魔動戦記ガンダムRF_12話

Last-modified: 2011-08-13 (土) 22:58:13

第十二話「瞳の奥の秘密」

 
 

時の方舟のカーペンタリア基地襲撃から数日後、重傷を負って意識が戻らないシンが収容されているオーブの病院に、なのは、シグナム、ヴィータ、そしてユーノとアルフがやって来ていた。
「シン君集中治療室から出られたんだね。」
「ああ、ちょん切れた腕も無事くっついたようだ、でも……。」
アルフは病室のベッドの上で眠ったままのシンの頭をなでる。
「……目を覚まさないのか。」
「うん、お医者さんの話では峠は越えたみたいだけど……はっきり言って植物人間に近い状態なんだって……。」
「…………。」
ユーノの話を聞いて、ヴィータは怒りに打ち震えながら歯を食いしばる。
「許せねえよ時の方舟……!あいつらのせいでシンやはやてがひどい目にあって……!こんど出てきたらぶっ殺してやる……!」
「ヴィータ……。」
シグナムは怒るヴィータを諌めるように彼女の頭を撫でる。
「情けない……!私がもっとしっかりしていればこんな形で再会せずに済んだのに……!」
「やめましょうシグナムさん、後悔してもシン君は……。」
「解っている……!解っているんだが……!」

 

「あら……お邪魔でしたでしょうか……?」
その時なのは達がいる病室にノックの音が響き、キラ、ラクス、ルナ、レイが入ってきた。
「貴方達は……?」
なのはの疑問に、毛布を直していたアルフが答える。
「そっか、あんた達は知らなかったね、栗色とピンクの髪のほうはザフィーラ達を助けてくれたキラとラクス、金髪と赤い髪の子達はシンと同じザフト軍の人で……ルナマリアとレイって言うんだよ。」
「は、初めまして……。」
「ええ、こちらこそ、貴方達の事はシャマルさん達から聞いていますわ。」
(うわぁ……上品な喋り方をする人だな……。)
そしてルナは水が入った花瓶を病室の窓に置く。
「まったく……とっとと起きなさいよね、みんなに心配かけて……。」
「一番心配していたのはお前とアルフだがな。」
「まったくだ。」
「ちょ!なによそれ!?//////」
アルフとレイのツッコミに、ルナは顔を赤くする。
「まあ……そういうことならヴィータも負けていないがな。」
「おい!なんでそこでアタシの名前が出てくんだ!!?」
「アンタ……シンと離れ離れになった後いっつも“シンは今頃何してんだろう”って言ってたじゃないか。」
「ううううるせー!てめえらちょっと黙れ!」
「あの……ここ病室なんだけど……。」
シグナムとアルフにからかわれ、顔を真っ赤にするヴィータ。その光景を見て、キラはレイに耳打ちをする。
(なんかシン君って……色んな子に好かれているね。)
(当の本人はまったく気付いていないですがね。)
「…………。」
(あら?あの方は……。)
その時、ラクスは話の輪に加わらず俯いたままのなのはに気付く。
(ユーノさん、あのお方随分元気がなさそうなのですが……一体どうされたのですか?)
(なのはの事ですか?あの、それが……。)
ユーノはラクスに、なのはのリンカーコアが消えて魔法が使えなくなったことを話した。
(そんなことが……。)
(彼女……そのことですごく落ち込んでいるんです。今はそっとしていたほうがいいと思うんですが……。)
「……。」
ラクスは落ち込んでいるなのはの横顔を、心配そうな表情で見ていた。
その頃ミネルバでは、先日の戦闘で時の方舟に滅茶苦茶に壊されてしまった格納庫の修復作業が行われていた。
「うーん、これはひどいわね……。」
「ええ、ハンガーも壊されていて、しばらくミネルバは航行できないでしょうね。」
様子を見に来たタリアとアーサーは格納庫の惨状を目の当たりにしてため息をつく。
「あら……?」
ふと、タリアは格納庫の片隅で作業しているキャロとフリードを見つける。
「よいしょ、よいしょ……。」
「キュクルー。」
キャロは重そうな荷物を乗せた台車を一生懸命押していた、だが夢中になりすぎて台車に積み上がった荷物が自分に倒れてきそうになっているのに彼女は気付けなかった。
「あ、危ない!」
「え……?」
「キュクル!」
タリアは慌ててキャロの元に駆け寄り、倒れそうになっていた荷物を両手で支えた。
「危なかった……。」
「艦長!大丈夫ですかー!?」
「あ、あの……すいませんでした……。」
キャロは自分を助けてくれたタリアに謝罪混じりのお礼を言う。
「もう、こんな危ない作業なんかして……怪我したらどうするの?」
タリアは少し叱るような口調でキャロに注意した。
「でも……私のせいでここをめちゃくちゃにしちゃって……だから少しでもお手伝いしたくって……。」
「…………。」
タリアはキャロの相棒のフリードが巨大化して格納庫で暴れまわった時の事を思い出した。
(あれも魔法なのかしらね……後でリンディさんに聞いてみようかしら。)
そして駆け寄ってきたアーサーが、キャロの頭を優しく撫でた。
「キャロちゃん、気持ちは嬉しいけど……無茶をして君が怪我したらアースラの人たちが悲しむよ、ちょっと待っていてね。おーい!」
そう言ってアーサーは近くで作業していたヨウランを呼び出す。
「副長?どうかしましたか?」
「ちょっとキャロちゃんに仕事を与えてくれないか?ここの手伝いをしたいらしいんだ。」
「あ、じゃああそこの掃除してもらおうかな。」
「は……はい、解りました。」
そしてキャロはタリア達にお辞儀した後、ヨウランと共にその場を去っていた。
「うーん、中々礼儀正しい子ですねー。」
「そうね……でもちょっと背伸びして無理している気もするわ。」
タリアは去っていくキャロの後ろ姿を、少し心配そうに見つめていた。

