起動魔導士ガンダムRSG_03話

Last-modified: 2011-08-13 (土) 22:15:55

スウェンが八神家に出会ってから数ヶ月、季節は秋に移ってから大分経っていた。
とある日の朝
「アニキ~朝ッスよ~。」
はやてに与えられた二階の寝室で、スウェンはノワールに起こされて目を覚ます。
「おはようございます!アニキ!」
ノワールが元気に挨拶してくる、ちなみにノワールは今黒を基調とした騎士服(はやてデザイン)を着ている。
「……ああ、おはよう。」
スウェンは眠い目を擦りながらもノワールに挨拶する。枕元には、星に関する本が開いたまま置いてあった。
「また読みながら寝ちゃったんッスか~?風邪ひくッスよ~?」
「……ああ、以後気をつける。」
「そうッスか!そろそろ下に降りましょう!はやて姐さんが朝食作ってくれてますッスよ!」
「ああ。」

 

台所でははやてとシャマルが朝食の準備をしていた。
「あ、おはような、スウェン、ノワール。」
「おはよう。」
「おはようございます!はやて姐さん!シャマル姐さん!」
「元気ええなーノワールは……もうちょっとで終わるから二人とも先に顔洗ってきいやー。」
「ああ。」
二人は洗面所に行き顔を洗って寝癖を直す。すると、
「ふう…いい湯だった。」
浴室からシグナムが出てくる。お風呂に入っていたらしく、当然なにも着ていない。
『あースウェンー?言うの忘れとったけど今シグナム風呂入っとるから気いつけやー。』
遠くではやての声が聞こえる。なにもかも遅すぎだった。
これがどこかのラッキースケベなら成す総べなくサンダーレイジ等で黒コゲなのだが、スウェンの場合。
「な………!?何をしとるんだ貴様はー!!」
「スマン。」
シグナムが投げた石鹸をクールにかわす
「さすがシグ姐さん……たゆんたゆんですな……。」
「ちょ…!貴様ぁ!」
片っ端から浴室にあった物をスウェン達に投げるシグナム。
「スマン。」
それらを軽やかにかわしていくスウェン。
「のほほ~、絶景絶景~♪ちょっとアニキ!あんまり素早く動かんでくださいよ!ブレるでしょ!」
ノワールはスウェンの肩でシグナムの体をしっかり観察していた。
「何の騒ぎだ?」
そこにザフィーラ(人型)が様子を見にやってくる。
「どおおおおお!!!貴様も見るな!!」
シグナムはシャンプーが満タンに入っている容器をザフィーラに投げる。それは見事ザフィーラの顔面に直撃した。
「おごっ!?」
容器を顔面にめり込ませたまま、ザフィーラは床に倒れた。

 

「もう~あかんで~?シグナム~スウェン~?」
朝食が食卓に並べられていく。
「も……申し訳ございません……。」
「スマン。」
心なしか二人とも体が少し小さくなっていた。
(半分ぐらいはやてちゃんのせいだと思うけど……。)
そこに、今起きたばかりのヴィータがやってくる。
「ふあ~ねむ~、ん?どうしたんだザフィーラ?その顔。」
「…………ちょっとな。」
ザフィーラの眉間にはバッテン印に絆創膏が貼られていた。
「まあええわ、とりあえずいただこか。」
いただきますの合図と共に、偶然なのか全員味噌汁をすする。そして、
「ぶっはー☆」×6
約一名を除いて口に含んだ味噌汁を噴出した。
「あ……主…まさかシャマルに作らせたんじゃ……。」
「練習させようと思って……一体何入れたん……?」
「すみません……塩と間違えて砂糖入れちゃいました……。」
「味噌汁に……砂糖も塩も入れねえよ……てゆうか味見してんのか……?」
「キュ~ン……。」
「短い生涯だったッス~。」
「そうか?俺は平気だが……?」
「「「「「「!!!!!!!!!!」」」」」」
凄惨な現場の中、スウェンだけが平然と味噌汁をすすっていた。
「今度からシャマルの失敗料理は……スウェンに食べさせよ。」

 

