第一幕「運命を癒す術を求めて」
―C.E69年12月某日
「ぎるばぁーーとぉっ、いるぐあぁあーーー。入るぞーーー!」
「……また、今日もかい? 全く、何軒はしごしてきたんだか」
「ぁん? ほんの5軒位だ。気にするな、俺は気にしない! 水ぅっ! いや、酒をくれぇ、ぎるヴぁぁあーとぉ」
「私は気にするのだよ。水を今持ってくる。全く、これがザフト軍の英雄(トップガン)とはね」
それは年末も近付いてきたある日の深夜の出来事だった。
外はもうクリスマスムード一色でコロニー郡とユーラシア連邦が戦争をしていようがそんな事にはさして興味も無く、日々の生活を懸命に生きていた人々は浮かれ、年末の忙しさを楽しんでいた。
此処はプラント呼ばれるコロニー郡。外の戦争とは無縁の科学者であり、年末の休暇を楽しんでいた私、ギルバード・デュランダルの住まいに男が訪ねてきた。
その人物は私の無二の親友であり患者であり、研究対象でもある男、ラウ・ル・クルーゼだった。
その顔はサングラス越しにでも老化が見られるほど顕著であり、また素肌を滅多に見せないが肉体年齢も既に40歳を超えている。
その男は私の家の玄関で酒臭い息を振りまき、白肌が真っ赤になる位に大量のアルコールを摂取して、ぐでんぐんでんに泥酔している。
私はコップに水を入れて彼の前へと差し出すと、彼はそれを奪い取り一気に胃へと流し込んでいった。
こんな無茶な飲み方を水でやっているとなると大分肝臓にダメージが来ているな。
「んぅ?……ぬぁっ、水じゃないか! 酒だ! 酒をぉ……ううっ、頭が」
「だから、水を持ってくると言った筈だ。しかし、大丈夫か?
休暇を貰ったとはいえ、こんな酒びたりでは軍で演習でもしていた方が良かったんじゃないか?」
「ふん、下らん。何が軍か! 何が正義か! お前も聞いているだろう?
あの機械は……いや、あんなのは悪意の塊だ! 人類は自らを絶滅させたいらしいな」
「ニュートロンジャマーの件か。あれは、私も残念に思うよ。
元々は核兵器抑止を目的とした防衛の為だったというのに」
「ぎるばぁーーとぉ、私は人類が憎い! 何故、こうも愚かなんだ!」
わめき散らしている友に私は肩を貸しながらも部屋の中へと連れて行く。
うーっぷすっと大きく咳き込む様に背を前後にさせる彼の挙動に私は冷や汗を掻いていた。
幾ら無二の友人とはいえ、お気に入りのカーペットを汚されては怒らざるをえないからね。
今、私が担いでいる男はプラントのザフト軍で演習や模擬戦でトップの成績を出しているエースパイロットだ。
コロニー周辺で海賊行為をする者達をばったばったとなぎ倒してプラントの平和を守っており、恐らく、これからプラントと地球連合との戦争が起きた場合、確実に英雄へとのし上がるであろう男。
それが何故、こんな酔い潰れているかと言うと、それは先日の極秘裏に決議されたある作戦の影響だった。
NJ(ニュートロンジャマー)。大雑把に言ってしまえば、核分裂を抑制させる装置。
彼は、それが気に入らなかった。否、正確に言うと彼の屈折気味だった人格を更に歪ませる結果となった。
その作戦が決まって以来、彼は毎晩の様にこうやって飲み歩いている。今日で何日目だろうか?