 

その頃アークエンジェルのMS格納庫では、キラとラクスとユーノが艦内を案内していた。
「なのは、ここがアークエンジェルのMS格納庫だよ。」
「へえ……大きなロボットが一杯あるね……。」
なのははテンション低めにユーノの話に相槌を打つ。
その様子を見て、ラクスは隣にいたキラに小声で話しかける。
(元気づけようと連れ出したのはよかったのですが……あまり効果はないようですね……。)
(うん……こういう時、シン君なら何とかしてくれそうなんだけど……。)
「あ……キラ君。」
そんな彼らの元に、MSの整備を指揮していたエリカがやってきた。
「エリカさん……?どうしたんですか?」
「いや、ちょっとね……フリーダムの修理の事で話があるの。」
そして一同はエリカに連れられて半壊したフリーダムの前に連れてこられた。
「フリーダムの修理なんだけどね……元々これはザフトの物だし、一度大破したのを直しているから……修理に大分時間がかかっちゃうの。少なくとも……一か月以上は掛かるわね。」
「一か月……。」
キラはエリカの言葉を受けて、少し落胆したように半壊したフリーダムを見上げる。
「一か月……時の箱船がヘブンズベースっていう基地を襲撃するって言っていたのが10月だから……ちょっとぎりぎりだね。」
「そうなの、だからもし戦闘になったら違うMSを使ってほしいんだけど……。」
その時、なのはが半壊したフリーダムに近づき、オイルまみれの機体に素手で触る。
「なのは?どうしたの?」
「うん……この子も飛べなくなっちゃったんだな……って思って……。」
「……。」
なのははフリーダムを撫でながら話を続ける。
「私……これからどうしたらいいんだろう……魔法が使えなくなったら、私には何もないよ……。」
するとユーノがなのはに近づき、彼女の前に立って深く頭を下げた。
「なのは……ごめん。」
「え?なんでユーノ君が謝るの?」
「だって……僕と出会わなければ、君は今頃普通の女の子として過ごせたのに……こんなに君を苦しめる事はなかったんだ、6年前だって……。」
「ご、ごめんユーノ君!私そんなつもりで言ったわけじゃ……!」
落ち込んだ様子のユーノを見て、なのはは慌てて取り繕う。
そんな二人の様子を見て、キラとラクスはただただオロオロしていた。
「ど、どうしましょうキラ、空気が重くなってきましたわ……。」
「う、うん、止めないと……。」
そう言ってキラは二人の元へ行こうと一歩踏み出す。が……。
(でも……僕は彼女達に一体何を言ってあげられるのだろう?ましてや僕なんかに……。)

 

『貴方はこの世界にとって害悪なんですよ。』

 

