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第1話 トオル君は今日も憂鬱 

Last-modified: 2018-12-03 (月) 22:13:37

1年戦争外伝、-HAPPY WEDDING-
第1話 「トオル君は今日も憂鬱」

 

 宇宙世紀0070、8月。ここオーストラリア、シドニーのバルメイン・プライマリースクール(小学校)
5year(5年生)の教室。
休み時間、教室の一角に出来ている人だかりを眺めながら、日系人トオル・ランドウ君は今日も不機嫌だ。
1週間前までは、あの人だかりの中心にいたのは自分だったハズなのに・・・

 

 人類が増えすぎた人口を宇宙に移住させて、はや半世紀。地球では世界各都市において「国際化」が
ほぼ円熟期を迎えつつあった。

 

 かつて人口爆発が起き、難民や移民が急増した時、様々な事件やトラブルはついて回った。
当然である。宗教、常識、文化、風習、貧富、そして倫理観までまるで違う人々が入り乱れては
共存など望むべくもない。
喧嘩、犯罪、テロ、そして組織間の抗争に至るまで、あらゆる問題が政治家たちを悩ませていた。

 

 しかし、スペースコロニーの技術の確立と、それに伴う移住の開始により、その状況は逆転した。
過密だった地球の都市は、移住によって急にスカスカになってしまったのだ。
人口はもとより、問題となったのが企業や文化の問題だ、新たなフロンティアを求めて宇宙に行ったのは
当然、意欲や才能にたけた、つまりは「時代を作る」野望に燃えた、歴史を動かすような人間たちなのだ。
逆に言えば、地球にとどまる人々はどこか夢のない、無気力で怠惰な人という印象を、なにより
地球に残った人たちがコンプレックスとして感じ取っていたのだ。

 

 それを振り払うように、地球では海外旅行や留学や移住、国際結婚や国際転勤がブームになっていった。
遠い宇宙に行く人がいるんだから、地球でくらいもっと動こうという感情が、地球に残った人々を
突き動かしていった。

 

 そして半世紀、今やどの国にも、様々な国籍の人間がいるのが当たり前になっていった。
このバルメインの小学校も、地元オーストラリアの生徒は全体のわずか4割という具合だ。
かつては文化の違い(主に海生哺乳類の扱い)でやや嫌われていた日本人も、今は普通に住んでいる。

 

 そんな中に、この4月から彼トオル、ランドウ君は地元日本から転校してきた。
家庭環境が良かったのもあり、成績優秀、運動神経抜群、健康で容姿も水準以上、
なにより娯楽文化の高いオオサカと呼ばれた都市の出身であった彼は、人を楽しませること、
喜ばせることに長けていた。転入2週間で彼はすっかりクラスの人気者になっていたのだ。

 

 しかし、1週間前に転入してきた生徒が、彼の立ち位置をひっくり返してしまった―

 

「今日は転入生を紹介する」

 

 その先生の一言に、当然生徒は興味津々となる。いつの時代も転校生は注目の的だ。
しかし先生が続けて言った言葉に、その興味は天井知らずにハネ上がる。

 

「なんと彼女は、スペースコロニーから来たんだぞ、さぁ、入ってらっしゃい」
教室から歓声が沸く。地球間ならいざ知らず、スペースコロニーからの移住とは本当に珍しい
本来永住が基本のいわゆる「スペースノイド」が、地球に出戻るのは非常にまれである。
この教室にいる生徒全員が初めて見る、宇宙生まれの宇宙育ちの人間に、全員の注目が集まる。

 

その生徒がドアを開け、その姿を見せた瞬間、全員の息をのむ音が聞こえた・・・気がした。

 

緑がかった金髪、ゆるくウェーブのかかったその個性豊かな色の髪の毛。白い肌そして琥珀色の瞳
明らかに自分たちとは違う「人種」、それは宇宙人というより、おとぎ話に出てくる森の妖精を
イメージさせた。男子からは驚愕のため息が、女子からは黄色い歓声が沸く。

 

「セリカ・ナーレッドといいます、サイド2から来ました、よろしくお願いします」
やや宇宙訛りのある、透き通るような声で挨拶する少女、一呼吸遅れて教室に響く拍手。
そんな中、トオル君だけは不機嫌だった。自分が転入してきたときのパフォーマンスを
外見と出身地だけで上回られた。しかも名前もセリカ(天空)と来たもんだ、宇宙人の名前として出来すぎ!

