艦内点景◆炎のX好き氏 03

Last-modified: 2016-03-05 (土) 06:06:51

艦内点景3
 
 
艦内点景(ウイッツ・スー編<1>)

「今日は…出撃…やめて…下さい…」
いつもの消え入りそうな声でティファが言った。
言われたウィッツは一瞬怪訝な表情をしたが、思いっきり頼もしそうな声と顔を作り、答える。
「大丈夫だ」
確かに今から出撃の予定がある。
「…でも」
さらに言い募るティファに
「俺は大丈夫だ」さっきより、力強く答える。
彼は例え必ず死ぬと判っていても、そう答えただろう。
それが命を賭ける仕事に就くという事であり、後に残る者を不安にさせない、それが戦士としての、男としてのプライドだと思っていた。

ガロードを見掛けたティファが駆け寄ってくる。
ティファが走る?
ガロードは、不吉を感じる。「どうした?ティファ!」
「ウィッツが…」つぶらな瞳に涙が盛り上がる。
「ウィッツ?ウィッツに何か変な事されたのか!?」
ウィッツ本人が聞いたら激怒しそうな、誤解発言だ。
「ち…違います」
ティファも顔を真っ赤にしながら、必死の体で言う。
「今日…あの人は…撃墜されます」
ガロードは頭から血の気が引くのを自覚する。
ガロードはヤタガラスのブリッジに駆け込み、既に出撃したエアマスターに呼びかける。
応答が、無い。
「ダメだよ。通信管制してるし、もう大気圏に突入してる」
シンゴが言う。
何て事だ…。最近、いいとこ無しのウイッツの不吉な、あだ名が頭をよぎる『餌マスター…』

ティファに大丈夫と言ったのは、嘘では無い。
地表に降りて2&#12316;3の簡単な用件を済ませ。ブースターで大気圏離脱。帰艦。
たいした話じゃない。
だが、とウィッツは考える。『個人的な』用件に手間取ったのがまずかったか。
不審機であるエアマスターバーストに敵機がスクランブル発進。
ほとんどは振り切ったが1機だけ、喰らいついてくる。
なるほど腕利きらしい。
だがな、ウィッツは口元に不敵な笑みを浮かべる『俺もそうなんだぜ』
そしてこの機体の名は『エアマスター』天空を支配する者の名だ!

ウィッツ無事、帰艦。
コクピットから降りたウィッツにガロードが駆け寄ってくる。
「良かったぁ&#12316;」ガロード、へなへなとその場にヘタリ込む。

「俺の事、"餌"なんて言った奴、出て来い!」
ウィッツ、鼻唄交じりに上機嫌である。
撃墜をティファに予言されてたと、ガロードに聞いた。
それを覆しアッサリと勝利して来たのだ。
『最近、ゲンが悪かったが、これで汚名返上だ。この勢いで…』
個人的用件で買った品を握りしめる。

「ウィッツ?あれ、餌じゃん、餌。つきあうなんて、考えらんなーい。ギャハハハハッ」
トニヤの声が聞こえた。
ウィッツの手から指輪を入れたケースが滑り落ちる。
今日、トニヤに告白するつもりで買った品だった。

今、確かにウィッツは撃墜されたのだった。

艦内点景(ステラ激闘編<1>)

ステラを普通の女の子らしくさせよう。
俺、シン・アスカは決心した。
事の起こりは艦内食堂で、ガロードとティファ、そしてステラと4人でたまたま同じテーブルを囲んだ時だ。
確かに俺は無粋な男で、女の子を楽しませるトークは苦手だ。
だが、ティファという娘は特に敷居が高かった。
思うように会話が弾まない事に、俺の口調が知らず知らずキツくなる。
一瞬おりた沈黙に、俺の顔色を伺っていたステラが「シン、機嫌悪いのダメェ」と自分のスカートをいきなりペロンとめくったのだ。
ただでさえ、気まずかった沈黙が決定的になった。
ガロードもティファも真っ赤になって目を逸らす。
俺達は最悪の雰囲気で解散した。

