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第14話 最後のカーニバル

Last-modified: 2018-12-02 (日) 20:47:30

第14話 最後のカーニバル

 

「セリカ!そこに居るのかっ!」
反射的に叫ぶトオル。確信があった、聞くまでもなく。
セリカはあそこにいる!あそこから彼女の意思が飛んできたのがはっきりと感じ取れた。
生き延びていた、アイツは。さすがだ。だがそこにいては助からない、何をやっている!
焦燥と怒りに似た感情がトオルを支配する。くぞっ!このままじゃアイツが・・・
「待ってろ、今行く!」
虚空に向けて、その先にある豆粒ほどのコロニーに向けてそう叫ぶ。

 

「・・・え?」
熱波の空気の中、セリカはその信じられない提案を聞く。愛しい人の、あまりにもな無茶振り。
その口調が、そのセリフが、トオルの表情をありありと頭に描かせる。
「もう・・・トオルったら、そんなこと出来るわけないじゃない。」
泣きながら笑う。絶望的な状況と、そのさ中に愛しい人とのコンタクトを取れた奇跡に。
「トオル、ありがとう・・・私・・・」

 

「やかましいっ!後だあとっ!」
頭に響くセリカの声を怒鳴って黙らせる。今聞きたいのはそんな悲しいセリフじゃない!
「考えろ!どうすればお前に会える、お前の所まで俺が行くか、お前がここに来るかするには
どうしたらいいっ!」
 この時のトオルの感情を一言で表すなら、まさに『血沸き肉躍る』状態であったろう。
苦境と絶望の中、セリカにコンタクトを取れただけで満足する性格ではなかった。
先日からの思い。交換日記に目を通し、そのたびに決意してきた強固な意志、助けに行く、会いに行く。
言葉以上にその『意思』が強烈に飛ぶ、はるか向こうのコロニーに向かって。

 

「トオル・・・」
その意思を叩きつけられ、セリカは思う。トオルだ、まぎれもなくトオルだ。
それでこそ私のトオルなんだ。
立ち上がり、微笑む。目を閉じ涙を切る。ひとすじの光が頬を流れる。
そして見据える、モニターの向こう、地平線に浮かぶオーストラリア大陸を、
その先の時間、シドニーに落着する瞬間のアイランド・イフィッシュの姿、位置、姿勢を。
そしてセリカは、ひとつの拙い可能性に行きつく。
「・・・クラウド・カッティングの最上階、あそこに来て!」
二人の約束の場所、永遠の愛を誓うはずだった教会、私の予知に間違いが無ければ
このコロニーは地上に激突する直前、あの超高層ビルを薙ぎ倒すはずだ。
そこにいれば最後に一目、トオルの姿を見ることができるかも・・・

 

「分かったっ!」
それだけ答えて家に走る。駐車場に止まっているスクーターに飛び乗ってエンジンをかける。
持っていた交換日記をカゴに放り込み、けたたましく走り出す。
道路に飛び出す瞬間、トオルの両親が家の際にいた。もう会えないかもしれない二人は、
何故かすべてを知っているかのように、行け!早く!!とポーズとエールを送る。
 運転しながらもセリカの意思は飛んでくる。若干のネガティブな彼女の思考をトオルは認めない。
「一目見るだけじゃダメだ!お前に会うんだよ、抱きしめてやるからその方法を考えろっ!
信じろ、お前は紛れもなく天才だっ!!!」

 

「・・・バカ。」
そう言って微笑むと、きびすを返して走り出す。そのわずかな可能性、制御室の外にある
モビルスーツに向かって。
父が、母が、友人たちが、大勢のアイランド・イフィッシュの霊魂がセリカを後押しする。
死後の世界にあって、誰かを応援できることに喜びと興奮を感じながら。
セリカが出ていったその時、地球を映していた制御室のモニターは、まるでその役目を終えたかのように
画像をブラックアウトさせる。
 旧ザクに乗り込む。ヒザの上に交換日記を乗せ、ハッチを閉め、動き出す。
モニターしていたコロニーの状況を見る。現在のコロニーの速度は・・・時速にしておよそ800km/h。
コロニーの体積と形状ゆえの空気抵抗の多さが、重力落下をしてもマッハを割り込ませている。
特にコロニー先端の、巨大なスリバチ状の部分が空気を多く受け止め、落下速度を殺しているようだ。
真下に落下するはずだったコロニーは、ここにきて横方向のベクトルを多く得、また地球の自転もあり
地平をすべるように移動している、むろん高度も落とし続けてはいるが。

