第16話_「レコア地球へ」

Last-modified: 2022-04-26 (火) 12:03:23
 
 
 

「進路クリアー。モビルスーツ隊発進どうぞ!」
《アスワン》のオペレーター、ケイト・ロス少尉の
凛とした声がカタパルトと各機のコックピットに響くと
カタパルトクルー達が忙しなく動き出し、
誘導員のコンダクトバーの誘導によって
ブラックオター小隊の隊長、ウェス・マーフィーと、
エリアルド・ハンターが乗る可変型モビルスーツ、
《ギャプランTR-5》2機がカタパルトから発進して行くと、
カール・マツバラとオードリー・エイプリルが乗る
《アドバンスド・ヘイズル》2機もマーフィーらに続いた。

 

《ブラックウィドウ》の指揮官ダグザは
《アスワン》からのモビルスーツ隊の発進を確認する。
「《エストック》と《マンイーター》から
モビルスーツ隊を出させろ。」
とその低い声がブリッジに響き渡りオペレーターが
カタパルトデッキへ発進の合図を出すと、
《ガルバルディβ》が2機《エストック》から発進して、
中距離支援ユニット装備の《ジム・スナイパーⅡ》2機が
《マンイーター》から発進した。

 

「よし、10分後にこちらのモビルスーツ隊も出して前線に投入しろ。」とダグザ。
「了解です。」とオペレーターが答え、
オペレーターはモビルスーツデッキに通達を済ませると、
喧騒に包まれたデッキ内は更に大きな声と艦内放送が流れた。

 

一方の旗艦《アレキサンドリア》は
カクリコンを小隊長とした《ジム・クウェル》隊が
直掩機として4機発進する。
《アレキサンドリア》は艦隊の中央に陣を取っていた。

 

「エリアルド、機体の感覚は掴めそうか?」
「かなり良い機体です。モノにしてみせます。」
マーフィーは共にモビルアーマー形態で進むエリアルドに、
空戦用TMS《ギャプラン》の改修テスト機である
《ギャプランTR-5》の感触を伺うと
エリアルドは自信に満ち溢れた声で返した。

 

「エリアルド、奴らはかなり強いと聞く。
下手に被弾してメカマンを困らせるんじゃないぞ?」
「どやされるのはこっちも勘弁です。」
マーフィーは上機嫌で冗談ぽく言うと、
エリアルドもそれに応えて同様に冗談ぽく返す。
ティターンズ試験部隊という括りから外され、
機体共々いよいよ実戦への配属が決まった事でマーフィーは内心、
武者震いを起こしているかのように戦意は高揚していた。

 

※ ※ ※

 

《アーガマ》のモビルスーツデッキには
レコアがジャブロー降下の際に乗り込む予定の
小型カプセルジェット《ホウセンカ》の最終チェックを
メカニックのハナン軍曹が行っていた。

 

ハナンは一通りの各部チェックを終えるとレコアに
「問題は無さそうですね。」と言うと、
「時間はあとどれくらい?」
とレコアは少し落ち着きを忘れたかのように聞き、
「あと30分ほどです。」とハナンは
ノーマルスーツの左腕部に装着されている時計を見て答えると
「ありがとう、もういいわ。一人にしておいてくれるかしら。」
と言うとハナンは軽く頷きデッキを離れると、
レコアは《ホウセンカ》に乗り込みシートに腰を降ろしたその時
デッキの出入り口の方からカミーユが
「レコア中尉!」と、慌てた様子で無重力のデッキ内に
体を泳がせてレコアに寄ってきた。

 

「カミーユ…今は第2配備中でしょ?
こんなところにいて良いの?」
レコアは意外な来客に不意をつかれたような表情だった。
言葉の通り第2戦闘配備中であり、
自分に構っている場合ではない筈なのにと思い
シートへ腰を掛けたままカミーユに聞いた。

 

「…レコア中尉、本当に一人で行くんですか?」
「これは一人しか乗れないし、1機しかないのよ?
それに私にしか出来ない事でもあるの。」
カミーユの居ても立ってもいられないという
表情と言葉に覚悟を感じさせる言葉でレコアが答え、
カミーユの思いを受け止める素振りの無い
レコアの答えにカミーユは少し寂しそうに言葉を詰まらせ
少しの沈黙の間に何かを言おうとした時、
「中尉、エアロック解放します。」
と出入り口横にあるエアロックレバーの前にいたハナン軍曹が
レコアに声を掛け
「よろしく。カミーユ、バイザーを下ろしなさい。」
と答えると、機を逸したカミーユは
喉元まで上がって来た言葉を飲み込んで、
レコアは《ホウセンカ》のキャノピーを閉じ、
言いたい事も言えないカミーユは後ずさりしながら
《ホウセンカ》から離れて行った。

 

聞いてあげるべきだったかもしれないーーー。
そう思っていたレコア自身だが、
彼女はカミーユに構っている気持ちの余裕が無かったのも事実だった。
カミーユに申し訳なさを感じつつ、
《ホウセンカ》から離れる彼の後ろ姿を見ていた。

 
 

「じゃあ行くよ、フレイ。」
作戦前のノーマルスーツルームの前で、
着替えを終えたサイが俯き加減のフレイに
顔色を伺うかのように言う。

 

「不安だろうけど…待っててね。」
とミリアリアがフレイの手をそっと取って言うと、
フレイは何も言わずに小さく頷いた。
トールとカズイが遅れて着替えを終えて出てくると
サイらともう一度フレイに声をかけてブリッジへと向かった。

 

サイ達が通路を曲がった所で一人残されたフレイは
ただ立ち尽くしているだけだったーーー。
サイ達が戦いに参加しているのに自分は何をしているのだろうと
自らを責めるかのようにもどかしさすら感じていた。

 

そこへパイロット用のノーマルスーツに着替えた
キラがノーマルスーツルームから出てきて
二人の目が合うとキラの心臓の動きが少し早くなる。

 

「あ、フレイ…サイ達、もう行っちゃったの?」
とキラは少し緊張しながらもそう聞くと、
フレイは突然キラに抱きついた。
キラは状況が読めない展開に動揺して
顔が紅潮して頭が真っ白になる。

 

「キラ、お願い…私を守って…」
フレイの唐突な行動と言葉にキラは
彼女がなぜそんな事をしてそんな事を言うのか分からなかった。
しかしフレイの怯えたような表情に
キラはサイの事など考える余裕もなく
「う、うん…フレイもこの船もみんな守るから。
だから居住区に戻ってて。」
とフレイの瞳を見つめながら優しく微笑んでみせると
キラはモビルスーツデッキへと向かって行った。

 

