キラは視た。
先ほどまで死に体だった魔を断つ剣が立ち上がったのを。
イザークは視た。
気絶したように力を失った、魔を断つ剣の眼に、再び力が戻ったのを。
アスランは視た。
赤い翼を持ち、黄金の剣を掲げる魔を断つ剣を見た。
フレイはランチの上から遥か遠い戦場を眺めた。
小さすぎて見えないはずなのに、その無骨な勇姿を仰ぎ見た。
アズラエルは脱出艇の窓から視た。
少年の夢が具現したように、威風堂々と邪悪に立ち向かう勇者を見た。
ムウは無力な自分を恥じながら、
せめて眼を逸らすまいと視続けた戦場で、其のまがい物を視た。
ラクス・クラインがようやく眼を覚ましたとき、
壁で覆われ、見えるはずの無い正義の具現を視た。
プラントで、遥か彼方の息子を思いやる親達は視えた。
戦い続ける兵士達を顕す様な、力強い輝きを視た。
マユは兄と共に星を見上げた。
初めて見つけた星は小さい輝きなのに、どんな星より綺麗だった。
パイロット達はその絶望の中で見た。
悪しき混沌を打ち破る、荒唐無稽な御伽噺を魅た。
「在りえない……」
這い寄る混沌は視た。
三千世界の遍く魔を滅す、最弱無敵のデウスエキスマキナが宿敵を睨みつけるのを。
「出来るのだ。
人間だから出来るのだ。
奇蹟は与えられるものではない。
小さな勇気を積み重ねて、積み上げるのだ。
その意思は、奇蹟をも起こす力になる。
そう、悠久の螺旋の果てに、その救いが僕にあったように」
デモンベインはその物語を締めくくるべく。
死すらも超越し、再び、
否、何度でも蘇り、世界の邪悪を討たんと立ち向かうのだ。
「戦士には休息を、悪には報いを、英雄には安らぎを。
エセルドレーダ、在るべき者を在るべきトコロへ」
「イエスマスター、平行世界検索……
因果演算開始………………………
座標確認、『魔道探偵』発見。
時空逆流、時間整合性の取得。
マスター、世界接合終了いたしました。
後は、送るだけです」
「大儀であった、エセルドレーダ。
さらばだアル・アジフ、我等を救ってくれた礼だ。
貴公の望む世界へ、貴公の望む場所へ送り届けよう」
「さようなら小娘、貴女が想うヒトの所へ、
貴女を想うヒトのトコロへ還りなさい」
獅子の心臓が唸りを上げながら、彼の貧乏探偵への路を拓く。
時間を巻き戻し、彼女が綴られた時代へ、彼女が生まれた時間へ。
彼と彼女が出会う因果を収束させる。
ぱらぱらとネクロノミコンが空間の捻れに巻き取られ、世界を越える。
そうして、最強の魔道書は最愛の探偵の元へ帰って行った。
新たなる操者を迎え、自己紹介のつもりだろうか。
網膜に焼き付けるように、その言葉が煌々と表示される。
I'm innocent rage.
I'm innocent hatred.
I'm innocent sword.
I'm DEMONBANE.
エセルドレーダは朗々と謳い上げた。
「汝は、憎悪に燃える空より生れ落ちた涙。
汝は、流された血を舐める炎に宿りし、正しき怒り。
汝は、無垢なる刃。
デモンベイン
汝は『魔を断つ者』
───因果なものね。
なるべく短い付き合いにならんことを」
内心不満げなエセルドレーダであった。
マギウスとグリモワールとデウス・マキナ。
そのトリニタスを以って、彼等は『魔を撃ち滅ぼすもの』となった。
「待たせたな」
ギュインと重々しくも滑らかな音を立て、
優雅な動作で再びデストロイと向き合うデモンベイン。
「さあフィナーレだ、混沌」
「そうかい、まったくままならないものだ。
まさかあの螺旋の続きだったとは、
泡沫にして夢幻たる僕も気づかなかった。
忌々しいね、君は、『君達』は揃いも揃って」
邪神の言を聞き終える間もなく、デストロイは攻撃を開始する。
眼前で聳え立つ、魔を断つ剣を恐れるように。
美しいココロを持った人形を妬むように、猛攻を、全ての火器を動員して不愉快なヒトガタを滅さんと、暴風を叩き付ける。
口から、胸から、砲身から発せられる光学兵器の灼熱が、全方位から襲い掛かる移動砲台の群れが、デモンベインを殲滅せんと火を吐く。
されど───
「第四の結印は『エルダーサイン』
脅威と敵意を祓い、我を護るもの也」
デモンベインの前に顕れた守護結界が、尽くを防ぎきる。
デモンベインは金の剣を太い矢に変え、天空へと遥かな宇宙へと解き放つ。
その矢は十に別れ、別たれた矢がまた十に別れ、百の矢となり移動砲台を追尾、全てのハエを落とし返した。
「喧しいほどの希望を持って、僕達と戦い続ける。
これでここの計画は水疱に消えた。
全くこれだからデウスエキスマキナは原作者に嫌われるんだよ」
「断鎖術式、壱号弐号開放。術式重複」
「イエスマスター、クリティアス、ティマイオス開放」
竜の翼と両足の魔術機関を以ってデモンベインは音速を超え、神速の閃光となってデストロイの背後へ回り込む。
デモンベインの両足は雷光を放っている。
ベルデュラボーが、エセルドレーダが同時に魔術名を唱える。
「ABRAHADABRA!」
「アトランティス・ストライク!」
雷をまとった近接粉砕呪法はデストロイの巨体を遥か彼方へ吹き飛ばし、バックパックを粉微塵に粉砕する。
デストロイの再生術式は雷に侵食され働かない。
「天狼星の矢よ!」
間をおかず放たれる極大の閃光。
障壁は神細工のように砕かれ、抗うこともできず損壊するデストロイ。
デモンベインの手より暗黒が形を伴って放たれ、デストロイを束縛する。
第一近接昇華呪法起動、ナアカルコード承認、魔力充填良し。
右手に輝りを溜め、最後の一撃を、必滅の呪法を邪神に打ち込まんと一陣の疾風となるデモンベイン───
「光射す世界に
我ら闇黒
棲まう場所なし
渇かず 飢えず
無に還れ───
レムリア・インパクトォォォー─────」
宇宙全てを満たす苛烈なる閃光は、
デストロイをデモンベインを飲み込んでいった。
次回エピローグ、
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