起動魔導士ガンダムR短編2

Last-modified: 2011-08-13 (土) 22:37:27

バレンタイン…それは年に一度訪れる女の子が意中の男の子に様々なプレゼントを贈るとてもハッピーな(一部地域を除く。)イベント。
そして今年も、様々な世界で暮らす少女達が自分の大切な人に贈り物をするそうです。

 

どのようなものになるか少し覗いてみましょう。

 

八神家の場合

 

2月のある日のこと、八神家の男共(スウェン、ノワール、こいぬフォームのザフィーラ)は公園に散歩にやってきた。
「ふい~、さみ~ッス~。」
「バスケットの中にいるクセになに言ってんだ。」
ノワールボックスのなかでノワールは、先程買った焼き芋をムシャムシャと食べていた。
「俺がこの世界に来たときは夏だったな、もう…そんなに経つのか…。」
スウェンは途端に暗い顔になる、それには少し訳があった。

 

数日前の事、スウェンはシンと共にリンディに呼び出され、ある話を聞いていた。
『コズミックイラとここの時空間が安定しない?』
『うん…先のPT事件の次元干渉が原因ね、今はまだ大丈夫だけど近いうちこことコズミックイラとの渡航が不可能になる、修復するにしてもどれだけかかるか解らないの、一年か、十年か、はたまた何百年になるか…。』
『そんな…!そうなったらもうフェイト達に会えなくなる…!』
『まだそうとは決まった訳ではないだろう、ただ楽観は出来ないですよね。』
『それを踏まえたうえで、君達にはしっかり考えてもらいたいのよ。』
『『………。』』

 

「どうしたスウェン?」
ザフィーラは様子のおかしい彼を心配して声をかける。
「いや、この前のリンディさんの話の事を考えていた。」
「そうか…。」
「アニキ…。」
それっきり黙ってしまう3人、そこに、
「スウェンさーん!」
「よう!男共!お揃いだな!」
同じく散歩に来ていたフェイトとアルフ(こいぬフォーム)がやってきた。
「フェイト…久しいな。」
「こんにちはッス~。」
ノワールはボックスから顔をヒョコッと出して挨拶する。
「こんにちはノワール。あ!そうだ!」
なにかを思い出したのか、フェイトはポケットから可愛く装飾されたチョコをスウェンとノワールに渡す。
「ほい、ザフィーラ。」
アルフはザフィーラにオレンジのリボンがついた骨を渡す。
「なんだこれは?」
「なんでもさ~今は“ばれんたいん”の時期なんだってさ~、女の子が男の子にプレゼント渡すんだって。」
「そうか…もうそんな時期か…。」
しみじみと子供の頃のバレンタインの思い出を掘り返すスウェン。
「フェイトさ~ん、やっぱり本命はシンさんにあげるんッスか~?」
「うん…今材料集めの真っ最中なの、シンにとびっきりのチョコをプレゼントするんだ~♪」
「そうか…がんばれよ。」
「はい!」
そう言ってフェイトはスウェン達とは別の散歩コースに歩いていった。
「元気そうでしたねフェイトさん…一番落ち込んでるかと思った。」
「そうだな…。」
「この骨は本命か?それとも義理なのか…?」
ザフィーラはアルフからもらった骨をまじまじと見つめていた。

 

数分後、スウェン達は八神家に帰宅する。
「ただいまッス~。」
「おっ!三人とも帰ってきたな、ちょっとこっち来い!」
三人を玄関で迎えたヴィータは三人の手を引きリビングに連れ込む。
「どうしたヴィータ?うれしそうだな。」
「へっへー!いいぞはやてー!」
するとリビングに、はやて、シグナム、シャマル、リインフォースが何かを手に持ってやってきた。
「じゃじゃーん!バレンタインプレゼント!」
そう言ってはやて達はスウェン達に手に持っていた物を渡す。
「これは…マフラー?」
それはシンプルに赤い毛糸で作られた三人分のマフラーだった。
「そうや~、ウチらの合作やで!ザフィーラはチョコダメやから…。」
「ノワールのは二種類あるわよ、デバイス用と人間用。」
「うほ~♪暖かい~♪」
三人は早速マフラーを巻いてみる。
「うむ、これはいい…ありがとう御座います主、シグナム達も。」
「今夜の天体観測は快適にできそうだ。」
「いえいえ~どういたしまして♪」
「大事にしろよ、こっちは手がズタズタになるまで頑張ったんだからな。」
シグナムの手には無数の絆創膏が貼られていた。
「編み物で?」