「でも、他のコロニーの為、抑止力の為とは言っているじゃないか」
「ギルバート。お前はそんな戯言を信じるほど、愚かではない筈だ」
「それは解っている……が、しかし」
「ふんっ、あんなご大層な玩具を手に入れて使わないと思うか、ギルバート! 歴史は示しているぞ。
火薬、毒ガスなどのBC兵器、クラスター爆弾、対人地雷、自爆テロ、核兵器、MDシステムetc」
「人は歴史を繰り返すか。作ってしまったら使いたくなるのが人の性でもあるが、だからと言って」
「そうだぁっ! これが飲まずにいられるか! はっ、人類など滅びてしまえばいいのだ!」
ソファーへと体を預けると、彼は目元を隠したままひくぅっとしゃっくりを繰り返し、ソファーのカバーを握り締めまるで赤ん坊の様に泣き崩れて寝返りをうっていく。これが彼が滅多に他人に見せる事のない素顔の一部だ。
私は彼の頭を撫でた後、冷蔵庫へと向かい氷嚢を作る。アイスピックを使い砕かれていく氷の塊を眺めると何だか、彼の僅かに保っていた理性を砕いている様で胸が痛む。
本来、NJは核兵器からこのプラントを守る為の装置であった。しかし、それが防衛用以上の大量増産が決められた。
建前では他のコロニーに配る為、抑止力の為という名目であった。それが本当なら素晴らしい事だ。
コロニーが団結するきっかけになり、今も尚戦争を続けている一部のナチュラルが住むコロニーを救う手立てとなる。
しかし、地中深くへと突き刺さる様に作られる構造を見て誰が”それだけが目的である”と信じられようか?
説明の上では近くの衛星や隕石などに忍ばせる為という事だが、そんな物を信じられるほど彼も私も頭は悪くない。
「だが、ラウ。これで戦争は終わる。コロニー民を植民地の様に酷使するユーラシア連邦のOZも核兵器を大量生産している噂のある大西洋連合も、コロニーを戦争に巻き込むホワイトファングも全ての機能を失う」
「それで全ての頂点に立つのがプラントか? それではただ勝者が、立場が変わっただけであろう!」
「まぁ、それはそうだが。しかしOZのやり口を見ていると、こうするしか」
私は言葉を濁しながらも彼の激昂を止めようとする。
本心でもない事を言い連ねて何とか彼の頭を冷やそうとするが、先ほど乗せた氷嚢があっという間に沸騰してしまいそうなほど彼は怒り狂い、失望し、その瞳も体も未来を見ぬまま絶望のため息を繰り返す。
時代が、世界が、運命が彼を苦しめていた。大西洋連合はユーラシア大陸のことなど対岸の火事としか思っておらずOZとコロニー郡が戦争をしている事に静観を決め込んでいた。
おまけに核を作っているのでは?との噂も一部では流れていた。彼らはユーラシア連邦ほど”上品”に戦争はしない。
無論、OZも貴族階級との差別的意識があり、まるで旧世代の植民地の様にコロニーから資源と労働力を奪っているのだからそれが必ずしも上品とは言えなかった。形振りの構わなさのベクトルの違いだけだ。
それらを全て見込んだ上でのプラントの行動もまた悪魔じみていた。私個人の感想でいえば、”最悪”だ。
「ギルバート、君はまさかあんなものを使いたい訳じゃないだろう?」
「当たり前だ! あんな物を使ってしまったら民間人にも被害が出る上、地球の動植物にどんな影響が出るか!」
「あれでは地球を殺そうとしているホワイトファングと何も変わらない。NJを落として、地球の人類は何人死ぬ?」
「少なくとも地球の人口は数%単位で減るだろうね。下手したら10%ではすまないかもしれない」
「そんな罪の無い人々の屍の上に立って何が勝利か! 何故、人類は……何故、私は生まれたんだギルバート?
人類の終焉を見つめる為か? 星を殺し、人が死に絶えるのを見る為に私は生まれたのか? 答えろ!!」
彼はまっすぐに私の瞳を見つめ返していく。
暗く濁ってしまい未来の見えない瞳だったが私の真意だけはしっかりと見抜いていた様だった。私は彼の前で偽る事を止めた。
砕いた氷を冷蔵庫へと戻した後、その手でグラスを砕きそうになるほどに手は震えていて、既に怒りを隠す事は出来なかった。
そう、プラントがしようとしている事はNJの地球への投下だ。
それは何を意味するか? 地球上の多くの原子力発電所は止まり、MSを始めとする兵器が止まる。
原子力潜水艦は海へと沈み、多くの船は海上を彷徨う幽霊船と化し、核ミサイルはただの鉛弾と化す。
それを持ってすれば、プラントのMSは”電気仕掛けの人形達”は地球圏における最強の兵器となる。
MDシステムも電波障害や肝心のMSが動かないだろうし、何も恐がることはない。
精々、後に残っているのは旧世代の戦車や戦闘機と細々としたMA位だろうか?
