鬼ジュール_オムニバス-09

Last-modified: 2007-11-11 (日) 21:14:20

――アカデミー

文化祭一ヶ月前だというのに、シン達のクラスは何をするのか決まっていなかった。
「あー?展示物とかでいいんじゃないのか?」
パイロットコースの特進クラスになっていたシン達のクラスは他のクラスに比べて人数が少ない。
出来る事など限られている。
だから展示物だ妥当だろうとシンが言うと、ルナマリアが机を叩いて反論した。

「文化祭一週間後に試験なのに嫌よ。そんな手間が掛かるの」

寮に帰ってからも作業出来そうな物にしてしまっては勉強する時間も忘れそうだという主張にシンも「そうか」と、あっさりと同感する。
しかし、展示物ならミーアに一日付き合ってられると思っていたシンにはいい案が浮かばない。

「・・・喫茶店とかでいいんじゃないのか?」

ナマモノは出さず、調理もせず、市販のお菓子などをお茶請けで出す程度なら色々申請する必要もない。

2、3日前から準備しても間に合いそうだというレイの案に皆が納得し、決定した。

「シンがウェイトレスするとかならあたし衣装作ろっか?」
「いらない」

そんな姿絶対ミーアに見せたくない。

嫌そうに眉を寄せながらシンはこっそりレイを見遣った。
レイの言葉にすぐに同意したクラスの雰囲気がなんとなく嫌で。

レイのおかげで残り時間自由に使えるというのに、なんだかシンは胸にもやもやが出来たようで、気分が悪かった。

――文化祭当日

ミーアは今日の昼過ぎにアプリリウスに来る事になっていた。
文化祭後はホテルに泊まり、明日の昼間クインティリスに帰る。
だから今日は昼過ぎまでシフトに入って、ミーアが来た時点で交代して貰う事にした。
いつも髪形など気にしないのだが、今日はジェルで前髪を少し後ろに流している。

「シンもそうするとちょっと大人っぽく見えるわね」
「ルナ煩い」

ルナマリアの声に面倒臭そうにシンは返す。
「でもやっぱりうちのNo.1はレイかな?」
ウェイター姿のレイは衛生上いつもとは違い、後ろで一つにきっちりと髪を結っている。

「うちはホストじゃありませーん」
「馬鹿ねぇ。あたしがちゃんと可愛いウェイトレスじゃない」
フレアミニの裾を揺らして笑うルナマリアに「はいはい」と、シンは簡単に返した。

鏡の中のウェイター姿の自分を見て、確かにいつもとちょっと違うかも、とシン自身も思う。

ミーアは………どう思うかな。
似合うって言ってくれるかな。

それが気になった。

いつものように嬉しそうに笑ってくれて。
「シンは何でも似合うよ」
そう言ってくれるミーアの姿が簡単に想像出来て、シンは早く始まらないかな、と思った。

文化祭開始の放送が流れ、開始すぐは外来も余り来ないので、割と生徒間で行き来をしていた。
シン達のクラスにもまずやってきたのは、黒猫耳、黒い猫尻尾、黒い肉球手袋、黒い肉球スリッパは履いたメイリンと、茶色い犬の着ぐるみパジャマを着たヴィーノだった。

「突撃!出張お化け屋敷!」

と、楽しそうに笑いながらやって来たメイリンの言葉に、メイリンとヴィーノのクラスはお化け屋敷をするらしいと知る。
(メイリンとヴィーノのクラスは違うのだが、たまたま被ったようだ)

「メイリン。浮かれて転んでも知らないんだから」
「えへへ~。実はもうそこで転んじゃった♪」
「派手に転んで、メイリンのパンツピンクだったもんな♪」
「もう!ヴィーノ!ばらさないでよ!!」

どうやら肉球スリッパは、肉球が付いているくせに廊下では滑りやすいらしい。
しかし、膝小僧に擦り傷を早速作ってるというのに、メイリンはテンションが高くなって感覚が麻痺しているのか至って楽しそうだ。
そんなメイリンに、ルナマリアは腰に手を当てて困った顔をすると、レイに視線を向けた。

「もう、あんたって子はぁ。いつもお祭りになると怪我するんだから。レイ!そこのあたしの鞄に絆創膏入ってるから、取ってくれる?」
「これか?」
「そう、その前のポケットに入ってるの」

ルナマリアの言葉に従って鞄を開けるレイを見たメイリンが、いつもとは全く雰囲気を変えたレイの姿にきらきらと目を輝かせる。

「うわぁ!レイ、格好いい~~~♪写真一緒に撮って~~♪」
「だから、うちはホストじゃありませーん」

メイリンのテンションの高い声にシンは突っ込んで言うのだが、メイリンには全く気付かれなかった。
てけてけと足取り軽くレイの元に走るメイリンの背中にシンは溜息を吐いた。

