第23話「悪夢のセレモニー」

Last-modified: 2016-01-17 (日) 22:29:47

ガンダムビルドファイターズ side B
第23話:悪夢のセレモニー

 

 ―大会本部・盗難事件対策本部―
「まだか、まだエマージェンシーは来ないのか!」
ニルス・ヤジマが吐き捨てる。大会決勝まであと30分、決勝前のセレモニーの
開始時間が来てしまった。
「・・・残念ながら、ニールセン・ラボからの連絡はありません、時間です。」
空港に輸送ジェット機も手配した、空港からのヘリ輸送も、全国のシステム付近に
ガンプラGメンも多数配置していた。
もしトリックスターを奪った犯人が起動すれば、即エマージェンシーを感知、
すぐにでも現場を押さえて奪還、大至急この会場に空輸する手配が出来ている。
 しかし、肝心の犯人がトリックスターをバトルシステムで起動させない限り
その居場所は特定することが出来ない・・・万事休すだった。

 

「決勝セレモニーを・・・始めてくれ。」
苦渋の決断をするニルス、キャロラインも神妙な面持ちでそれを見守る。
大会真っ最中のガンプラ強奪という大不祥事は、ついにフォローすることが
叶わなかった・・・。

 

 フッ・・・

 

 会場の照明が一斉に落とされ、会場内が闇に包まれる。ざわめく観客たち。

 

 ーBegining plavsky particle dispersalー
突如、ガンプラのシステムが起動し、フィールドが形成される。
20人用の大型筐体から吹き上げられた粒子が、金色の球体をでかでかと映し出す。

 

 ―STAGE GRANADA―

 

 月、真ん丸の満月、その衛星軌道上、画面の8割がその天体で埋め尽くされている。
「月面基地グラナダ、ここが決勝の舞台か!」
「無重力の宇宙と、月面の弱重力圏内での争いか、面白いな。」
暗闇の中、観客の声をすり抜けて10数人が筐体に駆け寄り、そしてガンプラをセット。
音声も、光も点けずにひっそりとゲームに進入する。

 
 

 ―第17回世界大会、ヤジマ商事主催10周年、そのメモリアル大会―
アナウンスが語り始める。観客が無駄口をつぐみ聞き入る。

 

 ―全参加ファイター32581名、総試合数9521試合、総仕様ガンプラ232機種、40000体以上―
 ―参加国95、最大試合日程295日、数多くの名勝負、名場面を築き上げてきた今大会―
 ―その過酷な戦いを、実力と強運で乗り越えて来たファイター達―
 ―いよいよ今日、その頂点を決定する戦いが行われます!―

 

 ―皆様、画面西側、コンペイトウ方面をご覧下さい。―

 

言われて観客が西側に目をやる。十字型の要塞基地、ソロモンが遠方に見える、
そしてそこからこちらにやってくる戦艦が一隻、誰もが知る白い機体ホワイトベース。
「お、おい!あのホワイトベースに、なんかいっぱい取り付いてるぞ!」
「ホントだ!MSがいくつかくっついてる、あれってまさか・・・」

 

 ―無念にもファイナリストに届かなかった勇者達、その7名が今、最終決戦の場に登場です―
 ―殿堂入りの座を捨て。現役に戻ってきたメイジン・カワグチ!―
後部艦橋に立っているレッドウォーリアが、観客に向けて敬礼する。
 ―3連覇の夢は潰えたが、それは来年以降も現役続行の証、リカルド・フェリーニ!―
後部に取り付いているWガンダム・トレミーラが手を振る。
 ―文字通り大会に『旋風』を巻き起こした男、ヤン・ウィン!―
主翼の上で風車を回すネーデル・エンド・オブ・ワールド。
 ―南アフリカの地から、ついにベスト16入りの大殊勲、ヨハン・シェクター!―
艦橋下部にさかさまに立っているズサ・グッドホープ。
 ―あのメイジンを破る大金星!リーオーの価値を変えた少女、リーナ・レナート!―
戦艦のナナメ下にいるリーディングリーオー、顔のモニターに『祝』の文字。
 ―星条旗のキラ星、その猛威はどこまで続く、グレコ・ローガン!―
艦橋後部にてガッツポーズを取る呂布トールギス。
 ―最後に、この人がいればこそ大会は面白い、ガンプラびっくり箱、ライナー・チョマー!―
艦橋の中心に、文字通り『木馬にまたがって』いるヴォドム・ストレッチ。

 

「いつのまにか!筐体にいるよ、暗くて見えなかったけど・・・」
「おいおい、ベスト16、Aブロックの選手じゃねぇか、まさか戦うのか?」
「・・・いや、全員武器は持っていない、あくまでゲストだろう。」
「よく見ろ、バルカンの発射口までパテ埋めされている、決勝には絶対に干渉しない証だ。」

 
 

 ―続きまして、画面東側、ア・バオア・クー方面をご覧下さい。―

 