それらをただただ駆逐していけば良いのだから、プラントの勝利はほぼ確定する。
地球の人々が何人死のうと気に留めず、宇宙も地球も武力支配して終わり。
その後をどうするつもりだろうか? 地球を食糧生産の為の植民地とするか?
軍を派遣して支配に反対して出てくるであろうゲリラ達をMSで蹴散らすか?
”じゃあ、その遣り方は連合やOZ達とどう違うのか?”
私には善意で受け取れる回答が思い浮かばなかった。
「ラウ。私は確かに君の親友だ。それは誇りでもある。だが、私はただの研究者であり、”男”だ。
その命を引き伸ばす事を模索したり、友として力になることは出来る。
しかし、君が満足する様な優しい言葉を掛け、慰める事は私には出来ないよ。役目が違う」
「私に女でも作って慰めて貰えと? そう言いたいのかギルバート?」
「残念ながら私はそう結論付ける。もっとその……君は素顔を晒してみてはどうだ」
彼の悩みは私自身が間違っていると認識している事なのだ。
だから、それを諭す事を放棄して今、目の前のただ一人の親友である男の為に何を言ったらいいか考える。
理系だったのでこういう事は苦手なのかもしれないが、それでも私は彼を救いたい。
私はさっきから砕く為に持っているかと誤解されるほどに力強く握り締めていたグラスに酒を注ぐ。
喉と舌を潤すそのアルコールは臆病な私に最後の一押しをしてくれた。事実上の降参宣言だ。
情けなく不甲斐無いが、彼には必要なのは私ではない。私では彼を愛せない。
私自身にホモセクシャルの気はないし、何より彼はそれを望まないだろう。
どんなに進歩をしても、人間は雄と雌の有性動物。猿の発展系でしかない。
ならば、雄は雌に補完されて成り立つのが動物である人類の一つの幸福の形だ。
科学者とも思えぬ、下世話で原始的な発想に情けなくて涙が出てきそうだ。
しかし、今は愛が人を救うと言う使い古された夢物語にすがるのが彼には最適だと思った。
夢も希望も愛も見えなければ、人は猿同然の獣だと私は考える。
「はっ、こんな老いぼれの顔をした男を誰が好く? 権力か? 金か? 名誉か?
所詮、それらをむしゃぶろうとする女しか寄っては来るまい!」
「酒を飲んで酔いつぶれて、ようやく素顔を見せる様では誰からも信頼して貰えないぞ?」
「ギルバート、君の気持ちは解るがそれは奇麗事だ。しかし、信頼出来る女など私には居ない」
「それを探すのもまた人生だと私は思うがね?」
彼は私の言葉にサングラスを取り、苛立ちと憤怒の形相をした素顔を晒している。
老いた顔だ。顔こそは綺麗に皺を取る為に定期的に整形手術をしているが、目元はその瞳と体の老いの実感を隠す事は出来なかった。
彼は生まれてこのかた、まともに女性と付き合った事はない。
否、女性からはそう思ってもその老いと未来を知ったその日から、彼は未来を信じることが出来なかったのだ。
彼の真の名はラウ・ル・フラガ。ある人物のクローンであり、彼の寿命は非常に短い。
故に通常の人間の様な長い未来は彼には無いのだ。
それこそ彼の一番の不幸であり、私が彼を治療したいと思った一番の理由だ。
そんな未来なき男に女を勧める私は最低だ。
しかし、それでも彼のその短い未来を癒せる方法はこれ位しかない。
不老長寿、人並みに寿命を延ばす方法でも見つかればいいのだが、そんな偉業は人類が何十世紀も経て未だに到達出来ていない事で彼の寿命に間に合わせるのは不可能に近い。精々引き伸ばしが出来る程度だ。
「ギルバード、俺は一つ聞きたい。否、ずっと聞きたかったが聞くのが恐かった事がある。
私は子供を作れるのか? また、子供を作ったとして何時までその成長を見れる?
