のアドヴァンスじゃ、分が悪い…)
汎用というのは聞こえこそいいが、悪く言うと中途半端だと誰かが言っていた。
今回の場合はまさしくそうで、砂漠に特化した四本の脚部とキャタピラを持つバクゥには二足歩行の人型であるアドヴァンスは砂漠での運動性において明らかに不利だ。

 

(…だけど、それも地上「のみ」に限った事だ!)
アドヴァンスを砂丘の影から急上昇させる。三機のバクゥも新たな標的に気がついたらしく、アドヴァンスに向かいミサイルを放つ。
「させないっ!」
ミサイルをシールドで防ぎ、なおも上昇しながらビームガンで反撃する。が、
「――当たらない?」
ビームは大きく逸れた。連射するが、それも一発目と同じ結果だった。
「――何で当たらないんだよ!」
原因は熱対流なのだが、ハルトは知る由もない。
「…射撃がまともに当たらないなら!」
上昇を止め、一機のバクゥに向かいシールドを投げつける。バクゥはそれをかわすが、それこそが狙いだ。
シールドを投げると同時に降下を開始していたアドヴァンスがバクゥの前方に立つように着地する。そしてバクゥの頭部を蹴り上げる。
スモークはバギーの視界も封じてしまうので使わなかった。敵の敵、味方になりうる存在を被害にあわせる必要はない。
突然降ってきたアドヴァンスにバクゥは反応できず、蹴りをくらってひっくり返る。こうなってしまうとなかなか起き上がれない。

 

「…っ!?」
と、横殴りの衝撃が襲う。右側面からのミサイルが着弾したのだ。
視界に敵を捉えようと振り向いた時、激しい衝撃がコクピットを襲った。ベルトで固定されているはずの体がシート上で弾む。
それが持ち前の敏捷さで接近してきたバクゥに押し倒された事による衝撃だと気づくのにハルトは若干の時間を要した。
そしてその僅かな隙は、バクゥがアドヴァンスに爪による攻撃を与える時間を作った。
「がぁっ!…このぉ…!」
ビームサーベルを掴み、コクピットらしき場所に突き立てる。どうやら当たりだったらしく、バクゥの動きが止まる。
バクゥをどけて、素早く立ち上がる。そして沈黙したバクゥを持ち上げ、無事な最後のバクゥに向かい投げつける。
沈黙したモビルスーツも使い方によっては強力な武器になる。バクゥはまさかバクゥが飛んで来るとは思ってもいなかったのか、そのまま直撃を受ける。
投げられたバクゥは爆発を起こし、もう一機のバクゥもそれに巻き込まれ、共に残骸と化した。

 

二機のバクゥを撃墜した後、最初に蹴り倒したバクゥの方を見る。まだ起き上がれないようだ。
バクゥに近付く。バクゥは背部にしか武装がないので抵抗される心配はない。
コクピットにビームガンを突き付ける。この距離で外れることはないだろう。
トリガーを引こうとしたハルトは、ふと考えなおしてワイヤーシューターをコクピットの近くに磁力で張り付ける。
そしてワイヤーをアンテナとしてバクゥに呼び掛ける。
「…今ここで死ぬか、機体を捨てて生き延びるか、好きな方を選べ。」

 

バクゥのパイロットは抵抗しようとしたが、ハルトが別の腕のビームガンをバクゥの近くの地面に撃つと、パイロットはコクピットから出て地面に飛び降り、逃げ出した。

 

だが、彼の命は長くはなかった。なぜならその直後、バギーに乗っていた男の放った銃弾が彼の頭を貫いたからである。
それを見ても、ハルトは何も感じなかった。ハルトが機体放棄をさせたのはパイロットのためではない。バクゥが無傷で欲しかったからだ。

 

と、ワイヤーがアドヴァンスに撃ち込まれる。見ると、バギーのうち一台の助手席から金色の髪の人物がこちらにワイヤを撃ち込んだようだ。
<そこのモビルスーツスーツパイロット!こちらと敵対する意志がないならこちらの指示に従え!>
ワイヤーをアンテナとして経由し、凛とした少女の声が通信で伝わって来る。
一拍遅れて、付近の地図らしき図形の情報がモニター上に割り込んで来る。一点が点滅している。
<そのポイントまで、バクゥを持って来てくれ!>
先程と同じ声が指示を伝えた後、音声は途切れた。交戦していたバギーは指定したポイントへ向かい走り出した。

 

「…敵の敵は味方、か。」
ザフトと戦っていたということは、反ザフト派なのだろう。こちらと敵は共通している。
「このままじゃどうしようもないし、行くだけ行くか。」
捕獲したバクゥを担ぎ上げ、ハルトは指定されたポイントへとアドヴァンスを進ませた。

 
 

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