赤い躯体をした《リック・ディアス》がハンガーを離れて
左舷カタパルトデッキへと通じるリフトへと移動し、
アポリー機の黒い《リック・ディアス》はクワトロ機とは逆の
右舷カタパルトデッキへと続くリフトへ移動する。
そのモビルスーツデッキ内には、
モビルスーツのアクチュエーターから聞こえる駆動音が響く。

 

エアロックが開放され無重力状態となった
デッキ内を泳いで《ホウセンカ》から離れたカミーユは
開放されている《ガンダムMk-Ⅱ》のコックピットに乗り込む。

 

モビルスーツのジェネレーター出力を上げて
全天周囲モニターを作動させると、
コックピット内に各セクションの無線の声が
カミーユの耳に入りながらもコンソールで
機体を動かす為の操作を黙々と進める。

 

「カミーユ、アポリー。これより太陽電池衛星の破壊に向かう。
私に続け。遅れるなよ。」
カミーユ機とアポリー機のコックピットに、
既にリフトで左舷カタパルトへと発進体制に入った
クワトロの声が耳に入ると、
「了解!」と二人が応答して、
カミーユも誘導員に従ってリフトへと機体を移動させて行く。

 
 

「総員第2種警戒配備、各機スクランブルに備え。」
「ダミー隕石放出。
火器管制は全てマニュアルに切り替え。
ミノフスキー粒子の数値に目を離すなよ。」
「艦尾ミサイル発射管、スレッジハマー、榴散弾頭ミサイル装填。
SAM、CIWS起動準備、ビーム爆雷装填。」
ブリッジ内にラミアスやナタルらの指示が飛び交う中、
ミリアリアが作戦のカウントを始める。

 

「作戦開始まであと10秒!
…9、8、7、6、5、4、3、2、1。
作戦スタートです!」
ミリアリアの言葉と同時にブリッジのメインモニターに
《アーガマ》から3機のモビルスーツ隊が
発進して青白いスラスター光を煌めかせて、
太陽電池衛星のある方向へと進んで行った。

 

「《アーガマ》からのモビルスーツの発進を確認。」
サイの報告にラミアスは先ずはクワトロ達の
無事の帰還を願いつつティターンズや
ザフトの出現が無い事を願うような気持ちだった。
しかしその時、ブリッジ内に熱源探知を知らせる
ブザーが鳴ると一同の緊張が一気に高まる。
「敵機発見!…ティターンズです!!」
「やっぱり来たわね…数は!?」
「数は4機…いや、後方に更に8機!!」
ラミアスはサイの言葉に心臓の胎動が止まったように感じた。
それはナタルらブリッジの一同も同じだった。

 

「ミノフスキー粒子散布。フラガ大尉達を発進させて!」
数の上では圧倒的不利な状況でどう戦うか…
ラミアスはこの作戦前の約1週間近くを、
《アークエンジェル》による対モビルスーツ戦闘用の
シミュレーションを徹底的にやって来た事もあり、
少しの不安を抱えながらも何としてでも
増援が来るまでを持たせてみようと
声を張り上げて指示を出し腹を括った。

 

「《メビウスゼロ》フラガ機、右舷カタパルトへ!
ロベルト機は左舷カタパルトへ!!」
トノムラの声がデッキ内に流れると、
モビルスーツデッキが一様に騒がしくなり、
メカニッククルー達はデッキを離れて、
ノーマルスーツを着た誘導員の誘導により、
《メビウス・ゼロ》と《リック・ディアス》は
それぞれリフトによって左右のカタパルトへと移動を終える。

 

「ムウ・ラ・フラガ、出る!増援が来るまで持ち堪えようぜ!」
「了解!《リック・ディアス》、ロベルト機出るぞ!」
リニアカタパルトの射出システムが作動すると
内壁部が発光し、LUNCHの文字が表示され
《メビウス・ゼロ》と《リック・ディアス》の
射出装置が真っ直ぐに走り出し2機が発進して行った。

 

「続いて《ストライク》、発進位置へ!
カタパルト接続、システムオールグリーン!」
トノムラの声が《ストライク》とデッキ内に再び響くと、
コンダクトバーの誘導に従って機体をリフトへ移動して
カタパルトの発進位置にリフトが止まると、
《ストライク》が射出装置へ接続し、
ガントリークレーンが作動してエールパックを装着する。

 

発進の合図を待っているとコックピットのHUDに
ミリアリアの顔が映し出されキラに、
「キラ、以後私が機動部隊の戦闘管制となります。よろしくね。」
とHUDに映るミリアリアはそう言って
ピースサインをして茶目をやってみせると、
「よろしくお願いします、だよ。」
と気の抜けた振る舞いをしたミリアリアに
トノムラが軽く一喝をする。
キラは知らぬ間に少し緊張していたのか、
ミリアリアとトノムラのやり取りに少し笑うと
緊張が少し解けた気がして、
ミリアリアに心の中でありがとうと礼を言っていた。

 

「装備はエールストライカーを。
敵はすぐそこにいる。気を抜くな!」
ナタルは緩みかけたその場を締めるように、
整然とした声でキラへ指示を出す。
その言葉に「…はい!」と、大きな声で返事をする。
フレイ…みんな…僕が守ってみせるよ。
とキラの頭の中にサイ達やフレイの顔が浮かび上がり
心の中で誓うように意を決すると、
カタパルトの向こうに見える真空の宇宙を見据える。

 

「進路クリアー、《エールストライク》発進どうぞ!」
「キラ・ヤマト、ガンダム行きます!」
ミリアリアの合図によって、
顎を少し引いてフットペダルを踏むと
射出装置が一気に全身してカタパルトから機体が発進し、
フェイズシフトを起動させた。

 

「先鋒と思われるティターンズ部隊、
有効射程圏内に入りました!」
トノムラの報告にラミアスとナタルが互いに目を合わせ
はっきりと頷いてラミアスは対空戦闘用意の号令の後に、
「なんとしても《アーガマ》を死守するわよ!」
と声を上げて指示を出すと
火器管制システムを担当するチャンドラや
トノムラの表情が一気に険しくなった。

 
 

「いたぞ、ジェリド中尉。集中を切らすな。」
「了解だライラ大尉!」
ジェリド機は早速ビームライフルを構え、
《メビウス・ゼロ》に向けるとライフルの銃口から
ビームの光軸が数発放たれると、
ライラの《高機動型ガルバルディβ》も
随伴するロベルト機の《リック・ディアス》に対して
《ガルバルディβ》がビームライフルを撃ち、
もう1機の《ガルバルディβ》は、
モンブランから発進した《ジムⅡ》に
同様にビームライフルを放つ。

 

会敵と同時に《アークエンジェル》から
主砲の連装メガ粒子砲や副砲のリニアカノンが
ライラ隊のモビルスーツ部隊を襲い、
同時射撃を行った《モンブラン》からのメガ粒子砲と
ミサイルランチャーがライラ隊をに向かって行く。