 

だが、彼にとっての屈辱はここからがスタートラインだった。

 

 体育の授業、今日は走り高跳びのテスト。高さを生徒自身が決めて飛ぶ形式。
トオルの記録は100cm、平均身長130のクラスにあって、3ケタをクリアできるのはわずか3人
彼以外は全員身長150cmを超える男子生徒だっただけに、トオルも評価はクラス1だった。

 

「125cmでお願いします」
「「は?」」
生徒と体育教師が固まる。ほとんど自分の身長と同じ高さを申告する転校生少女に全員の注目が集まる。
金緑のウェーブの髪の毛を両端でツインテにまとめ上げた彼女は、そのまま軽やかにバーに駆け寄り
その身を躍らせる、まるでオリンピックを見ているような華麗な背面飛び。
バーのスレスレ上を反り返った彼女の最高点、首筋~肩甲骨~背腰~お尻~膝~足先となめるように
クリアしていく、足をバーから抜いて背中から着地すると、そのまま反動を利用して後転して立つ、
歓声と拍手が巻き起こったのは言うまでもない。
「すっごおぉぉい!」
「やっぱ宇宙で過ごしてるから、空中で体を動かすの得意なんじゃない?」
「ホント、まるで宇宙遊泳みたいだよな」

 

「同じでお願いします!」
対抗意識を燃やしたトオルがバーに突っ込んで、違う意味でウケたのはその1分後であった。

 

 言語の授業、今日はそれぞれ母国語以外の言葉で役のセリフを朗読する、今回のお題は「赤ずきん」。
「オオカミはランドウ頼む。赤ずきんはそうだな・・・ナーレッドさんにやってもらおうか」
彼女以外は先生の意図をすぐに理解した。ことセリフの演技力においてトオルに張り合える生徒は
このクラスにはいなかった。そのまま声優として使えそうな大仰な喋りもトオルの得意技の一つだ。
彼女がこの朗読の授業において、照れ臭さから棒読みになるのを防ぐための人選である。

 

「それはね、お前の声をよく聞くためさ」
朗読しながら、トオルは勝ちを確信していた。見てろ、体育では不覚を取ったが、この授業なら・・・
「じゃあ、どうしておばあさんのお口は、そんなに大きいの?」
キタ、ここが勝負だ!さぁ俺の演技を見て驚けっ!
「それはねぇ・・・お前を、食べるためさぁーっ!」
静から動への声の動き、流れ、迫力、声量、どれをとっても文句なし完璧!
さぁ俺の演技にひれ伏せっ!!

 

「ひ、ひぃやぁあ・・・きゃあぁぁーーーーーーーーーーーっ!」
教室にいた全員がその悲鳴を聞いて引きつる、本当に命の危機に瀕したような、絹を引き裂く乙女の悲鳴。
トオルも皆も、あまりのリアリティに次のアクションが全く起こせなかった。その硬直を破ったのは
隣の教室から何事かと駆け付けた生活指導の先生だった。
「あ、すいません・・・下手でしたか?」
困惑した顔で見まわすセリカ、そのアクションでようやく我に返る生徒たち。
生活指導の先生が呆れ顔で帰ると、ようやく教室に拍手が巻き起こった。

 

おかげでしばらくの間、トオルは襲い掛かるイメージを植え付けられて、女子から距離を取られる始末だ。

 

まぁ一事が万事この有様で、1週間ですっかりクラスのスーパーガールの地位を得たセリカの周りには
人だかりが絶えなかったというわけだ、そして現在、トオル君は不機嫌だ。

 

「(くそ、あの宇宙人め・・・今度こそは)」
そんな対抗心を燃やすトオルに気付いて、セリカはトオルに薄い笑顔を向けて手を振る。
「(うぁ、むかつく!余裕かましやがってぇ~~)」

 

その対抗心が、二人を結びつける「縁」になることを、「トオル」はまだ知らない・・・

 
 

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