 

 シドニーの街中を、トオルのスクーターは走る。一目散に。目標の塔に向かって。
ここからだと30分はかかるだろうか、まして今シドニーはパニック状態だ。どんな渋滞や事故が
行く手を阻むかわかったもんじゃない、それでもアクセルを千切れんばかりに回し、飛ばす。
が、その心配は無かった。理由は分からないがストリートは大勢の人がいたにもかかわらず、
トオルの走りを阻害する存在は無かった。
その代わり声がする。大声が、絶叫が。それはそうだろう、死を間近に控えた人間なら叫びたくも・・・
 そう思った瞬間、大型のトラックがトオルの横を追い抜き、強烈にブレーキをかけ横滑り、
トオルの進路を塞ぐ形で停車する。なんだコイツ!
「クッ・・・、どけぇっ!!」

 

 モビルスーツのセンサーを開放し、コロニー各所の状況を調べる。
毒ガスを撒くべく入力されていたこのアイランド・イフィッシュのデータが、皮肉にも今のセリカの
目と耳と知識になる。コロニー下部、つまり地球側は乱気流も激しく、まだ熱を持っている。
しかし上部、宇宙側は大気圏突入の熱の影響も、現在の空気の流れも比較的マシな状況だ。
こっちならこの巨人で外に出ることも可能かも、そう思ったセリカは迷わずザクを操作する。
もし、今のジオン軍がセリカのこの旧ザクの操縦っぷりを見たら、迷わずエース候補として
スカウトするだろう。
彼女は今、どんなエースパイロットでも成し得ない、困難な操縦を試みているのだ。

 

「兄ちゃん!こいつを使いな!!」
トラックのドライバーがそうがなり立てる。同時にトラックのサイドゲートが開き、
中にある機械をあらわにする。これは・・・大型のエアーバイク!
「ワッパってんだ、くそったれジオンのメーカーの乗り物らしいが、このさい使っちまえ!
空も飛べる優れモノだぜ!」
展示用の商品なのか、タグやらリボンやらで装飾されている。なにかの展示ショーで
使われる予定のものだったのだろう。しかし・・・
「あ、ありがとう!でも、なんで・・・?」
「彼女に会いに行くんだろ?応援してるぜっ!」
運転席から親指を立てて笑うドライバーのオッサン、なんでこの人が、と思った時
トオルは周囲の異常に気付く。
「おーい、モタモタすんな!」
「「がんばれーっ!」」
「会えなかったら承知しねぇぞーーーっ!!」
「彼女を待たすんじゃねぇ!急げっ!」
大人も子供も老人も男も女も皆、トオルに注目し、声を荒げて応援している。
まさか・・・彼らも、というかシドニーの市民みんなも、セリカの声が聞こえたのか!?
どんだけ凄いんだよお前の能力は!

 

 トオルには知る由もない。それがセリカ一人の能力ではなく、無数のアイランド・イフィッシュの
人々の霊魂の力、彼らが最後のお祭り騒ぎをより大勢で楽しもうと、シドニー市民を巻き込みに
かかっていたことを。
この素晴らしいカップルのハッピーエンドを、みんなで楽しもうと。

 

 トラックの荷台に駆け上がり、ワッパと呼ばれるエアーバイクのスタータースイッチを押す。
シュオオーーン!というエンジン音が鳴り響き、浮き上がるワッパと、それに乗るトオル。
いける!操縦は簡単だ、アクセルを捻り、皆の声援を受け、トラックの荷台から飛び出す。

 

 ザクがコロニー上部の外殻の裂け目から、そのモノアイを覗かせる。飛ばされないよう
しっかりとフレームに捕まり、ついにコロニーの外に立つザクとセリカ。
眼前には青い地球の水平線と、その先の懐かしい大地。

 

「セリカーっ!待ってろーーーっ!!」
「トオルーーーっ!ここよーーーーーっ!!」

 

 2千万人の死者の魂が少女を応援する、その倍に及ぶ、死を目前に控えた生者が少年を後押しする。
シドニーとアイランド・イフィッシュ、2つの街の最後のカーニバルが今、最高潮を迎えようとしていた-

 
 

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