「……!!」
「キラ……?」
ラクスは様子のおかしいキラの顔を覗き込む、だが彼は何か考え事をしているのか、ラクスの顔を見ても反応しなかった。
(ええ~!?これ私のせい~!?)
エリカはキラ達が纏うネガティブオーラに後ずさった。
そんな悪い空気を、ある呑気な声が引き裂いた。
「あれ~?なのはさんにユーノさんじゃないッスか~!」
「二人とも……久しぶりだな。」
アークエンジェルにたまたま居たスウェンとノワールが彼らの元にやってきたのだ。
「スウェンさん……!?ノワール君!?」
「お久しぶりッス~!大きくなりましたね~♪」
そう言ってノワールはなのはの胸に飛び込んだ。
「きゃ!?」
(う、うらやましいことを……!)
ユーノはそんなノワールを恨めしそうに、羨ましそうに見ていた。
「しかし……本当に久しぶりだな、挨拶が遅れてすまなかったが……。」
「い、いえ!いいんですよ!確かクロノ達と話してたんですよね?」
「ああ、それとカガリ代表に頼んで、俺もお前達と一緒に戦わせてもらえることになったんだ。」
「これからよろしくッス!ん……?」
その時ノワールは、呆けていたキラとラクスに気付いた。
「うおー!アニキ!生ラクス・クラインッス!プラントの歌姫が目の前にいるッス!」
「生……。」
「落ち着け。」
ラクスを見て興奮するノワールを、スウェンは片手でがっしり掴んで黙らせる。
「むぎゅー!」
「わあ、ぴ……リインちゃんの男の子バージョンですわ。」
「確か貴方はあのストライクに乗っていた……?」
「ええ、君達の事はよく知っている、ラクス・クライン、そして……キラ・ヤマト。」
スウェンはキラとラクスに挨拶した後、再びなのは達に向き合う。
「ところでどうしたんだ?喧嘩でもしてたか?」
「あ、いや、なんていうか……。」
スウェンの指摘に、なのはとユーノは口篭る。
「……大体の事情はシャーリーって子に聞いた、その……なのは、災難だったな。」
「いえ……。」
なのはは少し悲しそうな顔になりながら、重い空気を変えようとスウェンに質問する。
「スウェンさんは……私達と別れた後、一体何をしていたんですか?」
「ああ……色々な事をしていた。あれに乗ってな。」
スウェンはフリーダムのすぐ近くに格納されていた二機のMSに視線を向ける。
「あれは……ストライク、しかも二機……?」
キラはデザインが少し違うストライクがあることに首を傾げる。するとスウェンの手から抜け出したノワールがキラ達に説明する。
「右の方が最近から使い始めたIWSP付きのストライクE、もう片方が二年前から使っていたストライクッス!」
「このストライク……?」
「これはあるジャンク屋が、二年前のヤキンドゥーエ戦役の時に回収して修理したものを俺が譲り受けたものだ。」
「……!」
スウェンの言葉に、キラは大きく目を見開く。
「オーブに来るついでに……ストライクのほうは本来の持ち主に返そうと思って、ここに運んで来た。それと……。」
スウェンはいったんその場を去り、ボロボロの紫色のヘルメットを持って戻ってきた。
「そのヘルメット……!」
「……あのストライクの前のパイロットの物だ。ジャンク屋の人が一緒に回収したもので……。」
キラはスウェンからそのヘルメットを受け取り、感慨深くそれを見つめる。その様子を見て、なのはがスウェンに質問する。
「あの……スウェンさん、そのヘルメットの持ち主は……。」
「前の大戦で戦死したエンデュミオンの鷹、ムウ・ラ・フラガの物で……彼は元々、このアークエンジェルのクルーだったそうだ。」
「「………!!」」
「ムウさんは最後までこの艦を守って……結局帰ってこなかった。」
「すごく気さくなお方でしたわ……惜しい人を亡くしました。」

 

「へーくしょん!!!」
「なんだよネオ?風邪か?」
「俺にうつすなよ。」
「ネオ、大丈夫?」
「ステラは優しいなぁ、俺ちょっと嬉し泣きしそうだよ。」
そしてスウェンは、落ち込むなのはを励ますように彼女の肩をたたく。
「なのは……お前はまだ生きている、生きているなら何かが出来るはずだ。俺の知っている高町なのはは、仲間がピンチの時に指を咥えて見ているような女の子じゃない。」
「オイラ達は絶対はやて姐さん達を助けます。だから……力を貸して欲しいッス。」
「……。」
スウェンの言葉を受け止めて、なのはの瞳に生気が宿ってくる。
「そう……ですね、魔法が使えなくても、私にはできる事がある筈ですよね。ごめんなさい心配をかけて、ユーノ君も……。」
「い、いいんだよ!こっちこそ変なこと言ってごめんね!」
なのはとユーノはお互い謝りながら、少しずつ以前の元気を取り戻していた。
その光景を見て、スウェンはふうっと息を吐く。
「やれやれ……どうやら仲直りしたようだな。」
「すごいですねスウェンさん……僕には真似できませんよ……。」
キラはスウェンに尊敬の眼差しを向けながら話しかける。
「俺は……自分がすごいとは思っていない、ただ周りの凄い人達の真似をしているだけだ。」
「え……!」
キラはスウェンの返答に頭を強く殴られたような気分になっていた。
「俺は……これまで色んな人達に出会ってきた、はやてやヴォルケンズのみんな、セレーネにソルにエド、そこにいるなのはやユーノ、シンにフェイトにアルフ、アースラの皆……それにPMCの社員や世界中で出会った人達……皆それぞれ自分なりの強さを持っていた。俺は……彼らに出会って色々な事を学んだ。」
「………。」
「貴方は……随分と立派な価値観をお持ちですのね。」
「悟った気でいるだけかもしれないけどな。」

