紅い死霊秘法_10

Last-modified: 2013-12-22 (日) 20:29:29

シンたち3人は、一人を加えてリビングに戻っていた。議長がとびっきりの紅茶を淹れてくれる。

あまりの張り切りようにレイは情けなさそうだった。

「あら美味しい、見事ねギルバート」

「お褒めに預かり光栄です」

我が魔導書に文句をつけようにも、議長の手前言い出せない。



「とりあえずさ、断章集めってどうすればいいんだ?」

「アザトース反応や怪異を追いかけて、私と一緒に行動してくれればどうにかするわ」

「ふーん」

どうにも要領を得ない。これだけ好き勝手振舞えるなら、自分ひとりで行動できそうなものだけど。

「せっかく形を保てるんだから、この世界を愉しまないと損よね。手伝ってねシン」

「いやだ」

「お兄様、お願い」

「まあ仕方ないかな」

なんだよレイ、どうして議長に向けてた視線を俺に変更するんだよ。



「ねえギルバート、戸籍とか身分照明とか、シンの住んでいる場所へのフリーパスとか、

お金とか、もろもろ用意して欲しいのだけれど」

「わかりました」

ぎちょう、それでいいんですか。



結局、夕食までご馳走になってしまった。議長は料理まで美味しかった。

元々俺を招いた時点で作るつもりだったらしい。久しぶりにレイと一緒の食事で喜んでいた。

血は繋がっていなくても、素晴らしい親子であることは見て取れた。今は亡き、家族との団欒を

思い出し少しホームシックになったのは内緒だ。



「さて、形も保てるし、おなかも一杯だし、今日のところは帰るわ」

「ギル、先に言っておきますが、外出ならともかく外泊は寮の規則に引っかかってしまう」

「むう、残念だね」

「帰るって何処に?」

「決まってるでしょシンの部屋よ」

「……男子寮なんだけど」

「気づかれないから問題ないわ」

「俺はシンのところではなく、この家に寝泊りすべきだと思う。歩く怪異がアカデミーにあるだけで

歪みを引き寄せる可能性がある。この家ならば一種の結界となりプラントへの影響は少ない。

「素晴らしい提案だレイ。いかがでしょうネクロノミコンの精霊よ。この家にホームステイする

というのは」

「嬉しいけど、契約なの。シンがまた夜が怖くて震えていたら、可愛そうでしょう」

「ぶっ、ちょ、だまれこの」

「あら酷い、隠すの? 昨日の夜はあんなに強く私を抱きしめてくれたのに、ベッドで一晩中

私の体が砕けそうになるほどしがみついていたのよ」

「シン、お前という奴は───知り合って一日もたたないうちにそんな行為に及ぶとはな、

しかも栄えあるアカデミーの男子寮で………見損なったぞ」

「規律をこうも容易く破るとは、なんらかの罰則が必要になるかもしれないね」

「誤解です! 事実無根です!」

食後の一時は騒がしく過ぎていくのであった。





「それではお世話になりました」

「何かあったらすぐに知らせてくれたまえ、出来る限りの援助を約束しよう」

「ギル、またシンと来ることになると思う」

「身体に気をつけるのだよ、レイ」

「さよならギルバート、またね」

「またお会いできる日を楽しみにしています」

三者三様の別れを述べ、アカデミーへの帰路についた。



住宅街を歩きながら、シンは余りにも浮いた彼女の服が気になりだした。

「……お前その格好何とかしてくれ」

「なあに? センスあるでしょ」

「俺達は何者に見えるかなあレイ」

「15歳になるかならないか不明な少女に、いかがわしい服を着せて住宅街を二人がかりで

連れ回している」

「という訳で、その寝巻きみたいな服をなんとかしてくれ」

「欲情した?」

「俺は年下は対象外なんだよ。妹がいたんだ」

「もう手間がかかるわねえ。そうね貴方達が卒業したらもらえる軍服、あれならどう?

あれなら及第点ね」

「ザフトレッドの女性軍服か、じゃあそれにしてくれ」

「分かったわ」



分かったというが早いか、彼女の服が解けて───解けて!?

「この馬鹿! 道の真ん中で脱ぐ奴があるか!」

「シンは本当に可愛いわね、恥辱プレイがお好みなのかしら」

とりあえず背を向ける。この喋る本の暴走をなんとかしてほしい。本当に。



「いいわよ」

振り向くと、そこにいたのは裸の、ではなくて、立派にザフトレッドを着こなした少女だった。

スカートではなくズボンなのでパイロットバージョンのようだ。帽子だけは以前のまま、

これだけは譲れないご様子。

……なぜだろう、モビルスーツに乗りたいと我が儘を言うネクロノミコンを容易に想像

できてしまった。そんな日が来ないことを切に願おう。

「せっかくこの格好になったのだから、貴方達の軍事兵器を操ってみたいわね」

「もうかよ!!!」



拝啓、お父様、お母様、マユ。お兄ちゃんはこれから大変そうです。







漫才を繰り広げながら、シンたち一行はようやくアカデミーまで戻ってきた。

「はあ、今日はもう寝るよ、流石に疲れた。レイはどうする?」

「俺は彼女と話したいことがある。先に休んでくれ」

「……人に迷惑かけないようにしっかり監視しといてくれよ、それじゃあまた明日」

「おやすみシン。また明日からよろしくね」

シンは無言で去っていった。返事する気力も尽きていたようだ。

「本当に可愛いわね、それでレイ・ザ・バレル、私に話って?」

「談話室に移動しよう」



などという会話を背中越しに聞き、後ろ髪を引かれる思いであったが、それでもシンは睡眠を

選択した。もう寝むりたい。精神的疲労が激しすぎた。







久しぶりに安眠した、あくる朝───ルームメイトの悲鳴で目を覚ましたシンは、部屋中が

粘着質の正体不明の液体、黄色いゼリーを存分に塗りたくられた、悪夢のような光景を

目の当たりにするのであった。









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