虚空、果てなく ~SEED OF DOOM~_AT-1

Last-modified: 2008-03-01 (土) 21:49:31

            「SEED OF DOOM」
         CLIMAX AVANT-TITLE Ⅰ

 
 

「どうしてなんだ」

 

少年は、いや少年から青年の過渡期にある若者は納得できない思いを口にしていた。

 

「なぜあなたたちはっ!」

 

身を捩りたくなるような感情があふれる。

 

「どうして僕たちの邪魔をするんだっ」

 

若者がその身を委ねる鋼の巨人。 
青き羽と金色の関節を持つ、コズミック・エラ最強のMSストライク・フリーダム。
その機体が持つ大いなる力は、彼をここまで導いてきた。
多数の艦艇と幾百のMSによって守られていた宙域をまるで無人の野を行くがごとく駆け抜けてきた。
だがその無敵の進軍が食い止められた。
メンバーの出自も、超越的な技術力の源泉も、すべてが謎の武装集団「αナンバーズ」
彼らが陣取った宙域に到達した瞬間に。

 

「どうしてっ」

 

無数の閃光が、周囲へと広がっていく。
ストライクフリーダムが前代機体フリーダムより受け継いだ機能、ハイマット・フルバースト攻撃。
多数の敵機を同時に撃墜する神技。
無論それは卓越、いや超越したパイロットにのみ可能な業だが。
ストライクフリーダムのそれは本体から分離して自在に機動する火力支援兵器「ドラグーン」の追加により、一度に捉えられる敵機数を格段に増やしていた。
若者はここに来るまで数度にわたってはなったそれによって、ストライクフリーダムの進路を強引にこじ開けてここまで迫って来た。
そう、「みんなの明日」を奪おうとする者の牙城は目前なのだ。
しかし、放たれた後に無数の爆発を生むはずの閃光は、二・三の小規模な破壊しか生まなかった。

 

「くっ」

 

若者は悔しげな声を漏らす。
以前、αナンバーズと激突した時も同じだった。
確実に命中するはずのフルバースト攻撃を回避する、開発経路不明のMSや、ほぼ同サイズの詳細不明の人型兵器。
そして攻撃が命中しても装甲を完全には貫かれず、
破壊されずに無事戦線を離脱するか場合によっては戦闘を継続するMSよりも重厚長大な人型兵器。
「あの時」とは部隊構成が違うのか、一機を除いて同じ機体はない。
それでも結果はその時と同じだった。
若者は困惑していた。
敵の強さもさることながら、なぜ彼らがザフトに与しているのかが理解不能だから。
連合軍特殊部隊「ファントムペイン」の凶行からベルリンや地球に住むコーディネイターの難民キャンプを救い。
巨大MAの侵攻から若者の故郷でもあるオーブを守ってくれたのは彼らαナンバーズだ。
しかしその同じオーブがザフトに「侵略」された時、彼らはオーブ沖で様子を伺うだけで何もしてくれなかった。
その上見かねた自分たち達が駆けつけた際には妨害までした。
そして今また、こうして彼の前にαナンバーズは立ちふさがっていた。

 

結局ストライク・フリーダムのハイマット攻撃三連発で戦闘不能になったのは、
回避が間に合わずマニュピレーターやAMBCに不可欠な脚部を失ったMSが三機と、命中箇所を貫通された大型人型兵器が一機。
残りはすべて回避、あるいは攻撃を食らったが軽微な損傷で終わった。
ドラグーンに至っては、一機のMSによって全弾撃墜されてしまった。
当然のごとく、彼らはストライクフリーダムが次発をチャージする間もなく迫ってくる。
いかに「無限の核分裂炉」を搭載するストライクフリーダムとはいえ、
短時間に三発もハイマットを使えば数分はそれ以上の連発は出来ない。
辛うじて使えるビームライフルを連射しつつ、彼は聞こえるはずはないとわかっていながら叫ばざるを得なかった。 

 

「どうして僕たちの邪魔をするんだっ、僕は戦いたくなんかないのにっ」
「ならば」

 

たまたま一機の敵機と通信周波数が同調したのか、彼の呟きを聞き取った敵パイロットの声が響く。

 

「ならば機体を降りろ、戦場に出るな、そう言ったはずだぞ、キラ」
「あなたはっ?」

 

それはその若者「キラ・ヤマト」が前回αナンバーズと交戦した際にも、接触を試みてきたパイロットの声。
その時も、そのまだ若い男と思しき声は自分に語りかけてきた、キラ、と。
ならばその声の主は、あの前回いたのと同じ機体だ。
悪魔のような翼を持ち、近接攻撃をしかける瞬間にどこからともなく死神のような鎌を取り出す常識を覆すような機体。
今は失ったキラのかつての愛機フリーダムが何度攻撃しても倒せなかった巨大MAを、その鎌で両断し、
機体からではなく天空から振り降りる雷のようなエネルギーで粉砕した機体。
それが先陣を切ってストライクフリーダム、そしてキラに迫ってくる。

 

「ここまで来た以上はもはや容赦はできない、選べキラ、降伏か死か?」
「誰なんですあなたはっ」
「お前は俺を知るまいな…」
「あなたは僕を知ってるんですか?」

 