 

《高機動型ガルバルディβ》は
その機動力を活かして艦砲射撃を苦もなく躱し、
ジェリドもその軌道を読んでメガ粒子の火線を躱し
自機の《ジム・クウェル》の腰にマウントされた
散弾式の砲弾を装填したハイパーバズーカを構えて、
向かって来るミサイル群に対してバズーカを撃ち放つと
拡散した鉄球が飛来するミサイルを迎撃すると
辺り一面にいくつもの火球が発生する。

 

「中尉、キラ、各個撃破で確実に数を減らすぞ!
味方の艦砲射撃に当たるなよ!」
「了解!!」
「はい!」
ムウはそう叫んで指示を出し、
非力な《ジムⅡ》を落とさせまいと
ガンバレルを展開して《ジムⅡ》を狙う
《ガルバルディβ》の四方を取り囲み、
ガンバレルポッドから数十発の鋼弾が火を吹き
《ガルバルディβ》はガンバレルを撃ち落そうと、
攻撃を避けながらビームライフルを放つが
ガンバレルに気を取られている隙を逃さずに、
《メビウス・ゼロ》からレールガンが放たれると
相手の右手に構えるビームライフルを破壊する。
相手が怯んだ所を、ロベルト機の《リック・ディアス》が
《ガルバルディβ》の腹部にクレイバズーカを放つと
コックピットを潰された《ガルバルディβ》は
モノアイの光が消え完全に沈黙すると無重力空間を漂った。

 

キラはもう1機の《ガルバルディβ》を
《エールストライク》の高機動性能によって
ビームライフルを乱射する相手を翻弄して躱すと、
敵機にあっという間に肉薄して、
ビームサーベルでシールドごと機体を両断すると、
反応炉が誘爆を引き起こして二つの火球が起きる。

 

「チ…!!情けない!」
ライラは顔が強張って口中に舌打ちをすると
フットペダルを踏み込み一気に距離を詰め
操縦桿を操作してコンソールのレーダーに映る、
《ストライク》へ狙いを定めてビームライフルを撃ち放つと
亜高速の早さでメガ粒子の黄色に光る1本の光軸が
迫ると、それに気付いたキラはフットペダルを踏み
《ストライク》の鼻先を掠めるかのように躱すと
機体を更に動かして上昇すると、
先読みしていたかのようにライラは上昇するコースに
いち早くビームライフルを放つが、
キラはシールドを即座に構えてビームを防いだ。

 

「やはり…あの反応速度は普通じゃない…!」
ライラは以前の戦闘で見せた反応速度を
再度確かめていたかのように一人呟いていると
「俺に任せろ!」
とライラの耳に語気を強めたジェリドの声が聞こえると
《ジム・クウェル》が、ライラ機を援護する為に
《ストライク》へとビームライフルを乱射する。

 

ライラは周りの状況を見渡して、
《メビウス・ゼロ》と《リック・ディアス》が
こちら側に接近している事を確認して、
「ジェリド!踏み込み過ぎるんじゃないよ!」
とジェリドへ声を少し荒げて言うと、
《メビウス・ゼロ》が《ジム・クウェル》に向けて
ガンバレルを展開して集中砲火を浴びせる。

 

「く……!?邪魔を…!」
表情を歪ませながらもスラスターとAMBACを使い分けながら
《ゼロ》の放火になんとか対応するものの、
初めてオールレンジ攻撃を体感したジェリドにとっては
躱し続ける事の限界がすぐに訪れ、
ジェリドは躱し切れないと判断してシールドを構え
苦し紛れと分かっていても、バルカンを
厄介なガンバレルに向けて放つが、
ムウもそれは折り込み済みといった形で
ガンバレルを巧みに操作してビームのそれを躱すと
キラもガンバレルに気を取られて動きが散漫になった
《ジム・クウェル》へビームサーベルで斬りかかると
咄嗟に反応して《ジム・クウェル》はシールドで防ぐが、
シールドが溶断されると共に左腕もサーベルで斬り落とされた。

 

「深追いし過ぎだよジェリド!下がれ!」
ライラがジェリドにそう言って援護に回ろうとすると、
ロベルト機の《リック・ディアス》が
左手に持つビームピストルで、
《高機動型ガルバルディβ》の動きを止めて
援護に回らせまいとするとライラの表情が険しくなる。

 

「キラ!トドメを刺すぞ!!」
ムウがこの好機を逃すまいと言うとキラは
「はい!」と応じて《ジム・クウェル》に
ビームライフルを構えてトリガーを引こうとしたその刹那ーーー。
《ゼロ》と《ストライク》へ突如ビームの光軸が襲いかかり
僅かに反応の早かった二人がビームを避け、

 

「あれは…!?ガンダム?」
「モビルアーマーもいるぞ!」とキラとムウが口走って
ビームの飛んで来た方へと目をやると、
視線の先には《アスワン》から発進した
ブラックオター小隊がライラとジェリドのもとへ到着する。

 

ライラ隊のガルバルディが見当たらなかった。
「既に堕とされたか…」と一人呟くと、
戦況を冷静に把握したマーフィーは
敵機を前にして一層その集中力が高まり背中に力が入る。
ティターンズよりも宇宙における空間戦闘に秀でた、
ルナツーの部隊が合流を前にこうも簡単に…。
と感じているとカール機が先行して《ストライク》と、
《ゼロ》に対して手にしたビームライフルを撃ち放って、
撃墜される寸前だった《ジム・クウェル》を援護する。

 

「おい、そんなんじゃもう戦えないだろ!?
落とされる前に早く退けよ!」
通信から聞こえてくるカールの声に
聞き覚えのある声に、あいつだ。と少し腹を立てた様子で
「俺に命令するな!まだ戦えるんだ!!」
とジェリドは語気を強めて返すと、
「ろくに戦えない奴がここにいても邪魔なんだよ!」と
カールはたたみ掛けるように言葉を被せるとジェリドの
こめかみの血管がじんわりと浮き上がる。

 

「黙れ!俺はまだやれるんだ!」
ジェリドは尚も食い下がるように言うと、
手負いの筈の《ジム・クウェル》は、
ビームライフルを乱射すると、油断をしていた
《ジムⅡ》はコックピットを撃ち抜かれやがて火球となり、
どうだと言わんばかりに一人コックピットで叫ぶジェリド。
《高機動型ガルバルディβ》がジェリド機に近付く。

 

「無理はするなジェリド。まだ戦うならサラミスを狙え。」
ライラはそう言ってセンサーが接近を知らせる
アラームに反応してビームピストルを撃つ《リック・ディアス》と交戦に入ると、
それを見たジェリドは心の中で了解だ。と言って、
視線の先にいる《モンブラン》を目指した。