 

その夜の事、スウェンはベランダで先日買った望遠鏡を使って星を見ていた。勿論首には先程はやて達から貰ったマフラーがしてあった。
「今日は少し曇っているな…。」
そこに、車椅子に乗ったはやてがやってくる。
「こんばんはー。」
「ん…?どうしたはやて?外にいると風邪ひくぞ?」
「えっとな…んっとな…。」
はやては顔を赤く染め上げ、可愛く装飾されたチョコをスウェンに渡す。
「これは…?バレンタインのプレゼントは先程貰ったが…?」
「うん…さっきのはシグナム達と一緒の分…これはウチ個人としてスウェンにあげたいんや…。」
スウェンは蓋をあけ、箱に入っていたハート型のチョコを一口食べる。
「うん、なかなかだな。」
「そ、そうか?よかった~。」
ほっと胸を撫で下ろすはやて。だが、心の中では…
(もうちょっとムードを考えて欲しいわ…折角チョコに『LOVE』って書いたのに全然みてくれへん…。)
ちょっと残念そうにするはやて。
「そうだ、はやても星をみるか?ちょうど雲も晴れてきたみたいだし…。」
そう言ってスウェンは自分の傍に来るようはやてに手招きをする。
(まあええか、こうやって…二人きりなんやし。)
そしてはやてはスウェンのとなりに車椅子を移動させ、彼の肩に寄り添った。

 

その光景を、物陰で二つの影が覗いていた。
「いや~、アニキもシンさんに負けないくらいニブチンッスね。」
「………。」
ノワール(大人型)とリインフォースである。
「さて、これ以上覗くのも野暮だし寝ようかなッス。」
「あの……ノワール。」
「ん?何ッスか?」
リインフォースは顔を真っ赤にして俯きながら、ノワールにはやてがスウェンに渡したものと同じような箱を渡す。
「へっ…?」
「あ、あの…チョコなんて初めて作ったから美味しくないかもしれないが…よかったら食べてくれ///お前達のお陰で私は今もこうして主と一緒にいられるのだから…だ、だが勘違いするなよ!別にそういう意味じゃないからな!!」
そしてリインフォースは顔を真っ赤にして走り去ってしまった。
「…………え?あれ?フラグなんていつ立てたっけ?」
その様子をさらに覗き見している暇な四人組がいた。
「リインフォースったら照れちゃってか~わ~い~い~♪」
「ぬう…なんか最近リインフォースのノワールに対する視線が熱いと思ったら…こういうことだったか。」
「いーなー。アタシもはやてのチョコ食べたーい。」
「うむ…なかなかいい骨だ…ガジガジガジ。」

 

今日も八神家は平和です。

 

ルナマリア・ホークの場合

 

『と、言うわけだ、キリのいいとこで戻って来いよ。』
「は…はい。」
ルナの部屋でミッドチルダにいる上司から指令を受けるティーダ(ヒヨコ形態)。
「は~。まさかPT事件のときの次元干渉がここまで響くなんて…まだ奴らの尻尾も掴めていないのに…。」
そこに、
「ティーダ!」
ドタドタとルナが部屋に入ってくる。
「どうしたのルナちゃん?」
「ちょっとこっち来て!すごいの出来ちゃった!」
ルナはティーダをつまみ上げ、彼を台所に連れてくる。

 

「じゃーん!ティーダがモデルのチョコレートクッキー!」
そこにはオレンジ色のチョコでコーディングされたヒヨコ型のクッキーが置かれていた。
「おー!僕そっくり!一体どうやったの?」
「あのねー、この前お父さんがお土産に夕○メロンのチョコレートを買ってきてくれたの、それでピーンと来た。ヒヨコの形に刳り抜いたクッキーを焼いてそこに溶かしたチョコを塗ったの。」
そこにルナの妹メイリンもやってくる。
「あ、出来たんだねお姉ちゃん、早速ティーダに見せてるんだー。」
メイリンはクッキーとティーダを交互に見る。
「なんか兄弟みたいだね。」
「ホントだねー、クッキーを立ててみるとホラ、ヒヨコの行列~。」
「うわ~かわいい~♡」
「ピー♪」

 

ホーク家に子供達の楽しそうな笑い声が響いていた。

 

ティアナ・ランスターの場合

 