前回の戦いでもキラは声の主に問うた。 
自分を知っているのかと。
相手はそれに答えず、ただ語りかけてきた、お前たちは何をしてるのだと。
自分達のしていることはなんなのか、よく考えてみろと。
何かを間違ってはいないのかと。
その問いかけに、キラは反発した。

 

(僕が、いいやラクスがどんな思いで戦っているのか知りもしないでっ) 

 

二年前もそうだった。
憎しみの連鎖に囚われた人々が争いをエスカレートさせていき。
とうとうお互いを滅ぼす矛を喉元につきつけあった。
自分は戦いたくなんかなかった。
しかしその手には、愚かな殺し合い、いや滅ぼし合いを止められる剣があった。
だから戦った、みんなが笑顔でいられる世界を守るために。
そしてなんとか最悪の事態は避けられ。
ラクスも自分も、戦いを離れて静かに暮らしていたのに。
その命を狙って動き出したのは、ここからもう目と鼻の先にある要塞にいるプラント議長ギルバート・デュランダルなのだ。
ひたすら平和を望み、憎しみの連鎖から人々が解き放れるように願っているラクスを。
何の罪もないラクスを殺そうとした人が、人類のために戦うなんて嘘に決まっている。
そもそも「人類の敵」なんてどこにいるのか?
そんな事情を知りもしないで、どうしてこの人は自分たちが間違ってると決め付けるのか。
まるで高みから見下ろすように。

 

「こいつは俺に任せて、大尉達は後続の敵本隊を」

 

キラ・ヤマトに通信を装った念波を送った青年は、今度は純正の通信を後続機を率いる隊長機に送った

 

「一人で大丈夫か?」
「この機体はむしろ一対一の方が与しやすい」

 

隊長機からの通信に、青年は答える。
敵機の装備の性質から、青年の言葉に説得力を感じたαナンバーズ第二機動部隊前線指揮官サウス・バニング大尉はその意見を酌み、指揮下の全機に戦線突出を指示する。
バニングの乗る可変MS「ΖⅡ」
ドラグーンの大半をライフル、サーベル、そして腰部のビーム砲で撃墜した白きMS「F91」
F91の取りこぼしを撃ち落した装飾を施された優美なMS「ビギナ・ギナ」
MSと同趣向の人型兵機PT「ヒュッケバインマークⅢ」三機。

 

(一機が標準装備、二機がそれぞれ異なるオプションパーツ装備のため同機体には見えないが)

 

航空機形態・高機動形態・人型形態に変形するヴァルキリー「VF19-Fエクスカリバー」三機。 
MSと同サイズの人型兵器「マジンガーZ」と一回り大きい「グレートマジンガー」「マジンカイザー」
そして外見的には本家と違いはない量産型グレートマジンガーが二機。
これに先ほどハイマットを避けきれずに被弾後退した三機の「νガンダムタイプMI」と、
運悪く装甲を貫かれやはり後退したグルンガスト弐式を加えたものがバニング隊の編成だった。

 

「行かせないっ、そっちにはみんなが」
「仲間の邪魔はさせん」

 

ストライクフリーダムに蹂躙されて崩壊した戦線を立て直すべく仲間たちが進撃するのを見送った青年は。
避けるまでもない牽制のようなビームライフル射撃をやめて、バニング隊を追おうとしたストライク・フリーダムへと照準を合わせる。
今までキラ・ヤマトには見せていない武器の照準を。
それは悪魔の翼から飛び出した。

 

「ドラグーン?」

 

キラが思わずそう言ってしまうほど、それはドラグーンに似ていた。
しかし、それはかつて青年のいた世界では独自の進化を遂げていた兵器。
機種ごとに様々な名を持つその兵器、青年の駆る悪魔の機体のそれは「ガンスレイヴ」と呼ばれていた。
一体一体が異なる軌道を描いて、ストライク・フリーダムに襲いかかるガンスレイヴ。

 

「これはっ」

 

キラが自分でドラグーンを使う分には何も問題はなかった。
しかしドラグーンそのものでなくても、それらしき兵器を相手に使われ、
自らがそれに包囲された時、キラの中で心の奥底にしまい込まれていたトラウマが蘇る。
破滅を予言した怨念鬼の嘲笑の声が耳の奥で響き。
記憶の底に沈んでいた、一人の少女の面影が浮かぶ。
そして忘れていた、いや無理に忘れた、その彼女を救えなかった心の痛み。
しかしそれは一瞬、辛うじて現実に回帰したキラ。
その耳に響く声は、現実に今対峙している相手の声。

 

「お前に拘ったのは所詮は俺の小さな感傷、一言謝らせてもらうぞ、キラ・ヤマト、お前はお前だ、あいつじゃないのだから」

 

青年が送ってくる言葉の意味を考える余裕などあるはずもなく。
ただひたすらに回避をはかるだけだった。
今、目の前の機体以外のαナンバーズが向かった先には、アーク・エンジェルとオーブ宇宙艦隊がいる。
自分が突破口を開いておくはずだったのが、こうして足止めされている。

 

(みんなを守らなきゃっ)

 

キラの中で「種」が弾け、飛来するガンスレイヴがライフルで撃ち落され、サーベルで切り裂かれた。
しかし、すべてを破壊した時には時は悪魔の鎌がストライクフリーダムの目前に迫っていた。

 
 

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