その日の昼前の事。
「みんな~ちょっと集まってな~。」
はやてに呼ばれ、皆庭に集まる。
「一体何するんッスか?」
「えっとな、グレアムさんに手紙を送るんや、それでみんなが一緒に写っている写真を送ろうと思ってな……。」
(ザフィーラ……グレアムとは誰だ?)
スウェンは小声でザフィーラに聞く。
(主の亡くなられたご両親の古いご友人だそうだ……身寄りの無い主に支援を送っているお方だ。)
(………。)
スウェンははやてのほうを見る。自分達が来る前はあの広い家に家族もいなく一人で暮らしていたのだろうか、そうだとしたらとても寂しかったに違いない。
(そして家族ができたとたんに闇の書の呪いか……。)
「ん?どうしたんスウェン?ウチをジッと見て?」
「……なんでもない、早く撮ろう。」
「ホラはやて、真ん中こいよ。」
「ありがとうな、ヴィータ。」
「私とスウェンは後ろですな。」
「ザフィーラのアニキは犬になったほうがイイッスね。」
「俺は狼だ。」
「そうだったのか……!?」
「スウェン!何を本気で驚いている!?」
「ほらみんな~、シャッター切るわよ~。」
そして八神家全員がレンズのなかに収まり、シャッターが切られた。

 

午後、とある管理外世界
どこまでも砂漠しか見えない世界で、
「ギャオオオオオオオオ!!」
「スウェン!!行ったぞ!!」
「了解。」
スウェンとヴィータは十五メートルはある翼竜と戦っていた。
「ゴガアアアアアアアア!!!」
翼竜が吐く炎を飛行しながら避けるスウェン。
『リニアカノンいくっすよ!』
スウェンの鉄の羽根が変形し、両肩に灰色の砲身が設置される。
そこからビーム砲が発射され、翼竜の顔に命中する。
「ガアアアアアアアアア!!!」
もがき苦しむ翼竜、どうやら目にビームが当たったようだ。
「もらったあああ―――!!」
そのすきにヴィータは翼竜の脳天にグラーフアイゼンを叩き込む。
「グオオオオオオ……………!!」
翼竜は断末魔をあげ崩れ落ちた。

 

「五ページか……でかい図体してたいしたもってねえな……。」
翼竜から回収したリンカーコアを、ヴィータは闇の書に収めた。
「お疲れ様ッス!スウェンのアニキ!ヴィータの姉貴!」
スウェンは何も言わずノワールの頭を撫でる。
(スウェン……もうノワールを使いこなしてやがる……アイツ絶対戦いの素人じゃねえな……何者なんだ……?)
スウェンはヴィータがジッとこちらを見ていることに気付く。
「ん?どうしたヴィータ。」
「もしかして……姉貴…スウェンのアニキに惚れました~?」
「アホか!?光にすんぞ!!」
顔を真っ赤にして否定するヴィータ。
「……そろそろ帰ろう、はやてが心配する。」
スウェンはあくまでマイペースだった。

 

夜、八神家の食卓
「ぁあ?ふざけんな!アタシはイロ○ネア見るんだよ!!」
「何を言っている!!今日はI○サ○リの日だろうが!!」
シグナムとヴィータがチャンネル争いをしていた。
「上等だよ……ここで白黒つけるか……!?」
「おもしろい……レヴァンティンの錆にしてくれる!!」
「コラ~!!ケンカしたらアカン~!」
「そうよ!ケンカする子はテレビ見せないわよー!?」
「それよりも俺は中○生日記見たいんだが……。」
一触即発の中、
「あ……○界一受けたい○業がはじまる……。」
「今日は確か宇宙飛行士の人が講師で来るんスよねー。」
たくあんをボリボリ食べながらスウェンはチャンネルを変えた。
「こら貴様!!なに勝手に変えている!?」
「舐めた真似してっとギガントすんぞ!?」
「ふたりとも……ええかげんにせんと一週間アイスと風呂抜きやで。」
「「ゴメンナサイ。」」
「はっやっ!」
「中○生日記……。」
「でんじ○う先生は面白いな…。」
「あ、次め○ゃイケみていいッスか?」

 

お風呂上りの時、事件は起こった。
「さて、ウチが名前付けてまで大事にとっといたプリンが食べられとったんやけど……誰や?」
「………。」
「………。」
「………。」
「………。」
「………。」
「………。」
全員正座。
「怒らないから言うてみ~?」
(絶対怒るな……。)
(絶対怒る……。)
(絶対怒るわね……。)
(絶対怒るワン……。)
(絶対怒るッス……。)
「小腹が空いていて……。」
スウェンが小さく手を上げて自白した。
(((((お前かい!!!!!)))))
「コラ―――――!!!」
(((((やっぱり怒った……!!)))))
「なぜだ…正直に言えば怒らないと……。」
スウェンは相変わらず無表情なのだが、涙目になっていた。

 