 

マーフィーはモニターに映る敵機を見据える。
「エリアルド!あのガンダムはカールとお前に任せたぞ!
こちらはオードリーと共に『エンデュミオンの鷹』をやる!」
「了解です!」と返したエリアルドは、
《ストライク》に対して、モビルスーツ形態に変形して
ロングブレードライフルからビームを放ち、
続くようにビームライフルを撃つカール機と共に
《ストライク》へ波状攻撃を仕掛けるーーー。
が、エリアルドやカール達は《ストライク》の
その性能とパイロットに驚愕するのはまもなくの事だった。
エール装備による高機動によって、
彼らの攻撃を躱し続け逆にビームライフルを撃ち返し、
苦し紛れのではなく正確な射撃を見せる相手に肝を冷やす。
キラは先の戦闘を教訓にして、
より自分の望んだ通りの性能を引き出す為、
事前に機体の調整を入念に行っており
乗機の本来持つ性能を遺憾無く発揮出来ていた。

 

《ストライク》は敵機の攻撃を躱しながら、
ビームライフルを撃ち続けて距離が詰まった所を、
ビームサーベルを引き抜いて猛然とカール機へ斬りかかると、
《アドバンスド・ヘイズル》もビームサーベルを抜いて
《ストライク》のサーベルとぶつかり合い火花が散る。

 

「もうやめろ!こっちの船には避難民が乗ってるんだ!!」
とキラは執拗に追いかけ続けるティターンズに対して
怒りをぶつけるように叫ぶ。
まだ幼なさの残る声がコックピットに響き、
カールは「子供の声…!?」と言って驚愕していると、
カールが反射的に呟いた言葉をエリアルドは聞き逃しておらず、
「子供だと…?カール、どういう事だ!?」
とHUDに浮かぶカールへ詰め寄るように聞くと
カール機は《ストライク》から距離を置く。
二人の脳裏に過ったのは情報にあった
カミーユ・ビダンという少年の存在だった。
僅か17歳という年齢にしてモビルスーツを乗りこなし、
更にティターンズの対抗勢力である、
エゥーゴの一員として活動しているという事実に、
エリアルドやカールだけでなくマーフィーやオードリー。
ペデルセン、ダグザ、ライラ達すらも驚愕したのだ。
アムロ・レイの再来なのでは?といった
噂が俄かに広がって来ているのも事実だった。

 

動揺するエリアルドとカールに対して
《ストライク》はビームライフルを撃ち続けていた。
だが子供を相手にするという事を躊躇(ためら)う二人は
反撃を出来ぬまま攻撃を躱し続けるしかなかったが、
エリアルドはコンソールの通信を全回線に切り替え、
《ストライク》のパイロットを確かめようと
意を決したように口を開ける。

 

「そこのガンダムのパイロット!
君がカミーユ・ビダンという少年か!?」
戦闘宙域にいる全ての機体、艦艇に、
エリアルドの声が響くーーー。

 

通信可能域から外れている《アレキサンドリア》や
母艦の《アスワン》にはエリアルドの声は届いていないが、
マーフィーやカール、オードリー達は
エリアルドのその突然の行動にただ驚くばかりで、
一体何をするつもりなのかとマーフィーやカールが
通信越しに声を荒げながら言うが、
エリアルドは彼らの言葉に耳を貸す事は無く
まだ見ぬ《ストライク》のパイロットの応答を待つ。

 

ムウやラミアス、ロベルト達は
相手の意図しない行動に怪訝な表情だったが、
敵に無用な情報を与えないように相手の言葉には
耳を貸すなとキラに忠告をしていた。
しかし、キラはこの通信越しに聞こえてくる男の声に
威圧感や刺々しさは感じておらず、
「…僕はカミーユさんじゃない。」
と、思わず戦火を交えつつも通信に応答をしてしまう。
これに驚いたのはムウ達なのは当然だったが、
更に驚いたのはマーフィー隊の一同やライラやジェリドだった。
全員のコックピットに聞こえている声は
どこから聞いても大人の男の声ではなく、
カミーユさんという言葉からして、
更に若い少年だという事に全員が気付く。

 

「じゃあ、君はカミーユ・ビダンではないとしたら何者だ!?」
マーフィーやライラ達もこの場の戦いをやめる事は無いが、
エリアルドの問いかけに対しての応えを
自らの耳に神経を通わせて注意深く待っていると、
「僕は普通の学生だ!!あなた達が酷い事をしなければ
僕の友達だって怖い思いをせずに済んだのに!」とキラ。
エリアルド達が期待する応えは返って来なかったものの、
鬼気迫る感情が何故か手に取るように感じられた。

 

「酷い事?俺達ティターンズは平和の為に戦っているんだ!
君のような子供に一体何が分かるんだ!?」
エリアルドはこれ以上の問答は無用だといった様子で、
ビームサーベルを抜いて《ストライク》へ斬りかかる。
キラも同様にビームサーベルを引き抜き、
《ストライク》と《TR-5》のサーベル同士がぶつかると、
収束されたメガ粒子が細かい火花のように細かく爆ぜる。

 

「僕は……僕はコーディネイターだ!
あなた達がプラントを攻撃しなければ…
僕はアスランと…親友と戦わずに済んだんだ!」
「…何!コーディネイター!?」
キラの言葉は衝撃的な事実だった。
親友の名を口走ったのを聞き逃さなかったムウやロベルト、
《アークエンジェル》の一同は絶句していた。
自らの存在をコーディネイターだという事を
敵に情報を漏らした事などよりも大きな動揺が走る。
一方のエリアルド達にとっても何に驚けば良いのか、
迷ってしまう程に驚愕の連続だった。

 

キラの感情が防波堤の決壊の如く爆発すると、
頭の中で何かが弾けたかと思えば、
《ストライク》はもう1本のビームサーベルを
シールドを捨てて左手で引き抜いて、
《TR-5》の右腕を一刀のもに斬り伏せ、
更に左手に装備したシールドブースターを両断する。

 

「エリアルドっ!!」
動揺している場合じゃない!
相手が子供だろうとコーディネイターだというのなら
エリアルドもやられる可能性があると察知したカールは
《ストライク》に向けてビームライフルを
これでもかという程に乱射をしてエリアルドの《TR-5》から
《ストライク》を引き剥がすが、
カールの《アドバンスド・ヘイズル》に
《ストライク》が異常な程の速度で肉薄すると、
両手に持ったビームサーベルで、
カール機の頭部ユニットとビームライフルを持つ
右手を斬り落として腹部へ右足で大きく蹴り飛ばすと
「くっ…なんて奴だ…!」
とカールは想像を絶する能力の前に歯を食いしばりながら
激しく揺れるリニアシートで衝撃に耐える。