ミッドチルダのとある幼稚園、そこにある運動場の滑り台の上に、オレンジ色の髪をした少女が板チョコを持って座っていた。
「ティアナちゃーん?なにしてるのー?」
そこに友達らしき女の子が二人、滑り台にいるオレンジ色の髪の少女…ティアナに話しかける。
「あのね、お兄ちゃんを待ってるの、それで今日はバレンタインだからこのチョコを渡すんだー。」
「えー?でもティアナちゃんのお兄ちゃんて遠い世界にお仕事に行ってて帰って来れないんじゃ…。」
「しっー!そんな事言っちゃダメだよ!ティアナちゃん寂しいんだから!」
「そ…そっか。」
だがティアナは友人達の言葉には興味ないのか、ゆっくりと空を見上げる。
「お兄ちゃん…早く帰ってこないかな…。」

 

カガリ・ユラ・アスハとゆかいな仲間達の場合

 

コズミックイラの地球にあるオーブという国、そこに一軒の屋敷が建っていた。
その応接室に、オーブの政治家ウズミ・ナラ・アスハと部下のキサカがソファーに座って向かい合っていた。
「カガリ様ももう十一歳ですか、早いですね…。」
「そうだな…ヤマトさんのところのキラ君も立派になっているそうだ、子共の成長は早いな。」
「ですね…このまま何も知らずに育って欲しいものですが…。」
「……………。」
ウズミは一枚の写真を取り出す、そこには栗毛の女性が双子の赤ん坊を抱えて優しく微笑んでいる様子が映し出されていた。
(ヴィアさん…どうか天国でカガリとキラ君を見守っていてあげて下さい…。)
そこに、
「父上!」
ドアを勢いよく開けて金髪の少女がウズミとキサカのいる応接室に入ってきた。
「な…カガリ!部屋に入る時はノックぐらいしなさい!」
ウズミは慌てて写真をポケットに入れる。
「すいません!でもこれを見てください!お前達!」
すると部屋にウェーブのかかった金髪の少女と、ピンク色の縁の眼鏡を掛けた少女、そしてボーイッシュな髪をした少女が可愛く装飾された大きめのお菓子の袋を二つ持ってきた。
「「「ウズミ様!キサカさん!バレンタインプレゼントです!」」」
そう言って三人組は袋をキサカに渡す。
「な…なんと!」
「私にも頂けるのですか!?」
「ああ、父上とキサカにはいつもお世話になっているからな!マーナやアサギ達と一緒につくったのだ!よかったら受け取ってくれ!」
カガリの優しさの詰まった言葉を聞いて、ウズミとキサカは感動のあまり目頭を押さえる。
「カガリ…こんな優しい子に育って…!」
「一生付いて行きます!!」
「?なぜ泣いているのだ二人とも?」

 

そんな感動的な場面を恨めしそうに覗いている少年がいた。
「カガリ…僕のは?」
カガリの幼馴染、ユウナ・ロマ・セイランである。
「ひどいやカガリ…僕の分をわすれるなんて…。」
ユウナは壁にもたれ掛かり、ブツブツと呟く、そこに
「ユウナ様。」
ふくよか過ぎる体型の中年の女性、カガリの侍女マーナが現れた。
「マーナさん?」
「はいこれ!マーナの特製チョコです!召し上がれ!」
そう言ってマーナはユウナにチョコを手渡す。
「あ、ありがとう…。」
ユウナはふと、応接室にいるウズミとキサカを見る、
向こうは若くてかわいい女の子4人。
こっちは母と同じ雰囲気を持つおばさん。
「…………。」
ユウナはこの日、「ハウメア様は平等じゃないな~。」と現実の厳しさを思い知った。

 

フェイト・テスタロッサの場合

 

とある管理外世界、葉っぱ一つ生えていない枯れ木が並ぶ山頂に、体長20メートルはある一匹の黒竜が鼻ちょうちんを作りながら寝息を立てていた。
その様子を、物影からバルディッシュ片手にフェイトが様子を伺っていた。
「そーっと、そーっと……。」
タイミングを見計らって抜き足差し足忍び足で黒竜に近づくフェイト。そして黒竜の尻尾に付いているウロコを一枚剥ぎ取った。
「!!?グギャアアアアアアア!!!!」
ウロコを取られた痛みにより目を覚ました黒竜は、怒りのあまりフェイトに向かって炎を吐いた。
「うわぁ!ごめんなさーい!!」
フェイトはかろうじて炎をかわし、そのまま逃げるように飛び去っていった。