皆が寝静まった夜、スウェンはベランダで一人星を見ていた。
「今日も……綺麗だ……。」
スウェンは瞳を閉じ今までの八神家の生活を思い出していた。
騒がしくもどこか穏やかな日常、怒られたり、失敗したり、辛い思いをすることもあったが、それを帳消しにするくらい幸せだった。
「あとは……はやての体か…。」
闇の書を完成させ、はやてを死の呪いから開放する。今の日常を続けるにはそれが必要不可欠なのだ、すると、
「ウチがどうかしたん?」
ベランダに車椅子に乗ったはやてがやってきた。
「はやて……星を見にきたのか?」
「正確には星を見てるスウェンを見に来ました。」
「そうか……。」
車椅子を自分ごとスウェンの隣に移動させるはやて、二人はしばらく星空を見上げていた。
「……なあ、はやて。」
スウェンは隣にいたはやてに話しかける。
「どないしたん?」
「なぜ……見ず知らずの俺を八神家に招いてくれたんだ?俺は何者なのか自分でも判らないんだぞ?」
「そうやなあ……。」
はやては再び星空を見上げて考える。そして、
「スウェンが…昔のウチみたいに…寂しそうやったからかなあ……。」
「…………寂しい?」
「ウチな、スウェンや守護騎士のみんなが来るまではこのだだっ広い家で一人でくらしてたんよ。この体で病院通いで学校にも全然いってへんかったし……今思えばホンマ考えられへん生活してたんや……。」
幼い頃両親が死に、自宅と病院を行き来する生活、担当の石田先生との交流はあったが、それでもとても寂しい思いをしていたのだ。
「………。」
スウェンは何も言わず、ただ黙って聞いていた。
「ほんでな、誕生日の日に守護騎士の皆に出会って……自分自身よく笑うようになって…そんな時スウェンに出逢ったんよ。そんでスウェン見て……『この人なんて寂しい目をしてるんやろう。』と思ったんよ。」
「………。」
「これはウチの勘なんやけどな……スウェンってきっとここにく来るまでは…とっても寂しい思いをしていたんやと思う……。だからウチ、スウェンのこと放っておけなかったんや。同情やないで?」
「ああ……それはわかる。」
スウェンはそれがはやての優しさだということは、これまでの八神家の生活を通じて解っていた。
「今はホンマ幸せやで、シグナムがいて、ヴィータがいて、シャマルがいて、ザフィーラがいて、ノワールがいて、スウェンがいて……。皆が居てくれるだけで幸せや。たとえ……近い未来………ウチが死ぬ事になっても…。」
「!!」

 

はやては、近いうち自分が今患っている病気(それが闇の書の呪いということは知らない。)で死ぬということに、なんとなく気付いていたのだ。
「でも……ホンマは……死ぬのが怖い……皆と離れとうない…。」
いつのまにかはやては泣きじゃくっていた。その姿はいつもの気丈な様子はなく、歳相応の弱々しい少女になっていた。
「みんなと……ずっと……一緒にいたい……離れたく……ないよぉ……。」
今まで自分はこのまま一人寂しく死んでゆくのだと思っていた、だが今は一緒に居てくれる家族がいる。だからもっと生きていたいのだ。
今まで溜め込んでいた想いが、ここに来てどっと溢れ出てきた。
「はやて……。」
スウェンは泣いているはやての後ろに回りこみ、
「………。」
「え……?」
彼女を優しく抱きしめた。はやては何が起こったか解らず泣き止む。
「スマン……こういう時どうしたらいいか解らないから……コレしか思いつかなかった。」
それは精一杯考えたすえに出てきた彼なりの慰め方だった。
「…プッ、ガラにも無い事して……でもありがとう。」
いつのまにかはやては泣き止み笑っていた。その笑顔は星の光に照らされて、普段とはまた違った輝きを放っている。
「……そろそろ寝よう、これ以上いると風邪を引く。」
「そうやなあ……もうすぐ十二月やもんな……。」
「あ、ちょっとまて。」
そう言うとスウェンは車椅子に乗っていたはやてを抱き抱え上げた。
「なっ…!なななななっ…!なにを……!」
突然スウェンに抱き抱えられ、近い歳の男性の耐性があまりないはやては混乱していた。
「いや…車椅子から一人でベッドに移動するのは辛いだろうと思って…、嫌だったか?」
「そっ……そんなことあらへんよ……!」
(これってお姫様抱っこやん……おまけに顔近っ!…かっこええな…いやそうじゃなくて!)
「ど…どうした?顔が赤いぞ……?しかも体温が上がっているようだが……。」
「なっ…なんでもございません!!」
そして二人は中に入っていった、スウェンに抱えられている間ずっとはやては顔を赤く染め、小声でなにやらブツブツ言っており、その様子を見てスウェンは首を傾げていた。

 

はやてを寝室に送り届け、スウェンは自分の寝室に戻ろうとしていた。
ふと、掛けてあった時計が目に入る、時刻はちょうど夜十二時を指していた。
「日付が変わった……今日は12月1日か。」
季節は秋から冬に移っていった。