お前とタリアの別れの様に……!? いや、すまない」
「気にしなくていい。確かに私とタリアが別れた原因であり、それを心配する気持ちは解る。
君は子供を作れるよ。ナチュラルだから私達の様な相性問題は回避出来る」
「いや、だが……今の発言は。くっ!」
彼は私が持っていたグラスを奪い取ってその残りの酒を浴びる様に飲む。
がりっと氷を歯で砕きそれを飲み込むと、小さく息を漏らしながらも私に視線を向ける。
それで踏ん切りがついたのか彼は恐る恐る口を開き、私に問いをぶつけた。
それは健全であれば、あまり気にする事の無い質問事項であった。
―彼は子孫を残せるか否か?
無論、クローンとは言え、れっきとした人間だ。問題点は”体の老い”位しかない。
しかし、事情が事情だけに問題ないと言ってもどこか疑念が残るのは当然だ。
何より私は彼に一番知られるべきではないネガティブな情報を与えてしまった。
それを彼は口走った事を後悔し、床へと崩れ落ちる。私は……悲しかった。
その事実とそれを知ってしまっている彼とそれを悔いてしまう彼の優しさを。
「タリアは……彼女は未来を選んだ。所詮、私の科学も未来を紡ぐには足り得なかっただけだ。
せめて、人工子宮の技術さえ完成していれば良かったがね。しかし、それをタリアは待てなかった」
「……ギルバード! 私を殴ってくれ。酔い潰れていたとはいえ、私は唯一無二の友人に」
「ラウ。その潔さと優しさを女性へと向けてくれ。そして、私に祝福をさせてくれないか?
悲しみと嘆きの声を聞き、君を殴る為に私は君の友になった訳ではない」
タリア・グラディス。
私は地球上と宇宙に存在する女性の中で彼女を一番愛しており、少し前まで恋人同士であった女性だ。
私と彼女の別れは今、彼が心配している事項に起因している。
私と彼女は二人ともコーディネイターと呼ばれる遺伝子調整された人種であり、相性的に私達は子供が出来ない遺伝子の組み合わせだった。
プラントではその二人の婚姻は許されず、彼女はオーブへと逃げる事を提案し私が断った事で関係は終わってしまった。
人工子宮の研究を続ける為にプラントに残り同じ悲劇を起こさぬ努力を勤めようとした事を彼女に理解して貰えなかったのだ。
その代わりと言う訳ではないが、目の前にいる運命の被害者でもある彼とも出会った。
彼との出会いは彼女の別れと共にある。だから、私は彼の言葉に耐えられる。
そう、彼の様に迷い傷付く人間を救う為に、私はこのプラントに居るのだから。
それでも優しい彼は自らの言葉の罪に耐え切れず、私の胸倉を掴んで懇願する。
「……何故だ、ギルバート! 何故、私や君の様な人間が不幸にならなければいけない!
運命なのか! 私がこの生を受けた事も全てこの悲しみを刻む為なのか!」
「ラウ、それは違う! 人類はもっと優しくて暖かいのだ」
「!? ……ふふふふふっ、ああははははっはああはああっーーー!!」
「ラウ? どうした」
「そうだ、ギルバート。”一部の人類”はな! ありがとう、私は決意したよ。
すまなかった。こんなにも弱い姿を晒してしまったな。心配しただろう?
そんな、慈悲に満ちた優しい人間が生き辛い世界なら私が世界変える!
この短い命の灯火はその悲しみと不幸を燃やし尽くす運命なのだ!」
「ラウ!? 落ち着いて話を聞くんだ。君には未来が――」
「心配するなギルバート。私は大丈夫だ。未来が無かろうと、この命、立派に勤めを果たせて見せる!」
「違う、違うんだラウ! 私は!」
彼は悲しみと後悔の念に狂い苦しみ始める。頭を抱えて涙を流し、床に突っ伏したまま赤ん坊の様に泣き叫ぶ。
教えてくれ、タリア。私は男の慰め方を知らない。誰でもいい、彼を救える人は居ないのか?
私にはなにも出来なかった。うわべの優しい言葉も彼をまっすぐに受け止められる言葉も見つからず
泣き崩れる友人に無力だった。何も出来なかった。長く伸びた黒い髪を掴み苦悶をしていると笑いながら立ち上がる姿は、どこか魂の抜けた様な人形を思い起こさせた。
目は濁り、狂気と不安の中、彼は何かを見出してしまった。私は彼止めようとした。
けど、出来なかった。否、行動に起こせなかった。”具体的”にどうしたら良いのだ?