 

『らくす♪らくす♪』
そんなキラ達の元に、ラクスのピンクハロがピョンピョン跳ねながらやってきた。
「ハロ?どうしたの?」
「そう言えばもうすぐお昼ご飯の時間でしたわね、皆さんご一緒にどうです?アークエンジェルの食堂の食事はおいしいですわよ。」
「そうなんですか?じゃあ折角ですし……。」
そしてなのは、ユーノ、スウェン、ノワールは、キラとラクスに連れられてアークエンジェルの食堂に向かった。
その道中でのこと……。
『ハロッ♪ハロッ♪』
ピンクハロは楽しそうにラクスの周りをパタパタと飛び回っていた。
「あらあらピンクちゃん、ご機嫌ですわね。」
「きっとノワール君見て仲間が増えたと思っているんじゃない?リインちゃんの時もそうだったし……。」
「そうッスか……。」
ノワールはピンクハロを見て、にやりと笑う。
「仲良くしましょうねピンクちゃん…………の、“中の人”」
「『!!!?』」
「中の人?」
「ノワール、変な事言うな。」
「はいッス~♪」
そしてスウェンは、ラクスに向かって念話を使う。
(ラクス・クライン……貴女の事はクロノから聞いています。そこのペットロボの“中身”の事も………。)
(…………。)
(なんで自分の事を、皆に話さないのですか?隠し事がばれたら……。)
するとラクスは懇願するような口調でスウェンに念話で返事をする。
(駄目なのです……!キラにも、ルナさんにも私の過去の事はばらしたくないんです!だから……!)
(…………。)
スウェンは少し取り乱した様子のラクスを見て、これ以上の言及をやめた。
(……わかりました、俺はもう何も言いません。)
(あ、ありがとうござます……!)
「ラクス?怖い顔してどうしたの?」
キラはラクスの様子に気付き、彼女の顔を覗き込む。
「きょ、今日のメニューの予想を立ててましたの!」
ラクスは慌ててこれ以上キラに言及されないようにごまかした。
「ふふふ、変なラクス……。」
そう言ってキラはラクスから視線をそらした、ラクスはそんな彼を見て少し寂しそうな顔になる。
(わたくしは……貴方に嫌われたくないのです、ごめんなさい……。)

 

場所は変わってオーブ軍基地のとある一室、そこでカガリとタリアとマリューとバルトフェルド、そしてリンディは雑談をしながら午後のお茶を楽しんでいた。
「じゃあキャロちゃんは……実の親に捨てられたんですか……。」
「ええ、彼女は竜召喚を行う部族で生まれたんですが……強力な力を制御できずに放逐されて、保護された部署でも厄介者扱いされていましてね、フェイトが保護者になるまでは結構つらい思いをしていたようなんです。」
「子供を捨てるとは……とんでもない部族だな!」
リンディの話を聞いていたカガリはプリプリ怒りながらチリソースのかかったケバブを頬張った。
「まあ……カガリ代表の気持ちは解りますわ、私にもあの子と同い年ぐらいの息子がいますから……。」
そう言ってタリアもケバブにチリソースをかける。そんな彼女にバルトフェルドが待ったをかける。
「ちょっとまった!ケバブにはヨーグルトソースがお勧めだ!チリソースは邪道!」
そこにカガリが口の周りにチリソースを付けて反論する。
「何を言っている!ヨーグルトソースの方が邪道だぞ!」
「君は……!君は何も解っていない!ラミアス艦長はどう思う!?」
「え!?私ぃ!?」
突然話を振られ、困惑するマリュー。
「えと……私はヨーグルトソースのほうが……。」
「ほら見ろ!ラミアス艦長もこう言っている!」
「何を言っている!タリア艦長はチリソースを選んだ!つまり二対二の同点!まだ負けてない!」
ぎゃーぎゃー言い争うバルトフェルドとカガリを見て、マリューはやれやれとため息をつき、タリアはぽかんとしていた。
「あーあ、また始まった……。」
「“また”?いつもこうなんですか?」
「はい、お昼にケバブが出たらいつもこうで……。」
「よし!こうなったらリンディさんに決めてもらおうじゃないか!」
「おお!それはいい考えだ!」
そう言って二人はリンディの方を向く、だが彼等はそこで信じられない光景を目の当たりにした。
「ふんふんふーん♪」
リンディは皿に乗っかったケバブに、コーヒーミルク(持参)をかけ、さらにその上にコーヒーシュガーをまんべんなく振りまいた。
「あ、あのリンディさん、何を……?」
マリューは恐る恐るリンディに問いかける。リンディはさも当たり前のように答えた。
「え?だってこうしなきゃ あ ま く な い じゃないですか。」
((((ええええ~!!!?))))
一同は甘ったるそうなケバブを頬張るリンディを見て、思わず胃を抑える。
「あ、そうそう、私お茶を持ってきましたの、皆さんで飲みませんか?」
そう言ってリンディは緑茶の入ったポットを取り出し、自分の湯飲み茶わんに入れる。
そして例に漏れずその中にミルクと砂糖を入れだした。
「あれ?緑茶って砂糖とミルクを入れましたっけ?」
「多分違うかと。」
「これが異文化コミュニケーション……!」
「世界は広い……!」
カガリとバルトフェルドは新たなる強敵の出現に、思わず武者震いをしていた……。