 

バレンタイン短編なのになぜフェイトはこんな事をしているのかというと、話は数日前に遡る。
ハラオウン邸のリンディの部屋、フェイトは手の放せないリンディに代わって彼女の愛用の万年筆を取りに来ていた。
「えーっと、鉛筆立ては…これだ。」
机に置かれた鉛筆立てに万年筆が入っているのを見つけ、フェイトはそれを取る。
ふと、フェイトの視界に本棚が入る、そして彼女は興味深いタイトルを見つけ、それを手に取った。
「『気になるあの子を撃墜しちゃえ!ホレ薬の作り方』……?」

 

黒竜から逃げ出し、自宅の自分の部屋に戻ったフェイトは、なんか色んな物体が入った御伽話で魔法使いのお婆さんが使っていそうな鍋に、先程ゲットしたウロコを放り込み、グルグルと棒でかき混ぜ始めた。
「うふふ~♪これが出来たらシンは私に振り向いてくれるかな~♪」
管理外世界から直帰だったためいつものバリアジャケットの姿のままのフェイト、鍋をかき混ぜる姿がマッチしてその光景はまんま絵本の中の魔女だった。
『マスター…私はやはり薬の力に頼るのは…。』
そんなフェイトをバルディッシュが意見する。
「バルディッシュ、貴方もデスティニーと離れるのは嫌でしょ?この薬の効果は一時的だけど…これならシンを引き止めることが出来る!」

 

リンディの話では次元干渉の影響でコズミックイラとの航行が後数ヶ月で不可能になる。そうなるとシンがコズミックイラに帰ってしまうと二度と会えなくなってしまうかもしれない。そこでフェイトはシンを自分の虜にして帰りたくなくならせようと思ったのだ。
ただシンの鈍さはエース級で自分に惚れさせるのは容易ではない、そこでホレ薬を使おうと思ったのだ。
『………。』
「ふんふーん♪待っててねーシン♪」
(ホントにそれでいいのですか、マスター…。)
鼻歌を歌い上機嫌なマスターを見て、バルディッシュはなにか嫌な予感がしていた、そしてそれは的中してしまうことになる…。

 

2月13日、フェイトは翠屋の厨房でなのはと一緒にバレンタインのチョコを作っていた。
「なのははチョコレート誰にあげるの?」
「んっと…お父さんにお兄ちゃん、シン君にスウェンさんにクロノ君かな、ザフィーラさんにはクッキーがいいかな。あ、全部義理だけどね。」
「あれ…?なんか一人忘れてない?」
「そーお?別に忘れてないと思うけど…。」
作りながらお喋りをする二人。
「大分形になってきたね。」
「よーし!あとは…。」
そう言ってフェイトはポケットから完成させたホレ薬の入ったビンを取り出す。
「ん?フェイトちゃんなにそれ?」
「え、えっと、特製の調味料だよ…。」
フェイトは本命用のハート型チョコにホレ薬をかける。
「よし!あとは冷蔵庫で冷やして完成!お疲れさまー!」
そういって二人はハイタッチする。
「じゃあ私包装用のリボン持って来るねー。」
そしてフェイトはビンを調理台に置いたまま厨房を出る。
「…………。」
なのははふと、フェイトが持ってきた特製の調味料(ホレ薬)を見る。
「やっぱシン君のために作ったのかなー?……ちょっと味見してみよ。」
なのははビンに人差し指を入れ、指に付いた調味料を舐めてしまった。

 