 

強すぎるーーー。
鬼人の如き戦い方を見せている《ストライク》に、
マーフィーやライラもそう認めざるを得なかった。

 

その隙を付いて《マンイーター》と《エストック》の
《ガルバルディβ》と《ジム・スナイパーⅡ》が、
《アークエンジェル》に向かって行く。
キラはそれに気付くと途端に表情が険しくなり、
スラスターを全開に噴かしてその2機を追うために
エリアルドとカールのもとから離れて行った。

 

※ ※ ※

 

《ジムⅡ》だから良いが数が多いな…。
太陽電池衛星の防衛隊からは8機もの《ジムⅡ》隊が
クワトロ達の足を止めようと、
手に持ったビームライフルを次々と放つ。
その後方からは衛星の対空レーザー砲がクワトロ達を襲う。

 

「アポリー、ここはお前とカミーユに任せて、
私は先行して衛星を破壊する。」
このままでは予定時刻に《ホウセンカ》を降ろす事が出来ない。
クワトロはアポリー達にこの場を任せ、
スラスターを最大まで噴かせて、
対空レーザーと《ジムⅡ》のビームを躱しながら
太陽電池衛星を目指して行く。
当たるなよ。
クワトロはアポリーとカミーユに心の中でそう言うと
微かに衛星の存在をその視界に捉え、
クレイバズーカとビームピストルを構えた。

 

「こちらサラミスの《スルガ》。
これより援護を開始する。」
コックピットに突然、女性の声がして、
通信用のHUDに映っていたのは《スルガ》の副長
ミハエル・アカレッテ少佐だった。
その言葉と同時に、コンソールのセンサーが反応した。
《スルガ》からモビルスーツが4機発進すると、
艦砲射撃が《ジムⅡ》隊に直進して行く。
2個小隊で固まって行動していた《ジムⅡ》の2機ほどが、
単装メガ粒子砲とミサイルランチャーの餌食となり、
《スルガ》より発進した《GP-00ブロッサム》が
先行して右手に持ったビームライフルで
更に1機の《ジムⅡ》を撃ち抜くと融合炉に誘爆して火球となる。

 

ベアード中尉の《ブロッサム》の後に
アスナ機の《リック・ディアス》や、
シェルド、ゴーローの《ジム・カスタム》が
各機が手に持った武器を撃ち放ち《ジムⅡ》隊を包囲すると、
「カミーユ、俺達も続くぞ。」
「…了解!」と、
機を見たアポリーに従いベアードらと共に集中放火を浴びせる。

 

しかしその中の1機が火線と《スルガ》の放つ
ミサイルの雨を抜けて、背部バックパックの
ビームサーベルを引き抜いて、
ゴーロー機の《ジム・カスタム》に特攻をかける。
腹部のコックピットめがけて、
ビームサーベルを突き立てながら突進する《ジムⅡ》を眼前に、
ゴーローはたじろいで回避行動が遅れると
ベアードの《ブロッサム》がすかさず、
ビームライフルで《ジムⅡ》を撃ち撃墜する。
しかし同じようにベアードも《ジムⅡ》に狙われ、
ベアードは反応するものの、一瞬間に合わず、
斬りかかる《ジムⅡ》だったが、
背後を撃ち抜かれてそのまま爆散する。

 

ベアードを救ったのはビームライフルを構えていた
カミーユの乗る《ガンダムMk-Ⅱ》で、
残りの《ジムⅡ》もやがて全機が撃墜されて
太陽電池衛星の防衛隊の殲滅に成功した。

 

「そこのガンダムのパイロット。
俺はハロウィン小隊の隊長、ジャック・ベアード中尉だ。
助けてくれた事、礼を言う。流石だな。」
「い、いえ。僕はカミーユ・ビダンと言います。」
ベアードは通信でカミーユと挨拶を済ませると、
情報にあったカミーユ・ビダンという名前を聞いて
素人とは思えない操縦技術に関心していた。
その横でアスナは《Mk-Ⅱ》の装甲越しのカミーユの内から出る
悲しみや孤独感といったものに似た“何か”と形容できるものを、
感じ取っておりカミーユもまた、
白い《リック・ディアス》の中の存在に、
アスナが感じ取ったものを感じていた。

 

それからまもなく、太陽電池衛星の破壊をしたと思われる爆発が、
視線の先の向こうで確認したアポリーが、
「カミーユ、お前は《アークエンジェル》の援護に向かえ。」
と言うと、
「分かりました。必ずレコア中尉を無事に降ろします。」
と言ってスラスターを噴かせて《アークエンジェル》のもとへと急いだ。

 

※ ※ ※

 

マーフィーとオードリーは《マンイーター》の
《ガルバルディβ》と共にムウの《ゼロ》を相手にしていた。
しかし新型機である《ギャプランTR-5》こそ、
ムウを苦しめていたものの、オードリーと
《ガルバルディβ》のパイロットは、
ムウの見せるその操縦技術に苦戦しており、
やっぱりただの航宙機じゃない。と感じていたオードリーに、
「奴の動きに惑わされるな。
武装ポッドを確実に撃ち落とせばいい。」とマーフィーが言うと
オードリー機の《アドバンスド・ヘイズル》と
《ガルバルディβ》を襲うガンバレルの狙いを1基に絞り、
モビルスーツ形態へと変形すると、
マーフィーは《ゼロ》の攻撃を躱しつつ右手に持つ
ロングブレードライフルを撃ち放ち、被弾しながらも
辛うじて直撃弾を免れていた《ガルバルディβ》を攻撃している
ガンバレルの破壊になんとか成功する。
しかし、先ほどのコーディネイターの少年によって
損傷したエリアルドとカールは既に退いており、
第4パイロットであるオードリーにかかる負担は
かなり大きなものになり、ティターンズの有利だった
形勢が徐々に変わりつつあった。

 

一方、艦載機を失った《モンブラン》は正に格好の的だった。
対空機銃とミサイルランチャーによってなんとか
敵機が張り付かぬようにはしていたが、
先んじて交戦に入ったジェリド機は
次々に対空放火をくぐり抜けて的確に
各所へビームライフルを命中させていた。
《アークエンジェル》からも支援射撃があるものの、
敵機と《アークエンジェル》の相対距離は、
《モンブラン》よりも離れており、
ジェリド機や《ジム・スナイパーⅡ》、
《ガルバルディβ》は軽々と攻撃を躱していた。

 
 