 

それから数十分後、タリアはミネルバの艦長室にルナマリアとレイを呼び出していた。
「私がインパルスのパイロットに!?」
ルナはシンが戦線離脱して乗り手が居なくなったインパルスのパイロットに任命され、歓喜と困惑が入り混じった表情になる
「ど、どうして私なんですか!?レイのほうが操縦技術が上ですし……!」
「ルナ、アナタ射撃の命中率が低いらしいわね。」
「うっ!?」
タリアの指摘にルナは顔をしかめる。そしてレイが状況を冷静に整理して意見を述べる。
「俺のザクファントムの性能のほうがルナのウォーリアより上、つまりこれは生存率を引き上げるための策……というわけですね?」
「まあ……そんなところね、ルナならフォースやソードを使いこなせると思うし、カオスやアビス、ガイアのパイロットの子達とも仲がいいみたいだから連携も期待できるしね。」
タリアは胃薬を口に放りながら答える。
「私がインパルスのパイロットに……!」
(艦長どうしたんだ?胃の調子でも悪いんだろうか……?)

 

さらに数分後、ルナはミネルバの格納庫に格納されていたコアスプレンダーの前に立っていた。
「私がGに乗れるなんて……嘘みたいね……。」
ルナは少し舞い上がっていた、すると後ろから作業していたマッドが声をかけてきた。
「おーいルナマリア、早速だがOS書き換えてくれねえか?まだシンの時のままなんだよ。」
「え?あ、はい!わかりました!」
そう言ってルナはコアスプレンダーに乗り込んだ。
「ここが……シンの座っていたコックピットか……。」
ルナはコックピットの中でキーボードを叩きながら、辺りをキョロキョロと見回していた。
「これを託されたからには頑張らないと……!あのアリシアって女、必ずボコボコにしてやるわ!…………?」
ふと、ルナはコックピットに貼られていた一枚の写真を見つける。
「何かしらコレ……?」
ルナはその写真を手に取り、それをジッと見つめる。
「日付は……二年前の9月ね、映っているのはシンと……これはスウェンさん?それに……。」
ルナはシン達と一緒に写っている人物を見て、大いに混乱する。
「え……!?何コレ!?」
『ルナマリア?どうした?』
「え!?いや!なんでもないです!」
突然マッドに話しかけられたルナは、思わずその写真を自分の懐にしまった。
(なんで……?シン、言ってた事が違うじゃない……!)
ルナはインパルスを受け取った事などすっかり頭から飛んでいき、手元にある写真の事で頭が一杯になっていた……。

 