「おまたせーなのは。」
リボンを持って厨房に戻ってきたフェイト、すると、
「あ…フェイトちゃん…///」
なのはは恋する乙女の視線でフェイトを見ていた。
「あれ?ど、どうかしたの…?」
フェイトはなのはの様子を見て後ずさりしてしまう。
「フェイトちゃん!!」
ガバア!!
「きゃあ!?」
突然なのははフェイトに飛び掛り、彼女を押し倒す。
「な、なのは!いきなり何を!?」
「ごめん…でももうこの気持ちを抑えられないの!!!私は…私は…フェイトちゃんが好き!!!!」
「はあっ!!?」
なのはの突然の告白に、フェイトの頭はこんがらがる。
『レイジングハート、貴方のマスター…もしかしてビンの中身を…。』
『え、ええ、どんな味か知りたいと言って…不味かったですか?』
「ええ!?なのはホレ薬舐めちゃったのー!!?」
デバイス同士のやり取りを聞いて、フェイトは状況を理解する。
「にゃはははは、フェイトちゃんのお肌すべすべ。」
「く、くすぐったいよなのは///」
なのはの表情は9歳の少女から大人の女へと変貌していった。
「カワイイのね、こんなに震えちゃって…大丈夫、優しくしてあげるから……。」
「なのは!?何言ってるの!!?」
フェイトは普段とはまったくかけ離れたキャラクターのなのはに困惑する。
「フェイトちゃんとシンメトリカルドッキング、うふふふふふふふふふ……。」
「………!!」
フェイトはなのはが何を言っているのかよく解らなかったが、人間の、否、女としての本能が脳内に警鐘を鳴らす。
(ど、どうしよう!まさかこんな事になるなんて…バルディッシュの言う事を聞いとけば良かったー!!)
心の中で激しく後悔するフェイト。するとなのはは自分の唇をフェイトの唇に近づける。
「まずはちゅーから…その後は…。」
「や…やめて…!」
フェイトは抵抗するが、なのはは予想以上の腕力で彼女を押さえつける。
「あ…!あ…!」
このままでは唇を奪われる、ファーストキスは意識不明だったシン(無印編最終章参考)に捧げたが、セカンドキスはシンが起きている時にちゃんとしたいと思っていたフェイトは思わず、
「ダメ…シンじゃなきゃイヤ―――!!!」
隣の家に聞こえるぐらい大声で叫んでしまった。
するとなのははピタリと止まり、すくっと立ち上がる。
「なのは…?」
「やっぱり…そうなんだ…フェイトちゃんはあのサルに誑かされているんだね。」
「さ…サル?何言って…?」
「許せない…!!よくも私のフェイトちゃんを…!!あのクサレガンダムが…!セットアップ!!!」
なのはは殺意の篭った表情でバリアジャケットを装備し、
「ちょっと○してきまーす♪」
とんでもない事を言い残して窓から飛び去って行った。
「…………。」
あまりの事に呆けてしまうフェイト。
『マスター、このままではデスティニー達が危ないのでは…?』
「は!!そうだね!!早く追いかけないと!」
フェイトは慌ててセットアップし、なのはを追いかけるように飛び立った。

 

一方その頃、シンは海鳴臨海公園で一人、魔法の訓練に勤しんでいた。
「202、203、204……。」
アロンダイトを素振りするシン。
『精がでますね、主。』
「おう、コズミックイラに帰ったらマユ達に強くなった俺を見てもらうんだ!!そして…心配かけた分俺が家族を守るんだ、ここでフェイト達を守ったように…。」
「そうですか…。」
シンはどこまでもまっすぐな瞳で素振りを続けていた、そこに、
「よう、ここにいたか。」
チョコレートを持ったヴィータがやって来た。
「あれ?ヴィータじゃん、どうしてここに…?」
「一回お前の家に行って…留守番していたアルフに聞いたんだよ、にしても…。」
ヴィータは汗まみれのシンを見る、そして一枚のタオルを差し出す。
「濡れたままだと風邪引くぞ、コレ使え。」
「お!サンキューな!」
シンはタオルを受け取り、それで汗を拭う。
「ん。」
するとヴィータは、手に持っていた装飾されたチョコレートをシンに差し出す。
「?これは…?」
「何ってバレンタインだろ、くれてやる。」
「へ?」
シンは間の抜けた声を上げながら、ヴィータからチョコを貰う。
「お前には…その…闇の書事件の時アタシやはやて達を助けてくれたから…はやてがあげなさいって…。」
ヴィータは顔を真っ赤にしながら、シンと目線を合わせないようにする。
「へ~、ヴィータが作ったんだ、ありがたく頂いておくよ。」
シンはニコッと笑い、ヴィータにお礼を言う。
その笑顔を見て、ヴィータはさらに顔を真っ赤にし、シンに背を向ける。
「か…勘違いするなよ!はやてに言われてやっただけだからな!!そんな気持ちはこれっぽっちもないからな!!」
「なに怒ってるんだよ…ん?」
シンはヴィータから貰ったチョコを見つめる。
(考えてみれば…家族以外からチョコ貰うなんてはじめてかも…。)
すると、ヴィータは空になにか見つけたのか、シンに話しかける。
「おい、あそこにいるのはなのはじゃねえのか?」
「え?」
シンはヴィータが指差す方角を見て、それがなのはだと確認して手を振る。
「おーいなのはー!そんなとこでなにしてんだー?」
返事はなかった、代わりになのははレイジングハートを構える。
「?なにやってんだあいつ?」
「なあ…これやばくねえか?」
ヴィータはなのはから膨大な魔力を感じ取る。
「お、おーい!いったいなにすr」
「おい!!逃げるぞ!!」
シンはヴィータに襟首を捕まれその場から離れる、すると。
「ディバイン…バスター!!!」
レイジングハートから桜色の光線が放たれ、先程までシンがいた場所が大爆発を起こす。
「どあ!!」
「なんじゃあああああ!!!!!?」
自分達がいた場所に巨大なクレーターができ、シンとヴィータはそれを作り出した張本人を怒鳴りつける。
「な…何すんだバカ!!」
「殺す気か!!」
なのはは気にすることなく二人の前に降り立つ。
「シン君にはそのつもりでやったんだけどねえ…。」
「「!!?」」
シンとヴィータはなのはの只ならぬ殺気にさらされ、2,3歩後ずさる。
「おい、なのは…?」
「ヴィータちゃんは邪魔しないで、私はこのお猿さんを消さなきゃいけないから…。」
「お前!!何言って…!?」
ヴィータの静止も聞かず、なのははシンに襲い掛かる。
「わわわ…!デスティニー!!」
シンは慌てて迎撃体制をとった。