いや、ステラのかわいいパンツを見るのは嬉しい。
いつもだったら一発でご機嫌に…じゃなくて!ダメだ。嬉しいが、人前でパンツ出すのは、さすがにダメだ。
でも、普通の女の子って、どうすりゃいいんだ?
今更ながら自分の朴念仁ぶりに、ため息がでる。誰かの手を借りねばならない。
かといって、野郎共は俺と似たり寄ったり(驚異の順応力、ガロードもこっち方面だけは不得手らしい)や、女にだらし無い奴(アスラン艦長とか)ばかりだしなぁ。
女性クルーに助けを求めることにする。
ルナマリア、凄い目付きで睨まれた。
メイリン、アッサリ無視。
アビー、苦笑か?冷笑か?口元を歪めただけだ。

知らなかった。(涙)俺、女性クルーに嫌われてたんだな(←タイミング悪く、ステラパンツ事件でシンの女性クルー評価は最低だった)
最後にトニヤ・マーム。
色恋沙汰の噂を盛んにしてる女ぐらいしか知らないが「あ&#12316;ら、楽しそうな話ね」と、あっさりノッてきた。
だが、この胸騒ぎは何だ?
「あの娘を女らしく特訓すればいいのね?」
「…いや、手ほどきというか…」
「預けるからには、私の方針に従ってもらいます!」「ハヒッ」ビシリッとした声音に、反射的に声が裏返った返事をしてしまう。
何だ?この迫力は。
とにも、かくにも、特訓が開始された。

「ステラ!行くわよ」
「うぇい!」
崖上から岩石を落とす。
「うぇい!」
滝の流水を斬る。
「うぇい!」
石段を転げ落ちる。
「うぇい!」
バリアを跳び越える。
「うぇい!」

筋金入りの特撮マニアしか知らないような特訓が、矢継ぎ早に繰り出される。
ステラもステラで、卓越した体力、技術と力技で次々クリアしていく。
このまま行くと、ステラが銀色の巨大宇宙人か、バッタ型改造人間に変身してしまうのではないかと危惧をおぼえるが、幸い、何にでも終わりがある。

「特訓は終わりよ」と、ステラがかわいいワンピースを着て現れた。
「どぉお?アタシの見立てよ」とトニヤが自慢げに言う。

おぉっステラが普通の女の子みたいだ。これだよ、俺が求めていたのは…。
「ステラ…俺が喜ぶことをしてくれないか?」
これで、腕を組んだりしてくれれば…。
「うぇい」
スカートをペロンとめくる。
俺は絶望に膝の力が抜ける。
「変わってないじゃないか!?」
「なに言ってんのよ。カワイイ服でしょ」
トニヤが如何にも心外そうに言う。
「服…だけ?もしかして」
「そぉよ。女の子は服で変わるもんなのよ」
じゃ…あの。
「特訓?あれ、やんないと気分出ないでしょ。お約束よ」
…お約束ですかぁ?
「うぇーい」
褒められた小学生の様にステラが片手をピンと上げ"ニパッ"と、微笑んだ。

艦内点景(ガロード苦難編<1>)
思いつめた表情をしてティファがステラに問いかける。
「ク○トリスって何?」
「うぇい?」

所変わって、ヤタガラス休憩室内。
そこにシンを見つけたステラが、爆弾を投下する。
「ねぇシン。ク○トリスって何?」
シンが飲物を盛大に吹き出す。周囲からクスクス笑いと「お盛んだねーっ」と声が聞こえる。
「ステラ!」
「んーとね。ティファがね…」

「ガロォォドォオッ!」
ステラの手を引いたシンは、やっと探し出したガロードに喰いつかんばかりだ。
だが、件の単語を聞いたガロードは頭から湯気を吹いてアッサリ沈没する。
「オレが、そんな事言うわけ無いだろ」
さすがガロード。
数瞬で復活して反論。

『大体ティファにそんなイヤラシイもの、付いてるわけないだろ!』と続けようとして『あれ?…付いてない筈、無いよな』
…想像してしまった…。
青春の甘い罠に引っ掛かったガロードは、顔から火を吹いて再び床に沈没した。その顔は幸せそうにも、複雑な表情を浮かべていた。