一方その頃、アークエンジェルの食堂では、スティング、アウル、ステラが屯っていた。
「なあなあ知ってるか?インパルスのパイロットにルナマリアが選ばれたんだってよ。」
「へえー、あのアホ毛がねえ……大丈夫なのか?この前の戦闘の時結構流れ弾が飛んできたんだけど……。」
「ルナならだいじょうぶだとおもう。」
「おーい、お前らー!」
そんな彼等の元にアギトがやってきた。
「アギト……?どうしたのその服?」
ステラはアギトが小悪魔風のビキニみたいな服を着ていることに気付く。
「いやさー、ラクスって人が『そんな野生児みたいな格好ではいけませんわー。』って言ってコレくれたんだ!」
「へー!かっこいいじゃん!」
「露出度変わってないけどな……ああでも炎出す魔法使えば風邪ひかねえのか。」
「その服かわいいね、ステラも着てみたい……。」
と、そんな彼らの元にシグナムがやって来た。
「ぬ……アギト、こんなところに居たか……。」
「おう!シグナムじゃねえか!どうしたんだ?」
「いや、今後お前が寝泊まりするバスケットを用意したんだが……。」
そう言ってシグナムは持ってきたバスケットの蓋を開き、アギト達にその中を見せる。
「おお~!底一面がベッドになってるのかー。」
「つかアギトサイズのタンスまであんのか……結構本格的だな。」
「いや~助かったぜ!今までノワールの所で居候してたんだけどさー。セクハラまがいのことしてくるわ、辺りにエロ本を隠してあるわで大変だったんだよ~!」
そう言ってアギトはバスケットの中に入り、ゴロンと寝転がる。
「いいなー、ステラもこんなおうち欲しい。」
「あー、なんかわかるかも……ちょっと映画みたいで楽しそうだよなー。」
「………。」
「ん……?」
その時、スティングはシグナムがジッとステラを見ていることに気付く。
「シグナムさん?うちのステラがどうかしたんですか?」
「あ、いや……実はザフィーラ達から、ルーシェがヴィータと互角に戦っていたと聞いてな……。」
「あれはみんなが手伝ってくれたから。」
「うむ、そうなんだが……。」
シグナムはほんわかしたステラの様子を見て少し困惑する。
(ザフィーラの話では、彼女は戦っている時は物凄い闘気を放っていたというが……。)
「うえ~い。」
(全然そうは思えんな……。)
その時、ステラ達のいる食堂に突如悲鳴が響き渡った。
「きゃー!!ゴ○ブリよー!」
その全長が1/144ガンプラほどある黒光りするあいつは食堂を飛び回り、近くにいた人間に恐怖を振りまいていた。
「ふむ……オーブのゴキはいい物を食べているな。」
「「そういったレベルじゃねぇー!!?」」
「そーか?森の中で暮らしてた時に1/100サイズとか見たことあるぞ?」
そんな呑気な事言っているうちに、黒光りするゴキはステラに襲いかかって来た。
「あ、あぶなーい!」
「………!」
その時、ステラの眼光が鋭くなり、彼女は目にも止まらぬ速さで腰に付けていたナイフを抜き、それを黒光りゴッキーに向けて投げた。
スコーン!!
黒光りゴキリンはナイフを突き刺したまま天井に磔にされた。
「おおー、流石だなステラ。」
「ところであれどうするの?オレは触りたくねえぞ。」
「すっげー!かっけーよステラ!」
「えへへー。」
ステラはすぐにいつもの調子に戻り、アギト達に笑顔を向ける。そんな彼女の様子を、シグナムはただただ茫然と見ていた。
(なるほど……刀のような殺気を持つ少女だ……。)
シグナムはまるで好敵手を見るような目でステラを見ていた。
「……?ステラのお顔に何か付いてる?」
「いや……少し友の事を思い出していた。」
「????」

 

その日の夜の事、スウェンとノワールとアギトは基地の外に出て星を見ながら散歩していた。
「オーブの星空も久しぶりッスねー。」
「ああ、そうだな……。」
「私は花火の方が好きだなー。そうそう、今日食堂でこんな事があったんだー。」
スウェン達は今日起きた出来事を話しながら夜道を歩いていた、そんな彼等の元に……。
『トリィ。』
「ん?何すか?」
「小鳥?」
その機械仕掛けの小鳥は、スウェン達の周りを飛び回っていた、そこに……。
「トリィ、どこに行ったんだい……?あ。」
「キラ……ヤマト?」

 

