艦内点景◆炎のX好き氏 08

Last-modified: 2016-03-05 (土) 06:40:51

艦内点景8
 
 
(虎仮面フォーエバー編<1>)
「我々は帰って来た!新たな時代に誘われて、虎仮面1号、華麗に登場」
「虎仮面2号、優雅に活躍」
「虎仮面V3(ヴイスリー)で、ございます」
虎ことアンドリュー・バルトフェルド、テクス医師。
そして新メンバー『ウイッツ・スーの母親の再婚相手、コーヒーをいれるのが上手いバーテン(本名不明)』の3人が虎のマスクに裸の上半身、虎縞のマント姿の3人がビシリ!とポーズを決める。
先日、空の彼方に吹っ飛ばされたことに懲りず、今回の狙いは、なんとラクス・クラインだ。
「困りましたわ。私、今刺激物を控えろと言われてますの」
さほど困った風でもなく言うラクスに猛虎が轟然と吠える。

「行くぞ!コーヒーとは悪魔の様に黒く!地獄の様に熱く!天使の様に清く!恋の様に甘く!なくてはいかんのだぁあ!」
虎仮面達が手に手にコーヒー満杯のサーバーを持ち、ラクスに迫る。
「あらあら、捕まえてごらんなさーい」
ラクスが病身にもかかわらず、身軽にヒラリとかわす。
虎仮面達が連なって追いかける。
「おのれ、甘く見すぎたかぁ!」
虎達、結構本気で走っているが、追いつけない。
「あらあら、おほほほっ」
ラクスが楽しげに笑う。
虎仮面達、そのうち一本の柱の周りを回転しながら追いかける形になる。

「「「うおーっ」」」

その速度は目にも止まらぬほど加速していく。

いつの間にかラクスだけが追いかけっこから抜けだし、傍らに座りのんびりと茶を啜っている。
「あらあら、うふふ」
花のような笑顔を浮かべながら、彼等虎仮面達の暴挙を見守っている。
その猛スピードにいつの間にか、虎仮面達は柱を巡るドーナッツ状の『バター』になってしまいましたとさ。

「ラクス、今日のトースト、旨いね」
キラが微笑みながら、ラクスが手ずから焼いたトーストをパクつく。
「ええ、とても良いバターが手に入りましたのよ」
…って食わすなよ!(『チ○゙クロサ○ボ』…いいのか?こんなオチ…)

以後、虎仮面達は人々の前に姿をあらわす事は無かったという。

(おわり)
 
 

(ティファ&ステラ編<1>)
これはムウが死んだ直後の話…。

ティファは畏(おそ)れていた。
今まで恐怖する事はあったが、畏怖を抱く相手は初めてだった。
『あの人は私の感じた…未来を変える』
未来を変える人間は今までもいた。
例えばガロード。
だが、彼が命懸けで変える未来を、彼女は足下の虫ケラを踏み潰す気楽さで変えたのだ。
そこには『未来は自ら創りあげるモノ』とガロードが示してくれた開放感は微塵も無い。
その事が、ガロードの一生懸命さを愚弄するように感じる。
それが畏ろしく、また哀しかった。

ガロードは焦っていた。
ティファを救い出した。
苦労した。

それは、いい。
いつもの事(と言うのもなんだが…)だ。
ここなら彼女はMS戦を強要されることはない。
だが、ティファの表情は悲しげに曇ったままだ。
無い知恵を絞り、気分を盛り立てようとしたが、ティファの表情はまだ、晴れない。

シンは悩んでいた。
ステラを幸せにしたい。
どうしたらいい?
彼女は自分と一緒なら幸せ、と言ってくれる。
それは家族を失って荒んでいた自分(ステラのおかげで自覚できた)にとり、嬉しい言葉だ。
だが、いつまでも自分にベッタリで良いはずがない。
ステラには、あの年頃の女の子らしい幸せがあるはずなのだ。
自分に何ができるだろう。
ティファは人気の無い場所を探し艦内をさ迷っていた。
自分を元気にしようというガロードの気持ちは嬉しい。
だが、それに応えられない自分が、今はつらい。
ここなら誰も来ない、と油断した所に誰かとバッタリ出くわした。
…硬い数秒が流れ、先に動いたのは相手だった。
「うぇい」満面の笑顔のステラ・ルーシェがいた。

「ステラ!こんな所に!」
長時間戻らないステラを、やっと捜しだしたシンは、それまでの不安をごまかす様に強い口調で言った。
ステラはたしなめるように唇に人差し指を立てる。
見るとステラは艶(つや)やかな黒髪を撫でている。

ティファ・アディール…シンは黒髪の持ち主、ステラの胸に顔を埋め、安らかな寝息をたてる少女の名前を思い出す。
『いつもと逆だな…』
シンが見慣れているのはルナマリアの胸で寝ているステラの姿だ。
ステラが少女に愛しげな視線を巡らす。
その横顔の美しさに、シンの心臓が口から跳び出そうになる。
ステラは美少女だ。
しかし、今の美しさは…。
自分はいままでステラの何を見てたんだ?
俺はステラの事を何も知らないのだな…
ふと、彼女を「幸せにしてやろう」とした愚かさに気がつき、強い感情が込み上げてくる。
シンはそれを苦労して飲み込んだ。

&#8212;&#8212;&#8212;どれほどの時間が立ったのか?