「ガロード!テンメェ-ッ」義憤に駆られてウィッツが。
「ガロードさん。見そこないました」と、涙を浮かべてメイリン。
「ガロード、人生は長い」これはテクス。
「ガロード!あんたって人は」とルナマリア。
ティファを探し始めたガロードに次々と非難の声が挙がる。
ティファは所構わず爆弾を投下しまくってるらしい。

その全ての非難が、自分に降りかかって来るのに、世の不条理を感じる。
ティファを一刻も早く探し出さねば、身がもたない!
「ティファーッどこにいるんだよー」

「それは女の子の大事で神聖なモノなの。軽々しく口にしちゃダメよ」
母性すら溢れる口調で、丁寧にティファを諭すのは驚いた事にトニヤ・マームである。
キチンと説明を受けたティファは、今まで訪ねた人数を思い。身の置き所がなくなる。
「大丈夫よ」トニヤが安心させるようにニッコリ微笑む。

「ティファ!」彼女が1人で歩いている所を見つける。
ガロードは安堵に倒れそうになる。「あのっティファ。…ク…クリ…クク…」

ガロードは真っ赤になりながら、口ごもる。
スッと、唇にやわらかい物が触れる。ティファの人差し指だ。
「それは大事な物です。軽々しく言っては、いけないのです」
「ティファ?」ガロード、唖然。
しかし、いつものティファだ…良かった。
ガロードは安堵する。
「行こっか」
「…はい」
いつもの2人だった。
しかし、とガロードは考える。『ティファに変な事を吹き込んだのは誰だったんだろう?』

…時間を少し遡る。
廊下を歩くティファに部屋の中の甲高い声が聞こえる。
女性クルー達の井戸端会議だ。
「だから基本はク○トリスよぉ。じゃないと愛し合ったと言えないわよ。ギャハハハッ」
…トニヤの声だ。

それを聞いたティファは、激しく動揺する。
『ク○トリス…それを知らないと愛し合えない!?』
「ガロード…」
少女は胸のつぶれる思いの中、少年の名を呟く。
ティファは熱に浮かされた様に、フラフラと歩き出す。
…ティファがステラに問いかける。
「ク○トリスって何?」
「うぇい?」

艦内点景(トニヤ・マーム編<1>)
「もお&#12316;っあたしのバカ、バカ、バカ」
今、トニヤ・マームは激しく後悔していた。
ウィッツ"撃墜"の一件である。
そもそもが女同士のよもやま話で、ウケが良いから、散々ウィッツを"餌"よばわりしてたのだ。
しかも肝心な時まで、口が…滑った。
ウィッツがあれほど、打たれ弱いとは予想外だった。
それ以来、ウィッツはトニヤを避けるようになっていた。
『男なんだから、一度であきらめないでよ!』
彼女も結構ウィッツの事は、にくからず思っている。
だから…「このまま、フェードアウトなんて、我慢できない」女は決意した。

MSデッキ。
ウィッツはエアマスターのコクピットで、黙々と電装系のチェックをしている。

「ウィッツ…差し入れ作ってきたの…食べて」
ウィッツは一瞬動きを止めただけで、顔を上げようともしない。
もう、終わりなのか。完全に嫌われたのか。
自分でも感情が制御できない。
目に涙が溢れる。
涙を見られたくなくて、顔を背ける。
「ごめん…これ食べてね…」
必死にそれだけを言いおいて、身を翻す。
小走りに去っていくトニヤを、ウィッツはあ然として見送る。
「あいつ、泣いてたな…」
差し入れの中身はハート型に切ったハムサンドウィッチだった。形は少しいびつだが、どうにかして、自分の気持ちを伝えようとしたのだと、分かった。
味はあまり旨くはなかったが。

「ヌハハハッ」
改めて貰い直した指輪を見て、トニヤが、だらし無い笑みを漏らす。
「アイツ、ずいぶん奮発したんだー」
トニヤの好悪感情と損得感情はキッパリ別、である。
「泣いちゃったのは、予想外だったけど、女の涙ってのは効くねー」
トニヤは考える。『"次の"ために泣く練習でも、しとこうかな』

…ウィッツの受難は、まだまだ続きそうである。
 
 
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