「まさかこんなところでスウェンさんに出会うなんて……。」
「そうだな……お前も天体観測か?」
「いえ……ちょっと考えたい事があって……。」
スウェンとキラは近くに設置されていたベンチに腰かけていた。
『トリィ、トリィ。』
「おーい、どこ行くんだよー。」
「待つッス~!」
「あまり遠くに行くんじゃないぞー。」
スウェンはベンチに座りながら、機械仕掛けの小鳥……トリィと戯れているノワール達に声を掛ける。
「ははは……やんちゃな子達ですね……。」
「まあ弟みたいなものだからな。ヴィータも昔と比べると落ち着いた感じがするな……。」
「本当に……羨ましいですよ。シン君も……。」
「……?」
キラは前かがみにベンチに座りながら、ポツリポツリと話し始めた。
「僕はアナタやシン君みたいに、迷わずに突き進むなんてことはできない……いつも一人でウジウジ悩んで、周りの人に助けてもらって……なんだか自分が情けなくなってきたんです……。」
スウェンは何も言わずに、キラの言葉に耳を傾けていた。
「さっきのなのはちゃんの時も、僕は一瞬悩んで何もできなかった……それだけじゃない、僕がしっかりしないから傷つけた人が……助けられなかった子がいるんです……結局僕は、あの時から何も変わっていない。何もできないんです……。」
「………。」
スウェンは深くため息をつき、そして口を開いた。
「お前は……もうちょっと“上”を向いたらどうだ?」
「“上”……?」
「これは俺の知り合いの言葉なんだが……“横を向いていたら、誰かに嫉妬して、自分を欲しくなる、だからと言って下を向いたら自分より下がなかったらどうしようかと不安になる、なら、少しでも上を向こう。”っていうのがある。」
「……?どういう意味なんですか?」
「その人には星を目指すという夢があるんだ、あの人はその言葉を胸に、自分の夢に向かって進んでいる……キラ・ヤマト、俺はお前が下や横ばっかり見て、前に進もうとしていないような気がする。」
「…………。」
「もうちょっと……シンやなのは達みたいに、何も考えず貧欲に上を向いてみたらどうだ?そうしたら少しは悩まなくなるかもしれないぞ?」
スウェンのその言葉を聞いて、キラは少しほほ笑む。
「ふっ……ふふふっ、それと……アナタみたいにですか?」
「俺みたいに?俺は別にシンのように熱血じゃないが……。」
「ぷっ……あはははは!!」
キラは堪えきれずに大笑いする。それを見たスウェンはすこし戸惑う。
「な、何故笑うのだ?俺は別に笑いをとろうとは……。」
「い、いえ!すいません!スウェンさんって以外と面白い人だなって思って……!」
「?????」
「あ、あの……。」
と、そんな彼等の元に、ルナがやってきた。
「ん?君は……。」
「ルナちゃん?こんなところでどうしたの?」
「シャマルさんに聞いたんです、スウェンさんがここにいるって……。」
「俺に何か用なのか?」
「…………。」
ルナは無言のまま、コアスプレンダーのコックピットで手に入れた写真をスウェンに見せる。
「…………!」
「これはスウェンさんと……シン君?それに………!?」
キラはその写真に、写っている筈がない人物が映っていることに気付いた。
「これはシンが乗っていたインパルスで見つけたものです……なんでこの人が、シンとアナタと一緒に写っているんですか?」
「…………。」
スウェンは写真をルナから受け取り、それをまじまじと見つめる。
「なるほど……シンの奴も迂闊だな、これを見られるなんて。」
そしてスウェンは懐から銃を取り出し、銃口をルナの眉間に向けた。
「…………!!!」
「す、スウェンさん!?何をしているんですか!!?」
「コレを見られたからには……生かしておく訳にはいかない。」
「えぇ……!?」
キラはスウェンが放つ雰囲気に少し圧されていた。だがルナは臆することなく、不敵に笑いながら言い放った。
「それ……弾が入っていないでしょ?」
「………ああ、そういえばそうだった。」
スウェンはとぼけたような顔をして銃と写真を懐にしまう。
「教えてください……シンとアナタは、一体何を知っているんですか?それにあの写真は……。」
「………。」
しばらく考えむように瞳を閉じて天を仰ぐスウェン。そして再び開いた瞳でルナとキラを見つめる。
「なんてことはない……よくある物語の筋書きだ、大切な我が子を亡くした親が、悲しみのあまり世界を滅ぼす魔王になった……俺とシンはその魔王を止める為に今も戦っている。」
そしてスウェンは、口に右手の人差指を添える。
「こうなったらお前達にも協力してもらうぞ。茨の道になるがな……。」
そしてスウェンは自分が知っている限りの“真実”を、ルナとキラに話した……。

 