「あの妹、どうにかなんない?」
「まぁ、あの子最近情報処理の課題で唸ってたから少しは大目に見てやってよ」

妹の管理は姉の義務でしょ?というシンに、ルナマリアは困ったように、しかし最近の鬱積されていた感情を発散している妹の様子にシンに向かって苦笑して誤魔化す。
「あんたもアレ位楽しんだら?」
「遠慮しとく。あれは羽目外しすぎだろ」
レイが絆創膏をメイリンに差し出そうとしてもお構い無しにカメラを構えている。
困ったようにレイがルナマリアに視線を向けると、ルナマリアは「ごめん、任せた!」と、合図を送る。

「レイの次はシンも後で一緒に写真撮ろうね♪」
「やーだよ」

結局レイがメイリンの膝に絆創膏を貼ってやり、手持ち無沙汰なメイリンがシンに向かって叫ぶと、シンはつんっとそっぽを向いて断った。

「えー♪じゃあアタシと写真撮ってくれる?」
「ヴィーノ、気持ち悪い」

メイリンのみならず、ヴィーノもまたどっか行っちゃってる位にテンションを上げている。
なんか酔っ払いが二人、突然押しかけて来たみたいなんだけど・・・と、シンは溜息を吐く。

「それにしてもお前のそれ、ナニ?」
「狼男♪」
「思い切り犬だろ」
「えー?クラスの皆からは可愛いって言われたんだけどなぁ」
「お前の所お化け屋敷なんだろ?可愛くてどうするんだよ」
「俺は愛玩動物キャラで行くから!」
「だぁかぁら!それじゃお化け屋敷じゃないだろ!」

シンはヴィーノの頭に腕を回し固定すると、ぐりぐりと空いた手を頭に押し付ける。
「痛い!痛いからマジで!」
「シン!はい!笑って♪」

カシャ♪

ヴィーノを攻撃している最中の、両手が塞がった隙にメイリンがシンの腕に自分の腕を絡めて写真を撮る。

「あぁぁ!?」
「笑顔一つ頂きました~♪」
「おい、メイリン!貸せ!消去してやる!」
「やだよー♪お客様第一号になるから許して♪」

今回の文化祭、売り上げのあったクラスは、利益が出ればその分打ち上げに回してもいいという事になっている。
その売り上げに協力するのだというメイリンの言葉に、ルナマリアが瞳を鋭く光らせる。

「よし、じゃあメイリン。お菓子盛り合わせも注文したらシンとレイと3人ショットであたしが写してあげる!」
「本当!?お姉ちゃん♪」
「ルナ!だからうちはホストじゃないって・・・・!」
「つべこべ言わずに売り上げに協力しなさい!あんたの懐も潤うのよ!!」

机をバン!と、強く叩いたルナマリアがシンを睨み付け、その眼光の鋭さにシンも一瞬たじろぐ。
そして懐が潤うといわれたら・・・少なからず心が動かされるというものだ。

「え?じゃあ俺もコーヒーとお菓子の盛り合わせ注文したら写真撮ってもいい?」
「ヴィーノ!お前まで!」
「いいわよ。あたしが許す!ナンならあたしとの2ショットも撮らせてあげるわよ!」
「じゃあ、コーヒーとお菓子盛り合わせ注文する!で、シンと、レイと、ルナと2ショットで写真な!」
「はい!ご注文頂きました~!」

ルナマリアもメイリンの姉だという事はある。というところなのだろうか。
儲けを前にすっかりノリの良くなったルナマリアが、裏にオーダーを回し、レイがメイリンとヴィーノを席に案内した。

「だからうちは喫茶店であって・・・・!」
「シン。何事も諦めが肝心だ。俺は気にしてない」

レイがシンの肩に手を置いて諭す。
クラスとしても別に身を売るわけではないし、写真位であれば何の問題もないだろうと黙認し、今の騒ぎで教室の前に集まったお客達に「写真撮ってもいいですよ」と、営業している。

クラスの出し物が「喫茶店」から「ホスト(ホステス)クラブ」に変わった瞬間だった。

そして、その頃・・・・。
少し早く来ちゃったかなぁ?と、ミーアが広いアカデミーの前に地図を持って来ていた。
しかし・・・・。

「うぇぇん。シン―――。シンのクラス何処~~~!?」

広い構内を前に、地図の読めない女、ミーアは半泣きになりながら彷徨っていた。

<続>

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