 やはり1隻の戦艦が向かってくる。真紅の流線型の機体、グレート・デギン。
やはり同様に複数のMSが取り付いている。

 

 ―香港ではなくネオホンコン国籍と言ってはばかりません、マイケル・チョウ!―
尾翼頂上で腕組みした状態で親指を立てるマスターガンダム。
 ―女性ファンの心も勝利もその一手に、ガンプラ貴公子ルーカス・ネメシス!―
左舷甲板の上でクロスボーンが手を上げる。
 ―軍人出身は伊達じゃない、ガンプラ殺人兵器、アレクセイ・ジョン!―
右腕を横に突き出し、引き戻して胸にかざすガンダム・サイサリス。
 ―往年の実力衰えず、2度目の優勝は持ち越したか、ルワン・ダラーダ!―
背中の甲羅を開き、威嚇のポーズを取る∀ガンダム。
 ―若き白狼、ついにベスト8の扉をこじ開けた、マツナガ・ケンショウ!―
機首部分で右手を高々と上げるザク・シンデレラ。
 ―拘り、というのがどういうものか、体現し続けて15年、サザキ・ススム!―
艦橋横で指先でフェンシングの切っ先を真似るギャン。
 ―最後に、やはり『あの』レイジとアイラのご息女でした、
  レイラ・ユルキアイネーン!―
こちらも艦橋部分にまたがってガッツポーズを取るモック。

 

やがてホワイトベースとグレートデギンは、月を背景に対峙して停止する。

 

 ―それでは、この14人のツワモノを打ち倒してファイナリストとなった、
  両選手の入場ですっ!―

 

 西の通路に青いレーザー光線が走る、その光に照らされて現れた2名、宇宙と大地。
パイロットスーツに身を包んだ2人が筐体にゆっくりと歩み寄る。
 ―最弱機体と言われたボールをここまで昇華、アクシデントにより途中からはヅダに
  スイッチするも、その強さに陰り無し、ガンプラの本場、日本代表、
  サトオカ・ソラ、ダイチ組ーっ!―
「頑張れーっ!二人ともーっ!」
「あとひとつで優勝だぁーっ!負けるなーっ!」
応援団から、地元日本の観客から、大歓声と応援が乱れ飛ぶ。
コックピットの前に立つのは大地のほうだ。周囲が、観客が、一斉に理解する。
もうトリックスターの勇姿を見ることは無い、と。

 
 

 東の通路に走る赤いレーザー光線に照らされた女性、エマ・レヴィントン。
こちらもジオンのパイロットスーツに身を包み、愛機オッゴを手に歩みを進める。
 ―大会メインスポンサーのご息女にして、ガンプラを始めてまだ3ヶ月!
  チェス、フェンシング、競泳飛び込みと数々のジャンルを極めてきた彼女
  その戦歴にガンプラバトルを加えるか?スイス代表
  エマー・レヴィントンーっ!―
「お姉さまーっ!頑張って、日本代表なんか蹴散らしてーっ!」
「そうだそうだ、本場者だからって遠慮するな、やっちまえーっ!」
「GO!GO!エーマッ!GO!GO!エーマッ!!」
日本以外の国からの判官贔屓な声援を背中に受けるエマ。対戦相手の大地を見据え
反対側の筐体に立つ。

 

 ―それでは両者、ガンプラをセットしてくださいっ!―
 大地がヅダを、エマがオッゴをセット、機体が粒子に包まれる。
その瞬間、ホワイトベースとグレートデギンのハッチが開き始めた。
完全に開き、カメラがその正面画像を捕える。今セットしたヅダが
ホワイトベースの発射口に、オッゴがグレートデギンの発射口に現れる。

 

「日本第1ブロック代表、里岡大地、ヅダ・セイバー、出るっ!」
「スイス代表、エマ・レヴィントン、オッゴカスタム、行きます!」
両者のガンプラが戦艦のハッチから弾き飛んでくる。そしてそれを合図に、
戦闘開始を告げるように、月面から2本の特大のビームが発射される。

 

それは、ホワイトベースと、グレートデギンを飲み込み、爆発すら残さず消滅させた・・・。

 

「なっ・・・!」
「あたしのモックがぁ~~っ!」
悲鳴を上げたのはチョマーとレイラだ。艦橋に座り込んでいた彼らの機体はビームを
回避することが出来ずに、戦艦もろとも蒸発してしまったのだ。
「おい!聞いてないぞ、どういうことだ!!」
「ダメージレベルAだぞ!人のガンプラを何だと思ってるんだ!主催は!!」
あわやビームを回避した12人が口々に憤る。
「サプライズというには無法すぎるな、これは本当に主催の仕業か?」
メイジンが推理し、月面に目をやる。その月から6体のSDガンダムが上がってくる。
「今のはコイツらの仕業かっ!」
ミサイルを向けるズサ・グッドホープ。しかし大会前のセレモニー規定により
発射口はすべてパテで埋められている。
「ならば喰らえっ!シャーク・アタック!」
足のアギトを開き、SDナイトガンダムに食いつこうとするズサ。
次の瞬間、ナイトガンダムは閃光斬の一撃により、ズサを跡形もなく消滅させる。