そのころノワールとアギトはトリィを追って草むらにやって来ていた。
「おーいトリィ!どこにいったー?」
「出てこないと焼き鳥にしちゃうッスよー?」
「いや、私は唐揚げがいいなー。」
「えー!オイラ焼き鳥の方がいいッス!あれはサッ○ロビールとよく合うんスよ~。」
「お前飲酒してんの!?」
『トリィ♪』
と、そこにトリィが何か咥えて戻って来た。
「おお!戻って来たか!ん……?お前なに咥えてんの?」
「…………。」
『トリィ♪』
トリィは咥えていたものをアギトに差し出す。
「なんだこれ?ビー玉?……じゃねえな、コレ……デバイスだ。なんでこんなところに?」
アギトはその青いビー玉のようなデバイスをまじまじと見つめる。
その時、ノワールは気配を感じ、その方角を見る。そこには草陰から薄茶毛色の猫が目を光らせてノワール達を見ていた。
(なるほど……時は来た、というわけッスか……。)
ノワールと薄茶毛色の猫はお互い頷く、そして猫はそのままその場を去って行った。
「ノワール?どうした?」
アギトは様子のおかしいノワールの顔を覗き込む。
「いや……なんでもないッス、ところでそのデバイス……どうするんスか?」
「トリィが拾ってきたもんだしなー、トリィとその飼い主のキラのもんだろ。持ち主がいるなら別だけど。」
「持ち主は……現れない、これはキラさんの物ッス。」
「ノワール……。」
『トリィ?』
アギトはノワールがいつもと雰囲気が違う事に気付いた。
(こいつスケベだけど……たまにカッコイイんだよなぁ。)
そう言って彼女は少し頬を赤らめた。

 

その頃、どこかにある時の方舟のアジトのMS格納庫……そこでアリシアとカシェルとスターゲイザーは、ある一機の青いMSの前に立っていた。
「これがあの人達が送ってくれた新型か……Gじゃないけど中々強そうじゃないの。」
「ええ、ケンプファーの量産も軌道に乗っている、パイロットの確保もできた……あの人達には感謝しなくてはいけませんね。」
「あいつらのことはどうでもいいわ、私はあの人の役に立って、フェイト達に復讐できれば……。」
ふと、アリシアは先日の戦闘で、自分が痛めつけたシンに、暴走するフリードから救ってもらった事を思い出していた。
(あいつ……なんであの時私を庇ったんだろう……。)

 

『俺があの時……プレシアさんを止めていれば……!手を伸ばすことができていたら……!俺に力があったら……こんなことにならなかった……!君を……フェイトを悲しい目に会わせなくて済んだのに……!』

 

(男のくせに泣いて馬鹿みたい……!今更謝ったって、もう……。)
そんな彼女の様子を見て、カシェルが声を掛けてくる。
「どうしたんですか?何か考え事ですか?」
「……なんでもないわよ!私は作戦開始まで休んでいるからね!起こしたらぶっとばすわよ!」
そう言ってアリシアは不機嫌そうにその場から去っていった。
「…………。」
「やれやれ、気性の激しいお方だ。」
すると入れ替わるように白髪の少年……スターゲイザーがやって来た。
「なんだよ?作戦に変更でもあったのか?」
「いえいえ、我が主の“大切な人”のメンタルケアにやってきました。」
「……余計なお世話だ。」
スターゲイザーは煙たがられている事にも意を返さず、にやにやしながら話を続けた。
「いやあ、しかし我が主も何を考えているんだか……我々にあの基地を占領しろとは……。」
「占領自体は大丈夫だろ、中に入って白兵に持ち込めば……あの人は多分、最近不甲斐ない俺達に稽古をつけるつもりなんだろ……。」
「いやはや、さすがはカシェル様、我が主の事をよくご存知でおいでで……。」
「……当たり前だろ。なんたってあの人は……。」
「「「カシェル様!」」」
その時、カシェル達の元にユニゾンデバイスのエールとソード、ランチャーがやって来た。
「ん?どうした?」
「先ほど技術部から連絡が入りました!」
「例のモビルアーマーの組み立てが終了したそうです!」
「次のご指示を!」
「次の作戦に使う、八神はやてを乗せて調整に入れ。」
「「「了解しました!」」」
そう言って三人はその場から去って行った。そしてスターゲイザーがにやにやしながらカシェルに話しかけてくる
「で、あの人はの続きは?」
「……教えねえよバーカ。」
そう言ってカシェルもそこから去って行った。
「やれやれ、お年頃ですかねぇ、次の戦場は砂埃のひどいところですか……防塵マスクが必要になりますねぇ。」
スターゲイザーは新型のMSを見上げながら、次の戦場で必要になるものをあれこれ考えていた。
「それに……そろそろ“彼”がキラ・ヤマトに接触するころですか……まったく、うまくいかないものです……。」
スターゲイザーのエメラルド色の瞳には、憎悪が入り混じった輝きが宿っていた……。