「太陽電池衛星の破壊は成功!後は防空衛星の破壊です。」
「アポリー中尉より入電!
カミーユ機をこちらに回すとの事です!!」
「《モンブラン》が攻撃に晒されています!
このままでは撃沈します!」
「《アークエンジェル》より入電!
敵艦隊位置を特定…ですが、新たな熱源を探知した模様!」
《ホウセンカ》の発射が刻一刻と迫っている
《アーガマ》のブリッジは緊張の糸が張り詰めていた。
ブライトに上げられる報告は、
次々とその表情を変える大しけの海のようだった。
どの報告に反応するかも考える暇も無く、
拳を強く握り締めてただ作戦の成功を願うだけで、
まもなく降下開始とは言え劣勢である事は変わりなく
このままではまずいのでは?そんな考えが頭の中を駆け巡る。

 

《ストライク》のライフルから放たれた光軸は頭部と
コックピット部分を撃つと、
《モンブラン》に攻撃をしていた《ジム・スナイパーⅡ》は、
瞬く間に火球と化した。
ジェリドは《モンブラン》への攻撃に集中する為に
《ガルバルディβ》へ《ストライク》の足止めを任せる。
《ガルバルディβ》はビームライフルを乱射するが、
圧倒的な機動性能を見せつける《ストライク》は
ビームライフルを放って同様にコックピットを撃ち抜いた。
そしてジェリドの《ジム・クウェル》は対空機銃を躱し切り、
《モンブラン》の艦橋にビームライフルの銃口を向け、
即座にトリガーを引くと
銃口から収束されたメガ粒子が放たれ、
いとも簡単に艦橋部分を貫いた。
《モンブラン》の各部に爆発が起きてやがて大爆発が起き、
真空の宇宙空間に激しい爆風が吹き荒れる。

 

《モンブラン》の撃沈にキラやムウ、ロベルトは、
目の前で起きた事態に眉間のしわが寄る。
その報は《アークエンジェル》から、
《アーガマ》にもすぐに伝わり、
ブライト達はブリッジから見渡す漆黒の海で
激しく爆煙を上げる《モンブラン》のものであろう
その爆発をただただ見ていた。

 

ブライトのみならず戦場に出ているキラ達や艦のクルー達も、
増援はまだなのかと逸る気持ちをなんとか抑えていると、
追い討ちをかけるようにセンサーに敵機接近を知らせる
ブザーが両艦内に鳴ると、
《ブラック・ウィドウ》から発進した《ガルバルディβ》2機が
《アークエンジェル》の対空放火を躱して
シールドミサイルを叩き込み、
更に《ジム・スナイパーⅡ》がビームライフルを放つと、
ビーム爆雷の効果が切れた船体の一部が爆発を起こし
《アークエンジェル》の艦内が激しく揺れ動く。

 

「状況報告!」
「左舷カタパルト、陽電子チェンバー損傷!!」
「中央船底部通路で火災!」
「消化班を向かわせて!!チェンバーの隔壁を閉鎖!」
「波状攻撃が来るぞ!弾幕を張り続けろ!!」
様々な声が飛び交い騒然とする、《アークエンジェル》のブリッジクルー達は
完全に浮足立ち、初めての実戦となった
トール達は膝から下が明らかに震えている事に気付くが
逃げ出したい気持ちをなんとか抑え込んでその場に留まった。
居住区の向こうでもっと怖い思いをしているであろう
避難民達の為にも逃げるなどという事は出来ないと、
彼らの心の底にある気持ちがそうさせていた。

 

「…?3時の方向!ザンジバル級です!!」
サイの口から唐突に出た言葉に更にブリッジ内に緊張が走り
サブモニターには確かにザンジバル級である
船体が確認出来ており、
「ザンジバル級!?ジオンの残党軍だと言うの…?」
とラミアスは怪訝な表情で呟くとサイが少し戸惑った様子で
「これは…友軍の識別コードを発しています!」と言葉を重ねる。
一同が目にしたのは増援の為に、
駆けつけた《トルネード》だった。
戦闘宙域到着と共に《トルネード》の船底部のハッチが開き
1機、2機、3機と順々にモビルスーツが発進をした。
すると《アーガマ》から通信が入り、
ブリッジの通信用モニターにブレックスの顔が映る。

 

「ラミアス艦長、あのザンジバル級は味方だ。」
「では、あれが准将の仰っていた増援の…」
「そうだ、彼らと協力して時間を稼いでくれ。あと5分だ。」
「は!了解です!」
ラミアスはブレックスとのやり取りを終え、
増援のモビルスーツをモニターで確認すると
そこには友軍だと確信させてくれるモビルスーツがいた。
先頭を進む機体の左肩に『ZION・ALIVE』と
ペインティングされたゾラ大尉の《リック・ディアス》と、
シグとヒルデガルト・スコルツェニー少尉の乗る
《リック・ディアス》が2機、ゾラ機に続くと、
《ブラック・ウィドウ》の《ガルバルディβ》と
《ジム・スナイパーⅡ》の部隊に、
3機が揃ってビームピストルを撃ち放つ。

 

そこへマーフィー機の《TR-5》がロングブレードライフルで、
ゾラの《リック・ディアス》へ狙いを付けてトリガーを引くと
ゾラは自分の機体めがけて迫るビームを躱し、
ゾラは攻撃して来た《TR-5》を見て、
ウィンドウを拡大させて見ると、
《TR-5》の機体に施されたT3部隊の部隊章が目に入ると、
シグとヒルデにその場を任せてマーフィー機に
向かってフットペダルを思い切り踏んで、
スラスターを噴かせて直進して行った。

 

「ZION・ALIVE」などと、
マーキングされた機体を見てしまえば、
ジオン残党としか思えないが、
今まで執拗に攻撃を仕掛けて来ていた奴らは
エゥーゴだったのかとマーフィーは気付かされた。
だが、それよりも形勢が覆ってしまった現状のほうが
マーフィーにとっては大きな問題だった。
直前まで相手にしていた《メビウス・ゼロ》は
増援の到着を確認したのかと思えば、
早々に引き下がって行ったが、
エゥーゴのモビルスーツは2、3機程度ならば、
悠に相手に出来る程の実力を持っている為、
今の状態は完全に危機的だと感じていた。
そんな中、コックピットに新たな敵の接近を知らせる
アラームが耳を劈(つんざ)き、
接近して来るガンダムタイプのモビルスーツが視界に入る。
コンソールにはRX-178の型式番号がはっきりと表示されており、
エゥーゴに奪われたというティターンズガンダムの一つ、
《ガンダムMk-Ⅱ》だという事に気付く。

 

《ガンダムMk-Ⅱ》しか確認出来なかったロベルトが、
ライラとの交戦の最中にカミーユへ通信を通して、
「カミーユ、クワトロ大尉とアポリーは大丈夫なのか?」と問う。
「向こうにも増援が到着して防空衛星の破壊も終わりました。
後はここを抑えれば作戦成功です。」
カミーユとロベルトの会話を聞いていたキラも
良かったと肩を撫で下ろしたが、
今はまだ戦闘中だったと気を引き締め直す。
カミーユの到着と同時に《アーガマ》と
《アークエンジェル》にも防空衛星破壊の報は、
カミーユによって伝えられていた。