いつの間にかティファが目覚めていた。
ステラは元気な「うぇい」、ティファは消え入りそうな「…はい」で不思議な会話を成立させている。
と、ティファがシンに向き直り、その視線にシンは狼狽する。
「あなたはステラさんを幸せにしたい」
…。
「彼女の想いもまた、同じです」
「あぁ」
「2人の想いは純粋で強い。でも一方通行では、幸せにはなれない」ティファが歌う様に続けた。
『想いだけでは、いけない』似たような言葉は、以前にも聞いた。
だが意味はまるで違う。シンは自分でも驚くくらい素直に頷く。
「私もガロードの所に…帰ります」と、ティファが微かに、ほんの微かに、微笑えんだ。
(おわり)
 

(シン&ガロード編<1>)
「シン。やっぱりまずいよ。これ」
「でも万一のことがあったらどうするんだ?ガロード」
最近、ティファとステラが個室で2人きりで過ごす時間がやたら多い。
「だからって女の子の部屋を覗くようなまね…」
まねも何も、シンとガロードはこれから彼女らを覗こう、としているのだ。
「だいたい、万一ってなんだよ」
「…えと、その…お前、ティファと何も『してない』だろ?だから…ティファが男より先に、女の子を知っちゃったらマズイ…よな?」
シンが一生懸命言葉を選んで説明する。
サテライトシステムのマイクロウェーヴなら10回は到達する時間が過ぎ、さすがのガロードも何を言ってるのか理解する。

えぇえっっ!!」
動揺のあまりガロードの声が裏返る。
「なっ?すっげー心配だろ。ステラなんか…少し…発想が自由過ぎるとこもあるからなぁ(ため息)」
「い…いや、オレはティファを信じているから…」
と多少平板な声で即答しながら『確かに自分はティファを疑いも無く信じている。だが、ティファの"何を"信じてるんだ…?』フリーズしてしまうガロードだった。
「妹達が道を外さない様に、お兄ちゃん達が見守ってやるんだ。俺達は正しい」
シンは自分に言い聞かせるように言いながら『悪い大人の理論だな』と、内心苦笑する。
「妹って言ってもティファ、オレと同い年だけどな」

いつの間にやらフリーズから復活したガロードが答える。
「あれ?ガロードって15歳だよな」
「うん。ティファも15だよ」
今度はシンが言葉を失う。
正直、ティファの容姿から夭逝した妹、マユよりずっと年下と思いこんでいたのだ。
「そういやステラの歳、いくつなんだ?」
ガロードが言葉を継ぐ。
「…それが、ステラ自身もよく知らないらしい。その…変わった生い立ちだしな」
ガロードは彼女らの気が合うのは、境遇が似てるせいなのかもな、と思う。
ティファも施設に捕われた不遇な過去を持つ。
実はガロードもティファの歳は知っていても、正確な生月日は知らない。
ティファは自分の過去を話さないし、ガロードも彼女の悲しい過去に触れることを恐れ、つっこんで聞くことはない。
ガロードはティファに悲しい顔をして欲しくないのだ。
「さあ、ガロード頼むぜ」
ガロードは部屋のドアロックくらい、簡単に解除できる特技を持つ。
ガロードが罪悪感を感じつつも、愛しい少女達のいる部屋の扉に、そおっと手を伸ばす。
空気が漏れるような音がして、いきなり扉が開く。
「うぇい」
目の前にステラが立っている。
緊張して並んでしゃがみ込んでる男2人がひどく間抜けに見えることだろう。
「「…」」
シンとガロードは言葉も無い。
「…待って…いました」
部屋の奥からティファの声がする。
『お見通しか…』
シンとガロード、顔を見合わせ、観念する。

驚いたことにティファもステラも彼等を叱責しなかった。
それどころか、ステラがシンの首にクルクルと、ティファがガロードの首にフワリ、と巻く。
「「手編みのマフラー!?」」
「うぇい。ステラ、始めて編んだ」
「私もです…だからあまり上手ではありませんが…」
だか、少し不揃いな編み目ゆえ、一生懸命が伝わる。
これを編み上げるため2人、部屋に篭ってたのか。
シンとガロードは胸が熱くなる。
空調の完備された宇宙船内でマフラー等、不要といったことも問題外だ。
「ティファ。ありがとう。すげー嬉しい」
ガロードが真っすぐな気持ちを言葉にする。
「ステラ、ありがとう…いや、何の記念日でも無いのに照れるな」と、シンが照れまくる。
「ステラ、シンと出会ってから毎日がずっと記念日」
「ステラ…」
「…うぇい」
ガロードが頬を染めて、見つめ会うシンとステラから目を逸らすと、「ティファ?」少女が何も無い中空に視線を向けているのに気がついた。
「妖精さんがいました…」
ティファが穏やかな表情でガロードを振り向く。
「妖精さん?」
「大丈夫…もういません」
ガロードには理解不能な言葉だった。

&#8212;&#8212;&#8212;同時刻、ブリッジ当直にかこつけて「なんだ、18禁展開は無しか」等と呟きながら、不正に監視装置を使っていた『ある人物』は、ティファの鋭い視線に射すくめられて冷汗を流していた。

(おわり)
 
 
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