傷付いた彼を慰める事も出来なかった私が、破滅と修羅の道を決意する彼を止める事など不可能だった。
待ってくれラウ。君も私の前を去ってしまうのか? また、私は救えないのか?
私には誰一人、未来を指し示して終末を回避する事は出来ないのか?
「解っているよギルバート。君が優しい事も君が何を望んでいるのかも。
ただ、誰かがやらねばならんことなのだ。ならば、私がその役目を果たそう。この仮面を被ってだ!」
「ラウ……すまない。私には君を止める言葉が見つからない。最低の友だよ」
「いや、君は私の”友”として完璧な男だった。私には勿体無いほどのね。
ギルバート、君の友ラウ・ル・フラガは死んだ。だから、御互いの為にも
仮面の男ラウ・ル・クルーゼの行動には関知しないでくれ」
彼は立ち上がった後、ポケットから取り出したのは何時も軍で着用している仮面だった。
晒していた素顔をそれで隠し、立ち上がり進んでいく。慰めの為に肩を掴む彼の手には既に震えも迷いも悲しみもなく、私に対する感謝と離別の言葉を投げ掛けた。
私はその場から立ち上がる事もなく、彼の残したグラスを見つめながら出口へと向かう彼の背中へと私も声を投げ掛けていく。
真正面に立ち合う事など出来なかったのだ。
彼の決意を感じる目を見てしまったら掛ける言葉が霧散してしまう。
けど、今私が彼に言葉を掛けず、ただ見送る事など出来ない。
たとえ無意味でも、私の口と言語野は彼の為の言葉を必死に紡ごうと足掻いていた。
「ラウ! くそっ! 待て、違う。私が君にしてほしいのも、未来を伸ばそうとしたのもそんなことの為では」
「さらばだ、ギルバート・デュランダル。レイの事を頼んだ。
私には、もう十分だ。その優しさをもっと多くの人に向けてくれ」
「わ、私は! 私はお前が仮面の男、ラウ・ル・クルーゼであっても友である事に変わりない!
だから、頼む。馬鹿な考えは起こさないでくれ! 友としてだ!」
「……今の言葉で確信したよ。やはり、君は私にとって勿体無い友であった。
プラントの未来は君と共にあるべきだ! 後のことは全て君に託す! 絶対に生き残れ!」
何が! 何が遺伝子工学だ! 何がコーディネイト技術だ! 何が人類の英知の結晶か!
私は、科学は、愛する女性一人繋ぎとめられず、一人の親友すら救えなかったのだ。
私はその日、自らの歩んできた道を絶望していた。
残せなかった結果を悔い彼と同じ様に酒に溺れようとしたが、それを止めたのはタリアだった。
タリア……何故、君は彼を愛さなかった。何故、君は私なんかを選んでしまったんだ。
そして、その日を境に彼が私の部屋へと来る事はなくなった。
後から聞いた話なのだが連合のMSを奪取する作戦の指揮官となったらしく、暫く世間から身を隠していたらしい。
メールも電話の連絡先も変えられており、彼の話を聞くのは戦況の報告をするマスコミですら滅多に名前を聞くこともなかった。
最後に名前を知ったのはC.E71年、戦場で散った知らせだった。
最後までザラ議長を守る為にMSを駆って戦線へと赴き、オーブ軍の英雄キラ・ヤマトと対峙したらしい。
結局、彼は救えなかったが、それでも私は彼との約束通りという訳ではないが、生き残る事が出来た。
彼の忘れ形見である、クローンの少年レイ・ザ・バレル。
彼を立派な大人にする為に休まず働き、プラントの未来を少しでも良い形にする為に奔走し、気がついたらプラント評議会の議長についていた。
彼の最後の遺言を全て成し遂げながらも、私はふとひとつの事が疑問と課題にぶつかる。
―ラウ。君は過大評価している。私には、私一人では全ての人の運命は支えられない。
どうしたら、どう”具体的に”したらいいんだろうか? ”運命”を癒す具体策(プラン)はないのか?