 

しかしこちらの目的を悟られない為にも、
早々にティターンズのモビルスーツを退ける必要があった為、
《アークエンジェル》や《トルネード》からの
艦砲射撃もより激しくなり、ライラやジェリド、
マーフィー達も一筋縄ではいかない
モビルスーツを相手にしながらの戦闘は難しいと感じ始めていた。

 

「くそ!こう味方機が踏ん張りきれんと…!!」
まさに危機的状況という状態に吐き捨てるように
ジェリドが言うと《トルネード》から放たれた
メガ粒子の火線が全周モニターの眼前を覆い、
ギリギリで躱し切ったその瞬間に、
安堵する余裕すらなく機体に激しい衝撃が走った。
衝撃によってモニターパネルの一部が
点いたり消えたりする中で、視界に捉えたのは、
右手に持ったビームサーベルを振り終わった態勢でいた
漆黒の機体色を纏ったシグの《リック・ディアス》で、
気付けばライフルを持った自機の右手を切り落とされていた。

 

シグは迷う事なく、次の攻撃を防ぐ手立てを失ったであろう
《ジム・クウェル》のコックピット部分の腹部に
サーベルを突き刺そうとしたその時、
シグは2発のミサイルが自機の、《リック・ディアス》めがけて飛んで来たのに気付いて
バルカン・ファランクスでミサイルを迎撃すると、
舌打ちをして《ジム・クウェル》から距離を離した。

 

ジェリドの危機を救ったのはライラだった。
「ライラ…!」
「これ以上の戦闘は無用な被害を出すだけだ。
悔しいがここは引くしかなさそうだな。」
ここで死んだ…。そう思ったジェリドは、
ライラが助けてくれた事に感謝する余裕は無かったが
もう戦える状態ではない事は分かっていたのか、
ジェリドは彼女の考えに反駁(はんばく)する事なく
それに従って
《高機動型ガルバルディβ》に抱えられるようにして
戦闘宙域からの離脱をして行った。

 

既に《マンイーター》と《エストック》の
モビルスーツ隊も損傷をしていた為、
母艦へと帰投を始めており、
マーフィーもここが潮時と判断して、
ヒルデ機と交戦中だったオードリーに、
信号弾を上げるように指示を送ると
《ヘイズル》の手の甲部から信号弾が発射される。

 

「キラ!深追いはするなと言った!!」
と《アークエンジェル》に先に帰艦していたムウが、
通信越しにキラを止めると《ガンダムMk-Ⅱ》が、
《ストライク》の肩を触って接触回線が入る。

 

「キラ作戦は成功だ。お前はやっぱり凄いな。」
「カミーユさん…」
カミーユはの声はどうしてか少し寂しそうだった。
作戦の成功は一時的にとはいえ、
レコアとの別れを意味するものであり
カミーユはどうにかして無事で帰って来て欲しいと、
心の中で願う事しか出来なかった。

 

「時間だな…よし!《ホウセンカ》を発進させろ。」
「了解。進路クリア、レコア中尉、ご無事で!」
ティターンズの撤退と時刻を同じくして
ブライトがトーレスへ指示を送り、
トーレスの言葉に緊張した面持ちのレコアが少し頷き、
「行って参ります。」とレコアはモニター越しに
敬礼をしたのをブライト、ブレックス、ヘンケン達が確認すると、
カタパルト射出機に接続された《ホウセンカ》が、
勢いよく発進して行った。

 

作戦成功の為に役目を全うした末に轟沈した
《モンブラン》の残骸が大気圏で次々と燃え尽きて行く。
それは同時に《ホウセンカ》の降下を隠すかのようであり
レコアの無事を祈りつつ、母なる星へと帰る
《モンブラン》の全乗組員の勇敢なる命へ
敬礼をしてエゥーゴの一同はその最期を見送ったーーー。

 

※ ※ ※

 

同時刻、北米地区シャイアン防空基地の外れにある
居住地のまさにとある豪邸の敷地内にある
プールサイドの椅子に身を預ける一人の青年が、
夕暮れ時の空を見つめている。
その青年の視線の先には遥か先の空と宇宙(そら)の狭間で、
重力の井戸に引かれて燃え尽きては煌めく光があった。

 

「アムロ様、お茶をお持ちしました。」
空を見上げるアムロと呼ばれた青年に
見なり整え黒服を見に纏う執事と呼ぶに相応しい老人が、
純銀製のトレーに見るからに高級なティーカップに注がれた
紅茶を脇に置いてある円型のテーブルのにそっと置く。

 

流れ星?いや…違う。
何か大きな事が起きようとしている…。
だが…俺にはもう関係のない事だ。何も考えるな。
空を見つめながら押し殺すように考え込むアムロは
心の奥底で一体何を考えているのか。
おそらくはアムロ・レイという青年の数奇な運命を知る
者にしか推し量る事は出来なかった。

 

その時、テーブルに置かれた携帯電話が鳴ると、
普段は滅多に鳴らない携帯を手にしてアムロは
電話に応答すると、懐かしさを感じさせてくれる声に少し驚く。

 

「よぉアムロ。隠居生活はどうだ?」
相変わらずの皮肉屋ぶりに思わず口角を少し上げたアムロは
「大人しくしてれば問題ないさ。」と返す。

 

「大人しくしてればか。
いつまでそんな所にいるつもりだ?」
皮肉から一転したカイのストレートな物言いに
アムロは眉間をピクリと動かした。
この会話は盗聴されている。
これ以上の話は危険だ…。
そう感じたアムロは突然、押し黙り爪をかちかちと噛み始めた。

 

数秒の後に電話の向こうで爪を噛み続ける音を聞いていた
カイが沈黙を破るように、
「分かったよ、お前さんの考えに従うさ。
せいぜい頑張れよアムロ。」
と言って、カイは電話を終えた。

 

カイに伝わっただろうか?
いや、あの口振りなら伝わっただろうな…。
アムロはそう確信しながら、カップを手にして紅茶を口にした。

 

※ ※ ※

 

連邦宇宙軍第8艦隊司令部のある、
プトレマイオス月面基地の管制塔にいる
管制室長は司令室に通信を繋げる。

 

モニターの向こうにいるハルバートンに向けて
管制室長は敬礼をしてから
「提督、情報部から通信が入っております。」と言う。

 

ハルバートンは机にある時計の時刻を確認した。
ヘリオポリスに関する提示報告の時間だと認識すると
「うむ、繋げ。」と言うと
机の中央に埋め込まれたモニターに、
背広を着たハルバートンが
独自に動かしている情報部員が写っていた。