 

「バルディッシュ急いで!!」
数分後、なのはとシンを探すため空を飛ぶフェイト。
「どうしよう、私があんなもの作ったからなのはは…どうしようどうしよう!」
『慌てても何もなりません、とにかく急い…!!』
バルディッシュはなのはの魔力反応を感じた。
『海鳴公園に3つの魔力反応があります。恐らく…。』
「三つ!?とにかく行こう!!」

 

その頃シンとなのはは海鳴沿岸の上空で死闘を繰り広げていた。
「でえええい!!」
「くっ!!」
なのはの放つ光弾を、シンはフラッシュエッジで切り払っていくが、捌ききれず何発か喰らってしまう。
「スキあり!」
怯んだシンの両手両足にバインドを掛けるなのは。
「レストリクトロック…!!?動けねえ!!」
「受けてみて!!フェイトちゃんを誑かした報いを!!」
「さっきからなんなんだアンタは!!」
レイジングハートから数個カートリッジが射出される。
「レイジングハート、エクセリオンモード!」
『オ…オールライト。』
「まてまてまてまて!!ンなモン喰らったら…!!」
「もちろんそのつもりで撃つのですよー、にぱー☆」
「こ、殺される…ヴィータもどっかいっちまったし…!」
シンの脳裏に、九年間の人生の思い出が次々と浮かび上がった。
(ああ、俺死ぬな、こんなところで…。)
「じゅ~うすぃ~に焦がしてあげる!エクセリオンバスターバレルショット!!ブレイク………シュート!!」
レイジングハートから四つの光線が放たれ、それは全てシンに向かっていた。
「ま…マユ―――!!!!!」
そしてシンは光につつまれ……なかった。
「へ…?」
シンは恐る恐る目を開ける、そこには魔力障壁を展開してシンを攻撃から守っているフェイトの姿があった。
「フェイト!!?」
「フェイトちゃん!!?」
「なああああああ!!!!!」
カートリッジ数発分のエクセリオンバスターからシンを守るフェイト。だがあまりの威力に、バルディッシュはみしみしと音を立てていた。
「が…頑張るよバルディッシュ!!」
『イエッサー!!』
そして砲撃が止み、フェイトはシンの方を向く。
「シン、ごめんなさ…。」
フェイトはフッと意識を失い、海に落下して行った。
「うわ~!?フェイト~!!」
シンは慌ててバインドを引き千切り、フェイトの救出に向かった。
「させない!!フェイトちゃんと人工呼吸するのはこのわt」
「とりゃ!!」
なのはは後頭部に重い衝撃を覚え、そのまま気を失った。
「ちっ!ちょっと遅かったか…。」
『助かりましたヴィータさん。』
レイジングハートは主の暴走を物陰からタイミングを見て当て身で止めてくれたヴィータにお礼を言う。
「しっかし…なのはは一体どうしたんだ?何かに操られてたのか?」
『そのへんの事情は…フェイトさんとバルディッシュが知っているでしょう。』
ヴィータは気絶したなのはを抱えながら、海から引き上げたフェイトを抱えているシンを見ていた。