 
 

「キャロライン!これは一体・・・」
事態が飲み込めず、キャロラインに問うニルス。
しかしキャロラインは顔を真っ青にして両手を頬に当て、振えながら首を振る。
「そんな・・・私のナイト達が、なぜ・・・あんなところに!?」
涙声で答えると同時に、大会役員の一人が部屋に飛び込んでくる。
「ニルス様、キャロライン様、賊です!応接室のガラスが破られ、キャロライン様の
 ガンプラが残らず盗まれておりますっ!」
「なんだって!?」
再び舞台に目を写すニルス、そこにはSD軍団VS、武装を持たないガンプラ達の
絶望的な戦いが展開されていた。

 

「エマ君、ダイチ君、君たちは下がっていろ!」
「決勝戦を戦う大事な機体、壊すんじゃないぜ!」
二人の前に庇い立ったギャンとサイサリスは頑駄無大光帝のグレートバスターキャノンを浴び
煙すら残さず消え去った。
「こいつらっ!シャレにならんぜ!!」
猛スピードで飛び回りながらフェリーニが叫ぶ、先ほどからSD軍団はその強力無双の武器を
好き勝手に乱射している。
「粒子のチャージが、なぜ追いつく!?」
「こっちは丸腰だってのに、ああも無茶兵器を連発されちゃあ・・・」
動きを止めず逃げ回る各選手、敵の射線に入るだけでほぼ死亡する状況。
「見ろ!サテライトシステムの受信機だ、やつら全員付けてやがる!」
「そうか、ここは月の至近距離、いや、それにしてもこうも連発できるはずがない!」
武者ウイングゼロカスタムがツインバスターライフルをまるでビームライフルのように
連射している。サテライトシステムを持っているにしても、この粒子量は異常だ。

 
 

 ほどなく月面から再度、巨大なビームが上がってくる。マツナガのザクが半身をもぎ取られ
吹き飛んで爆発する。
「みんな、月を背にして戦え!月からエネルギーを貰ってるならば、その月に向けては攻撃できまい!」
メイジンの指示により、一斉に月面に向かうファイター達。
間を置かず、3度上がってくる巨大ビーム。マスターガンダムがフィールドから退場するハメになる。
「どんだけ連射できるんだよっ!一体何なんだあのビームはっ!」
「下に行くのも危険ですよ、どうすれば・・・」
「ルーカス!後ろだあぁぁぁっ!」
クロスボーンを突き飛ばした∀ガンダムはファイナルフォーミュラーのサザンクロス・ソールを
受けて消滅、その余波ではるか向こうのソロモンが半分無くなった。
「虎穴に入らずんば、だな!」
先頭を切って月面に突進する呂布トールギス、4度目のビームを先読みしてかわし、その発射源の
ドーム状の建物に取り付く。
「出てこいやあぁっ!」
ドームをぶん殴って穴をあける・・・つもりだったが、まるでその一撃で穴のあいた風船が
スローモーションで爆発するかのようにドームごと四散する。
緑色の光に押し出されるようにして。

 

「あ、あれは・・・」
「まさか、そんな!」
「そういう、カラクリかっ!!」
そのドームの中にある物を見て、全員が悟った。

 

「どけえぇぇぇぇぇぇっ!!!」
宇宙空間にいたヅダが猛スピードで月面に突進する。
「いかん!ダイチ君、君は下がっているんだ。」
「やめろっ!その機体が壊れたら・・・決勝はどうなるっ。」
「うるせぇっ!邪魔をするなぁぁぁぁぁっ!」
流れ星となって月面基地に特攻する大地、バスターライフルが足先をかすめ、左足を
持っていってもお構いナシだ。

 

 主催席、一人の男がけたたましくドアを開け、飛び込んでくる。
役員の一人であるその男は、大声でニルスに向けてがなり立てる。
「ニルス様!来ました、エマージェンシーです!エマージェンシーコール、タイプZTですっ!」
状況が飲み込めないニルスにとって、パニックに追い討ちをかける報告だった、
しかし、その役員の男が告げる次の一言が、全ての線を一本に繋げる。
「発生源は・・・ここ!この会場の、あのバトルシステムですっ!!」
男がバトルシステムを指差す、その先のカメラは、月面基地のドームがあった場所を
アップで映し出していた。

 

そこにあったのは、台座に据えられ、超高速回転で粒子の増幅を強いられている1台のガンプラ。

 

 ―トリック・スター―

 
 

第22話「エマ・レヴィントン」 【戻】 第24話「止まれ!」