 

「提督、少々問題が…。」
情報部員は顔色一つ変えることは無かったが
ハルバートンは彼の言葉に怪訝な顔をして反応を示す。

 

「問題…?何があった?」
「は。ヘリオポリスより運び出された
2隻輸送船の内1隻がジオン残党シーマ・ガラハウの
艦隊によって撃墜されました。」
情報部員の報告は最悪の報告だった。
情報が漏れての事なのか。
偶発的な遭遇による被害なのか。
何の為に輸送船の撃墜をしたのか。
ともかく悪名名高いシーマ・ガラハウに
狙われたのは運が無かったとしか言いようが無い。
などと、ハルバートンは思案を巡らしつつも、
「助かったもう1隻には何が載っている?」と、
とにかく自分を落ち着かせる為にも、
情報を少しでも整理しようと努めて問うが、
ハルバートンの問いに顔色一つ変えなかった筈の
情報部員は途端に歯切れの悪い返答が来た。

 

「は…それに関しては現在調査中ですが、
ティターンズや正規軍の哨戒任務の航路上ですので
こちらの調査は難航しております…」
「…最悪の場合は打ち切られねばならんという事か。」
「恐れ乍(なが)らそれも判断の一つとしてお考え頂ければと…」
破壊されてしまったのならば仕方ないと割り切れるものの、
こちらの不自然な動きをティターンズに察知されるのは
今のタイミングでは更にまずい事態になる事を第一に考え
とにかくこれ以上の情報漏洩を防ぐ為にも
不本意ながらもそう判断せざるを得ないとして、
調査を20時間後に打ち切るように指示を出した。
その背景にはやはりティターンズが
宇宙での活動を活発にしている事が大きく、
その動きに注視しなければならない状況でもあったからだった。
情報部員は「了解致しました。」と言って通信を終わらせた。

 

ブレックスを疑ってはいなかったが、
とにかくどのようにして情報が外部に、
ましてや海賊風情に漏れたのか?
ハルバートンはどうにも腑に落ちない事に
頭を抱えたい思いだった。

 

考え込むハルバートンの傍に立っている副官のホフマン大佐が
ハルバートンへ今後の事について
「どうなされるおつもりですか?」と、
顔色を伺うように聞いて来た。

 

「サハク家とアスハ家に連絡を入れろ。
出向く事は出来んが話の通じぬ相手ではない」と言った
ハルバートンは腹を括ってホフマンの問いに応じると、
ホフマンは無言で頷く。

 

ヘリオポリスの件も近い内にティターンズに暴かれる。
その時まで今は我慢の時だと考え
「ホフマン、そろそろ私達も覚悟を決めなければな。」
と言ったハルバートンの目は力強さを感じさせるものがあった。

 

※ ※ ※

 

彼らが見つめる視線の先にあるそれは圧倒的な光景だったーーー。

 

前大戦で敗北したはずのジオン残党のどこに
ここまでの艦隊を編成させるだけの資金と
拠点があったのだろうか?
そもそもこれは先遣艦隊のはずではなかったのか?と、
パトリックは秘書官に改めて確認してしまうほどだった。

 

そんな先遣艦隊の中で一際目立っていたのは、
一年戦争のア・バオア・クー会戦において
圧倒的な存在感を放っていたと言われるドロス級超大型空母。
一年戦争時に戦没、又は接収の後に処分された
ドロス級よりも一回り以上も大きく、
全長4kmもの巨体は移動要塞そのものだった。

 

パトリックの疑問はもっともだ。
ドロス級の建造などしようものならば
多くの資材や資金を必要とする為、地球圏から遠く離れ
木星圏にほど近いアステロイドベルトでの
これだけの規模の艦艇の建造はできる筈も無かった。
だが、サイド1・ブッホコロニーに拠点を置いている
三大財団の一つ、ブッホ・コンツェルンによる出資協力のもと、
木星開発に力を注いでいるサイド2のアメリア、
カラブリア、ブルー3コロニーなどが
その裏でアクシズと関わっているのだが、
その内情はアクシズやジオン残党以外の耳に入る事は無く、
いかにして彼らがこれだけの艦隊戦力を物にしたのか?
という疑問は深まるばかりだった。

 

ザフト軍が所有する小惑星基地ヤキンドゥーエの司令管制室に
通常ならば彼らが足を踏み入れないが、
議長のパトリックを含めたシーゲルら評議会議員達が
司令管制室に集まっていた。
彼らは想像を絶する規模の艦隊をその目に焼き付けており、
ヤキンドゥーエの側に浮かぶ小惑星基地
ボアズにいたクルーゼやクルーゼ隊のアスランやイザーク達も、
基地内の窓やモニター越しにアクシズ先遣艦隊の
その動向を見守っていた。

 

「閣下、先遣艦隊の司令官より通信が入って来ております。」
管制室のオペレーターの言葉に、
「繋げ。」と言うと、
細面の輪郭にしわがやや目立つユーリ・ハスラー少将が、
管制室のメインモニターに映し出される。

 

「私はプラント最高評議会議長パトリック・ザラである。
貴艦隊に対する受け入れ態勢は整っている。」
ハスラーの第一声を待たずしてパトリックが
管制室内に漂っていた緊張に張り詰めた空気を
破るかのように口を開いた。

 

議長自らが艦隊の出迎えにあがるとは…
ハスラーは意外そうな表情を一瞬見せると、
「私は先遣艦隊司令官のユーリ・ハスラー少将です。
手厚い出迎えに感謝致します。」
といたって形式然とした挨拶を済ませる。
先遣艦隊は管制室からの誘導で、
ヤキンドゥーエに《ドロスⅡ》他、艦隊の各艦艇が接舷する。
各艦内にいる将兵やクルー達は、
ようやく辿り着いた地球圏への帰還に安堵の表情を浮かべていた。

 
 

ハスラーを含めた数人の将校達は、
議長を含めた評議会員との会談に臨む為、
庁舎内の会議室にてパトリックを待っていた。
数分後、会議室の大きな扉が開くと、
パトリックとエザリアら何人かの議員が会議室に入ってくるが、
その中にハスラー達が見知った男を見つける。
その男こそがガトーであり、
彼は直ぐにハスラーのもとへ歩み寄る。

 

「ハスラー閣下、よくお戻りになられました。」
「おお、ガトー少佐か。
よくぞ地球圏に留まり奮戦してくれた。
その勇気はアステロイド・ベルトにまで届いていたぞ。」
ガトーとハスラーは力強く握手を交わすと、
同席していた将校達はガトーに向かって敬礼をすると
ガトー、そしてハスラーも敬礼をし、
互いの健在ぶりを再確認したのだったーーー。

 
 
 

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