 

「う~ん、あれ?ここは…。」
フェイトは自分の部屋のベッドの上で目を覚ました。
「あ、丁度起きたみたいだな。心配掛けやがって…。」
そこにシンがフェイトの部屋に入ってくる。
「シン!?ごめんなさいごめんなさい!!あれ!?なのはは…!?」
「なのはならこの間すぐに目を覚ましたぞ、何も覚えていないみたいだったけど…。」
「そうなんだ…このあいだ?」
フェイトはシンの言葉に違和感を覚え、恐る恐る彼に質問する。
「シン…今日は何日?」
「二月の十五日だな、フェイト二日も寝ていたんだぞ。」
「えぇ―――!!!?」
十五日という事はバレンタインは過ぎている、つまりフェイトはシンにバレンタインチョコを渡しそびれてしまったのだ。
「そんなあ…。でも…。」
フェイトはチョコを渡しそびれてがっかりする反面、あんな失敗作をシンに渡さずにすんだとほっとしていた。
(きっと神様がずるい私に天罰を下したんだ…当然だよね、私シンにホントはひどいことしようとしてたんだ…。)
「これに何混ぜたか知らねえけど、ちゃんとなのはに謝っとくんだぞ、あとヴィータにも…バリボリバリボリ」
「うん…って何?その擬音…?」
フェイトはシンがホレ薬入りのチョコを食べている事に驚く。
「ちょ!!だめだよそんなの食べちゃ!!シンまでおかしくなっちゃう!!」
「いや、バルディッシュがフェイトが一生懸命作ってくれたから食べてくれーって…なかなか美味いな。」
「え?なんともないの…?」
「モグモグ…一応…モグモグ…。」
喋りながらチョコを食べるシンを見て、フェイトは首を傾げる。
(おかしいな…なのはには効いたのに…。)
チョコをすべて食べきったシンは、ティッシュで口の周りを拭く。
「いや~ご馳走様、うまかったよ。」
「シン…本当になんともない?」
「一応ね、それにしても一体何入れたんだ?」
「そ、それは…。」
シンに問われ口を紡ぐフェイト。
「まあ言いたくないならいいや、でもこんなおいしいチョコ貰ったんだし、ホワイトデーに何かお返ししなきゃな…。」
「え!そんな…別にいいよ!」
「気にすんなよ、そうだな…二人でどっか遊びに行くか?遊園地とか…動物園とか…。」
「へっ!?そそそそそそれってデデデデデデデデ!!!!」
「い…嫌か?」
よく見るとシンの顔は真っ赤になっていた。
「ううん!!むしろ嬉しいよ!!」
「そっか、じゃあどこに行く?フェイトの行きたいとこならどこでもいいよ。」
「ど、どうしようかな…。」

 

その光景を、リンディと彼女の手の平に乗っているバルディッシュとデスティニーがドア越しに覗いていた。
「フェイトさん…どうやらうまくいったみたいね。」
『ところでリンディさん…なぜ貴方の部屋にホレ薬の作り方の本なんて置いてあったんですか?』
バルディッシュはこれまでの疑問をリンディにぶつける。
「簡単なことよ、私も昔一度だけホレ薬を作ってクライド君に使ったの、でも失敗しちゃった、いや、ある意味成功とも言えるわね。」
『は?それってどういう…?』
『私の主は恋愛に関してはスーパーエース級に鈍いですから。なにせ自分の気持ちにすら気づけないんですから。』
『?????』

 

部屋の片隅に置かれたホレ薬の作り方が書かれた本、ふと、窓から流れた風によりページがめくられる。そのページの最後の行に、こんな注意書きが記されていた。

 

“この薬は、貴方を本当に想っている異性の方には効きません”

 

「この初恋…実るといいわね、フェイトさん、シン君。」

 

おまけ、高町なのはの場合

 

「はいユーノ君、バレンタインチョコ。」
「うわ~!ありがとうなのは!」
(忘れてたうえに昨日のごたごたでユーノ君の分忘れていたけど…近くのスーパーにそれっぽいのが売っててよかったの…。)

 

今年のバレンタインも(一部地域を除いて。)幸せ一杯でしたとさ。